株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

役員報酬と報酬委員会の役割

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.089━2019.1.23 ━
【ビズサプリ通信】
役員報酬と報酬委員会の役割
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ビズサプリの三木です。今回のメルマガでは、役員報酬と報酬委員会の役割を取り上げます。
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■ 1.日産の事件
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日産のカルロス・ゴーン元会長の事件が世の中を騒がせています。背任行為があったかとともに焦点があたっているのが役員報酬です。
責任やリスクの大きさを考えるとある程度報酬が高いのも納得するとしても、通常の勤め人からすると天文学的な報酬額で、「こんなにもらっていたのか!」「がめつい!」と驚いた方もいらっしゃると思います。一方で、その人が経営することで会社に100億円のメリットがあるならば、会社としては90億円を払っても経営してもらったほうが良いことになります。
経営者といえど人ですから、報酬の仕組みによって行動は左右されます。そして経営者の行動は会社の命運を左右するので、経営者報酬もまた会社の命運のカギとなっています。

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■ 2.役員報酬決定の仕組み
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会社の役員(取締役など)の報酬は、金額や算定方法を定款に定めるか、株主総会での決議によって決まります。株主総会で上限を定めて配分を取締役会に任せることは可能ですが、総額まで取締役会に一任することはできません。取締役の報酬を取締役会が決めてしまっては、勝手に増額してしまいかねないためです。
なお、一口に報酬といっても色々なものがあります。業績や働きぶりに関係なく支払う固定報酬がありますし、業績連動報酬にも、どのような業績に連動させるか(売上/利益/株価/増収・増益率/ROE等の指標)、対象とする業績は短期か複数年かによって多様な仕組みができます。他企業に引き抜かれないための防衛としての報酬も考えられます。払い方も、金銭で払う場合、ストックオプションとする場合、福利厚生など現物で提供する場合など多様です。

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■ 3.報酬委員会は何をするか
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報酬委員会を設置していても、上記の報酬決定の仕組み自体に変わりはありません。報酬委員会のメンバーもまた取締役ですので、すべてを任せるわけではなく、株主の目は入れる仕組みとなっています。
報酬委員会の大きな業務は、報酬体系の設計とその見直しです。
<設計>報酬委員会は、どういう報酬体系にするのかの設計を行い、株主総会で決議された枠の中で、取締役と執行役の中での金額配分を担います。最も重要なのは報酬体系の設計です。上述の通り報酬は経営者の行動を左右しますから、適正な報酬体系になっていないと経営者の行動がゆがみます。通常は複数の報酬のミックスとします。例えば、経営の前提として生活の安定を保証する固定報酬を〇〇%、業績連動報酬を〇〇%、ストックオプションを〇〇%といった具合です。取締役や執行役が株主の利益に合う行動となるよう、適度なインセンティブ性のある体系が必要です。ただし、粉飾決算を画策したり、短期的な利益を追い求めて長期投資に無関心になってはいけませんから、バランスが重要です。
<見直し>また、報酬が支払われた後には、その報酬が適正だったかの振り返りが必要です。完璧な報酬体系というものはなく、ビジネス環境の変化によっても適正な報酬体系は変わります。そこで報酬委員会は、支払われた報酬について、経営者の行動を正しい方向に導く効果があったか、見直しは必要かを検証します。

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■ 4.実例
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実例を見てみましょう。
例えばコカ・コーラでは、株主利益に沿った報酬体系となっているか、財務数値以外も考慮する必要があるか等を報酬委員会が検討し、検討結果を報酬委員会からのメッセージという形で開示しています。https://www.coca-colacompany.com/packages/message-from-compensation-committeehttps://www.coca-colacompany.com/stories/coca-colas-board-of-directors-outlines-compensation-strategy
また、GMでは10ページにわたる報酬体系の説明と、それに対する20ページの分析結果・見解をProxy Statementに乗せ、株主・投資家に公開しています。https://media.gm.com/static/proxy-statement/HTML1/general_motors-proxy2018_0041.htm
日本ではここまで詳細な検討と開示を行っている会社は少数です。残念ながら、おざなりな開示、最低限の開示が多いのが実情です。自分の報酬をできるだけ公表したくはない心理もわかりますが、この不透明さが日産の事件の背景にもあるように感じます。根拠も開示して堂々と報酬をもらうまでには、カバナンスにもう一段の成熟が必要そうです。現実には社長が報酬委員会メンバーの候補者選びをすることも多く、その社長に向かってセンシティブな報酬の話を切り出すのは難しい面もあります。しかしながら、難しいからこそ報酬委員会の存在価値があるとも言えます。役員報酬を聖域扱いし続けることは難しくなってきているといえるでしょう。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。
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Reboot(再起動)の年

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.088━ 2019.1.09━━

【ビズサプリ通信】

▼ Reboot(再起動)の年

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皆様、明けましておめでとうございます。ビズサプリの花房です。今年の話題
と言えば、皇位継承とそれに伴う改元元号の変更)、消費増税、オリンピッ
ク1年前としての盛り上がり(ラグビー好きの方にとってはラグビーワールド
カップ)でしょうか。中でも、皇位継承はGWを10連休として行われる一大イベ
ントであり、祝賀ムードが盛り上がることが予想されるだけに、経済効果も大
きいと思われます。カレンダーやスケジュール帳の需要もありますが、システ
ム会社にとっては、日付を和暦で入力するシステムの変更に対応するという特
需が期待されまれます。

改元で分かっているのは、明治以降の元号のイニシャル、M(明治)、T(大正)、
S(昭和)、H(平成)、が重ならない、漢字二文字であり、新元号の公表は4月1日
に行われるということです。従って、5月1日の新元号使用までの準備期間が1ヶ
月しかない中で、これに対応するためにSEの方は残業や休日対応が求められる
かもしれません。また経理に係る部署の方は、4月30日~5月2日が祝日になる
ため、5月の月初の営業日数が極端に少ないことから、4月の月次締の負担がか
なり大きいことが予想されます。

改元は世の中への影響が大きいですが、それは、それだけ元号がいまだ日常生
活で使われることが大きいからだと思われます。日付を記載する際に、西暦を
使うことが徐々に多くなってきたようには感じますが、役所を始め、多くの場
合に生年月日等を和暦で記載することが求められます。合理性を考えると、全
て西暦で統一した方がいいはずですが、和暦を捨てきれないのは、伝統、ある
いは文化を重んじてのことだと思います。

また1つの元号は、まとまった1つの時代を象徴する意味で、元号が変わること
で、また新しい時代が始まるきっかけにもなります。明治以降、元号の変更は
天皇陛下崩御に伴い、不測の中で行われていましたが、天皇陛下の退位に基
づく、スケジュール化された改元という、今回は我々が経験する初めてのケー
スになります。1つの時代の節目として、通常の「新年」以上に、何か新しいこ
とを始めるには、相応しい年と言えるのではないでしょうか。

平成31年」=「○○元年」あるいは「○○1年」をReboot(=「再起動」)の
年として、心機一転、皆さんも何か新しいことを始めては如何でしょうか。節
目の年に始めたことは、何年経っても、記憶に残ること間違いなしと思います。

「平成」は、インターネットが一般化し、ネット社会が事実上誕生、成長した
時代でした。それも最初はパソコンが主流でしたが、今ではスマホ中心に拡大
しつつあります。誰もがiphoneの誕生を予測できなかったように、今年から始
まる新元号の元ではどのような社会になるのか予想できませんが、ネット社会
の成長の段階で間違いなく日本で進むこととして、「キャッシュレス化」があ
ります。今回は、このキャッシュレス化をテーマに取り上げてみます。

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■ 1.消費増税対策とキャッシュレス化

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我々消費者に身近な、かつ生活への負担が大きい消費増税ですが、過去2度延
期されてはいますが、このまま行けばさすがに今回は延期されることはないで
しょうから、10月1日に予定通り消費税率の10%への引上げが行われる予定です。

消費税率Upは消費者からみれば、単純に支出増になりますので、政府は前回増
税時のような駆け込み需要での反動減が起きないよう、いくつかの政策を発表
しています。昨年の12月21日に閣議決定された、平成 31年度税制改正大綱に
おいても、消費増税に対する需要変動の平準化等の観点から、住宅ローンの所
得税額控除期間の延長(単純な延長ではなく、消費税率2%引上げ分の負担に配慮し
たもの)や、自動車税の減税(自動車取得税は廃止)等、税制面からの消費増
税対策が明らかになっています。

なお、消費税率が10%となっても、飲食料品や新聞は軽減税率制度が適用され、
8%のまま据え置かれます。但しこの制度は、みりん風調味料は該当するが、み
りんや料理酒は該当しない、栄養ドリンクもオロナミンC(清涼飲料水)は該当
するが、リポビタンD医薬部外品)は該当しない、さらに、日刊紙の定期購読
は対象だが、電子版やコンビニでの販売は該当しない、といった、専門家でも
判断に窮することもありそうな、かなり複雑な制度となっています(先述のよ
うな例は、「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」国税庁
費税軽減税率制度対応室、によりまとめられていますが、実に84個の事例があ
り、実際の現場では事例にないようなケースが沢山出てくることが想定されま
す)。

また、消費増税対策と日本のキャッシュレス化率上昇の二兎を追える政策とし
て、中小店でキャッシュレス決済した際のポイント還元策が検討されています。
当初は増税分の2%を還元する話でしたが、首相の鶴の一声で還元率は5%で話が
進んでいるようです。中小事業者保護の色彩もあるのだと思いますが、そもそ
も大企業は対象外、中小事業者も大手チェーンのフランチャイズの場合は還元
率が2%になる、キャッシュレス決済に対応する専用の端末がない場合は新規に
設置、ポイント還元に対応するためのシステム変更が必要といった時限措置の
ため、消費喚起の効果が限定的なこと、システムコスト等の費用対効果も踏ま
えて、実現可能性のハードルはかなり高そうです。

消費増税対策とキャッシュレス化の推進を一度に進める妙案があればいいです
が、当該制度は導入されるとしても、増税時からオリンピック前までの9か月
間のみの実施ということなので、少なくともキャッシュレス化推進の効果も限
られるのではないでしょうか。キャッシュレス化と言っても、現在流通してい
る紙幣・硬貨が電子データに置き換わるものであり、企業間取引や国民の生活
の重要なインフラであること、また日本でキャッシュレス化が進めば、政府と
しても、電子データでお金の動きを把握しやすくなり、脱税・マネーロンダリ
ング・紙幣の偽造等の犯罪防止を効果的に行いやすくなる利点があるだけに、
今回の増税対策にかこつけた場当たり的な施策ではなく、キャッシュレス化の
手法として、ユーザーの利便性やセキュリティ、導入コスト等の優劣を踏まえ
た上で、どの規格を中心に日本のキャッシュレス化を推し進めるのか、長期的
な視点でしっかりとグランドデザインを描いて欲しいと思います。

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■ 2.スマホがキャッシュレス化を推し進める

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日本は「現金大国」と揶揄されるほど現金好きな国民で、超低金利の中、タン
ス預金も増加していると聞きます。少し前のデータですが、BIS(国際決済銀行)
が主要国の現金の流通残高を対名目GDP比率で比較したものによれば、日本の
当該比率は2015年末時点で19.4%であり、ユーロ圏の10.6%、米国の7.9%、
韓国の5.6%等と比べて、突出していることが如実に表れています。

それだけ、日本の治安の良さや、日本国の発行する紙幣の信用力が高いことの
裏返しでもあると思います。一方で、キャッシュレスの決済手段の代表格であ
る、クレジットカードの利用率が低いことを示すものでもあります。日本では、
クレジットカードが使える場所は、比較的高額の商品やサービスを取り扱う店
です。個人商店やファーストフード店では、カードが使えないお店が多く、仮
に使えるとしても、金額の下限を設けていたり、カードによる支払を嫌がるお
店も少なくありません。

その理由としてよく理由に上がるのは、クレジット決済用の端末の導入費用と、
利用額に応じて支払う加盟店手数料率の高さです。これはお店の業態にもよる
ので一概には言えませんが、小売に比べて飲食店は高い傾向があるようです。
またカード会社によっても、加盟店手数料の料率は異なります。ただ最近は、
スマホの普及とともに、モバイル決済が普及してきています。これは、お店の
スマホタブレットをPOS端末として、クレジットカードの読み取り機を付け
る形式のもの、消費者にスマホアプリをダウンロードしてもらい、そこに会員
IDを表示させて決済する形式のもの(消費者はクレジットカード情報等を登録
しています)、FeliCa等のお財布携帯としての形式のもの等、様々なものが
普及してきています。

また日本での電子マネーは、ここ10年くらいの間に、プリペイド式を中心とす
交通系Suicaパスモ)、流通系(nanacoWaon)を中心に普及して来て
ました。これらは日常生活で利用頻度の高い電車やコンビニ・スーパーでの利
便性が高いこと、流通系はポイントが付くことから、一気に普及しました。
但し、プリペイド式は上限金額が数万円であり、主に少額決済でしか利用され
ていないため、取引件数は多いものの、金額ベースではまだまだこれからと言
えます。

さらにここに来て注目を浴びているのが、QRコードを使った決済方法です。仕
組みとしては、お店はQRコードを印刷して置くだけで、あとは消費者が専用ア
プリでQRコードを読み込めば、決済が完了します。店としては専用端末が不要
で、またソフトバンクとヤフーが共同で手がけるQR決済アプリの「PayPay」
やLINEが手掛ける「LINE Pay」は、最初の3年間の決済手数料を無料とするこ
とで、早期の会員獲得を狙っています。特に昨年末に話題となったのが、
PayPayが行ったキャンペーンで、1回の支払毎に最大20%を、さらに抽選で40
回に1回の確率で、支払い額の全額をキャッシュバックするとしたところ、
2019年3月31日の終了日を待たず、開始からわずか10日で終了するほどの反響が
ありました。

昨年末には、みずほFGは2019年3月にQRコードを利用した、デジタル通貨を発行
することを発表しています。また同じく銀行のサービスとして、ゆうちょ銀行
QRコードを使ったスマートフォン決済サービスとして「ゆうちょPay」を今年
の2月から始めることとしており、銀行が直接サービスを提供することで、ユー
ザーとしての電子マネーに対する安心感は格段に高まる気がします。また他の
電子マネーで後払い式のものは、最終的にクレジット決済になるため、使い過
ぎを嫌って後払いに抵抗のあったユーザーも、銀行口座からの引き落としにな
る銀行提供のQRコード式の決済サービスであれば、クレジットに慎重な日本人
の活用が進みそうです。

またSuicaはカード式から、スマホのアプリとしてのモバイルSuicaへの移行を
進めています。スマホが生活になくてはならないものとなってきた現在では、
単なるコミュニケーション、エンタテイメントツールとしてだけでなく、お金
のやり取りについても、スマホでの決済がカギを握っている状況です。オンラ
イン取引の決済はクレジットカードで行うのが主流でしたが、今後は更なるス
マホの普及、様々なアプリの開発とともに、現金のやり取りはスマホ上で行う
のが当たり前になりそうです。そこでの決済手段として、上記で紹介したもの
の他、「楽天ペイ」や「d払い」(docomo)等があり、さらに電子マネーへの
参入企業が増えて行くと思います。さらに世界を見れば、中国での電子マネー
は「ウィチャットペイ」、「アリペイ」のシェアが大きく、いずれもQRコード
式による利便性、導入コストの安さが、急速に普及した要因と言われています。
アメリカではAppleの提供する「Apple pay」やAmazonによる「アマゾンペイ」
も日本に進出しており、群雄割拠の様相となっています。


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■ 3.スマホ経済圏とキャッシュレス化の拡大

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昨今話題のシェアリングサービスとして、代表格は配車アプリの「UBER」や空
き部屋の貸出アプリの「Airbnb」、日本発ではスマホによるフリーマーケット
である「メルカリ」が有名ですが、ビジネスモデル的には、スマホ上のアプリ
で、個人の空いたリソースを別の個人にマッチングすることがベースになって
います。個人間取引であるため、提供者・利用者相互の信頼性やセキュリティ、
決済の担保が課題ですが、相互評価の仕組みを取り入れたり、支払もクレジッ
トカードやその他電子マネーでキャッシュレスにより行うことでそれを可能に
しています。

また法人の提供するサービスとしても、ECサイトを始め、音楽や動画配信、旅
行、ゲーム、料理の出前等、消費者が生活に必要なあらゆるものが、徐々にス
マホで提供されるようになり、スマホ経済圏が拡大しつつあります。それらも
決済はクレジットやQRコード式アプリ等、キャッシュレスにより行われます。
逆に言えば、スマホ経済圏におけるサービスは、キャッシュレス決済が大前提
になっていると言えます。

一方のリアル店舗では、決済手段として日本では根強い現金の他、主にク
レジットカードが使われてきましたが、複数のクレジットカードを持っている
人でも、実際に使っているのは2~3枚だと思います。スマホ経済圏では、キャ
ッシュレスの決済手段として、クレジットカード以外に様々な電子マネーが乱
立して来ていますが、1人のユーザーとして対応できるのも通常は2~3種類が
限度ではないか、と想定されます。

そうすると、いずれは数種類の電子決済に集約されるかもしれません。ユーザ
ーとしては、どれかに1本化された方がいいでしょうし、その方が一気にキャ
ッシュレス化が普及すると思います。スウェーデンは銀行が中心となり、Swish
という電子決済の仕組を取り入れたところ、一気に普及し、世界一キャッシュ
レスが進んでいる国と言われているそうです。しかし一方で、決済サービスを
提供する企業にとっては、スマホ決済サービスは重要な収益源であるため、決
済サービス提供企業としては、すでにサービスを始めた規格から、他社、あるい
は国が決めた規格に合わせるのは、簡単には妥協できない話でもあります。

ここで普及のカギを握るのは、利便性とセキュリティ、低コストであること、
だと思われます。決済の都度手続きが煩雑だと使ってもらえませんし、セキュ
リティに問題があれば見向きもされません。そして店側としては、導入コスト・
ランニングコストが安くないと導入に踏み切れない事情もあります。今後キャッ
シュレス化が進むことは間違いないですが、日本発の決済サービスが普及して
行くのか、それとも実績のある米国、または中国の決済サービスが日本でも同
様に普及して行くのか、これからの2,3年が勝負の年と考えられます。

そしてキャッシュレス化が進めば、リアル経済圏にある店舗も大きな恩恵を受
けるはずです。例えば、従来小売店舗における問題として、レジや、ATM・夜間
金庫に入金する際の盗難のリスク、それに備えるための警備会社や現金回収サー
ビスのコスト、また毎回現金をカウントし、レジを締めることに係る人件費コス
ト、と言った、様々なコストがかかることが挙げられます。今後キャッシュレス
な決済サービスの普及とともに、今まで導入の障壁となっていた導入・ラ
ンニングコストが低減して行けば、キャッシュレス化のコストが現金を扱うこと
のコストを下回る時期が訪れ、そうなると、キャッシュレス化が一気に浸透し、
売店舗としては、現金管理やレジ締業務と言ったものから解放されることにな
ります。特に人件費が増加傾向をたどる近年において、省力化は大きな課題です。
すでに米国、中国ではその先を一歩進んでいて、無人店舗も徐々に普及し始めて
来ており、日本でも実験店舗を始めている企業が出てきているものの、ここでも
キャッシュレス化が前提のため、キャッシュレス化が進まないと、無人店舗の普
及の障害となりかねません。

なお、クレジットカードやスマホ決済では、大抵ポイント制度があり、利用額に
応じてポイントがたまり、それを買い物に利用できるようになっています。この
ようなカスタマー・ロイヤルティ・プログラムについては、会計上は従来、将来
使用される可能性のある未使用のポイント残高を「ポイント引当金」として引当
計上していました。これについては、2021年4月以降開始の事業年度から原則適
用される「収益認識会計基準」においては、ポイント付与を、追加の財又はサー
ビスを取得するオプションと捉え、そこから将来の履行義務が生じ、収益の計上
を繰り延べることになります。ポイント制度を設けている企業にとっては、大き
く影響すると言えます。

ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタント
より、効率的・効果的な業務改善の支援、それに係るスプレッドシート等の企
業内ツールの作成支援やシステム導入のコンサルティングIFRSや新会計基準
用の支援も行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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経営者不正を考える

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.087━2018.12.19━

【ビズサプリ通信】

▼ 経営者不正を考える

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こんにちは。ビズサプリの辻です。
早いもので2018年の最後のメルマガとなりました。みなさんにとって今年は
どんな1年でしたでしょうか。

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■ 1.2018年の不正・不祥事

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不正・不祥事については2018年もずいぶん多くの報道が行われました。昨年
から引き続きモノづくりの会社の品質不正が次々明らかになりました。これら
の改ざん行為はあまり罪の意識がないまま長年業務として淡々と行われていた
ことがわかっています。「顧客と約束したスペック」といった契約文書で交わ
した「ルール」が建前と捉えられ、前例や口頭での引継ぎが重視されるといった
企業文化であったということが推測されます。

また、印象的なものとしては「日本大学のアメフト問題」から端を発したアマ
チュアスポーツ界のハラスメント問題が一気に表面化しました。私が子どもの頃
(数十年前の話ですが、、、)のスポ根漫画は、「ハラスメント」に耐えなが
ら逆境を乗り越えていくこと自体がメインストーリーでした。ただ、今はその
ような指導方法は言うまでもなくNGです。前回のメルマガで書いた「医学部の
入試問題」も「品質不正」も「スポーツ界のハラスメント問題」も、長年「こ
ういうものだ」と思われていた組織内部での常識が、世の中の常識と大きく
ずれてしまっていることで不正・不祥事が表面化してきたという共通の特徴が
あるように思います。

そして、なんといっても年の最後に来た日産自動車のゴーン氏問題です。
ゴーン氏といえば世界的にも著名な名経営者であり、報酬や私的に使用した
(と言われている)金額も使用使途も、少なくともわが国においては桁違いの
金額や常識外れの使用使途であるため、どうしてもセンセーショナルな報道に
なりがちです。新聞報道などでは、「今回の件を他山の石としすべし」といっ
た記述もありますが、「日産のゴーンさんだからこのような状況になっていた」
という要素も多分にあるため「他山の石」とするのはなかなか困難に思います。
今日は、もう少し一般化した「経営者が行う不正」という観点で考えてみたい
と思います。

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■ 2. 一般的な不正の類型と不正

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一般的には不正の手口は下記の3つに分類できます。(日本公認不正検査士協会
 「不正検査士マニュアル」より)

1.賄賂・談合のような法律違反
2.資産の不正流用
3.報告(財務・非財務)不正

ゴーン氏逮捕の夜に開かれた西川社長の記者会見では、ゴーン氏の行った不正は
上記のうち「2.資産の不正流用」と「3.有価証券報告書の虚偽記載」だという
ことが明言されていました。

「2.資産の不正流用」には具体的には下記のような手口があります。
 ● 実態のない業務委託契約を締結し、親族の会社に振り込む
 ● 勤務実態のない親族等に給与を振り込む
 ● 私用の費用を会社に請求し支払いを行う
 ● 会社の情報資産(営業秘密や顧客情報、特許情報)等を横流しする

また、3.については、粉飾決算などの財務報告不正、データ・表示の偽装
等の不正等があります。

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■ 3.経営者による資産の不正流用

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経営者による資産の不正流用は、一般的にはオーナー経営者又は経営者として
の在任期間が長いなどで、たとえ周囲が何かおかしいと気が付いたとしても
「おかしいとは言えない」状況で生じることになります。

資産の不正流用は最も発生件数が多い不正の手口です。ほとんどの場合が、
私腹を肥やすため、個人の金銭欲を満たすために行う事が多いものです。
このため、通常は、不正実行者の上司や同僚等が気付きさえすれば、それなり
に行動が起こされ、是正がされていきます。そして、このような不正を「早く
気付く」ための仕組みが「内部統制」です。つまり、不正リスクを十分軽減す
るような適切な内部統制が整備され、そして当初想定した通りの運用が確実に
行われることで、資産の不正流用リスクは抑えることができます。

しかし、不正の実行者が経営者であった場合、経営者が、内部統制を無視した
ような指示を出すことにより内部統制が無効化されてしまうことがあります。
具体的には、たとえルール上は認められていないような経営者家族の私的な
旅行の代金について「請求書」と「支払申請」が経理財務部門に回付されてき
たとします。経理財務部門は誰の申請であったとしても「社内ルールではこの
ような支出は認められない」とルールを楯にして、突き返すことができます。
これは、会社の経費の公私混同を防ぐための内部統制の仕組みです。

しかし、その申請が経営者の支出であった場合、経理財務部門としては「突き
返しづらい」という心理的なハードルがあるでしょう。また、たとえ勇気のあ
経理財務担当者が「この旅行代金は私用でしょうか。それとも社用でしょう
か。」と聞くことができたとしても、例えば社長室から「社用です」と言われ
てしまえば、踏み込んで指摘し、突き返すことはほぼ不可能ではないでしょうか。
そして、その社長が先ほど指摘したようにオーナー経営者やカリスマ経営者で
あればなおさらのことです。

では、内部統制は経営者の資産の不正流用に全く無効かといえば決してそうと
はいえません。不正流用に関する内部統制が整備、運用されている会社におい
ては、経営者といえどもそれを無効化するのには結構な手間と労力がかかるも
のです。また、普段からコンプライアンスや倫理を語っている本人が、例えば
公私混同と取られかねない支出を指示すること自体、自分の発言との矛盾に違和
感があり、心理的なハードルが高くなることは間違いありません。経営者不正に
対しても内部統制を矮小化することなく、地道に整備・運用していくことは重要
と考えます。

そして最近は、内部通報制度や内部告発により、公私混同の事実が社外に伝えられ
るという時代になりました。平成28年度の消費者庁の調査では従業員3,000名
以上の会社での内部通報制度の設置率は99.2%(ちなみに1,000名~3000名の
会社でも93.5%)、そのうちの77%が外部受付窓口を持っています。今回の
ゴーン氏の件が記者会見で言及されたように本当に内部通報から発覚したことか
どうかはわかりませんが、「経営者の公私混同は、内部通報又は告発という形で
外に出るんだ」ということが広く認識され、経営者も含めて緊張感が出るようで
あれば、それはそれでいい効果があったのではないかと思います。

今回の日産の件では、経営者の力が非常に大きく、内部通報への対応として司法
の力を借りるというかなり特殊な状況ですが、そのような場合は稀で、通常は
経営者の公私混同、不正支出があった場合には、監査役社外取締役が十分な
監督機能を発揮すれば、詳しい調査が行われることになるでしょう。

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■ 4.有価証券報告書の虚偽記載について

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ゴーン氏が起訴された直接の容疑は、有価証券報告書虚偽記載となります。
有価証券報告書のわが国の開示のルールでは、報酬額が1億円以上であれば個別
にその報酬を開示することになっています。漏れ聞いた話によると、「1億円
ルール」ができたときは日産の件とは桁が違いますが、1億円を何とか下回る
ように「報酬の後払い」ということはそこここで起きた話だったとのこと。
当時、それほど開示にあまり積極的ではなく、また横並び意識が強かった日本
人の気持ちとしてはわからなくもない感覚ですが、本当に情けない話だと思って
しまいます。経営者であれば、開示して恥ずかしい報酬をもらうべきではないと
個人的には思います。

報酬開示の趣旨は、株主から委任を受けた取締役が、その働きに見合った報酬を
どのように決めて、いくらもらっているかを示すものです。その全員の報酬を
記載するのが本来の姿であって、そもそも1億円以上という線引きをするから、
「高額」な人だけを洗い出してランキングするといった報道にもなるのだと思い
ます。1億円未満であっても全員の役員報酬を開示している会社もあります。
実際、この事件が起きる前から金融審議会のディスクロージャーワーキンググル
ープでも役員報酬の開示ルールについては見直しをしていく旨報告されています。
今後は報酬プログラム(算定方法)や実績についてより積極的なディスクロー
ジャーが求められるようになっていくと思われます。

そして、今回虚偽表示の対象となった報酬の記載は公認会計士の監査対象外です。
このこと自体に驚かれた方も多いと思います。私自身もお客様に説明すると
「そうなの?」と驚かれました。したがって今回のゴーン氏の件であまり会計
監査の是非について大きな議論になることはないかもしれません。
ただ、同じ「有価証券報告書」という書類の中、しかも数字の部分について会計
監査人の監査対象とそうでないものが混在していること自体、社会一般からみれ
ば非常にわかりづらく、さらに公認会計士への信頼を損なっているようで大変
残念に思います。今後、有価証券報告書における監査対象外の情報への公認会計士
の関与が検討されることになるのではないかと思います。

会計士業界としては、今回の件から「会計監査には関係がない」と安心するの
ではなく、監査が「社会」から認めてもらうため、「社会からの期待」に応える
ため、会計監査の役割をどのような情報発信をしていけばいいのか、また経営者
不正についてどのように対峙していくべきかよくよく考えないといけないように
思います。

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■ 5.年の終わりに

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ゴーン氏の問題が法的に違法行為だったかどうかは裁判所の判断に任せるとし
て、「コンプライアンスの意味は、法律さえ守っていればいいのではなく、広く
社会一般から求められる“倫理的”な行動かどうかも含まれる」ということ考え
るとやはり不適切な行為も多くあるように思います。
すっきり背筋を伸ばして年を迎えるために倫理的な判断を行う基準をご紹介し
ます。A seven-step guide for ethical decision-making (Michael Davis
1999)の中で判断を自らチェックをする際のチェックポイントの一部分を抜粋し、
わかりやすく加工したものです。

・その選択肢は他の選択肢に比較して害は少ないか
・その選択肢は新聞報道(今ならWEB)等で公にしてもらいたいか
・その選択肢は、公に説明ができるものか
・自分がその選択肢の影響を受ける側になっても同じ選択肢をとるか
・家族・同僚・組織のコンプライアンス責任者はその選択肢を支持してくれるか

来年が重要な判断の局面で倫理的な判断を行うことのできる皆様が幸多き年に
なりますように。

平成最後のお正月、どうぞよいお年をお迎えください。
そして、ビズサプリグループを来年もどうぞよろしくお願い致します。

Merry Christmas & Happy New Year

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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管理会計の在り方について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.086━2018.12.5━

【ビズサプリ通信】

▼ 管理会計のありかた

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ビズサプリの泉です。

2018年も12月となり、師走の忙しさを感じるとともに、気温もぐっと下がった
と実感している近頃です。
経理部門における役割は開示制度が大きく変わってきたここ十数年は財務会計
重視されていましたが、それが一段落して管理会計にも一定の役割を果たすこと
が求められているという流れがあるようです。 最近、クライアントとの業務を
していく上も、また経理業界の雑誌においても管理会計が再び注目を集めている
ように感じており、今回は管理会計の在り方について取り上げたいと思います。

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■ 1.管理会計とは

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株主、投資家、国、銀行といった会社を取り巻く利害関係者に対して、制度に
基づいて報告される財務会計とは異なり、管理会計とは、英語ではManagement
Accountigとされるように、経営をするための会計であり、その目的は経営者
や管理者が意思決定をするための羅針盤となる会計情報を提供することです。
具体的には、事業への社内リソースの配分や事業からの撤退を検討するための
事業の業績評価を適切に行うためであったり、より適切なインセンティブ
付与する人事評価の指標とするために利用されます。

管理会計の代表的な業務としてよくいわれるのが原価計算や予算管理です。
原価計算は、個々の製品についてコストがどのようにかかっているかを明ら
かにし、販売価格をいくらにすべきかについて有用な情報を提供するととも
に、製品の原価の内訳を明確化することでコスト削減をする際に役立ちます。
予算管理は、予算と実績を比較することで過去の実績の分析を行い、将来の
実績見込みの精緻化を図ることが主な目的となります。

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■ 2.原価計算や予算管理が管理会計なのか

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もちろん、原価計算によりコスト構造を明確化するとともに、予算管理により
業績評価を行うことで予算達成を目指すということは、会社の目的である利益
の最大化という点で有用ですが、原価計算と予算管理だけが管理会計ではない
と考えます。

原価計算によるコスト構造の明確化については、販売価格をコストに利益を
上乗せする方法で決めることよりも市場における価値、需要によって決まる
ということが増えてきています。また、個々の商品で黒字を確保する必要も
なく、例えば、シェアをとるために赤字であっても戦略的に低価格で販売する
場合もあります。このような場合、原価計算は販売価格のための意思決定に
役立っているとはいえません。
特に製造業以外においては、原価計算におけるコスト管理はあまり効果がなく、
単なるコストを集計するだけになっている場合も多いといえます。

予算管理についても、精緻な着地見込みをつくることで、例えば投資計画や
資金繰りに一定の情報をえることはできますが、「将来に向けての社内リソ
ースの配分」については直接的に有効とはいえないのではないかと思います。

個人的には管理会計といえば、まずは費用を変動費、固定費と分解し、限界
利益を明確にすることだと思います。
固定費は直接費なのか、配賦される間接費なのかを区分することになります。
従来は変動費で配賦される間接費というのは考えにくいものでしたが、最近
AWSのようなサービスの登場で配賦する会社もでてきました。
事業のリソース配分の決定においては、限界利益を最大化するようにしますし、
事業撤退の判断には、単に商品や部門別の利益が赤字ではなく、間接費の回収
ができているかを検討したうえで決定しなければ、判断を誤り赤字が大きく
なる可能性もあります。
ただ、会計情報は一般的には財務会計のルールに基づき作成されるため、集計
単位が勘定科目毎になっており「変動費」、「固定費」といった観点で区別
して集計ができるようになっていることは実務上は少ない印象です。

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■ 3.配賦計算は果たして必要なのか

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最近、いくつかの会社のコンサルティング業務をしているときに、配賦計算を
どの程度すべきかということで議論になることがありました。
配賦計算のメリット、デメリットは次の通りかと思います。

<メリット>
・各事業、部門にコストを負担させることができる
・コストを負担させたうえで、各事業部、部門に求める利益の額が明確化できる
<デメリット>
・配賦計算の手間、煩雑さがふえる
・基準をどこまで精緻にしたところで恣意性がはいる
・実際発生額を配賦する場合は、間接費の発生部門等でコスト意識が低下し非効率
性が発生する恐れがある

原価計算基準やセグメント会計基準、固定資産の減損会計等の財務会計において、
間接費の配賦は一般的な考え方です。また、従来の経理業務のおいては集計を精緻
に正確に行うことが重要視されてきたために、財務会計をしてきた経理部員の中
には配賦計算をすることについて強いこだわりをもっている人も多いと思います。
ただ、管理会計において、有用なのでしょうか?

もちろん、全社でかかっているコストを各事業に配賦することで上記のとおり稼
ぐべき利益の額が明確化はされるものの、デメリットのほうが大きい気がします。

配賦のデメリットである煩雑さは経理部に負担をかけるとともに、現場の各事業
担当者にとっては、通常管理不能費であるとともに、多段階配賦をした場合コス
トの中身が見えづらくなる問題のほうがはるかに大きいと考えます。

特に配賦額について、発生した科目と同じ科目で振り替えている会社が多いです
が、その場合、同じ科目内に直接費と間接費が混在し、コスト構造が見えづらく
なり管理ができなくなります。
もはや、本来コスト管理を精緻にしようとしたにも関わらず、間接費がどれくらい
発生しているかすらよくわからなくなっている場合も見られます。

「とりあえず、何でも配賦」とするのではなくて、一度、立ち止まってその配賦
計算は管理上必要があるのか考えてみるべきではないでしょうか。もし、財務
会計上必要であれば、組替えで対応をすれば済むことになります。

ビズサプリグループでは、決算や法定開示書類の作成といった財務会計のコン
サルティング業務のみならず、各業種における管理会計の見直しや、システム
更新の際の要件定義のサポートも行っておりますので、何かありましたらご相談
ください。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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善玉になってきたアクティビストたち

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.085━2018.11.22 ━
【ビズサプリ通信】


▼ 善玉になってきたアクティビストたち


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ビズサプリの久保です。日産のカルロスゴーン会長が金商法違反容疑で逮捕されました。 これは有価証券報告書における役員報酬の虚偽記載の疑いということです。それ以外に同氏による不正もあったようです。会社は、第三者委員会により調査をするそうですので、今後いろいろと明らかになると思います。
さて、今回のメルマガの話題は米国における物言う株主の動向です。日本でも今後同様の動きが見られることになるかもしれません。
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■ 1 アクティビストは悪玉か
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アクティビストは「物言う株主」とも呼ばれ、株式を買い占めた後、配当の増額や事業の切り売りなどなどを主張し、株価が上がったところで売り抜けて大金を儲けるような人たちと、一般には考えられているのではないでしょうか。
有名な村上ファンドは、東京スタイルに対して議決権争奪戦(プロキシ―ファイト)を行ったのち、ニッポン放送株式買い付けに関するインサイダー取引実刑判決を受けています。しかし、最近では、出光の創業家に対して昭和シェルとの経営統合を受け入れるよう助言をしたことが報道され、少しイメージが好転しているとは言え、悪者のイメージが付きまといます。
一方、野村證券(ホールディングス)に対して、社内のトイレを和式にすべきだという不合理な提案をする株主もいました。これも物言う株主ではありますが、株主提案権を濫用しているだけであり、ここでのアクティビストには含まれません。
いずれにしても、多額の資金によって株式を買い占めて、会社を手玉に取る「悪玉株主」というのがアクティビストのイメージだと思います。
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■ 2 米国での株主機関化の影響
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最近米国では機関投資家がアクティビストの主張を支持するようになり、結局のところ長期的な企業価値が上がっている上場会社が増えてきているようです。悪者イメージのアクティビストが、株主や会社のために良い提案をする人たちに変わってきたそうです。それはなぜでしょうか、またそれにはどのような背景があるのでしょうか。一橋大学大学院の田村俊夫教授によれば次のとおりです。
米国では、年金、保険、投信などの機関投資家による上場会社の株式所有比率が増加しています。個人株主が大部分であった米国では、今や上場会社株式の70%を機関投資家が所有しています。これは特に年金ファンドの資金が増加していることが要因です。
昔、米国ではウォールストリート・ルールが支配していました。それは、そもそも株式投資は経営者を信頼して行うものであり、その経営に不満があれば株式を売却すればよいという考え方です。経営者の経営が悪いと株が売られ、株価が下がるので、経営者が経営を改めるという市場原理が働くという考え方です。
しかし、機関投資家は薄く広く多くの会社に投資をするため、もはや特定の会社の経営に不満があったとしても、株式を売却することができなくなってしまいました。例えば年金は典型例です。多額の資金を運用するためには分散投資をする必要があります。
インデックス投信は、企業業績に関わらず、株価と連動するように運用します。このようなパッシブ運用ではなく、アクティブ運用を行うファンドであっても、機関投資家株主権を行使して、会社の経営方針を変えさせることをするための人材がおらず、そのコスト負担をすることもできません。
すなわち、機関投資家は、会社の経営戦略を十分調査研究して長期的な視点で投資するのが本来の姿であることは認識しているものの、その調査研究を丹念に行い、各会社の経営方針に反対する意見を提案するところまではできないというのが現状です。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 3 善玉アクティビストの登場
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これに対して、アクティビストは少数の会社に集中投資するため、投資先の企業を研究することができます。アクティビストは特定の上場会社の事業環境や経営戦略を徹底的に調査し、その結果に基づいて株式を買い付けます。彼らは優秀な人材を抱えており、場合によっては業界に詳しい元経営者をヘッドハンティングしています。
従って、これらのアクティビストの提案は、短期的な利益を得るために自分勝手な無理難題を会社に押し付けるようなものではありません。アクティビストが提案する経営方針の変更は、プロが徹底的に調べ上げた結果に基づいているので、会社の経営者にとっても容易に反対できない戦略であることが多いようです。
田村教授によると、アクティビストは1000億円ぐらいを1社に投資するようなことをして、物言う株主として経営方針の変更を迫るとのことです。しかし、米国の時価総額が大きい大会社の場合、アクティビストが1000億円出資したとしても、持株比率が1%に満たないことがあります。例えば、時価総額が100兆円を超えるアップルの株式を1000億円分買ったとしても、0.1%しか取得できません。
それでは株主権を行使して経営方針を変更させることはできません。多くの株式を所有している機関投資家の賛同がないと、経営を変えることはできません。ここで、アクティビストの提案が非常に筋の通るものだったらどうでしょうか。機関投資家としても「渡りに船」の状況になります。
前述のとおり機関投資家には、特定の会社について詳しく調べる人材もお金もありません。アクティビストが丹念に調べ上げた結果に基づき、経営方針の変更をすれば企業価値が上がるというのであれば、その提案に乗らない手はありません。
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■ 4 結果として長期的な企業価値向上があったのか
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このように最近では、機関投資家がアクティビストの主張を積極的に後押しするようになったというのです。しかし、実際にこれらの株主の提案に基づいて会社が経営方針の変更をしたことによって、その企業価値が向上したのでしょうか。
米国でこの分野で大きな影響力があるべブチャク教授(ハーバードロースクール)が、1994年から2007年のアクティビストの活動約2000件を実証分析した結果、「アクティビスト活動が長期的な業績を低下させる統計的根拠はない」、「アクティビストの株式売却後、長期的に株価が下落する傾向は見いだせない」などの結論が出されました。
米国ではその後も同様の実証分析が行われていますが、この結論を否定するような結果は出ていないとのことです。ということは、アクティビスト活動は、企業業績や株価に良い結果をもたらすことはあるとしても、悪い結果をもたらすことはないという結論になります。
このように、これまで悪玉だと考えられていたアクティビストたちに対する考え方が、最近米国では大きく変わったのが現状のようです。すべてのアクティビストが善玉であるとは限りませんが、アクティビストは悪者であるという一方的な見方は改める必要がありそうです。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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収益認識とプライシング

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.084━2018.11.07 ━
【ビズサプリ通信】
▼ 収益認識とプライシング
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ビズサプリの三木です。以前のメルマガで新しい収益基準のことを取り上げました。新しい基準のポイントの一つに「価格」があります。今回のメールマガジンでは、この新基準における価格の扱いと、商品やサービスの値決めについて取り上げます。
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■ 1.値段は案外わからない
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物やサービスの値段というのは、案外分からないものです。電気量販店で家電を買ったらポイントがつきました。ポイント込みの金額が家電の価格でしょうか。それともポイントは控除すべきでしょうか。出張でホテルに泊まったら、「無料朝食券」がついていました。朝食は無料でしょうか、それとも宿泊代とセットでしょうか。スーツを2着買ったところ、1着無料券をもらいました。もし無料券を使って3着目を買ったら、売り手にとって売上ゼロでしょうか。タバコやお酒の価格には酒税やたばこ税が含まれています。税抜価格がタバコやお酒の値段でしょうか。それとも税込でしょうか。
物やサービスを売りたい側は、お得感を演出したり、顧客を囲い込んだりするために、あの手この手の販売戦略を取ります。この販売戦略が複雑になると、物やサービスの値段が本当はいくらなのかどうしても分かり難くなります。大企業であればその辺はしっかり管理しているかと思いきや、ポイント制度、セット販売、事後キャッシュバック、ボリュームディスカウント、各種キャンペーンなどを組み合わせて実施しているうちに、実際のところいくらで売れていて、利益があるのかどうかよく分からない・・・・なんていうこともあります。
会計的には、どこまでが売上のマイナスで、どこからが販売促進費販管費の一部)なのかという問題が出てきます。値引を販売促進費にすれば大幅値引で売っても売上総利益が上がりますが、それで喜んでいると営業利益はマイナス、なんてことになりかねません。何をどういう費目で処理していて、それを販売管理上どう扱っているのかが肝心と言えます。
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■ 2.新基準の計上価格ルール
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収益の新基準の考え方は「履行義務アプローチ」と呼ばれ、要するに、「お客さんと約束したこと(履行義務)をやった時に、その約束の対価で売上を計上しなさい」ということです。そこで、何が「対価」なのかをしっかり考える必要が出てきます。
事後のキャッシュバックやリベートなど、お金は払っただけで対応する商品やサービスが無いとなると、売上のマイナスになる可能性が高いと言えます。例えば、スーツを2着買って1着無料券をもらった場合、2着を売った時点で売り手にとっては3着目を無料で渡すという義務が残ります。このため、2着分として受け取った金額の3分の2は売上からマイナスされ、前受金となります。このとき、それぞれのスーツが同じものなら2着分の代金を3で割って1着分の代金を求めればよいのですが、それぞれ異なる値段のスーツであれば代金を比例配分することが必要です。
それでも、スーツのように比較的価格がはっきりしているものはまだ分かりやすいのですが、価格がはっきりしないものと組み合わせになると厄介です。例えば「いま車を買えば3年間はエンジンオイル交換無料」というキャンペーンでは、お客がどれくらいエンジンオイル交換に訪れる分かりません。それでも3年間のエンジンオイル交換の権利の値段を考え、価格を配分しないといけません。
販売戦略によってパターンは様々ですが、新基準では「本当の対価はいくらなのか」を突き詰めることになります。そして企業にとっても、複雑に組み合わせた値引やキャンペーンを整理して「本当の対価」を把握することは、販売価格を決めていく上で重要です。

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■ 3.プライシング
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物やサービスを売るときの大きな悩みとして値決めがあります。高すぎれば売れないし、安すぎれば赤字になります。この値決めにはいくつかの流儀があります。
まずコストプラスマージン、すなわち原価に一定率の利益をのせて価格を決める方法です。汎用品というよりオーダーメイド品、B to CよりB to Bで比較的多く使われ、建築工事などが代表的です。これと対照的なのがマーケットベースの方法です。市場で競争できる価格設定にする方法で、競争の激しい汎用品でよく見られます。牛丼チェーンなどでの驚くような安価な価格設定が代表的で、その販売価格の範囲内で原価構成を考えることになります。それ以外に、希少性や技術力を価格に反映させることがあります。例えば高級腕時計などは、職人の技術力や独自性、あるいは数の少なさによって価格が決まります。ハイテク産業で使われるレアメタルが高いのも埋蔵量の少なさが大きな要因です。
商売をするときは、無意識にこうした要素を組み合わせて価格を決めています。ただしそれも正解があるわけでもなく、どういう顧客をターゲットにするか、どういうブランドイメージを作りたいか等の経営判断によって変わってきます。
場合によっては大口顧客とスポット客で値段が違うこともあるでしょう。一般的には大口顧客に対しては売価を下げますが、新規顧客開拓のためむしろスポット客に安価で販売することもあります。その場合は新規顧客への値引き額は、売上のマイナスというより営業コストと言えるかもしれません。
収益認識の新基準では、こうした取引実態を踏まえた会計処理が求められます。そうすることで商品やサービスごとの利益獲得能力が見えてきます。今まで花形と思われていた商品が実は大して利益に貢献していなかった、ということも考えられます。このため、新基準に切り替える際には社内的には大きなストレスがかかるかもしれません。しかしながら、利益の源泉が見えやすくなることで力の入れどころが分かるようになり、収益認識の新基準の導入が収益性の向上につながる可能性も大いにあります。
商品展開や値決めに歪みを感じている方がいらっしゃいましたら、収益認識の新基準を改革のきっかけとして考えてみてはいかがでしょうか。
ビズサプリグループでは様々な会計上の課題について対応支援を行っています。気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。
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IFRS 新会計基準の概要と導入のポイント

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.083━ 2018.10.26━━

【ビズサプリ通信】

▼ IFRS新リース会計基準の導入

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こんにちは。ビズサプリの庄村です。
とても暑かった夏が終わり、少し肌寒い季節へと変わってきました。

東京証券取引所が2018年7月31日に公表した「会計基準の選択に関する基本的な
考え方」によると、IFRS(国際会計基準)適用済・適用予定・適用を検討してい
る上場会社は204社となっているようです。
IFRSでは新リース会計基準の導入が決定しており、今回のメルマガでは、IFRS
会計基準の概要と導入のポイントを中心に取り上げていきます。

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■ 1.IFRS新リース会計基準の概要

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IFRS新リース会計基準IFRS16号「リース」)では、リースを「資産を使用
する権利を一定期間にわたり、対価と交換に移転する契約」と定めています。
従来の「リスク・経済価値モデル」から「支配モデル」に変更されました。
「支配モデル」はIFRS10号「連結財務諸表」やIFRS15号「顧客との契約か
ら生じる収益」と同様の概念です。
一定期間にわたり資産を使用する権利とリース料を支払うと義務をそれぞれ資
産、負債として認識するものです。

大きな変更は、借手側でファイナンス・リースオペレーティングリースの区
分がなくなる点です。すなわち、従来のファイナンス・リースのみならず、オ
ペレーティング・リース、レンタルや不動産の賃貸契約などもリース会計処理
が必要となり、使用権資産とリース債務がオンバランスとなるのです。
事務所のコピー機や賃貸借している店舗などもオンバランスとなるので、航空
業、店舗を多く運営する小売業・外食業などへのインパクトが大きくなりそうです。

リース債務は、リース期間中に発生する全ての支出を含めて総額を求め、リー
ス期間で割引計算した現在価値を算定します。一方、使用権資産はリース債務
に「当初直接費用」を加算して算定します。
これはファイナンシャル・リースでの算定方法と基本的に変わりはありません。

原則すべてのリース取引をオンバランスしますが、実務的に非常に煩雑となるた
め例外処理(簡便処理)を設けています。
すなわち、1資産あたりの金額が5,000米ドル以下の少額リースや取引期間が1年
未満の短期リースはオフバランスが認められます。

貸手側の会計処理については基本的な変更はありません。

IFRS新会計リース会計基準は2019年1月1日に開始する事業年度から強制適
用されるので、3月決算の場合は2020年3月期決算から、12月決算の場合
は2019年12月期決算から適用されます。
したがって、IFRS任意適用会社ではあまりのんびりとしていられず、早急な対応
が求められてきます。

経過措置・初度適用ですが、リース判定は新リース基準適用開始前の期首前に開始
された契約については、リース判定のやり直しは必要ないこととなっています。
また、IFRS新リース会計基準を適用した使用権資産やリース債務の再評価方法には
全面遡及アプローチと修正遡及アプローチがあり、いずれかのアプローチで再評価
します。ここで、全面遡及アプローチとは、過年度に遡及して使用権資産やリース
債務を再計算して各報告年度の金額を再計算する方法で、比較年度も新リース会計
基準を適用して修正再表示します。修正遡及アプローチは比較年度は修正再表示し
ないアプローチで新リース会計基準との差異は適用開始日の期首利益剰余金残高の
修正として認識します。
いずれのアプローチでも比較年度の再評価は必要となってくるわけです。


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■ 2.導入のポイント

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IFRS新リース会計基準の適用にあたり、まずは、財務数値へのインパクトを分析
します。
借手側は、従来はオフバラン処理されていたオペレーティング・リース、レンタ
ルや不動産の賃貸契約に対しての使用権資産が資産計上、リース債務が負債計上
されることとなるので、財政状態計算書(貸借対照表)では、総資産及び負債が
同額増加します。純資産の金額にはインパクトを与えませんが、自己資本比率
ROA等の経営指標従来と変わってきます。

一方、従来はオペレーティング・リース、レンタルや不動産の賃貸契約に関する
支払いを「支払リース料」や「賃借料」としてとしてリース(賃貸)期間中一定
額を計上していました。IFRS新リース会計基準では使用権資産を定額法で償却し
減価償却費、リース債務は償却原価法を用いて支払利息を計上します。
したがって、包括利益計算書(損益計算書)では、税引前当期純利益へのインパ
クトほとんどありません。ただし、支払利息は営業外損失に計上されるため、営
業利益が改善します。
また、従来の支払リース料はリース期間中一定額、利息法による支払利息はリー
ス負債残高が大きい初期に多額に計上されるため、リース期間前半に税引前当期
純利益は減少し、リース期間後半に増加することとなります。

次に、日本の開示制度上は、IFRSは連結財務諸表のみで適用され、単体財務諸表
は日本基準が引き続き適用されるため、IFRS新リース基準への対応は連結決算に
おける調整となり、そのような対応をするための業務プロセスの見直しやシステ
ム改修が必要となってきます。

日本本社が新基準に対応する以上は海外拠点も含めた子会社の対応も必要となっ
てくるので連結パッケージの見直しなども必要になってきます。


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■ 3.日本でのリース会計基準の動向と論点

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IFRS新リース会計基準の適用を受けて、我が国の企業会計基準委員会(ASBJ)で
IFRS第16号「リース」のエンドースメントに関する議論を進めています。
審査の結果、実務上の困難さはあるものの、受け入れ難いとするほどの事情はな
く、改正案では「削除又は修正」を行わないとする案が掲示されています。
したがって、現状では、日本でもIFRS第16号「リース」を削除又は修正なく適
用される可能性が高くなっています。

そこで、論点となるのが、日本の会計基準では、IFRS第16号をそのまま適用す
るようにリース基準を改定する見込みですが、その適用時期がまだ不明確である
ことです。時期的に考えて、IFRS第16号「リース」の強制適用される2019
年1月1日に開始する事業年度に適用することはなさそうで、それ以降の適用と
なりそうなことです。
IFRS任意適用会社では特に問題はありませんが、IFRS任意適用会社以外の上場会
社では、日本基準を適用する日本親会社よりも早くIFSR第16号を適用する海外
子会社がでてくることです。
すなわち、連結パッケージをIFRS基準で作成し監査報告書(レビュー報告書)を
入手している海外子会社ではIFRS基準で会計処理する必要があるため、連結財務
諸表上では、IFRSを適用した海外子会社のオペレーティング・リース等に関わる
使用権資産やリース債務は計上されるものの、日本親会社の使用権資産やリース
債務は計上されないことなってしまいます。


ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタントによ
り、IFRSインパクト分析を含めた導入支援、企業内ルールの作成支援コンサル
ティングも行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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