株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

経済活動の断絶の可能性

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.115━ 2020.4.22━━

【ビズサプリ通信】

1. 経済活動の断絶の可能性

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ビズサプリの花房です。前回メルマガを書いた新年の頃から、すっかり世の中
の様相が変わってしまいました。新型コロナウィルスの感染拡大防止のために
政府から緊急事態宣言が出され、日本でも一斉に在宅勤務へとシフトしていま
す。但し印象としては、大企業とIT企業は対応が早く、大規模に実施している
のに比べて、中小企業はそもそものインフラが整っていなかったこともあり、
在宅勤務にしたくても出来ていないところも多いようです。

また営利事業への影響として、現時点で影響が大きいとされるのは個人相手の
サービス業で、緊急事態宣言は人が集まることを自粛していることから、商業
施設や劇場は休業要請を受け、飲食店は営業時間の短縮を要請されている地域
もあり、人との接触8割減を達成するために不要不急の外出は控えることから、
通勤、出張、旅行等が控えられることで、交通機関・旅館/ホテル業には、す
でに多大な影響が出ています。

むしろ影響を受けていない業種は皆無で、企業業績への悪影響はこれから徐々
に大きくなるでしょう。さらに怖いのは、その影響がどこまでどの規模で拡大
していくか分からないことです。人は、終わりのある苦痛は耐えようと思いま
すが、無限の苦痛には耐えようがありません。その意味でも、今回の新型コロ
ナウィルスというのは、リーマンショック東日本大震災を超える負の影響を
予感させます。

今回の新型コロナウィルスの蔓延は、戦後、基本的に連続性のあった経済活動
の流れの中で、初めて非連続、言い換えると断絶を生じさせてしまうかもしれ
ません。つまり、新型コロナウィルス発生前と終焉後の世の中が、ガラッと変
わる可能性があります。コロナウィルスが終焉すれば、景気はすぐに元に戻る
と予想する方もいますが、今まで経験したことのない危機の後がどうなるかは、
誰にも予想は出来ません。長期の不況に陥る恐れもあります。

新型コロナウィルスが企業の決算に与える影響はどうなのでしょうか?特に
この3月決算において、すでに様々な影響が出てきています。そこで今回は、
新型コロナウィルスによる経済活動の低迷が企業の会計処理に直接影響する
ものとして、会計上の見積り計上に対する影響、また、外出制限が企業活動
を制限する中で、決算作業や会計監査にも後れを生じさせていることによる
決算開示への対応について、見ていきたいます。

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2. 会計上の見積りによる限界

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現在の企業会計は、債権の回収可能性や引当金の計上、減損会計、退職給付
会計、繰延税金資産の回収可能性等、将来のキャッシュ・フローや費用額を
予測して、金額を見積り計上することになっています。その見積を行う過程
においては、将来の状況を見積るとは言え、多くの場合は、過去もしくは現
在の情報を基礎として、それに一定の仮定を置き、その仮定の下で計算され
る将来の状況から、現時点において合理的と考えられる資産・負債の金額を
算出することになります。

つまり、基本的には過去の延長線上に将来が予測されるため、見積りの合理性
を比較的容易に明らかにしやすいと言えます。しかしながら、新コロナウィル
スの前後で売上やコストの状況が極端に変わってしまうような状況においては
、もはや過去の実績を元に従来の方法で、将来を予測するのは困難な場合も多
くなると考えられます。

そこで企業会計基準委員会は、4月9日開催の委員会で審議を行い、「会計上の
見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」を公表しまし
た。これによると、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等
を予測することは困難であるため、 会計上の見積りを行う上で、特に将来キャ
ッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況において、会計上の見積り
を行う上では、以下の点に留意する必要があるとのことです。その留意点を挙げ
ると、

1. 新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、
一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要がある
2. 新型コロナウイルス感染症の影響については、会計上の見積りの参考とな
る前例がなく、 今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がない
ため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多い
と考えられるので、新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の
広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる
3. 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積
りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間
に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられる
4. 最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定
の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積
りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられる。このよ
うな状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会
計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような
情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追
加情報としての開示が求められるものと考えられる

このように、今回の新型コロナウィルスの影響はについて、不確実性が高い
ことを理由に、会計上の見積りが困難であったとしてもそれを行わないこと
は許されず、経営者が一定の仮定を置いた上で最善の見積りを行い、重要性が
高い場合はその見積方法についての情報開示をしなければなりません。しかし
ながら、国や都、ましてや専門家と言えども、収束の時期や影響を見通せない
中で、一企業の経営者に一定の仮定を置き、将来の予測を求めることが果たし
ていいかどうかについては疑念が残りますが、一方で見積りが出来ないことを
理由に決算数値が固まらず、その金額的な重要性が高い場合は、監査において
意見不表明となる可能性があることを鑑みると、致し方ない措置なのかもしれ
ません。

なお、日本公認会計士協会からは、4月10日付で会計士の会員向けに、「新型
コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」が通知され、
『財務諸表の利用者等の意思決定に資するという公共の利益を勘案し、不確
実性の高い環境下においても、それを要因として会計上の見積りの監査が困難
であることを理由に監査意見を表明できないという判断は、慎重になされる
べきである』等、このような環境下でも適切に監査意見が表明されることを
後押ししているようです。

いずれにしても、不確実性が高い世界において、最善の見積りとは言え、経営
者が独自に置いた一定の仮定の下で算定される財務情報は、投資家に本当に役
立つものなのかどうか、仮にその前提条件が財務諸表の注記等で開示されると
しても、投資家が正しく読み解くことが出来るのかどうか、よく考えてみる
必要があると思います。

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3. 3月決算会社の株主総会、及び有価証券報告書の提出期限の延長

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今の時期は、3月決算会社の本決算作業の最中ですが、在宅勤務が半強制的に
なり、上場会社の経理担当者の方も四苦八苦されています。何とか当初のスケ
ジュール通りにされようとしている企業はあるものの、物理的に対応が困難な
状況も出てきており、また、監査法人も原則在宅勤務の体制を敷いているため、
例年通りのようにはいかなくなってきています。

そこで金融庁は、スケジュール順守の無理な対応を強いることで関係者の健康
と安全が損なわれないよう、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等を改正
し、今年の4月20日から9月29日までの期間に提出期限が到来する有価証券報告
書、四半期報告書等について、企業側が個別の申請を行わなくとも、一律に本
年9月末まで延長しました。これにより、金商法に基づく開示書類については、
大幅な余裕が出来たと言えます。

ただ、有価証券報告書を9月末まで延期できたとしても、株主総会は決算日から
3か月以内に開催する必要があります。通常は配当金の権利の確定する基準日は
企業の決算日と同一であるため、仮に株主総会を7月以降に延期しようとすると、
基準日を設定し直す必要があり、決算日直後に株式を売却した株主は配当金を
受け取れない可能性がある等、ハードルが高いです。

そこで、金融庁東証経団連などは4月15日に連絡協議会を開き、3月決算
会社は当初予定の株主総会で、取締役の選任等の決議を行った上で、続行の
決議(会社法317条)を行い、その後合理的な期間内に継続会を開催して、
計算書類、監査報告等について十分に説明することを求めています。実際、
そのような対応をする上場企業も出てくることが想定されます。課題は、新型
コロナウィルスの収束状況によっては、実際に総会への参加が憚られる可能性
があり、企業によっては、Webを介した参加が出来るような対応が図られるかも
しれません。

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4. まとめ

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今回、非常事態宣言で外出が自粛される状況の中、自宅で様々なことを考える
時間を経て、大勢の価値観が変わるかもしれません。新型コロナウィルスの発生
原因は明らかになった訳ではありませんが、環境破壊を顧みず開発を続けてきた
人類に対する、自然のしっぺ返しではないか、という見方もあります。SDGs
ESGを合言葉に、先進国は環境に対する配慮を意識し始めて来たところでの、
予想もしなかった自然の脅威に対し、人間の無力さを感じずにはいられません。
地球あっての人間の営みですから、これを戒めとして、企業活動も利益追求を
第一とするだけでなく、自然との共存共栄を前提とした、持続可能なビジネス
モデルを求めなくてはならないと強く思います。

ビズサプリグループでは、テレワークのための業務改善支援、非常事態における
決算開示支援も行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult


本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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