株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

東芝劇場?衝撃の結末は?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.058━2017.8.2━

【ビズサプリ通信】

▼ 東芝劇場?衝撃の結末は?

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ビズサプリの久保です。
今回のビズサプリ通信は、またもや東芝です。過年度決算訂正が終わったか
と思ったら、減損問題で揺れる東芝ですが、現在進行形の劇場型で事件が
進展しています。会計の専門家でも難しい内容をできる限り平易に解説したい
と思います。少し長いですがお付き合いください。

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■ 1.ウェスチングハウスによる減損処理

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 東芝は2015年9月に、2014 年3月期までの有価証券報告書の訂正と2015年
3月期の有価証券報告書を提出しました。ようやく過去の決算処理が終わっ
たのも束の間、その2ヶ月後の11月に日経ビジネスオンラインが、米国で
原子力事業を行う子会社のウェスチングハウスによるのれんの減損を報じた
のです。
 それによると2013年3月期と2014年3月期に、ウェスチングハウスの貸借
対照表に計上されているのれんが総額1,600億円減損されていたということ
でした(その後の東芝による発表では総額1,320億円)。東芝が2015年9月
に行なった過去の決算訂正には、このウェスチングハウスによる減損は含ま
れていませんでした。この減損はどこに行ったのでしょうか? 
 実は、これについてはビズサプリ通信で既に解説しています。子会社に
よる減損を東芝が連結上取り消したので、最終的には決算にはこの減損は
反映しなかったというのが真相です。
 本来、親会社が計上するのれんを子会社で計上する処理は、「プッシュ
ダウン会計」と呼ばれる手法です。親会社の東芝で減損を取り消したのは、
減損テストをする時の事業グルーピングが親子間で異なっており、親会社
のグルーピングが子会社のグルーピングより大括りなので、減損は不要と
判断したためでした。これらついては、当時の監査人であった新日本監査
法人は問題としていません。
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■ 2.東芝によるのれんの減損と監査人の変更

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 2015年3月期までは、前述のとおり東芝ウェスチングハウスののれん
について減損処理をしませんでしたが、翌年の2016年3月期において2,476
億円の減損を計上しました。第3四半期までは減損の兆候なしとしていま
したが、期末になって減損を公表したのです。これについて連結財務諸表
の注記には「東芝の信用力の低下により、借入金利が上がったので、高い
割引率で公正価値(現在価値)を計算したら、原子力関連資産の価値が低く
計算された結果の減損です。」と言う意味のことが記載されています。
 東芝は、インカムアプローチという方法を採用しています。その場合、
企業価値は、将来のキャッシュフローを現在価値に引き戻して計算します。
現在価値にするときに金利相当額を割り引くのですが、そのときに使う利率
が高ければ、計算される現在価値が小さくなります。東芝は、昔は信用力が
あったので、低い金利で借入できましたが、今は借入金利が高くなったので、
高い割引率を使って計算をしなければならなくなったのです。
 この説明は、単なる金利(割引率)の差による計算上出てきた減損です、
と言うことになっています。すなわちこの時点では、ウェスチングハウス
などの原子力事業自体の価値が低下したことによる減損とはされていません
でした。
 ここまでの監査は、新日本監査法人が行なっており、次の年度からは
PwCあらた監査法人に交代しています。PwCあらた監査法人は、監査を引き
受ける前に予備調査を実施しているはずです。これは新規に監査を引き受け
る際に監査法人が必ず実施する手続です。その際、特に2016年4月1日の
期首残高をしっかり調べたはずです。監査を引き受けたということは、
すなわち、原子力の事業に関わる減損は、決算に反映された以上には不要
であるということをこの時点で判断したものと考えて良いと思います。
 しかし、ウェスチングハウスは、そのちょうど1年後に破綻したのです。
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■ 3.監査法人による結論不表明

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 その後、東芝PwCあらた監査法人の関係が急激に悪化していきます。
四半期決算については、監査より簡易な「レビュー」が実施されますが、
2016年12月の第3四半期決算のレビューがいつまでも終わることがなかった
のです。
 ウェスチングハウスの内部管理をめぐる不正があったことから、PwCあらた
監査法人は調査する必要があるとし、東芝は2016年12月までの第3四半期
決算の公表が出来なくなりました。結局2ヶ月遅れの4月11日にこれを公表
しましたが、PwCあらた監査法人は、この四半期決算に対してレビューの結論
を表明しないことにしたのです。
 監査法人が「結論不表明」としたのは、東芝がこの四半期決算において、
原子力事業ののれんの減損をしなかったからではありません。東芝は、原子
力事業に関して7,166億円の減損を計上しています。監査法人はその妥当性
の検証ができないという理由で結論不表明としたのでした。
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■ 4.S&Wの買収と減損処理

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 ウェスチングハウス買収時ののれんは6,600億円でした。そのうち2016年
3月期で2,476億円の減損が計上されています。7000億円を超える減損の対象
となるのれんが、そもそもありませんでした。これはどういうことなのでしょ
うか?
 ウェスチングハウスは、S&W(CB&Iストーン・アント゛・ウェフ゛スター)
を2015年12月に買収しました。S&W買収時に評価した企業価値は、実は
もっと低かったことが、今頃になって分かったので、高く買ってしまった
金額をのれんに計上し、同時に全額減損したと東芝は公表しています。
 これは、かなりおかしな話です。S&Wを買収したのは、2015年12月ですの
で、2016年3月期での減損テストはどうなっていたのでしょうか。この決算
は、新日本監査法人の最後の監査対象となり、PwCあらた監査法人も期首残高
として検証対象としていたはずです。
 実は、S&Wは原発の建設工事会社で、ウェスチングハウスと一緒に共同
プロジェクトを実施していました。S&Wの原発プロジェクトがどんな状態
なのか、ウェスチングハウスが知らないはずはありません。東芝が、S&W
の買収によって、今後はプロジェクト全体を一元管理することができ、さらに
S&Wと原発工事のコスト負担を巡る対立を解消することができたと発表しています。
 結果として、PwCあらた監査法人は、S&Wの買収を原因とした減損という
爆弾があるのを知らずに新日本監査法人から監査を引き継いだということ
なのでしょうか。東芝ウェスチングハウスがその事実を隠していたとしか
考えられません。
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■ 5.ウェスチングハウスの破綻と連結除外

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 話はこれで終わりません。2017年3月29日、ウェスチンク゛ハウスとS&Wを
含む関係会社は、米国連邦倒産法に基つ゛く再生手続を申立て、再生手続を開始
しました。東芝が期限の2017年2月に第3四半期決算を公表できず、4月に
なってようやく公表した時点では、ウェスチングハウスが破綻していたという
ことになります。
 この結果、なんとウェスチンク゛ハウスとその関係会社は、東芝の連結対象外
となりました。 東芝が採用する米国会計基準では、再生手続中の会社は、親
会社との間に有効な支配従属関係が存在しないため、連結除外してよいという
ルールに基づくものです。
 話がややこしくなりました。2016年12月の第3四半期決算で計上された
7,166億円の減損はどうなるのでしょうか。そもそものれんの対象となる子
会社が連結除外されたので減損を計上することもできません。
 2016年12月の第3四半期報告書には、「ウェスチングハウスの連結除外
により2,000億円の増益が見込める」と書かれています。2016年12月に計上
した7,166億円の減損が消えることが増益の理由です。ただ、5月に発表さ
れた業績見通しでは、ウェスチングハウス関連の損失は1.3兆円になること
が公表されています。発生する損失の内容は詳しくわかりませんが、この
巨額損失を見ると大変なことになっていることが分かります。
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■ 6.東芝の現状
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 このビズサプリ通信の執筆時点では、2017年3月期の有価証券報告書
提出期限の6月末を過ぎており、その提出期限が延期されている状況です。
2016年12月の第3四半期での東芝の純資産は299億円でした。その四半期
報告書には、継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)に関する注記を
記載しました。これは東芝が自らその事業継続に疑念があることを読者に
注意喚起する記述です。
 一方、東証は、2015年9月、東芝による過去5年度分の訂正報告書の提出
を受けて、特設注意市場銘柄に指定しました。その1年半後の2017年3月に
上場廃止となる恐れがあることから「監理銘柄(審査中)」に指定しま
した。現状、有価証券報告書が提出されていない状況ですが、東証は、
東芝連結貸借対照表を提出させ、2017年3月末で債務超過となっている
ことを確認した上で東証1部から2部に降格しました。監査法人の監査を
受けていない財務諸表で東証が2部降格を判断したのは異例の措置でした。
これからも東芝から目を離すことができません。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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