株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

メルマガ100号記念

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.100━2019.7.17 ━

【ビズサプリ通信】

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ビズサプリの三木です。

このメールマガジンも今回で100号となりました。
今回はメルマガ100号を記念し、100という数字について考えてみたいと思います。

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■ 1.目盛りとしての100

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身の回りの100という数字で代表的なものの1つが温度です。0度で凍り100度
で沸騰する水の性質から、スウェーデンセルシウスという科学者がその間を
100等分した摂氏という温度表記を考えました。我々の生活温度が0~100度に
概ね収まることもあって、ご存知の通り広く使われています。
0度から100度の間は、100分割でなく10000分割でも3分割でも構わなかった
はずですが、セルシウスが選んだのは100分割でした。摂氏が定着した理由
には、やはり100分割することで、1度が我々の日常感覚において大きすぎず
小さすぎない、使い勝手の良い温度表記になったことがあると思います。

目盛りといえば、百分率(パーセント)も良く使われています。
「30%オフ!」といった安売り広告、消費税の割合は「8%」、政府の政策目標
もインフレ率「2%」、企業の業績も「売上7%増」と、何かを比較するときは
高確率で%表示が使われます。別に「消費税は8分」と言っても間違いでは
ありませんが、感覚的にしっくりきません。分野によっては‰(1,000分の1)
PPM(1,000,000分の1)を使うこともありますが、やはり%表示に比べる
と使われるシーンは限定的です。

そのほかにも、通貨も100分割することが多いように感じます。1ドル=100
セントで、1ユーロ=100セントです。日本でもかつては1円=100銭でした。
また、学校のテストも100点満点であることが殆どでした。200点満点でも
1000点満点でも良いのですが、やはり何も前提をおかなければテストは
100点が満点と刷り込まれています。このように、目盛りとして100分割
することは広く定着し、我々も慣れ親しみ、感覚的にも受け止めやすくなって
います。

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■ 2.大きさとしての100

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100は、大きすぎず小さすぎず、ちょうどよい目標にもなります。このメルマガ
の継続発行も、10号だと目標として低すぎ、1000号だと遠すぎてやる気がなく
なってしまいますが、100号だと頑張れば達成できるちょうどよい頃合いです。

英国が中国から植民地として香港を租借したとき、99年後に香港(正確には
その一部)を返還するという約束をしたことは有名です。中国語で99は永遠
という意味合いを持ちますが、現実に99年は経過し、香港は中国に返還され
ました。考えてみれば人間の寿命もおおよそ最大100年です。100は永遠のよう
でありながら、人間が届く現実的な数でもあります。

政府の骨太の方針にも掲げられていた「100年安心年金」も、生涯という意味
で100を使った例と言えます。100年=一生と素直に想像できるため、「105歳
まで生きた人は安心ではないのか!」という揚げ足取りもありませんでした。
その制度設計が10年も持たずに持続性が疑問視されているのは皮肉なものですが・・・

もっと身近なものだと100円ショップを忘れるわけにはいきません。もともと
ダイソーはお釣りのやり取りを省くために100円にしたと聞いたことがあります。
もちろん値段と品質のバランスの良さも重要ですが、100円という分かりやすさ
が事業拡大に与えた影響は大きいと思います。

このように、100という数字のキリの良い大きさは分かりやすく、目標値として
も腹落ちしやすく覚えやすいため、広く使われています。身の回りを見ても、
百貨店、百人一首日本百名山、百面相など、様々な言葉に取り込まれています。
ちなみにどうでもいい情報ですが、芸人のアキラ100%は、駆け出しのころお盆
を100円ショップで調達していたそうです。

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■ 3. 100円あたり原価

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100という数字は慣れ親しみもあって感覚的に理解しやすくなっています。
そこで私が良く使っているのが、売上100円当たりのコスト構成です。
もちろん、きちんとビジネスを理解するには様々な情報を見て詳細に詰めて
いくのが一番ですが、企業の財務諸表は金額が大きく、読み解くのに一定の
知識も必要です。また、「ごく大雑把に」「短時間で」「感覚的に」会社の
概略を掴むことも必要なこともあります。
ちなみに売上100円当たりのコストですから、「売上高販管費率」などの%表示
の比率と数字の大きさは一緒になります。この読み替えが簡単なことも便利と
いえます。

例えば、スターバックス、日本製鉄、アステラス製薬の3社を比べてみましょう。

スターバックス(2018年9月期)では、売上100円あたり
売上原価 41円
販管費 43円
その他 16円

日本製鉄(2019年3月期)では、売上100円当たり
売上原価 87円
研究開発費 1円
販管費(研究開発費以外) 8円
その他 4円

アステラス製薬(2019年3月期)では、売上100円当たり
売上原価 22円
研究開発費 16円
販管費(研究開発費以外) 38円
その他 24円
となっています。

スターバックスでは売上原価と販管費が目立ちます。
販促費43円は店舗の内装や光熱費、人件費等です。100円当たり43円もがこう
した費用なのですから、飲料や食事そのもの以上に、居心地の良い空間や雰囲気
の提供が重要なビジネスであることが見て取れます。
なお、外食産業では原材料費は30%程度と言われますが、スターバックスでは
家賃を売上原価に入れていることと、フランチャイズを展開しているため、売上
原価が高くなっています。

日本製鉄では売上原価87円が圧倒的に大きく、素材あっての素材産業であること
が良く分かります。華美な販促活動などより、質の良い素材を、余計なコストを
かけずに提供していくビジネスと言えます。

アステラス製薬では、売上100円あたり売上原価は22円にすぎません。一方で
研究開発に16円を費やしています。量産している薬は低原価ですが、より効果
の高い新薬を作るべく研究開発を重視していることが分かります。また、その
販管費も38円と意外と大きく、使用方法の説明や温度管理など、ただ商品を
届けるだけではないビジネスであることも伺えます。


ビズサプリ通信、第100号となるまでのご愛読、誠にありがとうございます。
今後ともメンバー一同、筆不精にカツを入れつつ執筆していく所存ですので、
引き続きご笑読いただけると幸甚です。

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コーポレート・ガバナンスの強化

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.099━ 2019.7.2━━

【ビズサプリ通信】

▼ コーポレート・ガバナンスの強化

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皆様、こんにちは。ビズサプリの庄村です。
先月は2000社を超える3月決算上場会社の定時株主総会が開催されました。
LIXILグループでは株主側(期中に解任されたCEO)の取締役選任議案が会社
提案に勝利し、武田薬品工業では株主から全取締役の個別報酬の開示と損失が
生じた場合役員が受け取った業績連動報酬を過去にさかのぼって返還させるク
ローバック条項の導入が提案されました。
さらに、アパート施工不良問題で業績が悪化したレオパレス21や、完成車の
検査不正があったスズキ、同じく不祥事のあった野村ホールディングスやスル
ガ銀行など不祥事があった企業では株主からの質問や意見が相次ぎ、経営者は
謝罪に追われ大荒れの株主総会となったようです。

今回のメルマガでは、コーポレート・ガバナンスの強化をテーマとしています。

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■ 1.役員報酬プログラム

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役員報酬額はいわゆるお手盛り防止のため、その限度額は株主総会で決議され
ます。
1億円以上の役員報酬を得た1億円プレーヤーの役員報酬額は有価証券報告書
個別開示が必要ですが、1億円未満であれば、総額限度額の範囲内であればその
必要はありません。また、各取締役の報酬プロセスも不透明でした。日産自動
車ではカルロスゴーン元会長が主導的に取締役報酬を決めていた問題などが生
じています。
会社所有者である株主は取締役に会社経営を委任していますが、委任の対価と
なる役員報酬の決定プロセスが不透明であるということになります。

そこで2019年1月に施行された改正開示布令で役員報酬は「客観性・透明性あ
る手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである」と明
記され、有価証券報告書で固定部分、短期・中長期の業績連動部分についてそ
れぞれ算定方法や割合の他、決定までのプロセスを具体的に分かりやすく記載
しなければならなりました。
株主にとっては、依然として1億円未満役員の個別報酬額はわかりませ
んが、役員報酬制度の内容や報酬決定プロセスが明確となります。
最近では任意の報酬委員会を設置し、役員報酬決定の客観性や透明性を高めて
いる上場会社が増えているようです。

また、今後の会社法改正案では、取締役会で決定した役員報酬内容に関しその
基本的な考え方や方針を開示し、株主総会での説明義務が盛り込まれる予定で
す。

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■ 2.政策保有目的株式

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政策保有目的株式についても2019年1月に施行された開示布令で改正され、政
保有株式の削減に向けて開示内容が拡充されるようになりました。政策保有
目的株式の開示拡充は、建設的な対話の推進に向けた情報提供の一環として位
置づけられています。
具体的には、有価証券報告書で政策保有目的株式の保有方針や保有の合理性の
検証方法などの開示を求めるとともに、個別開示の対象となる保有株式銘柄が
現状の30銘柄から60銘柄に増加し、保有株式の相手方が当社の株式を相互
保有しているか否かも開示することとなりました。

また、議決権行使助言会社ISSは2019年日本向けの議決権行使助言方針で「
政策保有目的銘柄出身の社外取締役及び社外監査役は独立性がないと判断する」
という方針を改定しました。取締役の選解任は株主総会でしかできないため、
実際の改定は1年の猶予期間をおき、2020年2月開催の株主総会から適用とな
ります。

今後は政策保有目的株式の売却による株式の相互待合が解消されることでしょ
う。それによって、企業にとってはモノ言わない安定株主の減少につながるた
め、株主からの監視がさらに強化されることでしょう。
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■ 3. 取締役の選任

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当期の株主総会では、2018年の株主総会では買収防衛策を導入している企業や
自己資本利益率ROE)が低い企業や、社外役員が3分の1未満の企業などで
、経営トップの選任議案の賛成比率が低くなりました。
また、社外役員については、独立性や適性に問題がなくても取締役会への出席
率が一定率未満である場合や政策保有目的株式の企業出身の社外取締役は独立
性がないものと判断し、社外役員の選任議案に反対するケースもありました。

コーポレート・ガバナンスコードでは、社外取締役を2人以上選任することや
、取締役会がジェンダーや国際性の面を含む多様性を持つように求めています。

議決権行使助言会社のグラスルイスは、2020年から東証1部2部の上場企業を
対象に女性役員がいない企業に対して経営トップの選任決議に反対する方針
としています。
また、議決権行使助言会社ISSでは、委員会型機関設計の会社について取締
役の3分の1を社外役員とすることを求めています。
今後は女性役員や外国人役員の登用や社外役員数の増加等、取締役会の構成
メンバーの変更が進んでくると思われます。


http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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令和の時代になって

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.098━ 2019.6.12━━

【ビズサプリ通信】

▼ 令和の時代になって

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皆様、こんにちは。ビズサプリの花房です。令和の時代がスタートして、1ヶ
月が過ぎました。ようやく、『令和元年』、『R1』に慣れてきたころではない
でしょうか。これで私も昭和から3世代を生きることになるわけですが、平成
を振り返ってみると、経済的にはちょうどバブル崩壊から始まり、ITバブルや
リーマンショックを経て、失われた20年とか30年という言い方もあれば、デフ
レの時代と言ったり、その中で銀行はメガバンク中心に合併が進んで数が減る
等、経済・金融的にはマイナスの側面が強かったように思います。

一方でITという言葉が一般的になったように、情報通信技術の進展により、イ
ンターネットが普及して、仕事がパソコンベースとなり、個人でもPCを持
つのは当たり前で、携帯もスマホにシフトしたりと、生活のインフラも大きく
変わった時代でした。

平成を振り返ると、様々な切り口で変化の多かった時代と言えるのですが、こ
と会計に関して言えば、「会計ビッグバン」を契機に、やはり大きく変わりま
した。今回は、「会計ビッグバン」以降、複雑化してきている会計について、
改めてその本質を考えてみたいと思います。

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■ 1.会計ビッグバンとは?

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そもそも会計ビッグバンとは、2000年3月期に始まった、日本の企業会計基準
を世界基準に合わせるために行われた数々の改革であり、一言で言えば、会計
基準の国際化でした。それまでは、取得原価主義の下、含み損を計上すること
はあっても含み益は計上しなかったものから、時価会計が導入され、貸借対照
表の項目について、時価で評価しようという流れになりました。

その評価方法においては、将来キャッシュフローを割引計算して時価を算出す
る方法が一般的となり、代表的なものとして、減損会計や退職給付会計が導入
されました。これらは、アメリカの会計基準(US GAAP)や、国際会計基準
IFRS)で適用されていたものを日本基準に導入したもので、当時は、「コン
バージェンス」と言われていました。そこから一歩進み、IFRSを全上場会社に
原則適用するような方向性も示されたりしましたが、結果的には任意適用とな
って、現在に至っています。

私が会計士になった1997年はまだ会計ビッグバン前夜で、それまでの会計士は、
試験に受かって一度会計士になれば、その知識で一生飯が食える、と言われて
いたくらい、会計基準に変化のない時代でした。それを象徴するのが『企業会
計原則』(1949年制定)や『連続意見書』(1960年制定)と言われる基準で、
1997年当時はまだ、これら40,50年前の基準を使って、会計処理を判断してい
た時代でした。日本ではまだ税効果会計すら一般的でなかった時代です。

そこから一気に時価会計へ舵を切り、会計基準が大幅に変わったことは、まさ
に「ビッグバン」と形容できる大変革でした。日本の会計基準が国際基準に近
づき、海外から見て日本の財務諸表が信用できるものとなってきた一方で、会
計基準そのものの難易度は増していると言えます(もちろん会計基準そのもの
のボリュームも増えましたが)。

特にIFRSについては、そもそも原文が英語であるため、その日本語訳自体が
読みにくいことも相まって、会計基準を難しく見せている側面があると思いま
す。また基準そのものの作りとして、原則主義(プリンシプルベース)を採っ
ています。これは、原理・原則を定めて、その解釈や運用は企業に任せる考え
方です。一方で従来の日本基準は、詳細な規定や数値基準(ルール)を決めて、
それに従う考え方(ルールベース)なので、IFRSを理解するには、日本の会計
基準とは違う考え方をまず身に着ける必要がありました。

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■ 2.正しい会計基準とは何か?

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では、IFRSの方が優れているとして近づいていく方向性なのであれば、なぜ全
ての上場企業にIFRSを適用しないのか、IFRSを適用している企業とそうでない
企業は物差しが違うので、投資家が比べられないのではないか、と言った声も
あります。またのれんの会計処理に代表されますが、規則償却を求める日本基
準の方が、財務諸表の健全性が増すという意見もあり、国際会計基準審議会
(IASB)が、のれんの償却を検討し始めており、一体会計基準として何が正し
いのか、という疑問もわきます。

これは、もっと大きな時間軸で会計基準の変遷を辿ると、正解が少し見えて来
る気がします。つまり、元々会計は「現金主義」からスタートしています。
複式簿記会計のスタート時から発生主義はあったという話もありますが、複式
簿記が着目されるようになり始めた中世ヨーロッパでは、航海のプロジェクト
毎の収支計算が重要であったこと、事業も小規模なものが多く、取引も現金取
引が多かったため、現金主義で十分でした。

そこから、掛け取引や手形取引が増大し、企業規模が大きくなって利害関係者
も増えて会計期間ごとの正確な損益計算の必要性が出てきたり、また産業革命
以降設備投資額も巨額になって減価償却の重要性が増した、あるいは退職金制
度が作られる等、経済活動の複雑化とともに、発生主義の必要性が徐々に大き
くなってきた歴史があります。

そして近年は、機関投資家の発達とともに、投資対象としての企業評価の重要
性が増したこと、M&Aが活性化してきたこと等が、企業そのものを取引対象とし
時価評価する重要性が高まってきたことにより、時価主義に偏重してきてい
ると言う見方もあります。また会社を継続企業と見ず、清算前提であれば、清
算価値としての時価評価が正しい会計基準ということになります。

つまり、会計(学)とは社会科学であり、物質的な正確性のような、唯一の正解
がある自然科学と異なり、社会科学は時代により、また使い手の目的や価値観
によっても、正しさが違うものなのです。

但し、会計がお金を扱うものである以上、1つだけ真理と言えるものがありま
す。それは、会社が設立されて(株主から出資を集めて)から清算される(全
ての財産を現金化して株主に払い戻す)までの収支と、同期間の損益合計は必
ず一致するということです。

損益計算書は、原則として未来永劫存続する、継続企業を前提として人為的に、
通常は1年間で会計期間を区切り(最小単位としては日次決算の1日単位)、利
益を計算するためのものです。それらの各会計期間を繋ぐための一時的な財務
諸表が、貸借対照表です。全期間の収支と損益が一致するという真理を前提に
すれば、極論すると会計処理としてどの方法を用いたかは重要ではなく、同じ
方法を毎回適用するという継続性こそが最も重要だと言えます。

ましてや、プリンシプルベースで、各社の会計処理方法や注記を含めた開示は、
同業種であっても乖離する可能性は十分あります。ルールベースでは、開示を
含めて横並びで、金太郎あめを切ったような内容であったため、財務諸表の読
み手に取って、企業間の比較は容易でした。IFRSでは、読み手が会社の会計方
針をしっかりと理解(そのために会計処理の方法については詳細に記述されま
す)しなければならない上、注記の形式も各社まちまちであるため、ルールベ
ースに比べて、企業間の比較可能性を犠牲にしていると言えます。その分個々
の会社の状況を深く分析し、トレンドを比較するためには、各社の会計方針を
細かく記載し、それらを継続して適用することが重要なのです。

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■ 3.哲学的思考

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IFRSでのプリンシプルベースと従来の日本基準のルールベースの考え方は、哲
学的な言葉を借りると、プリンシプルベースは「演繹」的な思考、ルールベー
スは「帰納」的な思考と言えます。「演繹」は、普遍的な原理から論理的に推
論し、個別の事柄を導く方法を言い、「概念フレームワーク」として財務報告
の基本的な諸概念を示し、そこから個別の基準を開発するIFRSの発想は、「演
繹」的なアプローチと言えます。

一方で従来の日本基準は、企業会計原則はその中で、企業会計の実務の中に慣
習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められるところを要約し
たもの、と言っていることから明らかなように、「帰納」的なアプローチに基
づく基準と言えます。

哲学的には、「演繹」的な思考も「帰納」的な思考も、どちらかが優れている
訳ではなく、考え方のアプローチの違いなので、時と場合によって使い分けら
れるものです。ただ、元々の文化というか、国民性として、日本人やアジア人
帰納的に物事を考えるのに対して、西洋人は演繹的な思考をする文化で育っ
ているそうです。そのため、IFRSは日本人にとって、思考的に受け入れにくい
ものなのかもしれません。よりIFRSを深く理解し、使いこなすには、「演繹」
的な思考を鍛えるのがいいのではないかと思います。

なぜこのような話をするかというと、最近「哲学」にまつわる書籍や雑誌の特
集を、本屋でよく見かけるようになりました。哲学とは、デジタル大辞泉(出
典:小学館)によれば、「-世界・人生などの根本原理を追求する学問」とあ
り、平たく言えば、『なぜ』と問い続けながら、物事の本質をとらえようとす
ることだと言えます。そのために、様々な思考スキルが必要となります。また
人に説明するには、論理的な思考が要求されます。

論理的な思考力は、人を説得したり、批判をするためのビジネススキルとして、
今までも着目されていました。ここに来て見直されているのは、なぜ?、と
「問い」かけることの重要性です。企業活動は問題や課題の解決の繰り返しで
すが、問題や課題がはっきりしていれば対策も打てますが、最近は問題や課題
そのものが何かを見つけるのが難しくなってきています。

現代においては、人々の価値観を始め、様々なものが多様化しています。また
それぞれが複雑に関連している時代です。これらを形容する言葉として、VUCA
(ブーカ)が言われています。これは、Volatility(変動性)、Uncertainty
(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの英単語の
頭文字から取った言葉であり、まさに今の時代を象徴しています。このような
時代だからこそ、問題解決のスキルとして、また古代ギリシャ時代以降の、約
2,500年にわたる賢人の叡智として、哲学が改めて見直されているようです。

なお、哲学というと、論理的な思考に傾きがちのように見えますが、古代哲学
者のアリストテレスは、人を説得するには、「ロゴス・パトス・エトス」が重
要だと説いたそうです。ロゴスは論理(=ロジック)ですが、論理だけで人は
動かせず、合わせて情熱(パトス)と倫理(エトス)が必要だと言うことです。
まさに真理であり、コーポレートガバナンスにおいて、経営者に是非持っても
らいたい3要素だと思います。

ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタント
よる業務改善支援、M&A支援、システム導入のコンサルティングの他、財務経理
業務のアウトソースも行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければ
と思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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ヨーロッパで感じたESG

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.097━2019.5.22━

【ビズサプリ通信】

▼ ヨーロッパで感じたESG

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ビズサプリの辻です。

この原稿をを書いている日曜日、爽やかな5月の陽気です。新しい時代の始まり
ということもあり清々しい気持ちにもなります。

令和の始まりを皆さんはどのように過ごされましたか?生前退位ということで
お祝いムードの改元となり、これはこれでとてもよかったように思います。

実は私はGWは10年ぶりの海外でした。改元の瞬間はドイツの電車の中でした。
10連休を利用してのドイツ・フランスの家族旅行を楽しんでいたわけですが、
海外に出ると日本との違いがよく見えます。10年前までは海外に出かけると
たいていは「日本はなんて恵まれているんだろう」「日本ってなんていい国
なんだろう」と思いましたが、今回は訪れたのが欧州の先進国であったことも
あり、「日本は大丈夫か?」と思う事の方が多かったように思います。

いつも不正・不祥事関連の話題が多いのですが、今回は趣向を変えて久々の
海外で感じたことを書いてみます。

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■ 1.子どもにやさしい(社会)

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ドイツ、フランスともに本当に子どもに優しいです。ヨーロッパに駐在した友人
から「ヨーロッパは子育てがしやすい。日本に帰国して子育てがこんなに大変
だったかと思った」と聞いたことありましたが、今回訪れてみて「確かに」と
思いました。

例えば

・電車/メトロ(地下鉄)で駅のホームにベビーカーを見かけると、例え混んだ
電車であっても我先と降りて、ベビーカーを協力して乗せ、自らは次の電車を
待つ。(これを本当に自然にやってのける!)

・赤ちゃんが泣いていると、電車内でも観光地でも誰もいやな顔をせず、横に
いる大人達も含めて一生懸命あやす。だから母親も赤ちゃんをリラックスした
気分であやしていて、なんとなく回りがふんわりした雰囲気になっている。

・うちの娘が道路を渡っていると地元のおじ様たちが手を広げて車を止めて
おいてくれる。(「気を付けてね!」といった笑顔で)

・空港保安官もお店の方も必ず娘に話しかけてくれる。「どこから来たの?」
「楽しんでる?」「これ美味しいよね?」「本当にこれだけでいい?」
実ににっこり色々聞いてくれる。そして100%おまけをくれる。

日本では、保育園の外遊び時間が制限されたり、ベビーカーを電車に乗せる
べきかどうか論争になったり、子どもが泣くといやな顔をされるから慌てて
赤ちゃんにスマホを見せて黙らせることの是非が問題になったりと
子育てする側もなんとなく「配慮」が必要な場面が多くあります。
そして私もそれが当然だと思っていたところがありました。

ただ、ヨーロッパではこの「配慮」をする必要があまりなく、ごく自然に
子ども達を見守り、社会で育てているという感覚があるように思いました。
「日本は子育てをしづらい子育て後進国」と確信しました。
そして、それは制度や仕組みではなく、われわれの行動によって「子育て
後進国」となっているということです。

これは組織風土と一緒で長年培われてきたものですのですぐに変えることは
難しいのですが、少なくとも認識をしておくべきかと思いました。

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■ 2.プラスチックごみ問題(環境)

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ドイツ、フランスとも買い物をしてもいわゆる「レジ袋」は出てきません。
大きなスーパーでも、小さなKIOSKでも、パン屋さんでも同じです。また、
結構おしゃれなCAFEでもストローは出てきません。細長いおしゃれなグラス
ですが、ストローはなしです。

また、ペットボトルや瓶などがゴミにならないように大きなスーパーとかの
機械に入れるとすぐ金券が出てきます。その金額が結構大きいのです。2ユーロの
お水をペットボトルで買うと、そのボトルから0.25~0.5ユーロが戻ってきます。
この金額はボトルに書いてあります。なのでゴミ箱に入れる人はいません。

ゴミ削減に役立っているかは別にして、多少客側に不便や手間があっても
「こういうもの」としてしまう強さがあるような気がしました。

これが日本人では「おもてなし精神が足りない対応」と映るのかもしれません。
実際にガイドブックには「日本とは異なって店員さんは無愛想です。」と
記載されていました。パリのデパートで「お渡し用」の追加の袋をオーダー
している日本人に対して、店員の方があっけなく「No」と言っている
場面も目撃しました。

「おもてなし精神」でなく環境という観点から考えてみるとどうでしょうか。

そうすると日本における環境施策の浸透度合いの遅さ、不徹底を感じます。

例えばレジ袋が有料になっているところもありますが「1枚2円」といった
感じなので、「まあ、いっか」となりますよね。私自身もコンビニに行くのに
マイバックを持っていく習慣はまったくありません。
これを例えば、1枚100円とかにすれば流石にマイバックも定着しそうです。

これから数か月経つと、もはや35度を超えることが当然となってきた酷暑が
やってきます。また、ゲリラ豪雨等数十年や数百年に1回というような豪雨に
よる災害も近年は相次いでいます。地球環境について自分たちは鈍感である
という認識を持つべきかもしれません。
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■ 3.女性活躍の現場(ガバナンス)

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最初の訪れたドイツのデュッセルドルフは、何かの選挙期間中だったようで、
候補者の写真が貼られていましたが、そのほとんどが女性。ドイツの女性活躍の
度合は、例えば国会議員に占める女性比率でいうと世界44位の31.6%、女性の
管理職比率は世界70位とトップクラスというわけではないものの、それでも
候補者に女性が多くいました。

一方の日本では、上記の比率は世界でもビリから数えた方が早いということは
なんとなく想像がつくと思いますが、国会議員に占める女性比率は世界140位
管理職比率は104位と先進国の中では最下位クラスです。
(順位と割合はGlobalNoteのHPから抜粋)

管理職の割合が少ない理由として「管理職になる層の女性の採用数が少ない」
という過去から引きずっている問題もあると思うのですが、「男女雇用機会
均等法」ができたのが1985年であることを考えると、さすがに時間がかかり
すぎな気もします。

また、先日行われた統一地方選で、結構話題にもなったのでご存じの方も多いと
思いますが、東京23区の当選した区長の平均年齢は66.9歳。もっとも多いのは
70代で39%(中央値が70)女性は23区中1人という状況のようです。
(認定NPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹さんのブログより)

女性活躍後進国であることは確実です。そして、女性が活躍できないような
職場環境はきっと男性にとっても望ましい職場環境とは言えないように思います。


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■ 4.グローバルな「枠組み」の重要性

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ここまで久しぶりに海外に行って感じたことをつらつらを書きましたが、奇し
くも気づいたことがESGの要素に合致しました。

ESGとは、「環境」「社会」「ガバナンス」のことで、もともと投資家が企業に
投資をする際に業績等の財務的な要素だけでなく、ESGの観点といった非財務
的な要素にも着目し、投資家としても社会的な責任を果たすべきという考え方
です。元々は投資家に対して向けられた言葉でしたが、それに対応した経営
ということでESG経営といった言葉も聞かれるようになりました。

このESG投資、日本では2015年に世界最大の公的年金基金であるGPIF(年金
積立金管理運用独立行政法人)がESG投資を推進する「UNPRI(国際責任投資
原則」へ署名したことをきっかけに日本の多くの期間投資家がそれまでの財務
情報中心型であった投資からの転換を模索しています。ただ、まだ世界全体
からいうとかなり遅れており、全投資額に対する責任投資に対する割合は、
EUが52.6%、米国が21.6%に対して日本は3.4%とまだまだこれからといった
ところのようです。(Global Sustainable Investments 2014~2016)

また、このESGを具体的な目標という形に落としたSDGsという考え方があります。
SDGsは、Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標のことで、
2030年の地球がありたい姿の優先順位とありたい姿を17の目標と169の
ターゲットで示したもので、2015年に国連で採択されました。いわば地球
をありたい姿にするための世界共通の目標ということになります。

SDGsは、カラフルなツールと分かりやすいコンセプトで共に急速に世界に
浸透しています。日本においても外務省が吉本興業やキティーちゃんを使って
SDGsを啓発する動画をUPしたり、SDGsの取組を積極的に行っている団体を
表彰したり政府も急速に普及を図ろうとしています。

このように、持続可能な世界のためのグローバル共通の「枠組み」が次々
発表されており、多くの国の企業がこれにいち早く反応し自社の取組に
活かすべく試行錯誤をしています。

日本企業には「三方よし」といったESGに近い考え方は古くからあります。
そして、日本はその取り組みを日本独自の言葉で、またはあうんの呼吸
で「日本人らしさ」「自社らしさ」を追求していく文化です。
このためグローバルスタンダードである「枠組み」に対しての反応が遅い
ように思います。国際財務報告基準であるIFRSの導入もなかなか一気には
進んでおらず、今でも「日本基準」を採用している会社が大多数です。

ただ、今後は働く人の人種の働く場所も多様化/グローバル化していく時代です。
多様な国籍・文化・価値観が混ざり合う「混成文化の時代」がやってきます。
(「SDGsの基礎」 事業構想大学院 出版部)
このような時代においては「らしさ」を大切にしつつ、グローバル共通の
枠組みに合わせて、自社の活動を説明していく必要性を認識し、
「やっている」だけでなく、「やっていることをいかに説明し、理解して
もらうか」ということまで考えていく必要があります。

法定の開示資料である有価証券報告書もいわゆる非財務情報を重視する
方向となっています。もうすぐ3月決算の有価証券報告書の開示が行われます。
非財務情報にも注目してみるのも面白いかと思います。


本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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経過勘定を知っていますか?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.096━2019.5.10━

【ビズサプリ通信】

▼ 経過勘定を知っていますか?

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ビズサプリの泉です。

GWも終わり、新人のみならず5月病になっている方も多いのかと思います。
私自身は監査法人勤務時代から4月から6月までは繁忙期となっていて、あまり
ゆっくりした記憶はなかったのですが、今回の10連休では、たまたま仕事の
都合がつき期間の半分ほど休むことができました。

経理のサポート業務をしている3月決算の会社では、株主総会、有価証券報告
書作成とまだまだ残っており、それが終わるとすぐに第一四半期かと思うと
なかなかすっきりはしない気分です。

今回は経理部門内であまり興味をもたれづらい経過勘定をとりあげたいと思い
ます。

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■ 1.経過勘定とは

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経過勘定とは、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、また
提供を行う場合に適正な期間損益計算の観点より、実際の現金の収支時期と
損益計上の時期が異なるために計上される勘定です。

経過勘定は企業会計原則注解5において、前払費用、前受収益、未払費用、
未収収益の4つ定義されています。
前払費用(資産):いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価
前受収益(負債):いまだ提供していない役務に対し支払を受けた対価
未払費用(負債):既に提供された役務に対していまだその対価の支払が
終らないもの
未収収益(資産):既に提供した役務に対していまだその対価の支払を受け
ていないもの

似たような科目としては、未収金、未払金、前受金などがありますが、これら
は厳密にいうと一定の契約に従い継続して役務の提供を受ける場合以外の例え
ば、物品の売買などの取引に利用されます。
とはいえ、実際の実務において、未払金と未払費用など厳密に区別せずに使用
することも多くあり、会社によっては確定債務は未払金、それ以外は未払費用
として使用している会社もあります。


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■ 2.決算整理仕訳について

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決算整理仕訳とは、年度決算の前に月次決算では実施していなかった仕訳を
計上することであり、簿記の本などによれば主な仕訳は次の通りです
・売上原価の確定(期首在庫と期末在庫の振替)
・見越し計上や、繰延計上(経過勘定)
減価償却費の計上
・有価証券の評価、外貨建資産負債の換算

そのため、簿記の勉強だけをしていると、経過勘定の仕訳は年度末の決算整理
仕訳でのみ行うと考えがちです。実際、非上場企業で税務基準、現金主義で記
帳している会社では、月次決算を行っていないこともあり、年1回の決算整理
仕訳で上記のような仕訳を行うことはよくありますし、一部の中小企業向けの
会計システムでは固定資産の減価償却費を月次で計上することができず、年度
に一括計上するしかないものがあります。

上場会社では、月次決算を行っており上記のような経過勘定の仕訳や減価償却
費も月次で計上しているため、年度決算といっても、ほぼ月次決算に加えて、
減損や退職給付債務の計算などの本当に一部の仕訳だけをすることとなります。
そのため、会計システムにおける伝票区分においても、あえて「決算整理仕
訳」として区分せず、「通常仕訳」のみを利用している会社も多くあり、結果
として、「決算整理仕訳って何だっけ」と思っている経理部員も多いのでは
ないでしょうか。

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■ 3.経過勘定をどこまで細かく処理すべきでしょうか?

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2で述べた通り、上場企業では月次決算で経過勘定の処理をすることになり、
また上場企業は会社の規模が大きいため、対象となる取引も多くなるため、結
果として、管理すべき経過勘定の量が膨大になりがちです。

私自身が以前事業会社で経理に携わっていた時、1円以上の前払費用はすべて
月按分するという方針であったため、当初はExcel管理だったものが、Access
管理と変更になり、最後は前払費用だけで数万個となり結果として、情報シス
テム部門にスクラッチで管理システムを作ってもらうことになりました。
当然、作業する人員工数も必要ですし、処理を誤るリスクもあるため修正やダ
ブルチェックのための工数、例えば、費用配賦部門が組織変更でなくなったり
変わった場合の費用負担部門の調整などかなりの追加工数がかかるというデメ
リットがありました。

決算の目的の1つはもちろん適切な期間損益の計算であるものの、経営の意思
決定のための羅針盤となる目的もあり、その目的に沿って考えた場合に1円単位
で経過勘定を細かく処理する必要はあるのでしょうか。

実は会計基準では、企業会計原則において重要性の原則というものがあり、経
過勘定についても明記されています。(企業会計原則 注解1)
企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきもので
あるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業
の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要
性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法
によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。
(中略)
(2) 前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しい
ものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。

税務上も、この重要性の原則を踏まえ、一定の要件を満たす前払費用は支払時点
で一括で損金計上することが認められています。(短期前払費用の特例)

個人的には同じ期間損益計算を目的とする固定資産の減価償却でさえ、一般的
には20万円未満は一括費用処理していることを考えると、少なくとも経過勘定
についても20万円未満について経過勘定とする必要はないのではないかと考え
ます。
昨今、経理部門の負担の重さ、忙しさをよく聞きますが、経過勘定のような細
かいことからこつこつと効率化することにより、意外と業務は減るのではない
でしょうか。

ビズサプリグループでは、経理業務の改善などのコンサルティング業務も行って
おりますので、何かお役に立てることがありましたらご相談ください。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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日産自動車の有価証券報告書虚偽記載はどうなったのか

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.095━2019.4.17 ━
【ビズサプリ通信】
日産自動車有価証券報告書虚偽記載はどうなったのか
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ビズサプリの久保です。関東のお花見シーズンはそろそろ終わりで、東北、北海道では見ごろを迎えつつあります。今年は寒さのためか、桜の花が長持ちしたように思います。さて、最近、日産自動車有価証券報告書虚偽記載の話をあまり聞かなくなりましたので、どうなっているのか、少し検討してみました。
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■ 1.虚偽記載の経緯と内容
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ゴーン元会長は、2018年11月19日と2018年12月10日の2回、有価証券報告書の虚偽記載の容疑で逮捕され、その後2度起訴されています。今年に入って、本丸と言われた会社法違反(特別背任)容疑で拘留中に再逮捕され、保釈後、同じ会社法違反(特別背任)容疑で4度目の逮捕が行われました。日産自動車事件は、有価証券報告書における役員報酬の過少記載から始まりましたが、ゴーン元会長が、自身や第三者の利益を図って日産に損害を与えたとする特別背任罪を追及する事件に発展しています。最近、この虚偽記載に関しては報道されなくなり、あれは別件逮捕だったということで済まされそうな感があります。ここで日産自動車有価証券報告書の虚偽記載について、振り返って検討してみたいと思います。有価証券報告書における役員報酬の過少記載は次のとおり、8年間で約91億円とされています。(1) 2011年3月期から2015年3月期(5事業年度)で約48億円の過少記載(2) 2016年3月期から2018年3月期(3事業年度)で約43億円の過少記載日産自動車の発表によると、内部通報を受けたことから、最初の逮捕前の数か月間にわたりゴーン元会長とケリー元取締役を巡る不正行為について内部調査を行ったとしています。報道によれば、日産自動車は司法取引を行って検察の捜査に協力したとされています。司法取引により、この不正に関与した役員や社員の逮捕が免れたと考えられます。この司法取引は、虚偽記載だけでなく特別背任の両方に関わるものと考えらえます。
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■ 2.証券取引等監視委員会の告発内容
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有価証券報告書の虚偽記載については、検察当局による起訴のタイミングで証券取引等監視委員会東京地方検察庁に告発しています。まず、その内容を見てみましょう。「犯則嫌疑法人日産自動車株式会社は・・・」から始まる非常に硬い文章です。そこには犯則嫌疑者Aと犯則嫌疑者Bが出てきますが、Aはゴーン元会長、Bはケリー元取締役です。その内容を要約すると、日産自動車と主要な連結子会社からのゴーン元会長への報酬等について、有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」の中の「役員ごとの連結報酬等の総額等」における「総報酬」と「金銭報酬」が、過少に記載されていた、と書かれています。日産自動車役員報酬は、金銭報酬と株価連動型インセンティブ受益権(SAR)で構成されますが、この告発文では、そのうちの金銭報酬が過少記載されていたとされています。一部の報道では、SARの方が過少記載であったとしていましたが、そうではなかったということになります。この告発文では、過少記載額が年度毎に記載されていますが、合計額では前述の(1)と(2)と同額になります。この告発文で大事な点は、つぎの2つです。・役員報酬が過少記載されていたのは「金銭報酬」だけであること・有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」の虚偽記載について  の告発であり、財務諸表の虚偽記載は告発していないこと財務諸表の虚偽記載でないということは、この告発はいわゆる粉飾決算を追及するものではないということになります。
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■ 3.日産自動車による過年度訂正処理
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日産自動車は、ゴーン元会長らの逮捕後の2018年12月までの第3四半期報告書において、同氏に対する約92億円の役員報酬を一括計上しました。この金額には起訴の対象にならかなった2010年3月期の役員報酬が含まれており、また、証券取引等監視委員会による各事業年度毎の金額とも少し違います。日産自動車が精査した結果がこれだったということになります。これまで報道されていませんが、この会計処理で大事なことが分かります。第3四半期で92億円を一括計上したということは、次の2つのことを意味しているということです。・役員報酬の過少記載額は財務諸表にも計上されていなかった・有価証券報告書の過年度訂正は行わない有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」の役員報酬が過少記載されていたとしても、財務諸表には正しく計上されていた可能性がありました。これは報道や証券取引等監視委員会の告発からは明らかではなかったのですが、日産自動車が上記の会計処理をしたということで、財務諸表にも計上されていなかったということが分かります。次に、第3四半期に過年度分を含め一括計上したということは、過年度の財務諸表は訂正しないということになります。これは、過年度訂正をするほど金額が大きくないから、というのが理由と考えてよいと思います。
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■ 4.重要な事項の虚偽記載
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有価証券報告書の虚偽記載は、金融商品取引法(金商法)違反になります。金商法には、虚偽記載に対する刑事罰が規定されています。しかし、刑事罰は対象者の権利に対する最も強力な制限となりますので、可能な限り限定的に用いられるべきとされています。これを刑罰の謙抑性と言うそうです。このため、刑事罰が科される場合を限定しなければなりません。金商法では、開示書類の記載内容について、原則として「重要な事項の虚偽記載」がある場合に限定し、過失による場合は処罰されません。刑事罰が科される場合には次にようになります。・有価証券報告書を「提出した者」は、10 年以下の懲役若しくは1,000万円  以下の罰金又はこれらが併科・両罰規定に該当する場合、法人に対しても7 億円以下の罰金ゴーン元会長らが、この金商法に定める刑罰の最高レベルが科される場合には、個人は10年間の懲役と1,000万円の罰金、日産自動車は7 億円の罰金ということになります。東芝事件では、過年度の有価証券報告書の訂正が行われ、6年9か月の間で累計1,518億円の税引前利益が過大に計上されていたことが分かりました。過去3人の社長などがこの不正会計に関わっていましたが、検察当局はこれらの社長を逮捕するには至りませんでした。日産自動車の場合、東芝のような財務諸表の虚偽記載ではなく、有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」における役員報酬の虚偽記載によって、逮捕・起訴されました。検察当局や証券取引等監視委員会は、この役員報酬の記載を「重要な事項の虚偽記載」と判断したということになります。財務諸表の過年度訂正が必要ないほどの金額であっても、役員報酬の開示は「重要な事項」であると判断されたということになります。
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■ 5.課徴金は課されるのか
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金商法では、金融庁の裁量で課徴金を課す制度があります。課徴金制度は行政処分の一つで、刑事罰を科すまでには至らない事件について、罰金で対応するという趣旨で導入された制度です。課徴金は行政当局(この場合は金融庁)の裁量で課されます。課徴金は会社に課され、役員等に課されるものではありません。オリンパスの事件では、経営者が逮捕されて刑事罰を受けており、会社には課徴金が課されています。有価証券報告書の虚偽記載によって、課徴金が課される事件は毎年5件から10件程度ありますが、経営者に刑事罰が科されるケースは稀にしかありません。日産自動車は、刑事罰の可能性があるということですから、課徴金を免れることができないと考えてもよいかもしれません。しかし、日産自動車は、第3四半期報告書において課徴金の見積もり計上を行っていないようです。課徴金が課される場合には、まず証券取引等監視委員会内閣総理大臣金融庁長官に対して「課徴金納付命令の勧告」を行い、その後金融庁で審判手続が行われたのち、金融庁から「納付命令」が出ます。東芝の場合は、2015年12月25日に課徴金の納付命令が出ましたが、東芝は課徴金が課されることを予想し、2015年3月期に見積計上しています。日産自動車に対しては、証券取引等監視委員会から「課徴金納付命令の勧告」は今のところ出ていません。これまでのケースでは、過年度の有価証券報告書等の訂正と課徴金がセットになっていました。日産自動車の場合には、財務諸表の過年度訂正は行われないことは確実ですので、結果として、有価証券報告書の過年度訂正は行われません。仮に、「コーポレート・ガバナンスの状況」における役員報酬だけを訂正すると、財務諸表との整合性が取れなくなってしまいます。日産自動車有価証券報告書虚偽記載事件は、「重要な事項の虚偽記載」であるにも関わらず、課徴金が課されないということでしょうか。金融庁の動向を見守りたいと思います。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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ダブルチェックを機能させるには

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.094━2019.4.3 ━

【ビズサプリ通信】

▼ ダブルチェックを機能させるには

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ビズサプリの三木です。

3月6日配信の辻さんのメールマガジンでは不正のトライアングルを取り上げ
ました。
機会を減らすだけでなく、自尊心に訴えかけ、簡単に正当化に至らないような
ココロを育てることも大事ということでした。

今回のメルマガでは、その辺りも踏まえて、形骸化しがちといわれる内部統制
の構築の仕方を考えてみます。

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■ 1.うっかりミスによる甚大被害

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不正防止だけでなく、ミスを防止・発見するのも内部統制の大切な役割です。
ミスは隠蔽を伴わないため不正に比べると見つけやすいといわれます。それ
でもミスにより甚大な被害が発生することも少なくありません。

2005年12月に、みずほ証券のある担当者が、ジェイコム株を「61万円で1株の
売り」とするところを、「1円で61万株の売り」と誤発注する事件が起きました。
売り浴びせとなったジェイコム株はストップ安、その後に反転してストップ高
と乱高下し、みずほ証券には約400億円の損失が発生しました。
みずほ証券の売買システムでは、実勢値と大幅に乖離した発注内容には警告
画面が表示される仕組みでした。この事件の時も警告画面は出ていたのですが、
読み飛ばされてしまい、誤発注防止はできませんでした。

この事件では多額といえど民間の1企業の被害でした。一方で、ヒヤリハット
を含めればもっと危険な事例もあります。

1961年1月、核爆弾を積んでいた米軍のB-52G爆撃機が空中分解する事故が発生
しました。もちろん核爆弾には何重もの安全装置がかけられており、飛行機が
墜落しても爆発しない・・・・はずでした。
ところが墜落するB-52G爆撃機から脱落した核爆弾は、事故の衝撃で4つの安全
装置のうち3つまでが解除されてしまい、間一髪、パラシュートが開いて墜落の
衝撃を和らげたことで爆発を免れました(※)。もし爆発していたら大変な事態
になるところでした。

(※)
どこまで危険な状態だったのかは現在でも論争があり、軍事機密もあって詳細
までは不明です。

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■ 2.多重防護のワナ

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ちょっとしたミスが多数の人命に関わるような分野では、ミスが起きないよう、
複数の対策が講じられます。例えば毎日のように乗る通勤電車でも、安全に出発
できるかホーム各所の駅員がチェックして旗を揚げ、車掌もカメラ映像で安全を
確認し、運転士は車掌からの合図や信号を指さし発声確認してから出発していま
す。人間によるチェックだけでなく、ドアにモノが挟まっていると発車できない
ような仕掛けもあります。
より危険なものを扱う軍事や原子力の世界では、さらに厳重に安全装置を何重
にも取り付け、人間工学的にミスが起きにくいスイッチ配置にし、複数人による
チェックも組み込んで、ミスや自然災害により事故が起きないようにしています。

つまり、1つの安全装置が機能しなくても他の安全装置で事故を防ごうとする
考え方です。程度の問題はあれど内部統制でよく行われるダブルチェックと
発想は変わりません。1つの安全装置が機能しない確率が1000分の1であっても、
4つの安全装置があれば確率論では事故が起きる確率は1兆分の1となり、相当
の安全を確保できるはずです。

ところが、例えば原子力発電の分野を見てみると、スリーマイル島、チェルノ
ブイリ、福島第一原発と事故は起き続けています。いくつもの防護やチェックを
行っているはずなのにおかしなことです。

実はチェルノブイリの事故は原子炉の実験中に起きました。実験に不都合なため
一部の安全装置を停止してしまっていたのです。福島第一原発では、想定される
津波の高さの過小評価により電源を喪失し、多重のはずだった安全装置がいっぺん
に機能を失ってしまいました。

いくつものチェックをかけていたり、何重にも安全装置をかけている場合、どう
しても「この安全装置を外しても別の安全装置が機能するだろう」「これだけ
防護しているなら事故は起き得ない」という心理に陥りがちです。確かにその
通りなのですが、絶対に事故を起こしてはならないから何重にもチェックする
のであって、その一つ一つで手抜きをしたり、停止してしまっては本来の機能を
発揮しません。

ダブルチェックについても同様で、どうせ別の人がチェックすると思って手を
抜いてしまうと、1名で実施していた時より品質が劣化します。せっかくの
ダブルチェックが手を抜くための正当化に使われては、責任を曖昧にするだけ
で、ただのコスト要因にしかなりません。

何重もの安全装置や、ダブルチェック、トリプルチェックは、それぞれの安全
装置やチェックが独立にきちんと機能して初めて成立するものです。それが
かえってサボるための正当化を招いてしまっては逆効果です。ここにダブル
チェックのワナがあります。

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■ 3.チェッカーがその気になる環境を

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何でもかんでもダブルチェックする内部統制はあまり良い方法とは言えません。
確かに不正の機会は減らせますが、経営上はコスト増になります。

しかしながら、ミスができない安全分野や重要契約については、コストをかけて
でもミスを防ぐ必要があります。もしチェック者が「どうせほかの人がチェック
しているのだから自分のチェックは無駄」「チェックしたふりをして書類だけ
整えたほうが会社のためだ」と感じ、手を抜いてしまったら、前述したワナに
はまっていることになります。

チェックという行為には「非生産的」「コスト」というイメージがついて回り
がちです。こうした空気そのままでダブルチェック、トリプルチェックを増や
していっても、本当に無駄な作業になってしまいます。本当にミスを起こした
くないのであれば、チェック者には「この作業は安全のための最後の砦だ」
「この作業で会社を守るんだ」といった意識をもって、それぞれチェックを
してもらわなければいけません。

そのためには、例えばチェック作業に対して社内での評価をきちんとする、
無事故・ノーミス等の成果につながった時はチェック者も表彰するなど、社内
でのRecognition、本人のモチベーションを高め、誇りをもってダブルチェック
や安全装置のメンテナンスに当たってもらう環境にすることが必要です。環境
も含めて統制が効いているか考え、必要な統制であれば環境から変えることも
必要ですし、そこまでする意味がないのであれば簡素化も検討すべきです。
どういう意識で統制を行っているのか社内の意識調査などを行うのも1つの方法
でしょう。

J-SOXも制度導入から10年超となり、形骸化に悩む会社もあると思います。
本当に内部統制を機能させたいなら、それを支える環境にも目を向けていただ
きたいと思います。

ビズサプリでは匿名性を確保した社内の意識調査なども行っています。お気軽
にお問い合わせください。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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