株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

のれん費用化の国際的な会計処理が見直される?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.082━ 2018.10.03━━

【ビズサプリ通信】

▼ のれん費用化の国際的な会計処理が見直される?

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こんにちは。ビズサプリの花房です。今年は台風が多く、先週末も台風24号
でものすごい強風ではありましたが、事前対策がしっかりされたことや休日
でもあり、それほど大きな被害が出ずホッとしています。ただ今週末には台風
25号の進路が24号と似通っているようで、日本に上陸する可能性もありそう
なので、引き続き注意が必要ですね。1ヶ月前の台風21号は西日本を中心に
甚大な被害をもたらしており、改めて自然の怖さを思い直すとともに、台風
により被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

さて、先日日経新聞のニュースで、「国際会計基準IFRS)を策定する国際
会計基準審議会(IASB)が、企業買収を巡る会計処理の見直しに着手した
ことが明らかになった。」との記事がありました。(今後)「費用計上義務
付けの議論を始め、2021年にも結論を出す。」とのことで、今までは減損
一辺倒であったIFRSにおける、のれんの会計処理が、規則償却を基本とする
日本基準に近づく可能性が出てきました。

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■ 1.見直しの背景

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のれんの償却について見直しの議論が深まった背景としては、最近の大型
M&Aの増加に伴い、B/Sでののれん残高が積み上がって来ている、ということ
は、大きな理由の1つだと思います。同記事には、欧州の主要600社ののれん
残高は240兆円、アメリカは主要500社で340兆円ののれんが積み上がっている
ようで、対して日本においては、国内IFRS導入企業(約160社)で約14兆円、
とのことです。

日本の企業でもIFRS導入企業の方がのれんは積みあがる傾向にあり、TOP3
として、ソフトバンクで4.3兆円、JTは1.9兆円、武田薬品工業1兆円の順と
なっています(武田については、今後シャイアーの買収が成功すれば、3兆円
規模ののれんが加わると言われています)。

M&Aが盛んな企業において、特に大型買収案件を数多く成功させている会社は、
場合によってはのれんが自己資本と同等かそれを超える場合もあり、仮に減損
によってのれんが一気にゼロになってしまうようなことがあれば、債務超過
なってしまいかねません。日本における最近の話題ですと、ビズサプリのメル
マガでも何回か取り上げましたが、東芝がウエスチングハウスの不正を発端と
する多額の減損で、一時債務超過に陥り、上場廃止になるかどうかの攻防が
ありました(結果的に債務超過は解消され、上場も維持されています)。

のれんの費用化を減損だけに依拠すると、投資先が順調な時は基本的に問題に
なりませんが、いざ経営が傾くと、巨額の減損リスクを負うハメになるという
意味では、一種の「爆弾」を抱えていると言っても言い過ぎではないと思いま
す。のれんが積み上がっている状況は、ある意味爆弾をたくさん抱えることに
なるので、のれんの会計処理ルールを「減損」から「償却」ベースに変える
ことで、のれんの一方的な増加を抑え、企業のバランスシートを健全に維持
して行くことに繋がります。

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■ 2.償却することの理論的根拠

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そもそも「のれん」というのは、会計理論上は「超過収益力」を意味します。
それは、ブランドであったり、同業他社より優れた経営効率・技術力・成長性
等を持つことによる、超過収益力への対価として、プレミアムとして支払われ
るものです。理屈上は、のれんの効果が続く期間、想定される収益を生み出し
た場合、のれんの支払を差引いて初めてペイするため、より大きな収益を挙げ
れば、あるいは想定よりも長期にわたってのれんが継続すれば、買収は成功し
たと言えますし、ブランド価値がそこまでないとか、キーマンが辞職したりで
想定より収益を挙げられないと、プレミアムがそのまま払い損となってしまい
ます。

そして会計処理上難しいのは、「のれん」がソフトウェア、その他の無形資産
同様、『見えない価値』であることです。つまり、のれんが生み出す収益をど
のように測定するかの問題でもあり、当初は、のれんと関連する収益が明確で
あっても、時間の経過とともに事業再編や組織再編があると、当初ののれんから
生み出した収益を明確に分離して測定することが難しくなります。また変わら
ず同じように収益を生み続けているとしても、それが当初の「のれん」の効
果によるものなのか、それ以後の企業努力(生産性の向上、研究開発や広告
宣伝等)によって新たに生じた「のれん」(自己創設のれんと言います)に
よるものかが、不明瞭になっていきます。

会計上は自己創設のれんの計上は認めらておらず、買収や事業の譲受等で他社
から購入した場合のみ、資産計上が認められています。他社から購入したのれ
んが何の努力もなしに維持されるとは通常考えられず、徐々に減っていくこと
を前提にした会計処理が「償却」であり、将来キャッシュ・フローが落ち込ま
ない限りはのれんは減耗せず維持されるが、将来キャッシュ・フローが一定
程度減少した場合にのれんの毀損が生じたと考えるのが「減損」の会計処理
の前提です。

日本基準での「償却」はのれんの継続についてコンサバティブな前提を置き、
IFRSはアグレッシブな前提に基づいているとも言えると思います。


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■ 3.会計基準は政治的な駆け引きの賜物である

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IASBがのれんの費用化の会計処理について変更する検討を始めたというのは、
何も理論的に今までが間違っていたので理論的に正しい方法に改める、という
のではなく、従来の方法だと、投資家等をはじめ、経済活動への影響として
不具合が出てきたということではないかと思います。すなわち、減損はある日
突然やってくるため、従来の業績の延長線上にない多額の損失が計上されると、
将来の業績見通しがやりにくくなり、投資家も企業価値の将来予想の判断に
困ってしまいます。

のれんを規則償却する処理は、保守的である以上に、のれんの費用化が各期に
与えるインパクトを平準化することが出来るので、企業価値を予測しやすい点
で、投資家にとっても好ましい会計処理だと思われて来ているのかもしれません。
またのれんの取得から期間が経過するほど、将来キャッシュ・フローによる
のれんの減損判定が、技術的に困難になっていく、という話も聞こえて来ます。

世の中の活動は、基本的に法律を含む、ルールの上で成り立っています。そして
ルールの変更により、当初有利だった立場の人や組織が不利になったり、その逆
もあります。また最初にルールを作った人が一番恩恵を受けたり、ルールを変え
ることで、立場を逆転させてしまえることもあります。その意味で、ルールを
作ったり変えられる立場の組織は非常に強い立場にあります。
会計基準のような、理論的にどうあるべきか、ということで決まっているよう
に見えるルールでも、唯一絶対のものはなく、時代、場所によって正しいとさ
れる内容は、変わります。世の中のインフラとなる重要なルールですから、誰か
が勝手に決めれるものではないですが、新しいルールの導入、ルールの変更の際
には、会計基準設定主体(IFRSではIASB、日本基準ではASBJ)が中心となって
議論しますが、ある程度詰まってきたら、論点整理(DP)、そして公開草案
(ED)のような形で公表し、世間の意見を聞いた上で、合意形成をしていきます。

そこで、国内ルールであれば、業界団体や、業界を代表するような企業が、
自分たちにとって有利な方向になるよう働きかけるのは当然のことですし、
国際ルールであれば各国間、あるいはヨーロッパ(IFRS)と米国(US GAAP
と言った対立軸で、政治的な綱引きが行われることになります。これは、
ルールメーカー、あるいはルールチェンジャーが最も有利に事を進めること
が出来ることが分かっているからだと言えます。

今回、IASBでのれん費用化の見直しが議論され始めるのは、それが日本に
とって有利ということで日本から働きかけたわけではないと思います。
どちらかというと、M&Aに積極的な欧米企業、あるいは業界が、業績に与え
るマイナス方向のインパクトを緩和するため、減損のみに頼り、規則償却を
避けてきた印象があります。それが世の中的に行き過ぎて来たので、少し
ルールを揺り戻そうという流れではないでしょうか。

日本企業でIFRSを導入した企業、あるいは今後導入を検討する企業の多く
にとって、のれんを非償却に出来る、というのも導入の大きな理由の1つ
だったと思います。もちろんそれだけが理由ではないので、仮にIFRSでも
のれんの規則償却が導入されてもIFRS適用を辞めたり、導入の流れが止ま
ることはないと思いますが、業績に与えるインパクトが比較的大きいと
考えられますので、今後どのように議論が進んで行くのか、注意していき
たいところです。

ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタント
により、IFRSの導入支援、企業内ルールの作成支援コンサルティング
行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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東京医科大学の問題から女性活躍のホンネについて

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.081━2018.09.12━

【ビズサプリ通信】

▼ 東京医科大学点数操作と女性活躍のホンネ

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こんにちは。ビズサプリの辻です。

今年の夏は本当に暑かったですね。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、何と
か乗り切ったということに安堵してしまっています。「〇年に1回の猛暑」
ゲリラ豪雨や線状降水帯による豪雨も含めて、「異常」と片付けるのでは
なく、これが毎年起こることを前提に備えておかないといけないのかもしれ
ないですね。

さて、今日は女性の受験者に不利になるような得点調整を行っていたという
東京医科大学の問題から女性活躍のホンネについて考えていきたいと思います。
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■ 1.点数操作と女性活躍のホンネ

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「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる」(学校法人
東京医科大学内部調査委員会の調査報告書)などということで、女性の受験者
に対して不利となるような得点の調整を行っていた東京医科大学の不正入試問題。
この報道を聞いた時、みなさんはどのように感じられたでしょうか。

上記の調査報告書では、「女性の受験生をただ女性だからという理由だけで
差別してきたことに関しては、社会が女性の活躍を促進するべく様々な方策を
施していることに真っ向から反抗するものであって、断じて許されるべきでは
ない。」とばっさりと言い切っています。また様々な報道をみても「女性がや
めなくて済むような勤務形態とか働き方とかを真剣に考える方が先で、それで
入試の点数を操作するなんて許されるべきではない。」という論調が大半だった
かと思います。

確かにおっしゃる通り。私自身も一女性としてこのような調整が入試で行われ
るということは本当に腹立たしいと感じます。ただ、東京医科大学をバッシン
グしておしまいにしていいお話ではないように思います。むしろ、バッシング
報道が色々な議論の機会を奪っているようにも思えてきます。

医師向けの人材紹介エムステージが、今回の東京医科大学の対応について女性
医師を中心にアンケートしたところ、肯定的な回答(「理解できる」「ある
程度理解できる」)と回答した医師が65%ということだったとのことでした。
男性医師ではなく女性医師がこのように答えているということは興味深いこと
です。「現状では仕方がないというあきらめの境地」とか、「産休や育児休暇
で抜けた穴をカバーしている未婚の女性医師が複雑な環境を吐露している」
とした分析がされています。産休・育児休暇でお休みをとる人、復帰後の時短
勤務のカバーをしている未婚の方や男性社員が持つ割を食ったような感情は何も
医師に限ったことではなくよくあるお話です。ただ、このようなホンネは口に
出すことはできない空気があります。

一方でお休みや時短勤務をしている側としては子育てで必死です。なかなか
自分の仕事をカバーしてくれている上司、同僚、後輩に感謝や配慮するまでの
余裕がない場合も多いかと思います。いきおい「こんなに頑張っている」と
いった自己主張をしてしまうケースもあるかと思います。

支える人と支えられる人、両者の溝は深まるばかりです。「何か報われてい
ない感じ」や「何か損をしている感じ」といった感情が渦巻いている職場も
結構あるのではないでしょうか。

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■ 2. 日本人はもっとも会社を信用していない?

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性別に関係はないですが、米国のPR会社Edelmanの調査では、世界28カ国中、
日本人は、「世界で、最も自分の働く会社を信用していない国民」という
結果がでたそうです。「自分の会社を信用するか」と言う問いに対して
「信用する」と答えた割合はわずか40%で調査した中で最低で、米国(64%)
、イギリス(57%)、中国(79%)、インド(83%)よりはるかに低く、
ロシア(48%)よりも低いそうです。

その要因の仮説として筆頭で挙げられているのが、「長時間労働」です。
東洋経済オンライン 2016年9月4日号)つまり、女性活躍促進を妨げて
いる長時間労働は、女性の活躍を阻んでいるだけではなく、性別に限らず
働く人のモチベーションを下げ、会社と個人の信頼関係を壊している残念な
結果のようです。

最近は、「働き方改革」で長時間労働を見直す動きも出てきています。
この動きの中で、RPAやAI等のテクノロジも積極的に活用し、生産性を高め
ていくことは有力な解決策の一つです。「必要なのは技術を正しく使うこ
とだ。急速に普及するロボットや人工知能(AI)を企業ごとにふさわしい
やり方で取り入れ、効果を検証しながら改善する。ITの導入で機械ができる
ことと人が担う業務を選別し、テレワークも活用したい。(中略)姿が見え
ないからさぼっているというのは過去の発想だ」(日本経済新聞2018年9月
4日号 サントリーHD新浪氏の記事より)ということです。これまでの仕事に
ついて、「人間がやるか」「人間がやらなくていいのか」といった新たな
目線で整理すればこれまでにない形で長時間労働から解放されるようになる
かもしれません。

また、日本航空も新しいシステムを導入してAIを活用して料金設定を行った
ところ、収益が大幅に改善したという記事もありました。(日本経済新聞
2018年9月3日)。この料金設定は長年の勘と経験でベテランが実施していた
業務ということですから、長年の勘と経験がAIまたはAIとデータベース
という新たな資産となって、会社の収益に貢献したということでしょう。

一方で、「医師はAIの導入に消極的な人が多い。」というお話をあるシス
テム会社の方からお聞きしました。「今やっていることが変わることに対
する抵抗感」があるそうです。確かに仕事のやり方を変えていくということ
は簡単な話ではないかもしれませんが、そうしないと今の人手不足と長時間
労働は解消されません。それは性別に限らず不幸な働き方であることは前述の
アンケートからも明らかです。

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■ 3.「できる」と期待される方が本当にできる


ITといったテクノロジだけでなく、人間同士の信頼関係も女性活躍のためには
必要です。私自身の経験からも、色々な研究からも、女性は自分の能力を過小
評価し、物事に対して保守的に考え「できない」と予防線を張ってしまう事が
多いようです。(逆に男性は、自分の能力を過大評価し、「自分はできる」
というアピールをすることが多いそうです。)
女性に何かチャレンジの機会を与えようとしても、「できない」といった否定
的なレスポンスを受けてしまうと、チャレンジの機会を設けようとした上司側
としては、あまりよい気持ちがしないものです。特に上司側は男性であることが
多いため、そのレスポンスを理解できず、物足りなく思ってしまう気持ちはな
おさらだと思います。
ただ、このようなレスポンスが性差に基づく「癖」みたいなものだと知って
いたら、少し心持ちは変わってくるのではないでしょうか。「男女分け隔て
なく」といいますが、生物学的に色々な違いがあるわけです。その違いを一つ
の個性と考え、そのような違いを知っておくだけでずいぶんコミュニケーション
の仕方も変わってくると思います。

また、「上司の期待に合わせて部下の成績が上下する」といった実証的な実験
結果や、治療にあたる医療関係者が、「この患者は治る」と期待している場合
の方がそうでない場合に比べて治療の効果が格段と上がるといった研究結果が
あるそうです。(動機付ける力 モチベーションの理論と実践 DIAMOND 
HBR編集部)

「個性を知り、信じて任せる」これも女性活躍に関わらず、幸せな会社への
第一歩かもしれません。

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■ 4.ちなみに公認会計士試験は?

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東京医科大学に入試の問題から色々述べてきました。また、文部科学省が全国の
医学部の合格率を調査し、男女の合格率に差異がある場合、その差異の理由が
合理的なものかどうか調査する、といった報道もありました。今後、医学部に
ついてはこのような調整が行われないようになっていくのでしょう。
ところで、公認会計士試験はまさかそのような調整はされていまいと公認会計士
試験の男女別の合格率を調べてみましたが、男女別の受験者数が公開されておらず、
男女別の合格率は検証できませんでした。男女別の合格率はどうなっているのやら。
(ちなみに司法試験は男女別受験者と合格者が公表されていました。)
試験での合格率はどうであれ、公認会計士の会員登録の女性比率は、12%程度
とお寒い状況です。我々の業界の女性活躍促進もまだまだ道は遠いようです。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

 

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管理部門の状況について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.080━2018.08.29━


【ビズサプリ通信】

▼ 管理部門の順番

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ビズサプリの泉です。

早いもので、私がビズサプリにジョインしてから半年以上たち、今回でメルマガ
も3回目となりました。今回は経理部門を含んだ管理部門の規模による状況を取
り上げたいと思います。
私は監査法人勤務時代、コンサルティング会社勤務時代、独立してからと様々な
会社の管理部門をみてきました。管理部門の業務の本質にそれほど差はないもの
の、やはり、その会社規模、業態によって異なっています。今回は規模に応じた
管理部門の状況について取り上げたいと思います。

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■ 1.管理部門のなりたち

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そもそも管理部門とは何か、という話はありますが、議論しだすと長くなり
ますので、ここではみなさんがなんとなく想像するバックオフィス業務、いわ
ゆる総務、経理、人事といった業務を行う部門として進めたいと思います。

創業者が起業したときは、まずは創業メンバーだけであり全員で事業をして
います。
専任の管理部門の人員を保持する財務的余力がなく、また業務量もないため、
通常、バックオフィス業務専任のメンバーはおらず、各人で掃除やゴミ捨て
といった庶務的業務から、請求書の作成や支払いなどの経理回りの業務や
採用等の人事業務も自ら行っていることが一般的です。

経理部の基本的な業務である記帳、支払のうち、記帳は給与計算とともに
外部の会計事務所に委託していることも多く、支払は経営者が自分で行って
います。記帳については、最近ではfreeeといった従来の簿記の知識がほと
んど必要なく使える会計ソフトがでてきており、経営者自らがやっていること
もよくあります。
この段階では、当然、経理部門どころか管理部門自体がありません。

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■ 2.従業員10人~30人ぐらいの会社

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事業がある程度うまくいき、創業者の他にベンチャーとして、中途社員が増え
ていき10人を超えたぐらいで、経費精算、給与支払いなどの庶務業務も増えま
す。加えて本業においても外部に委託する業務のやりとりも増えてきます。
このため、管理部門専任の人がほしくなります。
オフィスも元々マンションの一室であったようなところから、きちんとした
オフィスに移転するのもこれぐらいの時期です。

この規模の会社では、庶務を含め管理部門的な様々なことをやってくれる人は
正社員ではなく、派遣社員やアルバイトの場合も多く、記帳や給与計算といっ
たものはまだまだ外部の会計事務所に委託しているケースが多いかと思います。

さらに人員が30人規模となってくると、経営者がすべての社員に密にコミュ
ニケーションとることが難しくなり、創業当時の阿吽の呼吸で業務を行うと
いったこともできず、会社を運営するうえである程度ルールや仕組みが必要
となってきます。
管理部門が実施するような業務も増えてきて、複数の専任者が置くことにな
ります。よくあるパターンとしては正社員1名+1,2名のアシスタント
(派遣やアルバイトの場合もあります。)の管理部という形で部署となります。
まだ経理部門を別に置いている企業は多くありません。

この規模になると取引先の数や取引の件数も多くなり以前のように、経営者が
資金繰りを頭の中で片手間に実施することが難しくなり、専任の者を配置して、
定期的な報告がほしくなります。このような経営者のニーズに応えるべく管理
部社員は財務的な業務である資金繰りも考えることになっていきます。

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■ 3.従業員50人規模の会社

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さらに事業規模が拡大し、従業員が50人くらいになってくると、経営者が各人
に指示を与えるのは現実的に難しくなるため、中間管理職がおかれ、組織とし
て業務の分業化や組織化が進んでいきます。。
管理部門においても、業務の細分化がすすみ、まず、業績や資金繰りなどの
数字周りの専任となる経理チームが管理部の中で分離され、外部に委託して
いた記帳業務なども内製化されます。ここでやっと経理部門として成立しま
すが、主要な業務は月次締め、支払い、資金繰りといった業務であり、予算
実績管理といった経営を数値で検証することはしていない会社がほとんどです。

ちなみに最近のベンチャー企業では採用業務を重視しているところもあり、
その場合にはこのぐらいの規模の会社でも専任の採用担当者をおき、管理部
とは別に経営者直轄のチームとして組織化することもあります

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■ 4.従業員100名規模の会社

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従業員が100人規模となってくると、経営者は経営に集中することになります。
経営とは何かというと話が広がっていくため、ここでは特段言及しませんが、
組織としては、役割毎の部署ができ、分業体制が進んでいく状況となり、管理
部門としては一定の専門性も求められることが多くなります。

事業規模の拡大、組織の拡大によりバックオフィス業務増えることになり、
管理部門の人員が増えるとともに、専門性の高まりにより管理部門内での分業
が進み、経理以外の各業務のおいても専任の担当者が置かれ、場合によっては
チームとして組織になります。

個人的見解ですが管理部門の分業の進み方は下記のようかと思われます。
1.管理部のみ
2.経理チームと人事総務チーム
業績や支払いといった数字周りの業務が高まり、専任の経理担当が置かれる。
この段階では人事総務チームが経理業務以外の契約書関連や情シス的業務も
含めて実施していることが多い。
3.経理チーム、人事チーム、総務チーム
社員が増え、採用、勤怠、給与計算、入退社手続き、社会保険手続きなど人事
関連の業務が増え、人事チームが専任となる。それ以外の庶務や備品管理、契
約管理などの管理業務は総務チームが担う。
4.経理チーム、人事チーム、総務チーム、情報システムor法務
経理、人事、総務により会社として大体の業務がカバーできるが、業種によって
は契約が重要になったり、情報システムが重要であったりする。その場合、さら
に総務チームから情報システムチームや法務チームが切り出される。
5.広報、IRの設置
会社がさらに成長し上場をした場合、会社のブランディングや適切な情報発信、
メディア対応等の必要性から広報が設置され、投資家対応のためにIRが設置さ
れる。

そのため、いわゆる上場前のベンチャーといっても各フェーズにおいて管理部門
の求められる業務の範囲、深度、専門性は全く異なります。

ビズサプリグループでは、創業間もない会社の経理業務のアウトソーシングから、
経理部門の業務改善コンサルティング、上場のためのIPOコンサルティング
上場会社の法定開示、JSOX業務のサポートなど各フェーズにおいて必要とされる
サポートを行っておりますので、何かありましたらご相談ください。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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ソーシャルレンディングの行方

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.079━2018.08.01 ━
【ビズサプリ通信】
ソーシャルレンディングの行方
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ビズサプリの久保です。今年は梅雨明け直前の大雨で大きな被害が出たかと思うと、その後は毎日厳しい暑さが続きます。東京オリンピックの年だけは、こんな暑さではないことを願うばかりです。さて、皆さんはソーシャルレンディングとは何かご存じでしょうか。試してみた方はおられるでしょうか。
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■ 1.maneoの行政処分
証券取引等監視委員会によるmaneoマーケット株式会社(maneo)に対する立ち入り検査の結果を受け、金融庁が7月13日に同社に対して業務改善命令を行いました。 maneoは、ウェブサイト上でソーシャルレンディングと呼ばれるビジネスを行う業界最大手の会社です。これはFintechの一種で、ウェブサイト上でファンドへの少額の出資を募り、そのファンドが特定の事業に対して貸付をするというものです。
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■ 2.maneoのビジネスモデル
 ベンチャー企業や中小企業がインターネット上で資金調達するウェブサイトとしては、米国のKickstarterや日本のMakuakeが有名です。これらは、購入型のクラウドファンディングを仲介するサイトです。簡単に言うと、前払いで製品やサービスを注文してもらうサイトです。ベンチャー企業にとっては、資金が先に得られるというメリットがあります。 一方、クラウドファンディングには出資型もあります。募集総額1億円未満かつ一人当たり投資額50万円以下であれば、インターネットを介して出資を募ることができます。これは、個人の投資家がベンチャー企業に対して直接出資して株主になるというものです。 maneoの場合は、出資を募るため出資型のクラウドファンディングに似ています。しかし、出資先はファンド(匿名組合)であり事業を行う企業ではありません。このファンドが事業を行う企業に対して「貸付」をするというのがmaneoのビジネスモデルです。ソーシャルレンディングのレンディング(lending)は貸付という意味です。多くの人から少額の貸付資金を集めるということから、ソーシャル(社会)レンディング(貸付)と呼ばれています。
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■ 3.行政処分の理由
 問題は2つあったようです。その1つは、ファンドへの出資を募る際に、ファンドから貸付する先の企業と貸付目的を特定しているのですが、それとは別の企業に対して別の目的のために貸付していたことです。2つ目は、貸付先の企業が自己資金とファンドからの借入資金を区別せずに管理していたことです。 1つ目の目的外への資金の利用はありそうな話です。この場合は太陽光発電事業の資金として募ったのに、それ以外の目的に使用したようです。日経新聞ではこの流用額が「100億円規模か」とされています。2つ目の自己資金との区別がないというのは、どうしてダメなのでしょうか。お金には色がつかないので、自己資金と借入資金を区別しないと太陽光発電事業のために使ったのかどうかが分からなくなってしまいます。このため、自己資金とファンドからの借入資金をしっかり区分して管理する必要があるのです。
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■ 4.ソーシャルレンディングの条件
maneoが業務改善命令を受けた案件は「グリーンインフラレンディング」(GIL)という太陽光発電事業への貸付案件です。金融庁によると、maneoがGILに仲介した出資者数は昨年末時点で約3000人、貸付残高は約103億円とのことです。これに関する最近のファンドである「200億円突破記念ローンファンド(第1次募集)」は募集キャンセルになっています。ウェブサイトでその募集条件を見ると次のようになっています。
「借り手A社、運用利回り13%、募集額2,005万円、運用期間12ヶ月、担保なし、保証なし、一括返済、投資可能金額5万円から」
事業者A社は、太陽光発電開発事業者T社に対して、太陽光発電所の開発資金として貸付し、その資金で開発業務の委託先に対して業務委託料残金の支払いをし、この残金支払いにより、太陽光発電所を建設するための土地などを取得する計画であるとしています。
 ファンドからの直接の貸付先はA社ですが、A社からT社(特別目的会社)に貸し付けるという資金の流れになります。このT社は太陽光発電事業を行うために設立された会社のようです。資金の流れは次のようになります。  「個人投資家」 →(出資)→「GILが組成するファンド」→(貸付)→「A社」→(貸付)→「T社」
 ファンドの運用期間は前述のとおり12ヶ月のため、T社が太陽光発電事業を継続して行うのであれば、12か月後にまた新たな借入金をしてその資金で返済するのでしょう。または、事業売却を計画しているのかもしれません。 利息制限法に定められた金利の上限は100万円以上の場合は年利15%です。13%の運用利回りは非常に高いです。GILとA社の金利取り分を仮にそれぞれ1%とすると、T社の借入金利は上限の15%になります。この案件の場合、T社は15%で借入しなければならないほど信用力がないと考えられます。これだけ運用利回りが高いとファンドの資金を集めるのには苦労はしませんが、T社はこの高い金利の支払いだけでなく、そもそも元本を返済できるのかが心配になります。
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■ 5.ソーシャルレンディングのリスク
 maneoのサイトには「リスク説明」と書かれた赤いボタンがあります。そのボタンを押すと、貸付金が回収できないときは出資金元金が全額返ってこないリスクがあると書かれています。13%の運用利回りに目がくらみそうですが、元本保証ではありません。運用利回りが得られないだけでなく、元本が返ってこないことがあるということがはっきりと書かれています。 しかし、個人投資家はこのリスクをどれだけ理解した上でファンドに出資しているのでしょうか。ソーシャルレンディングは新しい業態なので、これに対する規制が十分でないと考えられます。
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■ 6.今後の規制強化が急務
maneoは金商法上のファンド販売業者(第二種金融商品取引業者)ですので、監視委員会の検査権限が及びます。しかし、上記のA社やT社には権限が及ばないため、全容解明が難航したと報道されています。検査権限の見直しを行う必要があるでしょう。また、ソーシャルレンディングでは、借り手保護の観点からA社やT社のように貸付先が匿名にされていますが、これでは投資家保護にはなりません。これについては、金融庁は借り手企業の名称などを開示させることを決めているそうです。 個人投資家は、貸付先の財政状態がどうなっているかを知らない状態で、maneoを信用して出資しています。この問題案件の場合は、筆者から見たら、運用利回りが非常に高いことだけをとってもリスクが高いと感じます。しかし、この業界の最大手であるmaneoが募集しているというだけで、信用して投資する人もいるでしょう。今後は、貸付先の財政状態を開示する義務や、ファンドからの借入資金の区分経理を強制するなどの規制強化が必要になると思われます。仮想通貨取引所コインチェックでは580億円が流出しました。Fintechを育てるという政府の姿勢は大事なことですが、ソーシャルレンディングでは、巨額の回収不能事故が起こる前に対策を急ぐ必要があると思います。

ビズサプリグループでは様々な会計上の課題について対応支援を行っています。気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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ITは経理の仕事を奪うか

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.078━2018.07.18 ━
【ビズサプリ通信】
▼ ITは経理の仕事を奪うか
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ビズサプリの三木です。近年のIT技術の発達は目覚ましく、「ホワイトカラーの仕事は無くなる」「特に会計士の仕事は無くなる」などともいわれています。今回のメールマガジンでは、本当にIT技術がホワイトカラー、特に経理部門の仕事を奪うかどうかを考えてみます。
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■ 1.近年話題のIT技術
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様々なIT技術が話題となっていますが、特にホワイトカラーに影響が大きそうなものにAIとRPAがあります。
AIは人工知能(Artificial Intelligence)のことです。近年特にAIが注目されているのは、ディープラーニングという学習方法によってAIの能力が飛躍的に高まったためです。ディープラーニングでは、人間の神経回路を模したようなコンピュータの回路を使い、コンピュータ自らが様々なデータにアクセスして試行錯誤することで複層的にデータ同士の関連性を見出し、判断力や分析力を磨いていきます。人間が教えるわけではないのが特徴で、データさえ与えれば勝手に賢くなっていきます。この技術のおかげで、将棋や囲碁のソフトはプロ棋士でも思いつかない手を打つようになってきました。
RPAはRobotic Process Automationの略で、ロボットを使って業務を自動化していくことです。ロボットといっても工場の製造ラインにあるようなものではなく、コンピュータの中にあるプログラムです。Excelに慣れている方ならマクロが更に発達したようなイメージを持っていただくと近いかもしれません。ただしマクロとは違い、様々なシステムにアクセスして操作をすることができます。例えば、RPAが会社の基幹システムにアクセスして期日を過ぎても入金がない債権をリストアップし、それぞれの担当者に未入金を知らせるメールを送り、その回答を一覧表にまとめる、といったことが可能です。こうした作業をコンピュータが行うこと自体は目新しくはなく、システムの中に未入金お知らせ機能を作り込んでおけば以前から可能ではありましたが、RPAではシステムの外側で気軽・安価に追加機能を付け足せる点がメリットとなっています。
現状では、経理の実務に耐えうるAIの開発にはまだ時間がかかる印象です。比較的単純な判断業務であればともかく、経理業務全体となると、税務、資金繰り、対外的な決算発表、不正の防止など考慮要素が案外多く、まだまだ人間の判断力や方向づけには追い付けていないと感じます。むしろ経理業務と相性が良いのがRPAです。多額の資金を投じてシステム開発するほどではないため人が毎月やっている単純作業などは案外あるもので、RPAで代替できる業務は少なくなさそうです。
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■ 2.機械が仕事を奪う
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発展するIT技術が特にホワイトカラーの仕事を奪っていくと言われるようになった背景に、2015年12月に野村総研がオックスフォード大学との共同研究として発表した推計があります。簡単に言えば、特別な知識・スキルが不要な職業や、データの分析や操作の多い職業はAIやロボットで代替され、創造性や協調性が重要だったり、人間同士の理解や交渉が必要な職業は代替されにくいというものです。結果として、10~20年後に国内労働人口の49%の職業について、AIやロボットで代替される可能性が高いという推計がなされています。経理などの事務職は無くなっていく職業の代表格で、逆にソムリエやデザイナーなどは代替されにくい職業です。
「アナタの仕事は無くなるよ」と言われれば不愉快でもあり、私のいる会計士業界でも「会計士の仕事は無くならない!」主張しています。一方で、機械化で人間の仕事がなくなっていく流れは産業革命以来ずっと続いており、職業の栄枯盛衰は必然とも言えます。もちろん悪いことばかりではなく、機械による大量生産が無ければ現代の便利な生活はあり得ませんし、奴隷問題や労働災害を抑制するうえで機械が果たした効果は計り知れません。
私が社会人として仕事を始めたのは約20年前ですが、そのころは携帯電話が出始めで、もちろんスマホは無く、ようやくノートPCが持ち運べるようになってきた頃でした。メールはあっても大きなファイルは送信できず、データの入ったフロッピーディスクを現場に持っていく「おつかい」は新人の仕事でした。皆さんご存知の通り、この辺りの仕事スタイルは様変わりしましたし、実際に私が仕事で伺う会社にも20年前にはなかったビジネスが多いことを思えば、49%の職業がIT技術にとって代わられるというのは、あながち外れていない気がします。

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■ 3.「無くなる」ではなく「変わる」
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では経理や人事などのホワイトカラーの仕事が無くなるかというと、そうでもない気がしています。機械によって経理の仕事がなくなるなら、電卓が出てきたときやExcelの普及によって、もっと経理部門はダウンサイズしていたはずです。ところがExcelがいかに普及しても経理の仕事はいっこうに楽になっていません。
ただし、大変さの中身は変わっています。足し算や引き算、集計に苦労するというケースは昔に比べて格段に減り、「何を集計すれば良いか」「どう集計すればよいか」という上流工程や、その結果をどうプレゼンするかという下流工程に比重が移っています。また、単純な集計ではなく他のデータとの相関関係を示したり、作業の締め切りが早くなるなど、違う付加価値を求められるようになっています。機械化で楽になる一方で要求水準も上がり、トータルでの大変さは変わっていないのが実情ではないでしょうか。
現在のホワイトカラーの仕事も徐々にRPAやAIで代替されていくのは必然です。しかしながら、人事であれば採用や人事評価を通じてどういう組織を作っていくか、経理であれば自社の業績をどのように表現するかといった部分は非常に高度な判断ですし、単なる判断ではなく経営的な意思も入りますので、機械化にはまだまだ時間がかかります。むしろRPAやAIをうまく使い、他社に先駆けて行動できるよう、こうした意思決定に役立つ情報を従来より速く正確に出すことが重要になります。そうなれば、管理職はより判断業務に、スタッフはRPAやAIなどの技術を使いこなせることが評価されるようになります。
このように、ホワイトカラーの仕事自体が無くなるのではなく、求められるスキルや業務比重が変わるのが妥当な見方ではないかと思います。もちろん、「経理が無くならない」だけであって、「いま経理でやっている業務が無くならない」とは限らないため、今まで以上にIT技術にアンテナを立てておく必要はあるでしょう。
ビズサプリグループでは経理部門の業務効率化などの相談も承っております。お気軽にご相談ください。本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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経営上の意思決定について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.077━ 2018.7.04━━

【ビズサプリ通信】

▼ 意思決定の難しさ

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こんにちは。ビズサプリの花房です。今年はもう梅雨が明けてしまったとかで、
例年海の日の前後と思っていたのでちょっと拍子抜けですが、その分暑い夏が
続くことで恩恵を受けるビジネスもあり、天気、さらに言えば地震も含めて自
然は予測不能ですが、それでも企業は日々意思決定を行っています。

日本では3月決算会社が多く、その株主総会は6月に行われて、中でも集中日と
言われる日が今年は先週6月28日でした。当日は今回注目されていた富士フイル
ムホールディングス、武田薬品工業、出光興産の株主総会も行われましたが、
いずれも経営上の大きな意思決定を抱えています。

それらは、富士フイルムは米ゼロックスの買収、武田薬品工業アイルランド
の製薬大手であるシャイアーの買収、出光興産は昭和シェル石油との経営統合
についてです。いずれも賛否両論の戦略であり、また相手のある交渉事のため、
会社自身で必ずしも決められない経営課題であり、今後どのような展開になっ
ていくのか、外部からでも予想がつきませんが、意思決定する立場の経営陣は
本当に大変だと思います。

今回は、このような経営上の意思決定についての手法を考えてみたいと思います。

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■ 1.経営判断の原則
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取締役、特に上場会社の取締役となると、その責任は重大です。会社法では、
忠実義務や任務懈怠責任、善管注意義務等が定められています。特に意思決定
ということになると、「経営判断の原則」と言われる考え方です。これは平た
く言うと、ある意思決定が結果的に会社に損害をもたらしても、意思決定の経
営判断が合理的であれば、結果責任を問わないとするものです。

意思決定の結果会社に損害が出た場合、全て意思決定時の取締役に責任がある
ことになれば、取締役は委縮してしまって、必要な投資や大胆な事業計画を実
行しなくなってしまい、結果的に会社の成長を妨げることになります。そこで、
意思決定に際して、きちんと必要な情報収集をし、リスクを分析して、慎重に
合理的な判断をしているのであれば、結果的に経営責任を問われることはない
ため、経営陣もリスクを取って挑戦できることになります。

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■ 2.経営者の意思決定

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「人生は選択の連続である」とかつてシェイクスピアが行ったように、我々は
必ず何か選択をしながら日々生きていますが、それも小さな意思決定の積み重
ねと言えます。日常生活に必要不可欠な意思決定もあれば、企業においては、
売上を増やす、コストを下げる、生産効率を上げる等、業績の向上、財務体質
の改善等、企業をより良くするために、様々な意思決定を行っています。

意思決定の手法として、昔からよく教科書に出てくるのは、PDCAサイクルです。
これは、P:Plan(計画)、D:Do(実行)、C:Check(評価)、A:Action(改
善)のイニシャルを拾ったものですが、「サイクル」という言葉が付くように、
一連の業務フローがある中で、計画したものが実行され、それを評価して課題
を抽出し、改善のアクションをまた計画してそれを実行することを繰り返すの
であり、基本的にはルーチンワークが前提と言えます。その意味で、すでに会
社の業務として確立しているものであり、そこから革新的な何かが出てくる可
能性は薄いでしょう。

経営者は、現在行われていることをきちんと執行するのも大事ですが、より重
要なのは、将来のビジネスの基礎を作ることだと言えます。未来永劫何十年も
同じ事業で成り立っている会社がゼロとは言いませんが、多くの長寿企業では、
時代によって何十年周期で中核事業を変えながら継続している老舗がほとんど
であり、必ず新たな中核事業を作り出し、育ててきた経営者がいます。

そのような意思決定こそ、経営者として真に求められる意思決定と言えます。
それは過去の延長線上にあるものではなく、予測不能な中でも将来を見据えて、
時代に必要とされるものを見つけ、あるいは作り出す必要がある、高度な意思
決定です。このような意思決定に役立つ手法として最近注目されているのが、
「OODAループ」と言われるメソッドです。

PDCAが工場で生まれたのに対して、OODAは軍事の世界から生まれました。戦場
は常に敵との遭遇するリスクに晒されながら、刻々と変化する状況の中で、生
き残るための最適な判断をしなければなりません。OODAは、O:Observe(観察)
、O:Orient(状況判断、方向づけ)、D:Decide(決断)、A:Act (行動)、
のイニシャルを取ったものです。

PDCAはプロセスが重視されるので、ある程度長期、変化の少ない状況で有効な
手法に対して、OODAは変化が激しく、すぐに対応しなければならない機動性が
要求される状況で有効な手法という意味で、変化が激しく1年後すら将来の予測
が難しい現代に当てはまりそうな手法と言えます。

もう1つ注目されているメソッドとして、「QPMIサイクル」と言われているものが
あります。これは、Q:Question(クエスチョン)、P:Passion(パッション)、
M:Mission(ミッション)、I:Innovation(イノベーション)、のイニシャル
です。最近はソーシャルビジネスが盛んですが、これはまさに、社会問題に疑
問を持ち、その解決に情熱を持つ人が、それを自らの使命として、今までにな
いようなアイデアや技術で改革やソリューションを創出するビジネスモデルの
サイクルと言えます。

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■ 3.意思決定以上に必要なもの

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今まで数多くの経営者を見て来て、最近では経営者のそばで仕事をする機会も
増えてきました。そこで改めて思うのは、QPMIサイクルにもありますが、優秀
な経営者の方は、例外なく、熱いPassionと、世の中を変えたいというMission
を持っていると思います。

大学の経営学や、MBAで学ぶような○○サイクルと言ったメソッドは、昔から行
われいる事象を類型化し、体系的に整理して、学問的に分かり易い言葉で表現
しているにすぎません。歴史を作ってきた経営者の多くは、学問的なことを身
に付けるよりも早く、深く考え、様々な経験をして、重要な意思決定を繰り返し
てきました。そしてそれは1人では出来るものではなく、従業員を始め、多くの
方のサポートが合って初めて実現できたものと言えます。

昔から読まれている名著で、「人を動かす」(デール・カーネギー著)があり
ますが、そこでの人を動かす三原則の1つは『強い欲求を起こさせる』ことなの
であり、経営者が明確なMissionを従業員に対して強いPassionで伝えられるこ
とが出来れば、多くの従業員が味方になってくれることでしょう。

経営者の意思決定の内容がどれだけ優れていても、それを実行し切れて初めて
世の中から評価され、歴史に残ることになります。その意味でも、Passionと
Missionは欠かせないと言えます。それがあれば、富士フイルムHD、武田薬品
工業、出光興産の重要な意思決定もいい方向に向かうかもしれません。

今回は意思決定のメソッドをいくつか紹介してみましたが、いずれも観察であ
ったり評価であったりと言葉は違えど、本質としては、現状分析と解決策の方
向性を導き出すことが不可欠です。ビズサプリグループでは、会計士、事業会
社での経験豊富なコンサルタントにより、企業の意思決定支援のコンサルティ
ングも行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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危機 管理について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.076━2018.06.20━


【ビズサプリ通信】


▼ 危機管理の重要性~いきなり重大な危機にはならない~

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ビズサプリの辻です。

梅雨のじめじめした雨模様が続きますね。ただ、これだけ異常気象の中で、
1年に1回きちんと梅雨が来るというのもほっとするような気もします。美しい
紫陽花の花を見ると少し癒されますね。

さて、日本大学アメリカンフットボールの事件、みなさんはどのようにご覧
になったでしょうか。事件については様々な見方がありますが、今日は危機
管理について考えてみたいと思います。

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■ 1.危機管理の基本

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危機は、リスクが実際に顕在化している状態です。危機には自然災害のように
その発生自体を自らコントロールできないものや、「不正・不祥事」や「事故」
のようにリスクマネジメントをしっかり行うことで発生自体をコントロール
きるもの、及びサイバー攻撃やテロなど故意に起こされる事故の3つがあります。
(「健全なる組織はクライシス感度が高い」DIAMOND HBR 編集部)
ただ、いずれの場合も、危機が生じた場合、その危機に迅速かつ適切に対応す
ることで、その危機による被害を最小限にとどめ、なるべく早く平時の状態に
戻すことが求められます。これが危機管理の基本です。

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■ 2.危機管理の最初の関門

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東日本大震災熊本地震などの大きな自然災害のような場合、誰もが危機だと
認識をすることができます。このため、組織全体で「危機対応モード」のス
イッチが作動し、危機管理のために事前定めた指揮命令系統や対応マニュア
ルにしたがって行動していくことになります。

一方で、今回の日本大学の対応を考えると、今目の前に起きている状況が
危機だと認識できなかったことで初期対応を誤ってしまった結果、より重大
な危機を招いてしまっているように思います。

つまり、危機を危機と認識できるかが危機管理に成功するかどうかの最初の
関門ということになります。この初期対応を誤ると、問題の中身や背景に正
しく目を向けられることなく、非難やバッシング、炎上といった状況になって
しまいます。

一度このような状況に陥ってしまうと、後から何をやっても非難される一方と
なります。(マスコミのヒステリックな対応もどうかと思うところは
もちろんあります。)そのような非難やバッシングに対して冷静に対応する
のは大変難易度が高く、どうしても感情的に応戦してしまい、またバッシン
グを受けてしまう、というのは今回の件に限らず過去の多くの不祥事の謝罪
会見で見られてきた光景ではないでしょうか。

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■ 3.いきなり「重大な危機」になるわけではない

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「不正・不祥事」といったリスクは、いきなり「重大」な危機になるわけでは
ありません。重大な危機になる前に小さな危機が生じているはずです。
ヒヤリハットの法則」「ハインリッヒの法則」ということでよく知られて
いますが、重大な事故の前には予兆なるような小さな兆候あるはずです。
本来であれば、この段階で自ら危機の存在に気づき、いわゆる自浄作用
を発揮することが求められることになります。

この点、2018年3月に日本取引所自主規制法人から公表された「上場会社に
おける不祥事予防のプリンシパル」の「原則4」の中で、「コンプライアンス
違反を早期に把握し、迅速に対処することで、そが重大な不祥事に発展すること
を未然に防止する。早期発見と迅速な対処、それに続く業務改善まで、一連の
サイクルを企業文化として定着させる。」と書かれています。

ところが、もともとムラ社会の日本人には、「調和を重視する価値観」「集団
内の軋轢を避けるインセンティブ」が強く働きがちです。(「会社は頭から腐る」
富山和彦著)小さな危機が目の前にあるのに「見て見ないふり」「無関心」で
放置されていたり、「前任がやっていたから」という思考停止の状況になって
違反行為が長年続けられることで、気がついた時には危機が大きくなっている
ということになりかねません。

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■ 4.見てみないふり、無関心、思考停止を防ぐには

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違反の事実というよりは、「違反を指摘することをあきらめて見過ごしてしまう
人が生き残っている(えらくなっている)組織文化」が本当は一番の危機なの
かもしれません。危機の中にいる人たちの危機感が薄いため、このような危機は
質(たち)が悪いと言えます。

見てみないふり、無関心、思考停止とならないためには、業務を行う中で「
何かおかしい」「これでいいのかな」というような疑念や「まずいことになる
かもしれない」「危機につながるかもしれない」というマイナスの情報が
どこかで目詰まりすることなく適切な人に伝わるような仕組みが整備され、
それが実際に運用されていることが必要です。そして何よりそれを伝えやすい
雰囲気の組織であることも重要です。

まずは、最初の第一歩として皆様自身にマイナス情報も含めた正しい情報が
入ってくるかどうかを自己点検してはいかがでしょうか。

自己点検項目とし、これまで私が意識してきたことをご紹介します。決して私が
完璧にできているわけではなく、「意識してきた」ことです。そのあたりは
ご容赦下さい。

・「ちょっといいですか」と声をかけられたら膝をきちんと向けて口角を上げて
「何ですか」と言う
・上司でも部下でもお客様でも取引先様でもリスペクトをして話を聞く
・まずは共感してみる(「なるほど」「そうなんだね」という相槌が多くなり
ます。)
・「ジョハリの窓」を意識する
・前向きのフィードバックで話を終わりにする

これを書いていて、仕事では意識しているのに、娘に対してはさっぱりで
いつも頭ごなしに叱っているな、と思うのでした。


ビズサプリでは、リスクマネジメントの取組へのサポートや意識調査業務も
実施しております。お気軽にお問合せ下さい。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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