株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

年末調整と給与計算について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.107━2019.12.20━
【ビズサプリ通信】
▼ 年末調整と給与計算
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ビズサプリの泉です。
師走となり令和元年も終わりに近づき、来年はいよいよ東京オリンピックの年です。特に今年は秋が短かったような気がしており、毎年行事となっていた花粉症も気づかないまま冬になりました。
私の業務対象となることが多いベンチャー業界では、資金調達について一部ピークを越えたという意見があるものの、相変わらず景気のいい話はよく聞きますし、IPO準備やM&Aのサポート業務も依然として堅調です。独立して約3年、来年40歳となることから今後のキャリアパスについて色々考えることが多くなりました。
さて、今回はこの時期におけるトピックである年末調整と給与計算について考えてみたいと思います。
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■ 1.年末調整
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一般的な会社では毎月の給与計算を行うともに、年末に年末調整を行うこととなります。年末調整とは毎月の給与支給時に源泉徴収した所得税について、改めて年間で再計算を行い適切な金額となるように過不足額を計算、精算することです。
通常のサラリーマンは毎月の源泉徴収額のほうが多いため、還付されるため臨時のボーナスと感じることも人もいるかと思います。
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■ 2.給与関連の年末年始業務
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従業員からすると、給与関連の年末業務は年末調整のみにみえますが、会社の労務担当者としては実は年末年始に給与関連の業務が色々あります。<年末>年末調整住民税の納期の特例による納付(対象会社の場合)<年始> 法定調書の提出(税務署) 給与支払報告の提出(市区町村) 源泉所得税の納期の特例(対象会社の場合)による納付 支払調書の送付(義務ではない)
労務部門がある会社であればまだいいのですが、ベンチャーの場合、労務専門部門はなく管理部門に担当者1名の場合もあり、年末年始は大変あわただしくなります。
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■ 3.外部への委託
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社会保険、給与関連及び税務関連の業務は一定の専門性が必要となり、手続き周りは外部の専門家に委託する会社も多くあります。特に確定申告を税理士にお願いすることが多いため、税理士と顧問契約している場合は、年末調整を税理士に依頼することもあるかと思います。
給与計算、社会保険の手続きは社労士、確定申告、年末調整は税理士というのがよくあるパターンです。ただ、給与計算と年末調整は密接に結びついており、そこを分けてしまうと、社労士:給与計算(年末調整前)→会社→税理士:年末調整→会社→社労士:給与計算(年末調整後)→会社:支払
といった煩雑なフローになってしまいます。なぜ、こんなことになってしまっているのでしょうか。
従来、社労士及び税理士の業務範囲が不明確であったところ、平成14年全国社会保険労務士会連合会日本税理士会連合会が業務範囲を明確にするため、「税理士又は税理士法人が行う付随業務の範囲に関する確認書」を締結しました。
その確認書において、税理士は社会保険関連の届け出はできず、社労士は年末調整ができないことが明確化されました。そのため、このような煩雑なフローとなっています。もちろん、給与計算は税理士でもできるため、給与計算及び年末調整を税理士にということも多いのです。ただ、ある程度入退社の多い会社だと月額変更届などの社会保険の諸手続きが発生しますので、給与計算を社労士に依頼するメリットも大きいと思います。

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■ 4.町の税理士
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私は税理士でもありますので、改めて振り返ってみたところ、一般的に従来型の税理士のクライアントとの関わり方は次のようなものです。・自計化されている会社:月1往訪で2時間程度打ち合わせ、様子伺い・記帳代行している会社:領収書、請求書を送ってもらって事務所で記帳、月1  往訪で2時間程度打ち合わせ、様子伺い
ただ、経営者が求めているのはこの業務なのでしょうか?中小企業にとって町の税理士は社外管理部長であり、経営者が経営に専念するためのサポートをするのがあるべき姿と考えています。特に今後AI化が進み仕事がなくなるといわれる中、単なる記帳やチェックではなく専門性を高めるとともに業務改善も含めたサポートを行っていくべきだと個人的には考えています。

ビズサプリグループでは、通常の税務業務に加え業務改善に関するコンサルティング業務も行っておりますので、何かお役に立てることがありましたらご相談ください。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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報酬ガバナンス改革の 進め方について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.106━2019.12.5 ━

【ビズサプリ通信】

▼ 報酬ガバナンス改革の進め方

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ビズサプリの久保です。国会は「桜を見る会」で紛糾していますが、その最中
の12月3日に会社法改正案が参議院で可決成立しました。改正会社法には、
役員報酬に関する改正が盛り込まれています。今回は、報酬ガバナンス改革の
進め方についてお話してみたいと思います。

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■ 1.会社法の改正と業績連動報酬

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改正会社法は、上場会社に社外取締役を義務付ける法案であると報道されて
いますが、役員報酬に関する改正も盛り込まれており、取締役報酬の決定方針
決定の義務化やその開示義務などが規定されました。有価証券報告書において
役員報酬の決定方針の開示が求められるようになっていますので、これについ
ては、上場会社ではすでに対応済みのはずです。ただ、この方針は取締役会で
の承認事項になりますので、その対応は必要になると思われます。

法務省の法制審議会が今年2月に答申した会社法改正要綱では、役員の個人別
報酬額の決定について、代表取締役に一任する場合は株主総会の決議が必要と
されていました。これは、日産自動車事件を受けたものでしたが、産業界から
の反対があり、法案に盛り込まれないことになりました。社長一任の会社が
実態として多いことが反対の原因と思われます。

従来は、固定報酬と年次賞与の2本立ての報酬が普通でした。その場合、報酬
方針を検討する必要性はほとんどありません。最近は、業績連動報酬を導入
する上場会社が増えてきたことから、その方針を決定し、それを開示させる
ことによって、株主を保護しようというのが法制化の趣旨と考えられます。

上場会社のうちの大会社については、社長の報酬が1億円近いという報道も
あり、この改正は、今後の役員報酬の高額化を見据えたものとも考えられます。

その一方で、業績連動報酬の導入やその拡大によって、「攻めのガバナンス」
を強化してほしいという政府の方針があります。

コーポレートガバナンス・コードでは、「経営陣の報酬については、中長
期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に
資するようなインセンティブ付けを行うべきである」(原則4-2)としています。

上場会社がコーポレートガバナンス・コードに準拠(コンプライ)するため
には、役員報酬において業績連動報酬的な要素が必要ということになります。

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■ 2.役員報酬を変えたら経営が良くなるのか

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会社創業以来、役員報酬は固定報酬と年次賞与の組み合わせで、役員個人別
の配分は社長が決めるというやり方を続けて来た会社も多いと思います。
そもそも役員報酬の支給基準を変え、業績連動報酬を導入したからといって、
会社の「稼ぐ力」が向上するのでしょうか。

いくら良い経営戦略を立案したとしても、それを実行するのは人間です。
経営目標達成のために、やる気を持って熱心に取り組む人がいない限り、
経営戦略は絵に描いた餅に終わります。そういう点では、役員報酬という
ニンジンをぶら下げたほうが、役員のやる気が向上するということは言える
と思います。

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■ 3.固定報酬だけでも業績好調の会社がある

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役員報酬の考え方についてユニークな事例として、ヤクルト本社があります。
同社は、この10年間ほぼ毎年増収増益を続けています。

ヤクルト本社は、業績連動報酬を支給せず、固定報酬だけを支給しています。
これについて、コーポレートガバナンス報告書において、次のようにエクス
プレイン(説明)しています。

「当社は、短期的な利益偏重になることなく、グループ内外に対する『代田
イズム』の継続的な浸透を通じて、持続的な成長を図れる環境を構築してい
くことが重要だと考えています。その一環として、報酬体系についても同様に、
一時的な利益変動に連動させる報酬体系ではなく、『代田イズム』を実現する
ために安定的な固定報酬体系を採用しています。」

実は、同社は平成20年に業績連動報酬を導入していますが、平成22年にこれ
を廃止し、固定報酬に戻しています。

報酬ガバナンス改革は、経営戦略を成功させるための一つのツールです。経営
戦略のために助けにならないのであれば、それに時間を掛ける必要はないと
思います。ヤクルト本社のように、年功に基づいた固定報酬で十分という考え
方もあります。

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■ 4.役員賞与は、業績連動報酬か

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ところで、役員賞与は、企業業績によって変動するので、業績連動報酬の一種
と考えてよいでしょうか。

役員賞与は、利益配当と同じように、利益が出たらその一部を役員に配分する
という考え方で支給されるのが普通です。一方、業績連動報酬は、役員各人の
業績目標の達成度に応じて支払う報酬です。

たとえば、会社全体としては減益になっていたとしても、業績目標を達成した
取締役は、追加的な報酬を受け取ることができるというのが業績連動報酬です。

このため、役員賞与は、業績連動報酬とは言えないということになります。
ちなみに、ヤクルト本社は固定報酬のみで、役員賞与さえ支給していません。

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■ 5.役員報酬を変えるだけでは効果がない

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コーポレートガバナンス・コードでは、業績連動報酬の対象を執行役員以上の
経営陣としています。

日本企業の場合、社員が昇格して役員に就任することが多いので、その報酬は、
社員の給料と無関係に決めることができません。コーポレートガバナンス
コードが業績連動報酬を導入せよと言っても、社員から役員に昇格したら急に
業績連動報酬が支給されるというのは、一貫性がありません。

社員の時代から、業績目標に基づくインセンティブ給与が支給されており、
それが役員になっても続くようにすることで、首尾一貫した報酬体制になります。

業績連動報酬をもらえる役員が、給料が固定的な社員を叱咤激励したとしても、
社員はシラケるだけではないでしょうか。その逆の場合も、ちぐはぐな状況に
なります。

すなわち、役員に業績連動報酬を導入するということは、役員報酬だけの話で
はなく、社員と役員全員に業績連動給与・報酬をどのように導入するかどうか
を決めるということと同義と考えてよいと思います。社員はそっちのけで、
役員だけに業績連動報酬を導入しても、効果を期待できません。

業績連動報酬の効果がない、当社のカルチャーには馴染まないということで
あれば、報酬設計の検討はやめた方がよいと思います。反対に、社員・役員の
給料・報酬を成果主義の業績連動にしたら、各人のやる気に効果がありそうで
あれば、給料・報酬の設計にも着手すべきと思います。

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■ 6.最初は株主対策でよい

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コーポレートガバナンス・コードが徐々に厳しくなり、欧米型のガバナンスが
求められてくることから、形だけでもコードを遵守しておけば、機関投資家
はじめとする株主から文句を言われることがないだろうという考え方もあります。

ヤクルト本社のように、会社の方針をしっかり説明できるのであれば、業績
連動報酬を導入しなくても株主や投資家は納得すると思います。また、毎年
業績向上の結果が出せていれば、株主からの文句も出ないかもしれません。
そうでない場合には、なぜ報酬ガバナンス改革を実施しないのかと、株主や
投資家から問われることになると思います。

コーポレートガバナンス・コードの諸原則が自社に合うのかどうかは、慎重に
吟味する必要があります。しかし、やってみないと分からないということで
あれば、やってみる価値はあるはあると思います。

ヤクルト本社のように、一度、業績連動報酬を入れてみたけれど、自社に合わ
ないということで止めたということであれば、納得感があります。

急激な改革は必要ないですし、返って弊害もあります。業績連動報酬について
は、少額の業績連動報酬を導入し、報酬を検討する報酬委員会については、
社内取締役が委員長となる方法から始めたらよいと思います。

これにより、とりあえずは「コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施
しない理由」のエクスプレインが不要になります。おそらく、このような考え
方で形から入った会社も多いと思います。

この方法は、形だけで実質が伴わないため邪道である、という意見があるかも
しれません。しかし筆者は、少しやってみることは非常に大事であると思い
ます。やってみれば、そのやり方の良し悪しが分かってくるようになります。
また、業績連動報酬や報酬委員会も違和感がなくなってくると思います。

そうなれば、もう一歩進めて業績連動報酬の金額や設計について検討してみる
ことができます。また、役員個人別の報酬の決定に社外取締役が関与すること
に抵抗感がなくなってくれば、委員長を社外取締役にするという決断ができる
ようにもなるでしょう。

反対に、大した効果が期待できないということが分かれば、ヤクルト本社
ように、その業績連動報酬も報酬委員会の設置も止め、コーポレート・ガバ
ナンス報告書ではエクスプレインすればよいと思います。そのときは、しっか
りとした根拠をもって説明することができるようになると思います。

今回もビズサプリ・メールマガジンをお読みいただきありがとうございました。
ビズサプリでは、役員報酬設計や報酬ガバナンスのご相談をお受けしています。
お気軽にお問い合わせください。

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改めて税について考える

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.105━ 2019.11.20━━

【ビズサプリ通信】

▼ 消費税が10%になりました。

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皆様、こんにちは。ビズサプリの花房です。消費税が8%から10%に変わり、
1ヶ月半が立ち、景気後退を懸念する声がある一方で、その対応策として5%還
元や10%還元が叫ばれ、売上を維持拡大しようと、小売り・外食業界の方はし
ばらくは大変な対応が続くと想定されます。キャッシュレス決済のポイント還
元については政府の支援策で予算が付いていますが、対象となる決済に対する
還元は1日当たり10億円分に上っているようで、予算が来年3月末までに足りな
くなる可能性も言われています。また、キャッシュレス端末が間に合わなかっ
たとか、システム対応で消費税がゼロになってしまった等、トラブルも少なか
らずあるようで、消費マインドの回復やキャッシュレス決済の普及等、消費税
10%が当たり前のものとして定着するまでには少し時間がかかりますね。

元々消費税というのは、今後少子高齢化で現役世代の減少とともに減るであろ
所得税から、消費全般に薄く広く課税する間接税とすることで税収を維持し、
少子高齢化で必要となるであろう社会保障費の財源を確保する目的で導入され
ています。今では、消費税は社会保障の充実のため、年金・医療・介護・少子
化対策に用いるということで、目的税化されています。

世間一般には、今回の消費増税に関して、食料品については軽減税率が実施さ
れたことで、みりんとみりん風調味料の違いや、栄養ドリンクでも医薬品等と
清涼飲料水になるもの、テイクアウトと店内飲食で適用される税率が違うと言
った、軽減税率の範囲に注意が行きがちですが、そもそもの目的である消費税
が実際どのように使われているのか、同じ社会保障費の財源でも、健康保険料
や年金保険料も近年1人当たりの負担は増え続けており、「隠れ増税」と言わ
れていることにも目を向け、社会保障費の財源だけでなく、その使途にも注意
を払って行かなければならないと感じるところです。

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■ 1.株主第一主義の見直し

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先日の日経新聞で、『米主要企業の経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブル
は19日、「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した
事業運営に取り組むと宣言した。株価上昇や配当増加など投資家の利益を優先
してきた米国型の資本主義にとって大きな転換点となる。米国では所得格差の
拡大で、大企業にも批判の矛先が向かっており、行動原則の修正を迫られた形
だ。』(2019/8/20 日本経済新聞電子版)、との記事が載っていました。

企業は様々なステークホルダーと利害関係を持っている中で、アメリカでは企
業の所有者である株主が一番大事と考えられ、企業は株主価値を最大化するこ
とを最優先しなければならない風潮があり、日本でもコーポレートガバナンス
コードの導入や、ROE重視の経営への転換が行われてきました。しかし、行き
過ぎた株主重視の姿勢は、株価が上昇してもその恩恵を受けるのは大量の株式
保有する富裕層、機関投資家、自社株式やストック・オプションを持つ経営
層であり、上記宣言は、投資家とそれ以外の人達との格差が許容しうる水準を
超えたことの表れと言えそうです。

一方で日本の経営は、旧来は、利益三分法(会社の利益を従業員賞与、株主配
当、社内留保で分ける考え方)や、日本的経営(終身雇用、年功序列、組合)
と言われる特色を持ち、従業員重視の傾向は強く、また近江商人の三方良しに
代表されるように、取引先や社会に対する配慮が行われ、現在でいう、CSR
ESGで言われていることを実践している会社も多くありました。

「企業は社会の公器である」とは、かの松下幸之助氏も言った言葉と言われて
いますが、本来は全てのステークホルダーに配慮すべきところ、アメリカは株
主重視に振り子が行き過ぎていたところを是正しようとし、一方で日本は株主
を軽視していたところ、もう少し株主重視の姿勢に戻してきているとうように、
ステークホルダーへの力の入れ方、バランスを見直しているのだと言えます。

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■ 2.How Dare You!

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格差問題というのは古くて新しい問題であり、時代により様々な格差が話題に
上ります。基本的には資産格差や賃金格差と言った金銭的な格差ですが、最近
は教育の差が将来の貧富の差を決める原因となるが、そもそも低所得層の子供
はちゃんとした教育が受けられないと言った教育格差や、選挙が近くなると
「1票の格差」が取りざたされ、最近は世代間格差が話題となっています。

上記ビジネス・ラウンドテーブルでの話題で思い出すのは、数年前にフランス
の経済学者であるトマ・ピケティ氏が『21世紀の資本(Le Capital)』におい
て、資本収益率(r)が経済成長率(g)よりも大きい状況が続く現在において、
投資家は益々豊かになり、一般的な経済成長率しか享受できない労働者層との
経済格差が拡大する構造的な問題があるとの主張です。そして、行き過ぎた富
の偏在を解消するためには、グローバルに資産課税をすべきだとのことでした。

労働コストを削減して利益をねん出し、投資家の利益を増やすことはまさに、
r>gを推進するものであり、本来は格差是正は政治が行うべきことですが、民
間の自浄作用として、経営トップ層が格差是正を決断したということだと思い
ます。

一方で社会保障費の増大は、本来受益者負担であるはずが、高齢化と医療費の
増大により、シニア世代は過去に負担した以上の給付を、現役世代の負担によ
って賄っており、それが世代間で見た場合、負担と給付の関係が、シニア世代
と現役世代で不公平となっている状況を、世代間格差と呼んでいます。

すなわち、シニア世代が得をし、現役世代が損をしているという構図ですが、
広い意味でいうと、環境問題についても、かつて資源を制限なく採掘し、工業
製品を作り、環境を汚染した世代がある一方で、資源がだんだんと枯渇し、汚
染された環境で生活し、今後環境を再生しなければならない現役世代との間で
は、世代間格差が生じていると言えます。

先日、国連の気候サミットで、16歳の環境活動家の少女、グレタ・トゥンベリ
さんが、"How Dare You!"「あなたたちが話しているのは、お金のことと経済
発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。よくもそんなことが言えますね
!」と発言したことが話題となりました。まだ社会に出ていない若者が、今置
かれた地球温暖化が進んだ状況に、不遇を嘆くのではなく、そのような状況を
作ってきた世代に対して本当に怒っている姿が、各国首脳の行動を本当に変え
てくれればいいのですが。

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■ 3.改めて税について考える

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消費税が最初に検討されたのは1979年の大平内閣まで遡り、財政再建のため
「一般消費税」導入を閣議決定したものの、世論の反対を受け、断念しました。
その後、消費税が実際に導入されたのは竹下内閣時代の1989年(平成元年)でし
たが、そのあおりで竹下内閣は総辞職しました。その後の増税の際も、常に世
論からは逆風を受け続けてきたという歴史があります。

消費税だけでなく、そもそも日本人は、税に対して、義務ではあるから仕方な
く納税している、本当は払いたくない、と考える方が大半ではないでしょうか?
なぜ、税が必要なのか。これは、国や地方自治体が、共用資産である道路や橋
と言った公的インフラや、年金・医療・福祉の他、国民の安全を守るための教
育や警察、消防、防衛と言った、公共サービスを提供するためには、財源が必
要であり、その財源のベースとなるのが税金である、ということは、高校まで
の教育で一度は耳にしたことがあるかと思います。

その意味で、程度の差こそあれ、誰もが税金の使途について恩恵を受けている
はずなのですが、皆さんが税金を払うことに抵抗があるのはなぜなのでしょう
か?若干古い資料ではありますが、2017年に、東京都税制調査会が外部委託し
た調査レポート(租税に対する国民意識と税への理解を深める取組に関する国
際比較調査・分析等委託 最終報告書)によると、の国民所得に占める租税負
担の割合は、他の先進諸国(ニュージーランドの46.2%、フランスの40.7%、
ドイツの30.4%等)に比べて低い、24.1%であるにもかかわらず、中間層の税
負担に関する意識調査は「高すぎる」という回答が6割を超え、実際に税負担の
高い国よりも、意識の上では日本の方が高いと感じる割合が高水準だという結
果が出ています。但し、税モラル(税金をきちんと納めなければならない意識)
は、調査対象となっている国の中では一番高いようです。

実際の税負担と、負担していると感じる意識(通税感)の逆転現象は、分析に
よると、納税者が自らの納める税金がどのように使われどのように自らの生活
に還ってきているのかを実感し、納得してもらうという「納得感」が足りない
ことに起因するようです。これを改善するためには、学校での教育だけでなく、
自分の将来の給料からどの程度の税金が支払われるのか、社会人になるととも
に説明する必要があり、またアメリカと違って組織人は源泉徴収の年末調整の
制度によって、自分では確定申告は原則として行いませんが、大目に源泉して
必ず年度末に、それぞれ確定申告で還付を受けることにすれば、例えで血税
言われるように、血の滲むような自身の努力から得られた報酬から、どれだけ
の税金が徴収されているか必然的に意識することとなり、その使い途にも自然
に興味がわくと思います。そして選挙権を行使し、血税が大切に使われている
ことを監視することが、国民の義務だと思います。

税の三大機能の1つとして、所得再分配機能があります。競争を前提とした資本
義経済においては努力した者がより多くの所得を得ることは避けられないこ
とから、ある程度の格差はいたし方ありませんが、行き過ぎた格差は許容され
るものではありません。税は所得再配分により、その格差を緩和する調整機能
を持っていますから、今回の消費増税がきちんと世代間の格差を解消するよう
に政治を監視することが、まさに今我々国民に求められていると言えます。

ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタント
よる業務改善支援、M&A支援、システム導入のコンサルティングの他、グループ
会社で税務申告業務、税務顧問、税務DD等、税務業務も行っておりますので、
ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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意思決定の方法について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.104━2019.11.5━
【ビズサプリ通信】
▼意思決定の方法について
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ビズサプリの三木です。
最近、コンビニのアイス売り場に行くと、「ガリガリ君リッチ たまご焼き味」が販売されています。ご興味ある方は一度チャレンジいただければと思いますが、卵焼きのようなカスタードクリームのような焼きトウモロコシのような、ちょっと不思議な味です。同時に、いったいどのような意思決定をすればこういう商品にたどり着くのだろう、と不思議に感じます。
今回は様々な意思決定の方法について、その長所や短所を見ていきます。
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■ 1.多数決
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集団の意思決定で最もよく使われるのが多数決です。多数決とは、ある集団において意思決定を図る際に、多数派の意見を採用する方法のことです(Wikipediaより)。
■ メリット・シンプルでわかりやすい。・より多くの人が納得する結論となる。
■ デメリット・少数意見が切り捨てられる。・強権限者の意見にまとまってしまうことがある。
デメリットの1点目は、例えば選挙で避けられない死票の問題や、少数株主の利益を多数決の株主総会でどう保護するか、といったことです。集団で意思決定する以上は個人の意思と不整合が出てしまうのは避けられませんが、単純な多数決ではそうした人が最大で49.9%発生してしまいます。デメリットの2点目は「ワンマン社長に逆らえない」といったケースで、日産のゴーン氏の事件などを思い浮かべれば分かりやすいと思います。選挙のように議決が匿名なら回避できますが、企業での意思決定など意見を戦わせる場合は匿名にするのは実質困難といえます。
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■ 2.アビリーンのパラドックス
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多数決で意思決定をする場合に、逆らえないワンマン社長がいるわけではなくでも、妙な心理が働いて正しく意思決定できないことがあり、代表的なものとしてアビリーンのパラドックスという状況があります。これは、人と違って見えることに気おくれしたり、「自分のような考えを持つことは変なのではないか?」と思い込んでしまうことで、集団全体が間違えた意思決定をしてしまうものです。人の和を重んじる日本ではとても生じやすい状況かもしれません。
例えば、大きな組織の中には、参加者が「この会議何の意味があるのだろう?」と疑問を感じているような会議がしばしばあります。誰かが「この会議、やめよう!」と口火を切れば「そうだよね、この会議いらないよね」「短縮しようか」といった話が出るのですが、「やめよう」と言い出すに勇気がいります。つまり、本心で多数決すれば会議は廃止・縮小されるのに、表立っては反対意見は出てきません。こうした状況に陥ると、現状維持であったり、誰もが反対意見を唱えにくい無難な結論になりやすいことが知られています。
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■ 3.多数決の補正
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アビリーンのパラドックスで分かるように、集団の意思決定では大胆な経営改革やオリジナリティのある商品開発に二の足を踏んでしまうといった弊害が出てくることがあります。このため、堅実さよりも迅速で大胆な経営が必要であったり、奇抜さやオリジナリティを必要とする業態では、多数決を採用しつつも、工夫を凝らすことがあります。IT系の会社では、シュルツ方式といって、単純な賛否だけを数えるのではなく、様々な意見に順位付けをして、最上位ではない選択肢にも光を当てるようにしているところがあります。また商品やサービスの開発にオリジナリティが必要な会社では意思決定を多数決で行わず、矛盾しない意見であれば「両方やってみよう」とか、引き返せるような選択肢であれば「ダメもとでやってみよう」といった判断を推奨することもあります。(もちろん、意思決定方法とは別に、失敗を責めない人事評価などの社風づくりも重要です)また、他の議決権者の意見を見ながら自分の意思決定をする「戦略投票」を認めると、意思決定の結果が変わることがあります。例えばA、B、Cの3つの選択肢があり、自分はA>B>Cの順に良い案だと考えているのですが、自分を除く多数決の状況は、A案が4票、B案が7票、C案が8票だったとします。ここで自分はベストだと思っているA案に投票してもC案の優位は動かないため、戦略投票ができるのであればB案に投票することでC案との決戦投票に持ち込めます。このように戦略投票を行うと、投票は自分自身の意思表明とは異なってしまうものの、より議決権者がより望ましいと考える方向で意思決定がなされると言われています。

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■ 4.エラー排除のための意思決定
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2008 年 2 月 24 日、湘南モノレールで約 40 メートルオーバーランして停車する事故が発生しました。この事故の原因は、運輸安全委員会がまとめた調査報告書によると、制御コンピュータに入ったノイズだったようです。単純作業を代行するRPA、複雑な意思決定をもこなしていくAIなど、人間ではなく機械が意思決定や判断を行うことが増えています。機械は、人間のようなミスはしない一方で、学習不足による判断ミスや、湘南モノレールの事例のように異常値の除外ができないといった機械特有のミスは犯してしまう可能性はあります。実は機械でも集団で意思決定することがあります。飛行機など事故が致命的な結果を招く乗り物では、重要な操縦装置の制御には複数台のコンピュータによる意思決定を行い、異常値を出したものを排除するようにしています。私は趣味でスキューバダイビングをしますが、その際にはダイブコンピュータという減圧症(いわゆる潜水病)にならないための潜り方を指示してくれる小さな機械を使います。この機械の中では複数の方法で計算が行われており、最も厳しい計算となったものを採用して指示を出しているそうです。今後、意思決定に機械が関わることは増えてきます。人間もしばしばエラーを起こしますが、機械も人間とは違ったエラーを起こします。正しい意思決定をするためにも、誤った意思決定を排除していく方法は今後も研究が続くでしょう。

コーポレートガバナンスなど、会社経営に関しても意思決定の議論は多くなされています。その際、登場人物やそれぞれの立場の是非は良く議論されますが、意思決定の方法に焦点を当てることは少ないように思います。ちょっと考えてみても良いテーマかもしれません。
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平時に備える

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.103━2019.9.18━

【ビズサプリ通信】

▼ 平時に備える

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ビズサプリの辻です。

先週、台風15号が強い勢力を保ったまま関東地方を通過しました。千葉県、伊豆
諸島を中心に大変な被害が生じています。
台風15号の影響により被害に遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

台風が通貨してから1週間以上経ちますが、停電が解消していない地域も多く
あります。今回の台風では、千葉県を中心に記録的な強風により多くの電柱や
鉄塔が倒壊し、その復旧に想定以上に時間がかかっていることが停電の長期化に
影響を及ぼしているということが報道されています。

「電柱に地中化を進めていれば、ここまで被害は拡大しなかったのではないか」
「電柱の耐風性を高めなければいけなかったのではないか」といった議論も
されています。ただ、「台風による長期的な停電被害」というリスクが顕在化し、
甚大な被害があった時には、リスク感度が高くなり、リスク対応した抜本的な対応を
求める声は大きくなりますが、台風が来る前にこのような「備え」をすることは
なかなか難しかったのではないかと推察します。

起こっていないことに対する「備え」はどうしても後回りになってしまう、
これは企業不正・不祥事という企業にとっての危機においても同様です。


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■ 1.不正が生じた後の調査業務

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企業内で不正・不祥事が生じ、それが発覚した場合には、企業は「不正調査」
を実施します。「不正調査」の主な目的は下記の通りです。

・事実関係の解明
・会社損害等の影響額の算定
・直接的な原因の把握
・直接的な原因を引き起こした背景(根本的要因)の把握

「不正調査」の結果は、通常は「調査報告書」という形で文書として取り纏めを
実施します。「調査報告書」は、上記の目的に対する結果のみならず、調査の
手法や再発防止策等も含めて記載することが一般的です。そして、速やかな
ディスクローズが求められることもあり、これらの調査や調査報告書の取り纏め
といったことを極めて短期間に対応する必要があります。

この「調査報告書」をもとに処分の社内決裁や、監査法人に対する説明、
外部へのディスクローズ等を実施していうことになるためかなり詳細な記載が
求められることも多く、そのための調査にも膨大な工数(コスト)がかかります。

この膨大な工数は、通常の事業活動とは異なり、企業価値向上のためといった前向き
な要素はほぼゼロです。会社の仲間が起こした不正・不祥事を調査することは
精神的にも大変厳しいものです。

膨大な工数(コスト)をかけて精神的にも肉体的にも厳しい業務を大変短期間で
実施するという業務は、実際に調査業務に携わったことのある方であれば、まさに
「嵐の中の日々」という実感ではないでしょうか。


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■ 2.不正調査という嵐の中で

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そのような嵐の中に身を置くと、不正・不祥事リスクに対する感度が非常に高く
なります。「このような怒涛の日々を送るよりは、リスクが顕在化することが
ないよう不正・不祥事の予防をしておけばよかった。」と思うことになります。
今回の災害と同様です。電柱が強風で折れてしまい、そしてその折れてしまった
電柱に倒木でなかなかたどり着けないといった状況になると「電柱の耐風化」
「電柱の地中化」といった提案が出て、それが真剣に議論されるよう
になるのと同様です。


不正調査に携わった人は、

「なぜそのようなことが実施されてしまったのか」
「なぜ、もう少し早く見つけてあげることができなかったのか」
「突き詰めると何が問題だったのか」

といったことを深く考えざるをえない状況となります。そこまで深く考えた
方から行われる提案は非常に重要で本質的です。ただ、嵐が過ぎるとそのような
本質的な提案は非常に手間とコストと時間がかかることが多いこともあり、
直接的な要因に対する対応のみを実施して終了してしまうところも多くある
ように思います。

「ピンチはチャンス」、不正・不祥事が生じた後は、根本要因まで含めて
改善を図り、自浄作用を発揮していくこと、より健全な組織となっていきます。

この点、上場企業の不祥事対応の原則を示した「上場会社における不祥事対応の
プリンシプル」では、「再発防止策は、根本的な原因に即した実効性の高い方策
とし、迅速かつ着実に実行する。この際、組織の変更や社内規則の改訂等に
とどまらず、再発防止策の本旨が日々の業務運営等に具体的に反映されること
が重要であり、その目的に沿って運用され、定着しているかを十分に検証
する。」と規定されています。

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■ 3.他事例の情報を活用する。

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痛い目に合わないと不正・不祥事を防ぐという動きにならないかということ
そんなことはありません。

今回の災害対応で、的確な情報発信と迅速な対応でリーダーシップを発揮
している千葉市長の熊谷俊人氏のTwitterによると、「Amazonほしい物リスト
を利用した物資寄付について、『5月に総社市訪問の際、豪雨災害で活用した話
を片岡市長から聞き、研究するよう指示しておいたことがここで役に立ちました』
熊谷俊人市長のTwitter 2019年9月12日)ということです。他自治体での災害
対応を積極的に情報収集し、災害が起きる前にその対応を指示していたという
ことです。

不正・不祥事においても「自社での失敗事例」「他社事例」といった学ぶべき
材料が多くあるはずです。失敗事例を生きた教科書として、「自分の事業部の
対応は十分なのだろうか」「誰が担当してこの対応を推進しているのだろうか」
といったことを経営陣を中心に組織全体が考えていくことで、不正・不祥事
リスクに対する耐性のレベルを上げることができます。


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■ 4.予防コストと対応コスト

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企業不正・不祥事の予防に関するコストと対応に係るコストに関しては、
デロイトトーマツが実施した「企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey
2018-2020」によると、不正の発生に伴う想定コストは平均で8.26億円となる一
方で、不正防止のためのコストは平均で0.99億円にとどまるということが
報告されています。(詳細な調査結果はこちら→
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/risk/articles/frs/jp-fraud-survey-2018-2020.html

不正予防にはまだまだ力点が置かれていないと捉えることもできますし、不正が
生じてた後のコストより、予防コストの方が圧倒的に低いと捉えることもでき
ますが、いずれにせよ、今の2倍、3倍予防コストにかけたとしても、事後コスト
よりも圧倒的にお得といえるのではないでしょうか。

不正・不祥事は誰も幸せにはなりません。不正実行者の人生も、それに携わる
回りの方々の人生も一変してしまいます。そして、不正調査は膨大なコストを
かけ、調査をしている方も相当の疲弊をします。そして不正調査自体は企業
の成長には結び付きません。

不正・不祥事は「あってはならないこと」と目をつぶるのではなく、どの会社
でも起こりうる発生頻度の高いリスクとして捉え、事前予防、早期発見の取組
を進めて頂きたいと思います。


今回もビズサプリ・メールマガジンをお読みいただきありがとうございました。
ビズサプリでは、不正予防の内部統制構築、不正調査を含む不正対応業務を
実施しております。お気軽にお問合せ下さい。

 

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役員報酬のクローバック条項について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.102━2019.9.4 ━

【ビズサプリ通信】

▼ 業績報酬を取り戻すクローバック

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ビズサプリの久保です。

企業買収に成功することもあれば、失敗することもあります。失敗を怖れて
いたら攻めの経営はできません。しかし、買収後の経営が当初の見込みどおり
進まず、巨額の減損損失に見舞われることもあるでしょう。このような場合、
経営者に責任を取ってもらうことになりますが、すでに支払った役員報酬
返してもらうということも考えられます。
今回は、役員報酬のクローバック条項について考えてみたいと思います。

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■ 1.株主によるクローバック条項の提案

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上場会社の今年6月の株主総会では、株主提案が54社となり過去最高になり
ました。その中で武田薬品工業では「クローバック条項」導入についての
株主提案に、過半の52%の賛成票が集まりました。
約6兆2000億円を投じたアイルランド製薬大手シャイアーの買収が過大投資
ではないか、ウェバー社長の2018年度の役員報酬17億5800万円(前年比44%増)
は過大ではないか、という株主の懸念から、このような結果となったものと
考えられます。
これは定款変更を求める株主提案だったことから、出席株主の3分の2以上の
賛成が得られず否決されました。しかし、その後同社は、社内規程を改訂して
同条項を導入する方向で検討すると発表していますので、結果として株主側の
意向が反映することになりました。

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■ 2.クローバックとは

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クローバックというのは、そもそも何でしょうか。クロー(claw)という
のは鳥獣の爪のことで、「爪で引っ掻くように力づくで取り戻す」という
意味合いがあるようです。一定の条件の下で、一旦支払った役員報酬を取り
戻す条項をクローバック条項と呼びます。
役員に対する業績連動報酬は、決算数値や株価などを基礎にして算定されます。
仮に、過大な投資による減損損失や巨額粉飾決算などが発覚したとしたら、
これらの数値が本来あるべき算定基礎ではなかったことが判明します。定款
や社内規程にクローバック条項を入れておけば、一旦支払った役員報酬を取り
戻すことができるという訳です。

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■ 3.米国のクローバック制度

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米国では、ほとんどの上場会社が自主的にクローバック条項を導入しています。
これは特にリーマンショックの後、金融会社を中心に広がりました。日本でも、
野村ホールディングスみずほフィナンシャルグループ日本板硝子ヤマハ
コニカミノルタなどが導入済みですが、まだまだ少数派です。
米国で2000年頃に発覚したエンロンワールドコム事件などの巨額会計不正
では、過年度の決算が修正されました。その結果として役員に対する業績連動
報酬が過大に支払われたことが問題になりました。
これらの事件の後に成立したのがSOX(サーベンス・オクスレー)法です。
この法律では、修正の対象となった財務諸表の公表後12ヶ月間に受領したボー
ナスとインセンティブ報酬のすべてについて、会社に返還請求することができる
と規定されています。対象となる役員はCEOとCFOに限られ、返還請求はSECが
行うことになっています。
リーマンショックの後に成立したドッド・フランク法では、このクローバック
制度をさらに強化するため、次のような強化策を規定しました。
SOX法ではCEOとCFOだけに限定していたが、現職と退職した役員のすべて
 を対象とする
SOX法では返還請求できるのがSECだけであったが、会社からも返還請求できる
SOX法では修正された財務諸表公表後12ヶ月間に受領した報酬としていたが、
 これを3年間とする
このように法律で規定されたにも関わらず、その運用規則(SEC規則)が棚上げ
状態になり、同法のこの条項は施行されていません。これはトランプ大統領
規制強化に消極的であるためと言われています。
なお、日本が手本とした英国のコーポレートガバナンス・コードでは、2018年
の改訂において、クローバック条項が原則化されました。これによりクロー
バック条項を導入していない会社は説明(エクスプレイン)が必要となります。

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■ 4.日本でのクローバック条項の課題

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役員報酬が高額化するに伴い、日本でもクローバック条項の導入が進んでいくと
考えられます。ただし、次のような課題があります。
まず、日本の上場会社の役員報酬は、一部の外国人役員を除いてそれほど高く
ありません。売上高1兆円以上の会社では、米国のCEO報酬の中央値が15.7億円
である一方、日本の場合は1.4億円(デロイトトーマツ2018年度調べ)で、
約11倍の差があります。役員報酬を全額返還してもらっても大した金額には
なりません。
次に、業績連動報酬の構成比が日米で大きく異なります。米国の大企業では
役員報酬の約9割が業績連動報酬ですが、日本の売上高1兆円以上の会社でも
約半分です。日本では報酬総額が欧米に比べて少ないだけでなく、クローバック
の対象になる業績連動報酬がさらにその半分以下というのが現状です。
業績連動報酬は、コーポレートガバナンス・コードにおいて原則化されています
ので、多くの上場会社がこれを導入しています。しかし、その算定基準がはっき
りせず、実質上、社長の一存で役員賞与やインセンティブ報酬を決める会社も
あるようです。算定根拠がはっきりしていない状況では、クローバック条項を
導入したとしても、明確な根拠をもって返還額を算定することができません。
その結果、役員報酬の返還も形だけになる可能性があります。
最後に、税法上の課題もあります。役員報酬を返還した場合、役員が過去に支払
った所得税が還付されるのか、会社側で過去に損金とした役員報酬法人税法
どのように扱われるのかが問題になります。これまで事例がほとんどないことから、
税務当局の取り扱いは将来決まることになると思います。
このような課題のあるクローバック条項ですが、日本においても、取締役の無謀な
投資や粉飾決算に対して、一定の抑止力になることが期待できると思います。
ただし、日本では役員の高額報酬が社会問題化するところまで行っていないこと
から、クローバック条項の導入は企業に任され、当面、コーポレートガバナンス
・コードにおいて原則化されることはないと思われます。

今回もビズサプリ・メールマガジンをお読みいただきありがとうございました。
ビズサプリでは、役員報酬設計や報酬ガバナンスのご相談をお受けしております。
お気軽にお問い合わせください。

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株式報酬制度の位置づけ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.101━2019.8.21━
【ビズサプリ通信】
▼ 株式報酬制度の利用
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ビズサプリの泉です。
当初、冷夏といわれていた今年の夏ですが、梅雨がなんとなく終わった途端、猛烈な暑さとなりました。その上、大型の台風による大雨もあり、冷夏であったり酷暑であったりと、ここ数年異常気象ばかりのイメージです。
昔の小説やドラマにでてくるような、朝の公園でのラジオ体操や夏休みの日中から子供たちが遊ぶような光景はもう東京にはないのでしょうか。
経理部門の方たちは3月から続く年度決算、第1四半期決算がやっと終わり、第2四半期までの閑散期となり休暇をとっているのではないかと思います。
今回は会社における株式報酬制度の位置づけを考えてみたいと思います。
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■ 1.報酬とは
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報酬とは、一般的には労働基準法における賃金がわかりやすいかと思います。 「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」(労働基準法第11条)
つまり、労働したことの対価として受け取る金銭ということになります。役員報酬も従業員ではないですが、業務遂行の対価であることは同じといえます。
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■ 2.現金報酬と株式報酬について
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報酬は、基本的には現金でもらっていると思いますが、これは労働基準法上定められており、一般的に「通貨払いの原則」呼ばれています。(労働基準法第24条)では、なぜ、わざわざ株式報酬が利用されるのでしょうか。これは現金報酬及び株式報酬の特徴に差があるためです。具体的には次のような特徴があります。
現金報酬: 金額がわかりやすい、給料という感じがする 流動性が高く生活給に向いている 基本的にもらえない、価値が減るということがない株式報酬: 会社に資金余力がなくても支給できる 将来の株価に対するものであるため、将来の成果に対するインセン        ティブとなる 設計の仕方によっては、金額の大きなハイリターンの可能性がある 株主となることで、全社意識、ロイヤリティの向上が図れる
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■ 3.株式報酬の種類
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では、実際に株式報酬にはどのような制度があるのでしょうか。一般的な株式報酬制度と呼ばれるものには下記のようなものがあります。また、株式を給付するといった意味で幅広く列挙してみました。
ストック・オプション(SO)一番有名な株式報酬制度であり、株式を将来一定の条件で購入できる権利を給付するものであり、次の2つが代表的なものとなります。税制適格ストック・オプション(税制適格SO)利益について税務上有利になるものの、行使価格(株式購入価格)がSO付与時の株価以上であるため、値上がりした分のみが利益となる。 1円ストック・オプション(1円SO)1株1円で購入できるSOであり株価が現在よりも下がったとしても利益となるものの税務上は有利にならない。リストリクテッド・ストック一定の勤務期間後に譲渡制限が解除される株式を給付。パフォーマンス・シェア一定の業績条件達成後に現物出資して、株式を給付。株式給付信託会社が組成した信託を通じて株式を給付する。一定の条件(勤務期間や業績)に応じたポイントが付与され、条件達成後に給付持株会役員や従業員は給与から一部持株会へ拠出し、定期的に株を取得する。拠出時に従業員にはあらかじめ設定した奨励金を付加する。
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■ 4.利用の場面
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「1.報酬とは」で述べた通り、報酬は一般的には過去の勤務に対する対価の意味ですが、株式報酬はもっと広い目的のために様々な場面で利用することができます。
採用時サインアップボーナスを現金で支給することはできますが、資金余力のないベンチャー企業では株式報酬で行うことがよくあります。例)非上場会社の税制適格SO業績へのインセンティブ設計上場会社では株式に流動性があるため、株式報酬を渡すことにより将来の企業価値向上(株価向上)を目的として、将来の働きへの期待にインセンティブを付けることができます。その際に、企業価値に大きく影響を与えることができるマネジメントに近い層にはハイリスク・ハイリターン、ミドルやメンバー層には一定の利益が確保される株式報酬が向いていると考えられます。例)上場会社の税制適格SO、パフォーマンス・シェア、株式給付信託リテンション勤務条件を付けた株式報酬や株式保有による全社意識、ロイヤリティの向上を目的として株式報酬を付与することがあります。例)リストリクテッド・ストック、株式給付信託、従業員持株会退職マネジメント層には短期の企業価値の向上を追うのではなく、中長期視点で業務を行うようなインセンティブをつけるとともに、退職時に一定の報酬として付与することがあります。例)退職時役員向け1円SO
このように株式報酬は様々あるとともにその特徴に応じた使い方もいろいろあります。また、今回は述べませんでしたが、各制度について、会社法上、会計上、税務上、金融商品取引法上などの取り扱いも異なっています。
ビズサプリグループでは、導入目的に応じた株式報酬制度に関するコンサルティング業務も行っておりますので、何かお役に立てることがありましたらご相談ください。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。
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