株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

経理の役割について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.075━2018.06.06━


【ビズサプリ通信】


▼ 経理の役割

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ビズサプリの泉です。

私の今までのキャリアにおいては、一般的に公認会計士が実施する業務よりも
経理実務的なことが多いこともあり、今回のメールマガジンでも前回に引き続き
経理部門について取り上げたいと思います。

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■ 1.経理部内の役割の分化

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前回のメルマガでは、経理部門に期待されている役割が変わってきており、
従来の数値集計の役割よりも、分析や分析、経理情報等に潜んでいる経営上
の問題点の把握、さらにマネジメントが経営判断を実施する際に有用な情報
を提供することがより重要となってきていることをお話ししました。

とはいっても、やはり決算作業を締めて数値を集計することや支払業務は、
申請された書類(ワークフローを利用した電子申請の場合もありますが)
と添付されているエビデンスを照合するといった労働集約的な作業となり、
経理部門はその実施にかなり時間を費やすこととなります。
そのため、一部の経理部員のみが上記の業務を実施することとなり、経理部員
の大半の人はいわゆる定型的業務(ルーチン)を実施することとなります。

ある一定規模以上の経理部門において、各部員は次のような担当に分かれて
いると思います。
責任者:実務業務はせず、社内調整や部員マネジメントを実施する部門責任者。

プレイングマネージャー
決算に基づいた各種資料の分析や月次のマネジメントへの報告書の作成を担当。
必要な場合はルーチンも実施し、また中期計画や予算との絡みもあって会社に
よっては経営企画部門や事業部内管理部門が担当することもある。

ルーチンマネージャー:ルーチン担当者を仕切り、定型作業の円滑な遂行及
び効率化を担当。

ルーチン担当者:伝票処理や支払い処理といったルーチンの実際の処理を担当。
いわゆる経理事務員。

その他、もちろんM&A、法定開示、会計システム関連の導入といったスポット
業務については各担当者が実施することになるかと思います。


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■ 2.経理部門の置かれている状況

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従来より経理業務のうち、ルーチン担当者が担ってきた業務、例えば経費精算
業務などはグループ内のシェアード化や海外へのオフショア化によって集約化、
あるいは会社からなくなるといわれてきました。
これに加え、近年においては、人工知能(AI)やRPA(Robotic Process Auto
mation)によって、そもそもそういった業務は人が担当する業務ではなくなり
消える職業であるともいわれています。

野村総合研究所の2015年の発表においては、経理事務員はAIやRPA等による代
替可能性が高い職業とされており、次のような見解が述べられております。
「必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や
秩序的・体系的操作が求められる職業については、人工知能等で代替できる
可能性が高い傾向が確認できました。」
(「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に」株式会社
野村総合研究所 2015年)

元々、経理部門は会社内において力が強くないことが多いことですが、こう
いった研究や社会における見方が広がることにより、ますます社内における
経理部門の地位は低下し、その結果人員を削減されることや、場合によって
は事業部門で評価の低い社員の異動先になってしまうなど厳しい状況に追い
込まれる可能性があります。

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■ 3.経理部員のキャリアの悩み

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前回のメルマガのとおり経理部門がますます忙しくなってきているという状況
に加え、人口知能等により将来的にはなくなる職業の1つと言われ、ますます
難しい状況であるといえますが、さらに経理部門を含む人事や総務といった
バックオフィス部門の部員はそのキャリアパスにも別の悩みがあります。

バックオフィス部門は、それなりに専門性があるためかえって社内においては
異動することが難しく、結果としてその所属する部門で昇進していかざるをえ
ません。
ところが、日本中、あるいは海外も含めて子会社を多数もち、経理部員として
もローテーションができる大企業は別として、大半の企業では、経理部は1つ
であり経理部長は1人です。
そして、上記に述べたように専門性があるが故に、部長クラスの人が異動する
ことはさらに難しく、特に問題が顕在化しない限り会社としても経理部長を
異動させるインセンティブはありません。

そのため、経理部員の多くは昇進のポストが空いておらず、報酬の面において
も個人の成長の面においても業務に対するモチベーションを維持することが
困難になりやすいと個人的には思っています。(もちろん、ワークライフバラ
ンスを重視するなど別な観点から評価するとよい点もありますが。)

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■ 4.経理部員の目指すべき方向性

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さきほどの野村総合研究所の発表においては、次のようにも述べられています。
「芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するため
の知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエー
ション、サービス志向性が求められる職業は、人工知能等での代替は難しい
傾向があります。」

経理部門と近しい具体的な職業としては、経営コンサルタント中小企業診断士
が代替可能性の低い職業として挙げられています。これは外部のコンサルティ
ング業がいい意味ではなく、今後、経理部門は社内において、経営陣、事業部門
等に対してコンサルティング的な業務、単なる伝票処理部門ではなく他部門との
連携や他部門の課題解決の助けとなるような業務にシフトするべきということ
だと考えることができます。

そのためには、経理部員は従来の業務に固執することなく、積極的に他の部門、
特に事業部門の実施している業務について興味をもち、可能であれば異動して
社内の理解を深めていくことが必要ではないかと思っております。

ビズサプリグループでは、経理部門のバリューアップを目指した改善コンサル
ティングや定型業務のアウトソーシングも行っておりますので、何かありまし
たらご相談ください。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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米国会計基準について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.074━2018.05.23 ━
【ビズサプリ通信】
米国会計基準を採用する日本企業
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ビズサプリの久保です。このたび「東芝事件総決算」という本を日経新聞出版社から上梓することになりました。この本では、東芝の不正会計とその後3年間の会計処理について、いくつかのテーマに分けて分析しました。すこし厚めの本ですが、図を多用して、できるかぎり分かりやすく書きました。6月中旬には書店に並ぶ予定です。お読みいただければ幸いです。
さて、今回のメルマガでは、この本のテーマの一つである米国会計基準について検討したいと思います。
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■ 1.なぜ、日本の上場企業が米国会計基準を採用できるのか
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東芝は日本の上場会社ですので、有価証券報告書(有報)を提出していますが、そこに含まれる連結財務諸表の作成基準は、本来であれば日本基準です。しかし、報道でも分かるように東芝米国会計基準を採用しています。実は、米国に上場している会社(SEC登録会社)は、日本の有報の連結財務諸表を米国会計基準で作成してもよいという特例があります。 これは、米国会計基準に加えて日本基準で連結財務諸表を作成する負担を軽減するために設けられた特例です。この特例を受ける会社は、米国基準で作成した連結財務諸表とその注記を和訳して、有報に掲載しています。この特例は、連結財務諸表のみを対象にしています。単体の財務諸表は日本基準でなければなりません。東芝を含む日本の上場会社の何社かは、米国上場を廃止したのに米国会計基準で有報の連結財務諸表を作成しています。これは、連結財務諸表制度導入前より米国基準で有報を提出している会社は、米国上場を廃止しても「当分の間」そのまま認められることになっているからです。米国上場というのは、具体的には米国預託証券(ADR)をニューヨーク証券取引所やナスダック市場に上場することを言います。ADRは、米国以外の国で設立された企業が発行した株式を裏づけとした有価証券です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 2.米国上場廃止ラッシュ
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昨年の3月に「NY上場廃止ラッシュ」という記事が日経新聞に掲載されました。この記事のきっかけはNTTが米国上場廃止を発表したことです。その前の年の2016年には日本電産アドバンテストも米国上場を廃止しています。そして、今年なってNTTドコモが昨年からの予告どおり上場廃止し、2月には京セラもこれに続きました。 日経新聞によるとNTTの上場廃止の理由を「証券市場をめぐる環境が変わり、上場を維持する必要性が低下した」としています。ソニートヨタ、ホンダなどに比べると知名度が低く、米国市場での取引量が少ないのが現状なのだと思います。日本企業が米国に上場する理由の一つは、米国での知名度を上げることです。しかし、米国上場を維持するためには米国会計基準での連結財務諸表の作成だけでなく、日本より厳しいと言われる会計監査と内部統制監査(US-SOX監査)を受ける必要があり、そのための労力とコストがかかります。実はそれだけでなく、米国上場会社は米国企業とみなすという米国の法律がいくつかあります。特に海外腐敗行為防止法(FCPA)は、米国企業による外国の政治家や官僚への賄賂を禁止する法律です。これに違反すると信用失墜するだけでなく、巨額の課徴金が課されることから、コンプライアンス対策に多額のコストがかかります。そういうコンプライアンス上の問題も米国上場廃止の理由と考えられます。日本のグローバル企業で、米国上場していた会社は40社近くあったと思いますが、今は11社になりました。
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■ 3.米国会計基準を採用する会社とその動向
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 米国に上場している会社は、筆者が調べた限りでは、ソニートヨタ、本田、キヤノン三菱UFJ、三井住友、みずほ、野村、オリックスIIJ、FRONTEOの11社(会社名略称)です。これらの会社は、有報の連結財務諸表には米国会計基準を採用することができるのですが、三菱UFJ、三井住友、みずほ、FRONTEOの4社については、有報では日本基準を採用しています。本田は有報では国際会計基準IFRS)を採用しています。 前述のとおり、米国上場を廃止しても米国会計基準を採用している会社が東芝の他にもあります。それは、日本ハム、ワコール、富士フィルム、クボタ、コマツ東芝三菱電機オムロンTDK村田製作所、マキタの11社です。 米国上場廃止後においても米国会計基準を採用するこれらの企業は、次々と国際会計基準への移行を表明しています。冒頭にご紹介したNTTとNTTドコモ、それに日本ハム三菱電機は、2019年3月期から国際会計基準に移行することを発表しています。日立製作所パナソニックも昔は米国上場していましたが、すでに国際会計基準に移行済みです。 東芝は、2015年1月に国際会計基準への移行を発表しましたが、2017年3月にはその中止を決めています。これは原子力事業の減損問題の真っただ中で、会計基準を変えるのを避けたためと考えられます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 4.米国上場していない会社の米国会計基準の取り扱い
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 米国に上場している会社における会計基準の適用を監督するのは米国の証券取引委員会(SEC)です。この役割は、日本では金融庁とその下部機関である証券取引等監視委員会が担っています。このため、米国に上場していない日本企業が採用する米国会計基準の監督は、金融庁証券取引等監視委員会が行う必要があります。 東芝のように監査法人の監査が適切かどうかを判断するような場面では、監督官庁が直接乗り出す必要が出ています。そうなると、米国会計基準の専門家がほとんどいない日本の当局としては、対応が非常に難しくなってしまいます。ただし、東芝のようなことは、もともと想定外だったということは言えます。その理由は、米国に上場する会社は日本を代表するグローバル企業ですので、そのような会社の会計処理が問題になることはこれまでなかったからです。東芝の2015年に発覚した不正会計事件や、その後の原子力事業の減損問題に対して、金融庁証券取引等監視委員会は、米国会計基準を理解しないと行政処分などの行政判断ができないことに気が付いたはずです。これは、当面の間、米国に上場していた企業に対して米国会計基準を認めていたことがそもそもの原因でした。前述のとおり、米国上場を廃止した企業は、米国会計基準から国際会計基準に移行する会社が増えてきています。金融庁は、過去に米国上場していた会社で米国会計基準を採用する会社に対して、個別に国際会計基準に移行するよう勧めているという話を聞いたことがあります。当面の間認めるという経過措置を廃止するハードランディングか、行政指導でのソフトランディングか、このどちらかにより、近いうちに米国会計基準を採用する会社は、米国に上場している企業だけになると思います。
ビズサプリグループでは様々な会計上の課題について対応支援を行っています。気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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収益計上の会計処理について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.073━2018.05.09 ━
【ビズサプリ通信】
▼ 収益認識の新基準
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ビズサプリの三木です。仕事柄、私はいろいろな会社の経理の人と話をしますが、どの会社でも売上の会計処理には苦労しています。今回のメールマガジンでは、収益計上の会計処理について取り上げます。
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■ 1.新基準の導入
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2018年3月30日に企業会計基準委員会から「収益認識に関する会計基準」が公表され、2021年4月1日以降開始事業年度から適用となりました(早期適用は可能)。この基準はIFRSが2018年1月1日以降開始事業年度から適用しようとしている新基準(IFRS15号)と内容がほぼ同一で、IFRSのコンバージェンスの流れに沿ったものと言えます。
驚くべきは、日本では今回の基準策定まで、企業会計原則に「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」程度の記載があるだけで、収益認識に関する包括的な会計基準がなかったことです。もちろん、相応の実務慣行は出来上がっており滅茶苦茶な会計処理がなされているわけではありませんが、それでも会社経営にとって最重要ともいえる売上のルールがなかったというのは驚くべきことです。今回の基準策定は、日本の会計を世界から見える化していく上で大きなステップと言えます。
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■ 2.新基準の考え方
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新基準はかなりボリュームがあり、正直いって難解です。すべては解説しきれませんので、ここではポイントだけ説明します。
1 認識認識というのは、収益をどのタイミングで計上するかという問題です。新基準では「履行義務アプローチ」が取られています。顧客との間には商品やサービスを提供する代わりに代金をもらうという双務関係がありますが、このうち商品やサービスの提供という義務が果たされたときに収益を認識しようという考え方です。例えば、単純な物品だったら客先に届ければ義務は完了ですが、精密機器を販売していれば据付や試運転が終わるまで義務が完了したとは言えないでしょう。また、1年間など期間契約によるサービスであれば義務は時間の経過とともに完了していきます。このように取引のタイプごとに義務が完了するタイミングを整理していくことが必要になります。
2 測定測定というのは、収益をいくらで計上するかという問題です。いくつか論点はありますが、値引やリベートの処理、代理人取引、複合取引という3点がよく問題となります。1点目の値引やリベートについては、特定のキャンペーンなどの対価が明確でない限り、原則は販管費ではなく売上控除になります。2点目の代理人取引というのは、売買の仲介のようなビジネスのことです。仲介ビジネスとして一定要件を満たす場合、売上と仕入をそれぞれ総額で計上するのではなく、差額のマージン分(純額)だけを売上に計上することになります。3点目の複合取引というのは、例えば保守サービスと機械本体のセット価格販売のように、1つの取引に複数の構成要素がある取引のことです。この場合は構成要素ごとに分解し、保守サービスと機械本体それぞれに客観的な比率で価格を配分しなければなりません。そのうえで、機械本体の義務を果たしたとき(納品や据付など)サービスの義務を果たしたとき(時間の経過など)に、それぞれの収益を認識します。商社など代理人取引が主たる業務になっている場合、新基準の適用で売上が激減する可能性があります。また、値引きやリベート、複合取引は新基準対応のための事務処理が煩雑になる可能性があり、システムを含めた対応方法に注意が必要です。
3 検討の5ステップ新基準では5つのステップで以上のような検討をしていくことになっています。この5つのステップについては様々な解説記事が出ていますので、ご興味のある方は探してみてください。
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■ 3.財務会計だけではない論点
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収益(すなわち売上)が変わるということは、管理会計にも影響を及ぼします。会社にとって売上は最も重要な指標といっても過言ではありません。投資家サイドではROEなど事業効率を見る指標が重要視されますが、社内管理では売上に紐づく管理指標が多く使われています。当然、社内管理の指標にも売上は頻繁に用いられています。例えば売上を基準に営業担当者の賞与が決められている場合、値引やリベートをどう取り扱うかによって賞与額が変わります。私の知っている事例(米国基準)では、ハードウェアとソフトウェアのセット販売を複合取引として両者に価格配分することになり、取り分争いの社内綱引きに膨大な時間が浪費されてしまいました。新基準通りの会計処理は必要ですが、それが管理会計にどう影響するのか見極めないといけません。もちろん予算管理や業績予想などにも影響が出てくる可能性があります。
税務も頭の痛い問題です。財務会計でどのタイミング(認識)でいくら(測定)収益を計上しようが、税務上で同じ判断になるとは限りません。両者で判断が異なる場合は税務調整に必要なデータを別途把握する必要があります。特に複合取引で両者の判断が分かれると複雑な事務処理になる可能性が高くなります。法人税だけでなく消費税も課題となることがあります。値引やリベートを売上控除しても消費税は控除前の総額で発生するでしょうし、財務会計上は代理人取引となっても消費税は純額ではなく総額ベースで発生します。消費税の適正計上と収益新基準対応を今の会計システムで両立できるのか考えていく必要が出てくるでしょう。
こうした対応のために、システムに手を入れなければならない可能性もあります。複合取引での価格配分のシステム化が必要なこともあるでしょう。出荷日が売上のトリガーとなっているシステムでは、履行義務を果たすタイミングも別途把握が必要になってきます。しかし単純に切り替えればよいという話ではなく、社内管理や税務調整のために従来のデータも必要だったりしますので、システムに必要な要件をきちんと見極めないといけません。
新基準が余裕を持った適用時期(2021年4月1日以降)になっているのは、こうした課題対応に時間がかかるためです。まだ3年もあると悠長に構えていると直前に大慌てします。少しずつでも対応方法を考えていったほうが良いでしょう。
ビズサプリグループでは様々な会計上の課題について対応支援を行っています。気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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リスクマネジメントの全体像

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.072━ 2018.4.20━━

【ビズサプリ通信】

▼ リスクマネジメントの全体像

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こんにちは。ビズサプリの庄村です。

新聞紙上でも、企業の不祥事関連の記事が目につきます。今回のビズサプリ通
信では、会社法で大会社に義務付けられている内部統制システムの構築の基本
方針の決定のうち、「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」、いわゆ
るリスクマネジメントの全体像について記述していきます。

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■ 1.リスクマネジメント方針
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リスクマネジメントとは、文字通り、リスクを管理することです。色々な定義
が存在しますが、一般的には企業が経営を行っていくうえで、事業に関連する
内外の様々なリスクを適切に管理する経営管理手法と定義できます。
ここでのリスクは顕在的なリスクのほか、潜在的なリスクも含まれます。

以下では、リスクマネジメントの代表的な方法を説明します。

リスクマネジメントを実施するにあたり、まずはリスクマネジメント委員会な
どの委員会を設置します。
一般的なリスクマネジメント体制は、CEOや社長など最高経営責任者を最高
責任者とし、役員の中からリスクマネジメント担当責任者を選出し、役員や部
門長などによりリスクマネジメント委員会を組織します。そしてリスクマネジ
メント委員会の下部組織としてリスク管理部署を設置し、リスクマネジメント
委員会、リスク管理部署で全社のリスクマネジメントを統括します。
さらに、各グループ、事業部、部署にリスクマネジメント担当者、リスク推進
担当者を任命し各グループ等のリスクマネジメントを管理します。
リスクマネジメント委員会では、各グループ・事業部等からあがってきたリス
クマネジメント報告の承認を行い、社内に存在する全てのリスクに対する評価
の最終化を行うとともに全社で対応するリスクの対策を議論し、策定します。

つぎに、リスクマネジメント委員会メンバーの責任や権限を明確にします。
また具体的にどのような手法でリスクマネジメントを実施するかの方針を策定
し、リスクの洗い出し、評価、リスク戦略、リスクマネジメントの目標、リス
ク対策の選択などリスクマネジメント計画を策定します。計画を策定したらリ
スクマネジメントを実施し最後はリスクマネジメントシステムの評価、是正・
改善を行い翌期のリスクマネジメントに備えます。
すなわち、リスクマネジメントの体制や方針を定めたら、あとはリスクマネジ
メントのPDCAサイクルを毎年回していくこととなります。

また、リスクマネジメントを社内に浸透させ効果的に実施するためには社内の
教育、社内リスク情報を共有するための仕組み、リスクマネジメントガイド
ラインやマニュアル等の策定が必要となってきます。
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■ 2.リスクマネジメント計画の策定

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リスクマネジメント計画の策定にあたっては、まずは、リスクの洗い出しを行
います。

リスクの洗い出し方法には、チェックリスト方式、アンケート方式、インタビ
ュー方式等色々ありますが、一般的には、リスクマネージャーがアンケート用
紙(リスク調査票)を開発し、対象部門へリスク調査票を配布します。各対象
部門から回収したリスク調査票は内容を確認し、データの集計を行い対象部門
ごとにリスクの一覧表をまとめます。
各部門から洗い出されたリスクは相当数にあがることが予想されますので、収
集されたリスクは内容別に分類されます。

また、内容別に分類されたリスクはリスクの発生頻度とリスクが顕在化した場
合の影響度で評価し、その結果をリスクマップとしてまとめていきます。
洗い出されたすべてのリスクに対応することは困難ですので、リスクマップを
作成したら、自社で優先的に取り組むリスクを選定します。
全社で優先的に対応すべきリスクとして、多くの会社では10個前後のリスク
を選定し、リスク戦略を検討していきます。

リスク戦略には、「リスク低減」、「リスク回避」、「リスク移転」、「リス
保有」があります。
「リスク低減」はリスクの発生頻度を低減させるリスク予防と影響度を軽減さ
せるリスク軽減の観点からリスクをコントロールするものであり、会社が自ら
積極的にリスクを低減させる戦略です。
「リスク回避」はリスクのある状態から撤退するものであり、リスクを行う業
務をすべて中止するリスク戦略です。
「リスク移転」は保険や契約などにより特定のリスクに関する損失の負担を他
社と分担する戦略です。
「リスクの保有」とは、特定のリスクに関する損失の負担を享受するリスク戦
略で、費用対効果の観点からリスク対策を講じないということです。

会社はリスク戦略を決定したら、具体的なリスク対策を検討していきます。
リスクと具体的なリスク対策は目的と手段になるので、複数の手段が考えられ
ますが、リスク低減度や費用対効果を加味して最適なリスク対策を選択するこ
とになります。

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■ 3.リスクマネジメントの実施、是正・改善

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優先的に対応すべきリスクとその具体的なリスク対策が計画されれば、あとは
粛々とリスク対策を実行していきます。

リスク対策の実行後は、対策した個々のリスクに対してリスクマネジメントの
パフォーマンス評価とリスクマネジメントの有効性評価を行います。リスクマ
ネジメントのパフォーマンス評価はリスクメネジメント計画で策定された対策
がどの程度実施されたかを評価することで、リスクメネジメントの有効性評価
はリスク対策がリスク戦略に沿ったものであったかを評価することです。
具体的には、例えば、店舗現金の盗難リスクとして店舗レジ前に盗難カメラを
設置する対策を策定した場合で、リスクマネジメントパフォーマンス評価は
全ての店舗で盗難カメラを設置したか否かの評価、リスクマネジメントの有効
性評価は盗難カメラを設置することによる店舗現金の盗難が減少したか否かの
評価です。

これらの評価はまずはリスクマネジメント担当の自己評価によって行われ、その
あとは内部監査部門や外部の専門家等により行われることが多いです。
また、評価結果を次年度のリスクマネジメントの実施に当たり是正・改善してい
くことによりリスクマネジメントシステムが有効に機能していきます。

ビズサプリグループでは、リスクマネジメントシステムの導入支援や外部評価
も行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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財務経理業務の改善

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.071━ 2018.3.28━━

【ビズサプリ通信】

▼ 財務経理の業務改善の進め方

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こんにちは。ビズサプリの花房です。今年の冬は実感と違わず統計データでも
いつもより寒かったそうですが、ようやく暖かくなってきたと思ったら、あっ
という間に桜が満開となりました。桜の開花も平年より1週間ほど早いようで、
今年は色々と平年とは違っているようです。そして今週の国会では、森友学園
問題での佐川氏の証人喚問に注目が集まっていましたが、昨日の報道では疑惑
解明に繋がるような発言はなかったようですね。

今国会では1ヶ月ほど前に、厚労省から提出された不適切な調査データがきっ
かけで、今回成立を目指す働き方改革法案の目玉の1つであった裁量労働制
拡大について、法案から切り離すとの決定がなされており、これによって、少
高齢化が進んで益々働き手が減ることで急がれる日本の生産性向上に、ブレ
ーキがかかるのではという声もあります。しかしながら企業としては、法案の
成立云々に関わらず、生産性向上を進めて行かなければなりません。

生産性向上が求められるのは現場だけでなく、財務経理の業務についても同様
であり、言葉を変えれば業務改善ですが、今回は財務経理業務の改善について
考えてみたいと思います。

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■ 1.経理業務の特質
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業務改善は「カイゼン」として海外でも使われているくらい、製造現場におい
ては現場発信の活動として普及していますが、経理を始めとする管理部門にお
いては、業務改善をやろうとして何度取り組んでも、なかなか進まないケース
が散見されます。

理由の1つとして、製造現場や店舗のような現場作業は、仕事の対象がモノや
サービスと言った、具体的に品質を評価したり、作業手順を標準化しやすく、
成果を絶対評価し易いのに対して、経理業務は主に情報を取り扱い、仕事の品
質や成果について明確に定義できないことが多く、絶対的な評価をしにくい、
という特徴があります。

また現場作業は工程を細かく分けることができ、1つ1つの工程をシンプルな業
務に落し込むことが出来るのに対して、経理業務は種類が多岐にわたり、複雑
な業務も多いという特色があります。

さらに評価について言えば、現場作業は通常は品質やサービス評価について専
門の部署が評価を行うことから評価手法が確立し、非効率さや不良品は製造原
価を押し上げることになるため、現場そのもののコスト削減意識が元々高い一
方で、経理業務は仕事が見えにくく、担当者のスキルの差が影響しやすいので、
品質管理が難しく、非効率な作業によるロスも金額的に評価することが難し
い、と言えます。

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■ 2.業務改善のプロセス

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このように経理業務は見えにくく評価しづらいからと言って、業務改善を諦め
るわけにはいかないので、ではどのように経理業務を改善して行けばいいかの
プロセスを示すと次のようになります。

経理業務に限らず業務改善は通常、大きくは、①業務の可視化、②業務の定量
化、③課題・問題の特定、④解決策の策定・導入、の流れになり、それぞれ、

①業務の可視化:現状の業務内容を棚卸しすること
②業務の定量化:それぞれの業務内容について工数(時間)を算出すること
③課題・問題の特定:現状の姿とあるべき姿のギャップ=問題点、を把握する
こと
④解決策の策定・導入:現行プロセスを前提とした改善と、プロセスそのもの
を再構築する改革

ということになります。

業務は放っておけば、自然と増えるものです。例えば上司が変わると要求する
資料が変わる、制度が変わり新たな資料の作成が求められる、担当者の引継ぎ
の中で、伝言ゲームのように当初の最短だったプロセスが遠回りなプロセスに
代わってしまう、監査の厳格化に伴い監査対応の時間が増える、等その原因を
挙げるときりがありません。

そこで、業務効率化の第一のステップとして、現状どのような業務を行ってい
るかを改めて棚卸し、適切に現状を把握をすることから始める必要があります。
業務の棚卸は自己申告による方法もありますが、合わせて担当者が業務上支障
があると感じていることも情報として有用ですから、経理業務全体の経験と
知識を有するものが、個々の担当者にインタビューしてまとめて行く方が望ま
しいです。

業務効率化のステップの2番目は、棚卸して把握した業務について、工数=実際
の作業時間を算出することです。その目的は、全ての業務を一度に改善できる
わけではないので、工数の多い業務から手を付けた方が改善効果は高いため、
改善の優先順位を付けるためです。

そして業務上の課題、問題を特定し、解決策を考えて行くわけですが、その際
の視点として、次の8つのポイントで現行業務を見極めると整理しやすいです。

「廃止」…現行の成果物をやめる、作業をやめる、チェックをやめる
「削減」…現行の成果物のボリューム、頻度、細かさ、例外処理を減らす
「容易化」…情報の入手し易さ、判断のし易さ、後戻りしない仕組みにする
「標準化」…ルール化、ミスの起こりにくい仕組み、ルーチン業務にする
「計画化」…前倒し実施、集中化、作業時間の短縮、他部署等との連携
「分業化」…スキル・経験による最適配置、業務量の平準化、外注化
「同期化」…重複資料の統一、関連業務の集約、ワークシートの統合
「自動化」…単純業務に関するExcelの関数・マクロの活用、システムの導入

どの業務も基本的に上記の8つの観点で課題がないかを検討し、課題があれば
改善が期待できることになります。

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■ 3.「改善」と「改革」の違い

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業務改善と似た言葉で、業務改革という言葉があります。業務改善は自動車で
言えばいわばマイナーチェンジで、現行業務の基本的な流れは維持しつつ、一
部をよりよく変えること、例えばエクセルの資料を簡素化したり、不要な作業
を削減するのに対して、業務改革はフルモデルチェンジであり、ゼロベースで
一からプロセスを再構築することで、例えばエクセルの資料を一から作り直す、
システムを導入する、アウトソース化、ロボットの導入、等です。

業務改善ですと、抜本的な解決策にはならないので改善効果は自ずと限界があ
り、数%から多くても1,2割程度の改善に留まるのに対し、業務改革では、業
務量を半減、あるいは成果を2倍にするような、ドラスティックな成果を求め
ます。業務改革を成功させるためには、最初に全体の設計図、グランドデザイ
ンを如何に描けるかが特に重要となります。

最近話題になっているように、労働人口減少に対応するため、これらかのトレ
ンドとしては、ITのクラウド化による低価格化、AIを搭載したロボットの進化
により、これらを活用した業務の効率化が進むと考えられます。但し気を付け
なければならないのは、現状はまだ任せらるのはコピペのような単純作業で、
ルールが完全に決まっている業務には向いていて、むしろ人がやるよりも速く
て正確ですが、複雑で高度な作業(経理で言えば決算上の見積り計上が必要な
業務等)は引き続き人が行う必要があると思います。またロボットの設定やメ
ンテナンス、最終的なチェック業務と言ったものは人が行うことになるので、
作業が減る一方ではなく、増える作業も出てきます。

また最近は経理人材の不足している中で、財務経理業務の一部、あるいは財務
経理業務そのものをアウトソースすると言ったことも増えてきているようです。
アウトソース先が信頼できる先であれば、退職者が出たらそれを補充して教育
すると言った、採用コストと教育コストが不要になることから、結果的に内製
化よりもコストパフォーマンスが高いこともあり得ます。

ゴールとして何を目指すのかにより、とりあえずマイナーチェンジで行くのか、
一時的に時間とコストをかけてでもフルモデルチェンジを行うのか、国の働き
方改革の方向性は読めませんが、皆様の会社では確実に働き方改革を実践でき
るよう、検討されては如何かと思います。

ビズサプリグループでは、会計士の他、事業会社での経験豊富なコンサルタン
トによる業務改善支援、システム導入支援、財務経理業務のアウトソースも行
っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

ハレの日騒動とリスクマネジメント

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.070━2018.02.21━


【ビズサプリ通信】


▼ ハレの日騒動とリスクマネジメント

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こんにちは。ビズサプリの辻です。今年の冬は本当に寒い日が続いていますね。
インフルエンザも大流行はやっと過ぎ去ったらしいですが、まだまだ警報レベ
ルが続いているとのこと。春まではもう少しの辛抱です。

本日は、リスク感度について書いてみたいと思います。

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■ 1.「ハレの日」騒動

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少し前になりますが、先月、成人式の晴れ着をめぐる騒動がありました。

横浜市等の成人式の着付け会場に届くはずの振袖が届かず、多くの新成人が
晴れ着を着ることができずに大きな混乱が生じたというものです。人生の記念
すべき晴れの日に、楽しみにしていた振袖を着ることができずに混乱の中涙する
新成人やその親御さんの姿が何度も報道され、大きな衝撃を受けました。

その後に被害額は億円の単位となり、大量に振袖がネットオークションに出品
されているという報道もあり、計画的な詐欺事件かとも思いましたが、その後
事件の当事者の「ハレの日」の社長が謝罪会見を行い、詐欺の意図はなく、
資金繰りがつかず、営業を投げ出したのが要因ということがわかりました。

少なくとも預けていた振袖は転売されているわけではなく、順次手許に返却
されるということで、最悪の事態ではなかったようです。

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■ 2.振り込む前にリスクを想定していたか

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今回の騒動は、「ハレの日」という会社に全面的に責任があるのは確かです。
しかし、購入する側も高額の買い物をする際にもう少し「リスク」を考える
必要はなかったでしょうか。

報道によると、「ハレの日」では、2年後の成人式の晴れ着についても受注を
行い、そして入金を強烈に促しており、今回戻ってこない振袖の代金の一部は、
来年以降の振袖の代金でした。

少し落ち着いて常識的に考えてみれば、2年後の振袖の代金をすぐに振り込ま
なければいけない状況は、非常に違和感があるということに気づくことができ
たのではないでしょうか。

そこまで思いが及ばなかったとしても、「お金を振り込み、商品の到着が2年後
になる」ということは、その間に会社が倒産すれば当然そのお金は返ってこない
という「リスク」をきちんと認識をしたうえで、入金をしたのでしょうか。

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■ 3.リスクに背を向ける日本人

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そのようなリスクを想定していた方は恐らくほとんどいなかったと思います。
振袖という特別のものを購入するということでリスク感度が鈍っていたのかも
しれませんが、日本人は、もともと「リスクを見ない」「リスクに背を向ける」
という傾向にあるといわれています。日本人は文化的に「相互監視と相互規制
の仕組み」があり、変なことをすればその社会で生きていけなくなるという
村八分的感覚で信頼関係を気づいているという背景があるといわれています。
(「心でっかちな日本人」 山岸俊男著)文書化されたルールや契約、モニタ
リングといった明確な根拠がなくても「変なことはしないよね。」という
暗黙のルールがあり、その中にいる人同士であれば、盲目的に信じてしまう
ということになります。

例えば最近生じている「品質データの改ざん」についても、納入先の企業は
納入元の検査結果を全面的に信じており、例えば検品の際にサンプルで検品の
テストをする、といったことは行っていなかったようです。
長年の信頼している取引先だから大丈夫といったことで、取引相手が不正を
行うリスクを識別しないまま盲目的に信頼してしまっていたからでしょう。

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■ 4.リスクマネジメントの考え方

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すべての事柄に対していつもリスクを検討しているのは非効率ですから、重要
なリスクを抱えるという時、個人でいえば例えば住宅を購入するときには慎重
に考慮する必要があります。例えば値段だけではなく、災害やメンテナンス、
周辺の環境等様々なリスクを考えて決断をしていくことが必要なはずです。
水害が起きやすい地域であれば、同条件の他の物件と比較して値段は安いはず
ですが、そのリスクを認識したうえで、対応をしていくことになります。
対応とは、例えば保険を掛ける(リスクの共有)、排水溝を整備する
(リスクの軽減)、購入をあきらめる(リスク回避)ということになります。

ビジネスであれば、例えば買収をする際には、開示されている財務数値だけで
なく、法令や内部統制、ビジネスの将来性、従業員の構成等様々な観点から
できる限り網羅的にリスクを識別し、その識別したリスクの大きさや対応方法
を考慮した上でリスクを取るか取らないかといったことを決断していくことに
なるわけです。買収後に思わぬリスクが顕在化して十分シナジー効果がでない
のは、この事前準備が不十分でリスクを十分識別できていないことも多いと
思われます。

新成人がこれから足を踏み入れるビジネスの世界は、健全な懐疑心を持ちなが
ら、時にはリスクを果断に取りながら物事を進めていかなければならない世界
です。中には、スキがあればつけこもうとする人もたくさんいます。また、対処
すべき相手は同じ文化で育った日本人だけでなく、様々な背景を持つグローバル
な世界が相手です。自身がこれから行う行動には、どのようなリスクがあるの
か、何が最大の損失なのか、その最大の損失は避けるべきレベルにあるのか、
そのようなことを考えながら前に進んでいかなければなりません。

今回の「ハレの日」の騒動は、そのような世界が待っていることをしっかり認識
するいい機会と思い、力強い大人になって頂きたいと思います。
また十分大人の私たちもリスク感度を高めていかないといけないですね。

本日もビズサプリ通信をお読み頂きありがとうございました。

経理の業務

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.069━2018.02.07━


【ビズサプリ通信】


▼ 経理の業務

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はじめまして。

この1月より新たにビズサプリに入りました泉です。
ビズサプリは2010年10月に設立され、8年目でありメンバーには諸先輩方が
多い中、一番の若手(とはいっても40前ですが…)としてがんばっていき
たいと思います。
どうぞこれからよろしくお願いいたします。

簡単に自己紹介をしますと、監査法人の勤務後に一般事業会社の経理部で
勤務し、その後コンサルティング会社にてIPO支援やJSOX支援のほか、経理
業務のコンサルティングをしてきました。

今回は、みなさん知っているようであまり知らないのではないかと思う経理
業務についてお話したいと思います。

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■ 1.経理のイメージ

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経理マンの典型的なイメージといえば、腕まくりをし「アームカバー」
「腕抜き」といったものをつけ眼鏡をかけて、ちょっと人とコミュニケーション
をとるのが苦手な感じでずっと数字をいじっている人というものではないで
しょうか?(ちょっと古いですかね。)

ただ、私が監査法人にはいった2000年代前半では、すでに一般的に個人別PC
が普及し、会計システムやExcelによる作業がほとんどでありこういったペン
やインクでの作業はなくなっていたため、実際はこういった人は稀でした。
ただ、確かにちょっとお年を召した方はそういったような様子も伺える時期でした。

経理」という言葉を辞書で調べると、会計・給与に関する事務といった意味
のほかに治めととのえることといった意味も記載されており、人によっては
経営管理」の略だというひともいます。
つまり、単純に伝票を集めてきて集計する、支払いを行う、金庫番をすると
いった業務だけでなく、本来は全社の数字に関わる情報すべて集め、整え、
会社が健全に成長できるようにすることが経理の業務であると考えられます。

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■ 2.経理に求められる役割

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では、実際に社内における経理に求められる役割とはどういったものなので
しょうか?

従来、経理・財務部門の主な業務は、決算を締めて実績数字をいかに正確に
“作る“か、資金繰りを間違わずきちんとするかかということでした。
そのため、経理部員はいわゆる簿記・会計知識(理論)等の専門知識をもって
いかにルーティンワークを正確に実施するか、ということが重要視されていました。

それ自体は今でも十分重要な業務ではありますが、変化の激しい現在の経営
環境下では、経理・財務部門に期待される役割が変わってきており、従来の
まま経理実務のプロフェッショナルとしては通用しない状況となっています。

具体的には経理・財務部門にはその作った数字に対して分析、経理情報等に
潜んでいる経営上の問題点の把握、さらにマネジメントが経営判断を実施する
際に有用な情報を提供することがより重要となってきています。

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■ 3.経理の具体的な業務内容

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経理・財務部門の業務は大きく次の3つに分けられます。
財務会計(制度会計)
金融商品取引法会社法、税法といった制度に則り、株主や債権者などに
会社の財政状態や経営成績を適切に報告する業務
管理会計
経営層や中間管理職が事業上の意思決定をサポートできるようにするため
に、中期経営計画の策定、予実分析や各種KPI資料などを作成、分析、報告、
提案する業務
〇資金管
各種計画に基づいた必要な資金を調達、運用するとともに、現金出納や支払
などの日々の資金管理を行っていく業務

この3つの業務のうち、上で述べたように、会社の意思決定への情報提供等が
期待されるということは業務における管理会計の比重が重くなってきている
ということになります。特に上場企業では、一般的に経理と財務の分離の
観点から資金管理は財務部となっていることも多いかと思います。
なお、昨今の東芝の例をみていると、会社の外からはブレーキ役としての
機能も期待されているのかもしれません。

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■ 4.経理は忙しいのか

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経理の人はいつも忙しい」というイメージがあるかと思いますが、実際に、
経理の人は忙しいのでしょうか?

一般的な上場企業の経理部は、毎月次の業務を行っています。
月次決算:7日前後で単体決算、10日前後で連結決算
取締役会対応:第2、3週に開催される取締役会への月次報告資料(予実分析、損益分析など)
入出金業務:現金出納、債権の入金消込、月次の支払業務
税務業務:源泉所得税、特別徴収住民税、消費税の中間納付

さらに上場企業の場合は金融商品取引法に基づく四半期ごとの法定開示業務と
して、(四半期)決算短信、(四半期)有価証券報告書の作成、JSOX対応、
監査法人の対応を行います。
会社法に対応する年度決算業務として計算書類等の作成、(場合によって)
株主総会の準備や実施。税務業務として、1月の償却資産税申告、法定調書
作成、支払調書の作成、年度末決算に基づく、法人税、住民税および事業税、
消費税の申告を行います。

一口に支払業務といっても、実際は現場からの支払申請に基づき請求書等の
エビデンスと照合したうえで支払データを作成し、何人もの確認をへてから
送金されますので意外と手がかかります。(お金が動く以上、当然といえば
当然ですが…。)

また、ひと昔前は四半期決算もJSOXもなく、その前は連結もない時代でした
が、1990年代後半以降は会計基準の制定が急激に進み、また、税務も外形
標準課税や組織再編税制といったものにより経理部門の高度化、複雑化が
進んでいます。

この上に従来からある管理会計としての中期経営計画や予算策定といった業務
に加え、さらに管理会計の比重が重くなるということはかなり大変だという
ことがご理解を頂けると思います。

最近、経理部門の人材が不足しているようでなかなか人の採用ができないと
いう話はよくききますし、「いい人いないですか」ということもよく言われ
ます。

ビズサプリグループでは、経理財務人材の人材紹介業務、財務経理業務の
改善コンサルティングアウトソーシングも行っておりますので、何か
ありましたらご相談ください。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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