株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

東芝の特注指定解除は勇み足

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.063━2017.11.01━━
【ビズサプリ通信】
▼ 東芝の特注指定解除は勇み足
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 結構暖かな日が続いたと思ったら、急に11月下旬並みの気温に下がりまし
た。季節外れの台風が毎週のように来ます。10月の長雨も127年ぶりとのこ
と。皆様、健康管理にはご留意ください。
 さて、東京証券取引所は10月12日付で、東芝の特設注意市場銘柄(特注)
の指定を解除すると発表しました。これによって、上場廃止の恐れを周知する
「監理銘柄(審査中)」の指定も外れました。そのため東芝の株価も少し上が
っているようです。今回の【ビズサプリ通信】では、この東証の指定解除に
ついて考えてみました。

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■ 1.これまでの経緯
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 東証は、2015年9月、東芝による過去5年度分の訂正報告書の提出を受けて、
特設注意市場銘柄に指定しました。東芝は、その1年後の2016年9月に内部
統制の改善状況を報告する「内部管理体制確認書」を東証に提出しました。
しかし、東証は改善が不十分として特設注意市場銘柄の指定を継続することに
しています。
 東証は、特設注意市場銘柄に指定した1年半後の2017年3月には、上場
廃止となる恐れがあることから「監理銘柄(審査中)」に指定しました。
東芝は、このタイミングで東証に対して、再度「内部管理体制確認書」を
提出しました。この東芝による内部統制の改善状況の再度審査を開始する
時点で、東証は「監理銘柄(審査中)」に指定したということになります。
 このような経緯で冒頭のとおり、東芝の「特設注意市場銘柄」と
「監理銘柄(審査中)」の解除が行われたことになります。東証のこの審査は
「内部管理体制確認書」が提出された3月から10月まで7ヶ月かかったという
ことになります。

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■ 2.監査法人の監査意見は限定付き適正意見
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 この東証による審査の間に、東芝有価証券報告書を提出しています。
そこで明らかになったのは監査法人の監査報告書が「限定付き適正意見」
であったことでした。
 これは「6,522億円もの金額が、場合によっては全額前期の損失として
計上すべきであった」という限定事項でした。我々専門家から見て、
「こんな限定事項ありか? これなら不適正でしょ」としか考えられない
ものでした。
 この監査意見が不適正意見なら即上場廃止になっていたところでした。
新聞紙上では適正意見が出たので、次の課題は当期末に債務超過が回避できる
かどうかだ、という論調に変わりました。
 限定付き適正意見というのは、決算の一部分が適正でないということです。
それも東芝の場合、上述のとおり最大6,522億円もの金額が当期の損失と
すべきでないというものでした。実は、この6,522億円が絶妙な金額で、
もしこの金額を前期(2016年3月期)に損失として計上していたら、前期決算
はギリギリ債務超過にならない金額でした。もしこの金額が6,800億円だっ
たら、2期連続債務超過になっていたところです。すなわち、監査法人
よる限定付き適正意見はスレスレのウルトラCだったのです。

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■ 3.内部統制は不適正
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 限定付き適正意見は決算書に対する監査意見ですが、内部統制報告書に対す
る監査意見は「不適正意見」だったということは、あまり報道されていません。
東芝は「内部統制は有効」という報告をしていますが、これに対して監査法人
は「有効でない」と結論づけたため、監査法人は「不適正意見」を表明したの
です。
 東証は、東芝が提出した「内部管理体制確認書」を審査したことになって
います。監査法人が「内部統制は有効でない」としているにも関わらず、
東証は特注の指定解除をしたことになります。

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■ 4.内部統制の懸念は解消されたのか
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 いくら監査法人の監査意見が限定付き適正意見(決算書)であったり、
不適正意見(内部統制)であったりしても、過去の状況を示しているにすぎ
ない、という反論があると思います。決算と内部統制は2017年3月期以前の
状況です(厳密には内部統制の評価は期末時点)。東証は現時点と将来を見て、
特設注意市場銘柄の指定解除をしたのだと思います。それでは、東芝の現在と
将来の問題が解消されたのでしょうか。
 報道されているように半導体事業が2018年3月末までに売却できないと、
2018年3月期で2期目の債務超過になり、東芝上場廃止になります。
懸念材料はこれだけでしょうか?
 実は、2017年3月期の東芝の連結財務諸表にはウェスチングハウスグループ
が含まれていません。その結果、ウェスチングハウスグループの内部統制は、
評価対象から外れています。筆者はこれが重要な問題と思っています。
 ウェスチングハウスグループという一種の「爆弾」を抱えた状態であるにも
関わらず、その会社(子会社を含む)の決算が除外され、内部統制も評価対象
に入っていないという状況なのです。破綻した会社は連結から外しても良いと
いう米国会計基準によって、これらの会社は連結から除外されていますが、
これによって内部統制の評価対象も自動的に対象外となります。
 これは筆者の推察ですが、東証に提出した「内部管理体制確認書」に
ついてもウェスチングハウスグループは除外されていたのではないかと思い
ます。ウェスチングハウスの内部統制に問題があれば、子会社のウェスチング
ハウスの決算が適切にできない可能性があり、ウェスチングハウスの正しい
財務情報がタイムリーに親会社の東芝に伝わって来ないということになります。
それは後になって、減損、債務保証損失、損害賠償損失のような形で現れると
思います。そのような状況では東芝の決算が適切にできるとは思えません。
 これまでも、ウェスチングハウス関連で、急に7,000億円を超える減損が
計上されたことが報道されています。この大部分が限定付き適正意見の対象に
なっていると考えられます。これは減損の対象になる資産がそもそも計上され
ていない状況で、資産(のれん)を計上すると同時に減損処理したことから
発生しました。ウェスチングハウスグループの内部統制がわからない状況では、
何が起こるかわからないということが言えます。
 以上から、東証による特設注意銘柄と監理銘柄(審査中)の解除は、
「勇み足」と言わざるをえません。

 本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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議決権行使助言会社

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.062━2017.10.17━━━

【ビズサプリ通信】

▼ 議決権行使助言会社

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こんにちは。ビズサプリの庄村です。秋の深まりを感じる季節となりましたが、
いかがお過ごしでしょうか。収穫の秋を迎えておいしいものをついつい食べ過
ぎ過ぎてしまっている方もいらっしゃるかもしれません。今回のビズサプリ通
信では、議決権行使助言会社について取り上げたいと思います。

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■ 1.議決権行使助言会社とは
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来期の株主総会に向け、水面下で色々と検討している会社も多いと思います。
新聞やインターネット等で議決権行使助言会社ということばを良く耳にします
が、議決権行使助言会社とはいったいどのような会社なのでしょうか?

議決権行使助言会社とは、株主総会での議決権を持つ機関投資家を顧客とし
て、投資先企業の株主総会議案に対する議決権行使について賛成・反対の推奨
を行う会社です。具体的には、機関投資家に対して株主総会での議決権行使に
参考となるレポートを配信している会社です。

機関投資家株主総会で議案に賛否を表明しなければなりませんが、投資先企
業がとても多く、株主総会が一時的に集中する場合、個々の議案に十分に時間
をかけるリソースがないため議決権行使会社のレポートを参考にするのです。

議決権行使助言会社で有名なのは、米国のインスティテューショナル・シェア
ホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイスの2社です。
議決権行使助言会社機関投資家機関投資家の投資先企業から個々の議案に
対する賛否の理由を求められます。そのため、ガイドラインを公表しています。

以下2,3では、2017年に改定した議決権行使助言会社ガイドラインの主な
改正点をご紹介します。


日本では、2017年5月に日本版スチュワードシップ・コードが改訂され、機関
投資家の議決権行使の個別開示が始まりました。
日本の機関投資家議決権行使助言会社ガイドラインを参考にすることでしょ
う。そのためこのガイドラインはアメリカの会社が作成したものですが、日本で
も注目を集めています。

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■ 2.相談役・顧問制度

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日本企業では、取引先との関係維持や社内での相談に乗るため相談役や顧問が
いる会社が多いようです。
2016年9月に実施した経済産業省のアンケートによると、東証1,2部上場会社
のおよそ62%において相談役・顧問が就任していることが分かりました。

2017年の米ISSガイドラインでは、相談役や顧問を新たに規定する定款変更
議案について反対を推奨することとしました。
それは、相談役や顧問は取締役ではないため、株主代表訴訟の対象にもならない
し、また、その報酬や活動状況が外部に開示されないことが理由です。
したがって、相談役や顧問を取締役の役職として規定する定款変更決議について
は反対を推奨していません。この場合、必要であれば取締役に対して責任を問う
ことができるためです。

会計不祥事問題が明らかになった東芝では、会長や社長を退いた経営者が相談役
としてトップの人事や企業経営に大きな影響を与えてきました。
後継者である現在の会長や社長が、前任者(相談役や顧問)が決めた企業戦略を
変更することが難しくなってしまします。

東芝の会計不祥事事件がISSガイドライン改訂に影響を与えたのかもしれません。

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■ 3.社外役員の兼務制限

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米グラスルイスの2017年に改定したガイドラインでは、役員兼務数の上限の引
き下げを行いました。
上場会社の執行役員を務めていない役員については、6社以上の上場会社で取
締役・監査役を兼任することに反対を推奨することとしました。
上場会社の執行役員を務めている役員については、3社以上の上場会社で取締
役・監査役を兼任することに反対を推奨することになりました。

近年の取締役または監査役の責務は重くなる一方で、社外役員がその役割を果
たすためには、十分な時間を必要とするためです。
社外役員は事前に送付される取締役会の資料を熟読し内容を理解したうえで取
締役会へ出席したり、会社の事業などを理解するために、工場や店舗を往査し
たり、会社幹部と面談など、十分な時間が必要となるためです。
兼務を制限して当該会社に時間をかけてほしいとの要請と思われます。

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■ 4.日本版スチュワードシップ・コードとの関連

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前述した、2017年5月に改訂された日本版スチュワードシップ・コードでは、
指針5-4にて、「機関投資家は、議決権行使助言会社のサービスを利用する
場合であっても、議決権行使助言会社の助言に機械的に依拠するのではなく、
投資先企業の状況や当該企業との対話の内容等を踏まえ、自らの責任と判断の
下で議決権を行使すべきである。」としています。

ISSでは、取締役会への出席率が75%に満たない取締役選任議案に反対推奨す
る方針でしたが、2016年6月に開催されたソフトバンクグループの株主総会
前年度の取締役会出席率が56%と、75%に満たない社外取締役である永守重
信・日本電産会長兼社長の再任議案に賛成推奨したようです。
取締役会への出席率は低いものの人物本位で評価した結果です。

形式にとらわれず、実質で評価することが必要ではないでしょうか。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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株式の非上場化

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.061━2017.9.29━━━

【ビズサプリ通信】

▼ 株式の非上場化

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こんにちは。ビズサプリの花房です。9月も終盤に入り、来週はもう10月です。
朝晩が涼しくなって季節の変わり目を感じます。今回のビズサプリ通信では、
株式の非上場化、特にMBOについて取り上げたいと思います。

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■ 1.USEN上場廃止
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今年の8月10日に、㈱USEN上場廃止となりました。上場廃止理由は、「株式
会社U-NEXTとの経営統合及びそれに伴う持株会社体制への移行のため…」と
あります。U-NEXTは動画配信サービス、USENは有線放送の会社であり、両社
とも筆頭株主宇野康秀氏であり、営業基盤を共有し、経営効率を高める狙い
のようです。経営統合のスキームとして、U-NEXTがUSENに公開買付(TOB
をする形で行うのですが、事実上、宇野氏によるマネジメント・バイアウト
MBO)と見られています。

スキームの詳細は省略しますが、今年2月13日付のUSENの開示資料において、
「宇野氏は、当社の主要株主である筆頭株主であり、かつ、公開買付者の
完全親会社であるU-NEXTの代表取締役社長及びその支配株主であるUNO-
HOLDINGSの一人株主です。このように本公開買付けは、当社の取締役会長
及び主要株主である筆頭株主である宇野氏の主導の下で行われることから、
本経営統合はいわゆるマネジメント・バイアウトMBO)に類する取引で
あると考えております」と記載しています。

同様の資料に、「マネジメント・バイアウト(MBO)とは、公開買付者が当社
の役員である公開買付けのことをいいます。」とあり、宇野氏がUSENの役員
であってかつ、宇野氏個人がUSENを買い取るのであれば、MBOそのものです
が、今回のスキームは宇野氏個人ではないけれども、総合的に判断すると
実質的にMBOだと言っているのだと思います。

そして通常、MBOをする際には、対象が上場会社の場合は買収者の持分はさほ
ど大きくないので、買い付けに必要な資金を借り入れるのが一般的です。
今回のUSENのケースでも、合計800億円を上限として借り入れる予定との
ことでした。

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■ 2.MBOのメリット・デメリット

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MBOの理由は様々ですが、USENの場合は、筆頭株主である宇野氏の下、U-
NEXTの傘下にU-NEXTの既存事業を切り出した会社、USENの既存事業を切り
出した会社、その他の子会社を配置する持株会社制とすることで、「マネジ
メントとして最適な経営資源の配分を実行することができると考えている」
と言っています。

株式を上場すると、経営がガラス張りになり、経営者が長期的な思考で将来の
事業を構築しようとしても、それが短期的には収益に繋がらない、あるいはコ
ストがかかると判断されれば、短期的には利益が減る可能性があることから、
すぐの配当や株価上昇を期待する株主からは、反対される傾向にあります。

そうすると経営者は株主の期待と本来自分がやりたいことのはざまで悩むこと
となり、会社の従業員や将来性を考えた場合、上場を廃止し、余計な外部の圧
力を極力減らす道を探すこととなり、それが非上場化、ひいては自らが株式を
買い取る道を選択すること、すなわちMBOを行うこととなるのです。

そうすると経営者は外部の株主を気にすることなく、従業員のことを大切にし、
リストラをすることなく長期雇用で家族経営を継続する、あるいは権限を社長
に集中できるので、意思決定を迅速化し、チャンスを逃すことなく実行できる
利点もあります。

但しそれはもろ刃の剣でもあり、権限が社長に集中する結果、社長によるワン
マン経営(部下の進言に耳を貸さなくなる)、会社としてハイリスクな選択を
すれば、ハイリスクを負いやすくなる、社長個人も多額の借入により、業績が
改善しなければ、返済できないリスクを負いやすくなる、コンプライアンス
対する意識が希薄になる、というデメリットもあります。

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■ 3.不況に強いのは上場会社かオーナー会社か?

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少し前になりますが、2014年7月11日付の日経新聞の記事で、『オーナー
企業、資産の効率利用でサラリーマン経営上回る』という記事がありました。
その要旨を簡単に述べると、大株主に創業家や創業一族がいたり、経営に携わ
ったりする企業を「オーナー系」、それ以外を「非オーナー系」に分け、業績
や財務などを比較した結果、総資産利益率(ROA)は非オーナー系が平均
7.83%に対してオーナー系の平均は9.03%と大きく、またその他の指標も総
じてオーナー系の方が成績が良かったと言うのです。

非上場会社=オーナー会社ではないですが、非上場の会社は上場会社に比べて
株式の売買が自由でない分、株式が誰かに集中しやすい傾向にあるのは事実で
す。そしてMBOは経営者が中心となって株式を買い取るため、MBOした会社も
一種のオーナー会社と言えます。実際MBOの多くは、元々創業者が上場後、
株式を買い戻すケースも目立ちます。

元々の創業者、あるいは当初はサラリーマン社長であってもMBOをする経営者
は事業への思い入れが非常に強く、リスクを取って、すなわち覚悟を以って
経営できるのが強みのように思います。そしてそのような経営者は総じて行動
力や従業員を大事にする姿勢から、カリスマ経営者として、従業員のベクトル
を一つの方向へ集中することで、大きな改革を成功に導けるのでしょう。

不況下においてはいち早く課題を把握し、対応策を計画し、実行するスピード
感が重要となります。また現在企業が置かれている環境は、国内における市場
規模の成長の限界・縮小や、世界的な社会情勢の不安感、AI、IoTに代表される
ITの進化等の中、企業自身がドラスティックに変化・対応していかなければな
りません。その意味で社長1人で意思決定できず、取締役会、場合によっては
株主総会を経なければ行動できない上場会社と、社長の一存で物事を決め、全
社員をいつにまとめられる求心力のあるオーナー会社の方が、一般的には優位
であると言えそうです。

冒頭のUSENに限らず、昨年はマネースクエアHD、アデランス、今年はTASA
KI等、有名企業のMBOが続いています。またかつてMBOした企業の再上場で
は、2014年のすかいらーく、今年3月のあきんどスシロー等があります。
一度MBOで非上場化した後で改革を行い、体制を立て直して再び成長軌道に
乗せ、再上場を図るというのも企業の戦略の1つと言えます。

一方で上場会社の方は一般的にその知名度、社会的安心感から優秀な社員を集
めやすく、借入だけでなく資本市場からの資金調達が出来るので多額の資金を
集めやすい、会計監査を受ける過程において内部統制がきちんと整備・運用さ
れることや一定のガバナンスが求められることから、経営管理体制が充実する、
といった点で優位性があります。

起業した経営者の1つの目標は「上場」です。ある程度ビジネスが軌道に乗り、
より成長を加速するため、上場することを目指しますが、上場そのものが目的
ではなく、上場していることを通じて、会社の理念や経営方針の実現を目指し
て行くことが肝要です。最近は『ESG』投資という言葉もあり、環境(Environ
-ment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重要視して投資を
する考え方です。

シリコンバレーでは、世の中の問題解決型の起業が多いとも聞きます。やはり
起業の目的として重要なのは、いかに世の中の役に立つか、ということではな
いでしょうか。そのための戦略の1つとして、上場か非上場化の選択があると
思います。

ビズサプリグループでは、上場支援、企業再編、M&A、PMIにおける各種支援
も行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

 

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真実の瞬間(Moment of Truth)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.060━2017.9.13 ━

【ビズサプリ通信】
▼ 真実の瞬間(Moment of Truth)
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ビズサプリの三木です。
今回のメールマガジンでは「真実の瞬間(Moment of Truth)」について紹介します。
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■ 1.Moment of Truthとは
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仕事に人生に常に全力投球したいのは誰しも同じですが、現実問題として人間には好不調の波がありますし、集中力にも限度があります。チャンスを逃さないようにするには勝負どころをしっかり把握したいものです。スカンジナビア航空の元CEOのヤン・カールソン氏は、この勝負どころのことをMoment of Truthと呼んで重要視しました。
これは営業職だけでなく、直接顧客と接しない内勤者でも平社員でも同じです。勤め人であれば上司との間でのMoment of Truthがあります。仕事だけでなく人生でもMoment of Truthがあります。一目ぼれなどはまさにそうでしょうし、重要な試験がその瞬間ということもあるでしょう。あるいは思いもよらなかったことが後で振り返ると人生の岐路となっていることもあったりします。
人生は有限であり、第一印象を得る機会は一度しかありません。一度きりのチャンスを逃さないようMoment of Truthを意識して生きたいものです。

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■ 2.複数のMoment of Truth
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営業を例に考えてみると、顧客にとってMoment of Truthは1回ではないこともあります。
例えば、ネットで商品を検索し、実際の店舗で購入、持ち帰って使用することを考えてみます。ネットで探したときに「最近はこんな機能もあるんだ」「カッコ良さそうなデザイン!」と感じることもあるでしょう。店舗で実際に商品をみて一目ぼれするケースもあるでしょうし、店員の親切な説明が決め手になることもあります。逆に、何の気なしに買ったものでも、使って見てその性能や使い勝手に感動することもあります。
売り手にしてみれば勝負どころが複数あることになりますが、すべてに張り込むことは難しいので通常は焦点を絞ります。例えば価格勝負の牛丼チェーン店であれば「この値段でこのボリューム!」と思わせるコストパフォーマンスが重要でしょう。高級レストランでは「素晴らしい顧客サービス!」と思わせることが重要で、来店いただいた時に備えて店員をしっかり教育します。
会計的には、売上100円に対するコスト構成を考えるとこの辺が見えてきます。価格勝負の牛丼チェーンであればコストパフォーマンスを裏付ける材料費率が高くなるでしょうし、高級レストランであれば顧客サービスを裏付ける人件費が高くなるでしょう。通常の会社であれば自然と勝負どころに費用をかけるコスト構成になりますが、もし「見当違い」なコスト構成になっているとしたら問題です。
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■ 3.経営管理との関係
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昔は勘と経験で経営管理をしてきましたが、今は多くの会社で定量的な経営管理手法を採用しています。バラつきを抑える改善手法であるシックスシグマ、価値とコストのバランスに注目するバリューエンジニアリング、指標の置き方そのものに注目していくバランススコアカードなど、大きな会社になれば何らかの定量的手法によって経営管理や業務改善をしています。ビッグデータが扱いやすくなってきたこともこの流れを後押ししています。
大きな会社になるほど勘と経験では管理できず、定量化しなければ全体像が見えませんから、この流れは必然と言えるでしょう。しかしながら忘れてはいけないのは、多くの経営管理手法では出発点として「顧客満足度」や「顧客にとっての価値」を用いていることです。ここの定量化がうまくできていないとどんな経営管理手法も意味がありません。そして、顧客がその製品やサービスに惚れ込み価値を認めるのは、実はMoment of Truthの一瞬なことが多いのではないでしょうか。
経営管理手法は、一度導入してしまうと数字が独り歩きしがちです。顧客にとってのMoment of Truthをしっかり捉え、そこにウェイトを置いた設計になっているかどうか、時に見直してみるのもよいかもしれません。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

OJTを考える

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.059━2017.8.23━

【ビズサプリ通信】

▼ OJTを考える

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ビズサプリの辻です。

お盆休みも終わり8月も後半になりましたね。8月に入って夏がどこかに行って
しまったかのような雨模様が続きます。涼しくていいのですが、夏の太陽も少
しは恋しい感じもします。

さて、今日はOJTについてお話をします。
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■ 1.OJTとは

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OJT(On the Job Training)とは職場の管理者や先輩が、部下や後輩に対して
仕事を通じて指導育成を行うことを言います。これに対して、職場から離れて
受講するタイプの指導育成方法をOFF-JTといいます。

少し前の調査にはなりますが、2010年の産業能率大学による「経済危機下の
人材開発に関する実態調査」によると、回答企業の9割近くが、人材育成の方法
として「OJTが中心」と回答しているそうです。一方で「OJTが有効に機能して
いる」と回答している企業はなんと12%、1割強に留まっているとのことです。

また、2014年のCFO協会による「経理・財務部門の組織・人材に関する調査」
によると、経理財務部門における主な教育手段として「OJT重視」と回答した
企業が76%となっています。これに対して「教育・研修や自己啓発支援の充実
度」に対しては「充実している」とした回答が24%であったのに対して「充実
していると思わない」が56%となっています。

職場ではOJTが主な人材育成の手段になっているにも関わらず、その満足度は
低いというなんとも残念な結果となっているようです。

OJTが主な教育手段になっているというのは、それ以外に教育・訓練する制度が
ないことが多いという背景があるように思います。また、満足度が低いのは、
そもそも何をどのように教育するのかが、各個人任せになっていることが大きな
容認になっているようです。

もちろん、OJTを会社全体で見直していくことももちろん必要ですが、今日は、
もう少し簡単な「各自でもできる」OJTのちょっとしたヒントをご紹介してい
きます。

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■ 2.時間を区切って例示を示す

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このメルマガの読者の皆様は、OJTを実施する側の方が多いと思います。
ご自身でOJTを十分できていないと感じているとしたらその理由は何だと考え
ますか。

前述の産業能率大学の調査では、「指導する人の時間が取れないから」という
理由が第一位となっています。確かに誰かに管理者は様々な業務が多忙で、
じっくり教育する時間はなかなか取れないことが多いですよね。
では、時間があれば解決するのでしょうか。

「人間が最も効率的に物事を考え、様々なアイディアが出るのはどんなときか」
という研究があります。物事を考えるには、時間の締め切りを持たせた「速考」
と、時間の締め切りを持たせない「熟考」といった方法があります。また、
考えるにあたって「フリーで考えさせる」ものと、「例えばこういうことも考
えられる」といったヒントを与えるといった手段があります。

この研究では何が一番効率的で、アイディアが多くでた考え方は、「速考」で
「例示がある」の場合で、一番効率的でないのは「熟考」で「例示なし」の場合
だと結論づけています。

OJTをする際に、部下に自分で考えさせることは大事ですが、あくまでも上司が
ヒント(例示)を示し、そして時間を区切って実施させることでより効果的
な指導ができそうです。

また、ある教育機関の調査では、自分の仕事を犠牲にする「滅私」の精神で
生徒に接すると、生徒の成績の伸びが悪くなるそうです。精神誠意尽くしすぎ
ることが部下の成長を妨げることになるかもしれません。

「何もかも教えてあげる」のではなく、時間を区切り目標を与え、「例示」
で導くことで効率的なOJTができるかもしれません。

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■すぐほめると行動が強化される

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人間の行動は「ほめられる」とそのほめられた行動をくり返し行うようになる
そうです。これを行動分析学では行動の「強化」といいます。逆に怒られたり
イヤな顔をされた場合には、その行動を次第に行わなくなります。これを行動
の「弱化」といいます。

この「強化」の効果は、なんと行動が起こってから60秒以内で薄れてしまう
そうです。「ほめて育てる」ということを言いますが、望ましい行動や発言が
あった時にすぐにほめることがポイントのようです。

例えば、「わからないことがあったら、すぐに聞いてほしい」と思っていると
します。部下の方が「ちょっといいですか。」と質問に来たら、笑顔で「なんで
しょうか。」ときちんと聞く態度をとって聞く、そして質問をしてきたことに
ついて「よく質問にきたね。」「いい質問だね。」と返す、このように
することで、「質問をする」という行動が強化されることになります。

逆に、「忙しいから少し待って」と言ってしまったり、「面倒くさい」といった
態度をとると、質問をするという行動は弱化され、次第に質問には来なく
なってしまうかもしれません。

また、もう一つ見逃しがちなのは「何を望むか」が教える側がわかっている
かどうかということです。ほめるといってもむやみやたらにほめるのではなく、
「望ましい行動をとった場合」にほめることが重要ですから、OJTを行う側が
「望ましい行動」「OJTの目的」をはっきりさせておくということが必要となり
ます。

今週の目標は何か、今月の目標は何かといったことをしっかり伝えたうえで
適切なフィードバックを実施しないと、ほめられたとしても、望ましい行動の
「強化」ができません。

OJTとは少し外れますが、多くの不正や不祥事事例で、「マイナスの情報が
伝わりにくい雰囲気」「ものが言いにくい組織風土」といった言葉を聞き
ますが、そのような状況はマイナスの情報を伝えた時に「怒られた」
「聞いてもらえなかった」といった行動が返ってくると、マイナスの情報を
早期に伝える」という行動が弱化され、その行動の積み重ねが「風土」を
作り上げていると考えられます。「マイナスの情報を包み隠さず、
早期に伝えてほしい」と思うのであれば、マイナスの情報を伝えられた場合
には、早く伝えてくれたことに対する「感謝」の気持ちを伝えることが
必要です。


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■ 4.かっこ悪い自分もさらけ出してみる

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心を開いて信頼関係を築くには、自分自身のカッコ悪い姿を見せることも
一つの方法となります。「ジョハリの窓」という心理学の言葉がありますが、
相手が知らない自分を開示することで、相手との信頼関係を築くことがで
きます。

誰でも失敗や弱点はあるものです。この弱い自分をさらけ出すことで、部下の
方も安心して自分を開示することができ、より深い信頼関係を築くことができ
ます。
先輩の過去の失敗談は、「この人も昔はそういうことをしてきたんだ」「何も
完璧でなくても大丈夫なんだ」といった安心感を与え、新しい仕事や役割に
対してチャレンジをする気持ちを持たせることができるかもしれません。

今後、AIが活用されるようになると、人間同士のOJTで受けつがれていた経験
や判断が数値化されていく時代になってしまうかもしれません。
そうであったとしてもよい仕事をするには職場の人間関係や信頼関係が必須で
あることに変わりはありません。今後のOJTは、職場の信頼関係や協力関係を
築く手段となるのかもしれません。


本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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東芝劇場?衝撃の結末は?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.058━2017.8.2━

【ビズサプリ通信】

▼ 東芝劇場?衝撃の結末は?

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ビズサプリの久保です。
今回のビズサプリ通信は、またもや東芝です。過年度決算訂正が終わったか
と思ったら、減損問題で揺れる東芝ですが、現在進行形の劇場型で事件が
進展しています。会計の専門家でも難しい内容をできる限り平易に解説したい
と思います。少し長いですがお付き合いください。

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■ 1.ウェスチングハウスによる減損処理

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 東芝は2015年9月に、2014 年3月期までの有価証券報告書の訂正と2015年
3月期の有価証券報告書を提出しました。ようやく過去の決算処理が終わっ
たのも束の間、その2ヶ月後の11月に日経ビジネスオンラインが、米国で
原子力事業を行う子会社のウェスチングハウスによるのれんの減損を報じた
のです。
 それによると2013年3月期と2014年3月期に、ウェスチングハウスの貸借
対照表に計上されているのれんが総額1,600億円減損されていたということ
でした(その後の東芝による発表では総額1,320億円)。東芝が2015年9月
に行なった過去の決算訂正には、このウェスチングハウスによる減損は含ま
れていませんでした。この減損はどこに行ったのでしょうか? 
 実は、これについてはビズサプリ通信で既に解説しています。子会社に
よる減損を東芝が連結上取り消したので、最終的には決算にはこの減損は
反映しなかったというのが真相です。
 本来、親会社が計上するのれんを子会社で計上する処理は、「プッシュ
ダウン会計」と呼ばれる手法です。親会社の東芝で減損を取り消したのは、
減損テストをする時の事業グルーピングが親子間で異なっており、親会社
のグルーピングが子会社のグルーピングより大括りなので、減損は不要と
判断したためでした。これらついては、当時の監査人であった新日本監査
法人は問題としていません。
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■ 2.東芝によるのれんの減損と監査人の変更

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 2015年3月期までは、前述のとおり東芝ウェスチングハウスののれん
について減損処理をしませんでしたが、翌年の2016年3月期において2,476
億円の減損を計上しました。第3四半期までは減損の兆候なしとしていま
したが、期末になって減損を公表したのです。これについて連結財務諸表
の注記には「東芝の信用力の低下により、借入金利が上がったので、高い
割引率で公正価値(現在価値)を計算したら、原子力関連資産の価値が低く
計算された結果の減損です。」と言う意味のことが記載されています。
 東芝は、インカムアプローチという方法を採用しています。その場合、
企業価値は、将来のキャッシュフローを現在価値に引き戻して計算します。
現在価値にするときに金利相当額を割り引くのですが、そのときに使う利率
が高ければ、計算される現在価値が小さくなります。東芝は、昔は信用力が
あったので、低い金利で借入できましたが、今は借入金利が高くなったので、
高い割引率を使って計算をしなければならなくなったのです。
 この説明は、単なる金利(割引率)の差による計算上出てきた減損です、
と言うことになっています。すなわちこの時点では、ウェスチングハウス
などの原子力事業自体の価値が低下したことによる減損とはされていません
でした。
 ここまでの監査は、新日本監査法人が行なっており、次の年度からは
PwCあらた監査法人に交代しています。PwCあらた監査法人は、監査を引き
受ける前に予備調査を実施しているはずです。これは新規に監査を引き受け
る際に監査法人が必ず実施する手続です。その際、特に2016年4月1日の
期首残高をしっかり調べたはずです。監査を引き受けたということは、
すなわち、原子力の事業に関わる減損は、決算に反映された以上には不要
であるということをこの時点で判断したものと考えて良いと思います。
 しかし、ウェスチングハウスは、そのちょうど1年後に破綻したのです。
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■ 3.監査法人による結論不表明

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 その後、東芝PwCあらた監査法人の関係が急激に悪化していきます。
四半期決算については、監査より簡易な「レビュー」が実施されますが、
2016年12月の第3四半期決算のレビューがいつまでも終わることがなかった
のです。
 ウェスチングハウスの内部管理をめぐる不正があったことから、PwCあらた
監査法人は調査する必要があるとし、東芝は2016年12月までの第3四半期
決算の公表が出来なくなりました。結局2ヶ月遅れの4月11日にこれを公表
しましたが、PwCあらた監査法人は、この四半期決算に対してレビューの結論
を表明しないことにしたのです。
 監査法人が「結論不表明」としたのは、東芝がこの四半期決算において、
原子力事業ののれんの減損をしなかったからではありません。東芝は、原子
力事業に関して7,166億円の減損を計上しています。監査法人はその妥当性
の検証ができないという理由で結論不表明としたのでした。
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■ 4.S&Wの買収と減損処理

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 ウェスチングハウス買収時ののれんは6,600億円でした。そのうち2016年
3月期で2,476億円の減損が計上されています。7000億円を超える減損の対象
となるのれんが、そもそもありませんでした。これはどういうことなのでしょ
うか?
 ウェスチングハウスは、S&W(CB&Iストーン・アント゛・ウェフ゛スター)
を2015年12月に買収しました。S&W買収時に評価した企業価値は、実は
もっと低かったことが、今頃になって分かったので、高く買ってしまった
金額をのれんに計上し、同時に全額減損したと東芝は公表しています。
 これは、かなりおかしな話です。S&Wを買収したのは、2015年12月ですの
で、2016年3月期での減損テストはどうなっていたのでしょうか。この決算
は、新日本監査法人の最後の監査対象となり、PwCあらた監査法人も期首残高
として検証対象としていたはずです。
 実は、S&Wは原発の建設工事会社で、ウェスチングハウスと一緒に共同
プロジェクトを実施していました。S&Wの原発プロジェクトがどんな状態
なのか、ウェスチングハウスが知らないはずはありません。東芝が、S&W
の買収によって、今後はプロジェクト全体を一元管理することができ、さらに
S&Wと原発工事のコスト負担を巡る対立を解消することができたと発表しています。
 結果として、PwCあらた監査法人は、S&Wの買収を原因とした減損という
爆弾があるのを知らずに新日本監査法人から監査を引き継いだということ
なのでしょうか。東芝ウェスチングハウスがその事実を隠していたとしか
考えられません。
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■ 5.ウェスチングハウスの破綻と連結除外

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 話はこれで終わりません。2017年3月29日、ウェスチンク゛ハウスとS&Wを
含む関係会社は、米国連邦倒産法に基つ゛く再生手続を申立て、再生手続を開始
しました。東芝が期限の2017年2月に第3四半期決算を公表できず、4月に
なってようやく公表した時点では、ウェスチングハウスが破綻していたという
ことになります。
 この結果、なんとウェスチンク゛ハウスとその関係会社は、東芝の連結対象外
となりました。 東芝が採用する米国会計基準では、再生手続中の会社は、親
会社との間に有効な支配従属関係が存在しないため、連結除外してよいという
ルールに基づくものです。
 話がややこしくなりました。2016年12月の第3四半期決算で計上された
7,166億円の減損はどうなるのでしょうか。そもそものれんの対象となる子
会社が連結除外されたので減損を計上することもできません。
 2016年12月の第3四半期報告書には、「ウェスチングハウスの連結除外
により2,000億円の増益が見込める」と書かれています。2016年12月に計上
した7,166億円の減損が消えることが増益の理由です。ただ、5月に発表さ
れた業績見通しでは、ウェスチングハウス関連の損失は1.3兆円になること
が公表されています。発生する損失の内容は詳しくわかりませんが、この
巨額損失を見ると大変なことになっていることが分かります。
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■ 6.東芝の現状
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 このビズサプリ通信の執筆時点では、2017年3月期の有価証券報告書
提出期限の6月末を過ぎており、その提出期限が延期されている状況です。
2016年12月の第3四半期での東芝の純資産は299億円でした。その四半期
報告書には、継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)に関する注記を
記載しました。これは東芝が自らその事業継続に疑念があることを読者に
注意喚起する記述です。
 一方、東証は、2015年9月、東芝による過去5年度分の訂正報告書の提出
を受けて、特設注意市場銘柄に指定しました。その1年半後の2017年3月に
上場廃止となる恐れがあることから「監理銘柄(審査中)」に指定しま
した。現状、有価証券報告書が提出されていない状況ですが、東証は、
東芝連結貸借対照表を提出させ、2017年3月末で債務超過となっている
ことを確認した上で東証1部から2部に降格しました。監査法人の監査を
受けていない財務諸表で東証が2部降格を判断したのは異例の措置でした。
これからも東芝から目を離すことができません。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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日本の財政とインフレ税

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.057━2017.7.19 ━
【ビズサプリ通信】
▼ 日本の財政とインフレ税
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こんにちは。ビズサプリの三木です。
財務省の資料によると、平成27年度末の「国の借金(国及び地方自治体の長期債務残高)」は1,035兆円と推計されるそうです。この多額の借金について、このままでは日本の財政は破綻するという意見と、いやいや大丈夫という意見があり、専門家の間でも全く見解が異なる状態です。
実際にどうなるのかは私には想像もつきませんが、今回のメールマガジンでは、こうした財政状態に関わる論点を紹介したいと思います。
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■ 1.破綻するという意見
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このままでは日本の財政は破綻するという意見は、概ね以下のようなものです。
現在の日本の財政は収入より支出が多い家計と同じです。この状況が続くと「日本の財政は破たんするのではないか!?」という疑いが広まります。この結果、新規に国債を発行しようとしても誰も引き受けてくれなくなります。
それでも何とか国債を引き受けてもらわないと財政が破たんしてしまいます。そのためには国債リスクマネーを引き付ける高い金利を設定しなければなりません。こうして国の借金は雪だるま式に増え、高い金利によって国内はインフレに悩まされ、ついにその自転車操業も回らなくなって日本は債務不履行に至るかもしれません。
これを防ぐには、「ワニの口」と称されるほど開く収入と支出のバランスを取り戻すことが必須です。すなわち公共投資を削減し、無駄遣いを止め緊縮財政にする必要があります。この立場からすると、「ヘリコプターマネー」などもってのほかです。
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■ 2.破たんなどしないという意見
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一方で日本に財政は破たんなどしないという意見もあります。
日本の財政を語るときに国の借金ばかり注目されますが、政府部門は実は金融資産もたくさん持っています。借金が多くても資産もたくさん持っているのであれば、そこまで心配する必要はありません。
また国の借金といっても、特に団塊世代の貯金に代表されるように、実は日本人が国債を多く引き受けています。つまり借金といっても民間部門と政府部門の貸し借りに過ぎず、日本全体でみればバランスは決して悪くありません。
海外を見れば、例えばアルゼンチンは何回か債務不履行に至っています。しかしながら同国は自国内で国債を引き受けるだけの民間部門の貯蓄がないため外国債を大量に発行しているという状況にありました。これに比べ日本は民間部門が健全であり、国債は国内消化でき、外国債を発行する必要が乏しいため、財政不安によって国債の引き受け手がいなくなることはあまり想定しなくてよいかもしれません。
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■ 3.インフレ税
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日本の財政が破たんするかどうか私ごときには予想もつきませんが、財政不安がひどくなった時にはインフレが起きることが多いとされます。
実は太平洋戦争後、日本は1945年の水準からみて1949年に約70倍のハイパーインフレを経験しています。この原因は、太平洋戦争に当たっての多額の戦時国債の発行や、その後の復興費用を賄うための大量の国債の日銀引き受けでした。今の日本はそこそこ経済力があるため多額の国債があってもこうしたインフレにはなっていませんが、もし経済力が落ちればインフレに傾く可能性は無いとは言えません。
実はインフレというのは、借金を抱える国にとっては税金と同じ効果を持ちます。例えば平均年収が500万円で国の借金が1,000兆円あるのと、平均年収が5,000万円で国の借金が10,000兆円なのはほぼ同じと言えます。年収が5,000万円というと羨ましい気もしますが、コンビニのおにぎりが1,000円になっていればあまり意味はありません。つまりインフレで年収や物価が上がった時に国の借金は実質目減りします。1,000兆円の借金があっても年収や物価が10倍になれば単純計算で税収も10倍になりますから、返済はだいぶ楽になります。
その裏で割を食うのは金融資産です。せっせと住宅資金を3,000万円貯めたとしても、インフレで物価が10倍になってしまえば家は買えず、その10分の1の値段の車ぐらいしか買えなくなってしまいます。結果を見ると、インフレによって金融資産に対して資産税が課せられ、それを原資に国の借金が減ったのと同じことになります。
財政が悪化することでインフレが起きても、この「インフレ税」によって借金が目減りすれば、逆に財政は持ち直すかもしれません。世界の歴史ではそういう例もいくつかあります。しかしながら、真面目に働いて得た貯蓄が台無しになっては道徳観もおかしくなりますし、生活の安定は保てないでしょう。貯蓄が失われれば生活不安から治安にも影響が出てきます。これでは財政が立てなおったといっても、国の政策としては失敗です。
インフレ税による財政再建は結果としてそうなることもあるだけであって、それを狙って実行してはならないシナリオでしょう。日本は「失われた20年間」で長いデフレを経験し、インフレという状況を思い出せなくなっています。良いインフレも悪いインフレも含め、そろそろインフレのことを思い出しても良い時期かもしれません。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

 

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