株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

企業の豊かさとは何か?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.065━ 2017.12.6━━

【ビズサプリ通信】

▼ 企業の豊かさとは何か?

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こんにちは。ビズサプリの花房です。師走となり、年末特有のイベントや来年
に向けての仕事の整理など、多くの方は通常月よりも忙しくされることと思い
ます。さて今回のビズサプリ通信では、最近特に目立って来ている企業不正の
根本原因から、企業の社会的な役割について再考してみたいと思います。

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■ 1.相次ぐ不正問題とその問題の本質
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今年のビズサプリ通信では、東芝の不正問題について多く取り上げてきました
が、不正自体は2015年に起こったもので、今年は監査報告書が出来るかどうか
と上場維持問題にスポットライトが当たっていました。ところが、9月以降は
立て続けに、日産の無資格者による検査不備、神戸製鋼所三菱マテリアル
東レの品質データの改ざんが発覚し、日本のものづくりへの信頼性の危機の
ように取り上げられています。

いずれも今年たまたま行われたというものではなく、30年とか40年と言った前
から行われていたような証言も出て来ています。原因の究明は道半ばですが、
すでに経営トップが辞任に追い込まれるなど、その影響が徐々に波及していま
す。

このような不正がなぜ起こったかということについては、過去の事例も含めて
コンプライアンス意識・モラルの低下、経営陣・上司からのプレッシャー、隠
ぺい体質といった経営風土上の問題があった等、様々な理由が挙げられるので
すが、突き詰めるところ、多くの場合は結局「利益」の成長を続けなければな
らないという市場からの圧力によることが、多くの場合の不正問題の本質では
ないかと考えています。そうであれば、増収増益による成長を続ける企業が、
最も優れている企業であるという評価に対応するため、経営者として無理をし
てまで利益を確保する縛りを逆になくせばいいのではないか、と思うのです。


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■ 2.資本主義経済とガバナンス強化

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上記のことについては、上場会社である以上、会社を成長させることが経営者
に課せられるミッションであり、増収増益を続けて行くことが、投資家に対し
ての責任を果たすことであって、そのプレッシャーに屈して不正を働くことの
ないよう、内部統制を整備・運用し、コンプライアンス遵守の体制を強化し、
企業風土を含めた企業のガバナンスを向上させることで、不正を防げるのであ
るから、その上でやはり利益を追求して行くべきだと言った反論があることは
もちろん承知しています。

しかしながら、経済の成熟した先進国にとって、一般市民にとって食べて行く
ために稼ぐことが人生のすべてではなく、価値観が多様化し、少子高齢化が進
み、国内市場の成長が見込めない中で、マーケットがゼロサム、場合によって
は縮小を余儀なくされる厳しい状況の中で会社を成長させていかなければなら
ないのと、高度成長期に代表されるマーケット自体が成長する時代において、
それなりにやっていれば企業を成長させられるのでは、ITの技術革新などで新
たに作り出される産業は別として、旧態依然の既存産業については競争環境が
あまりに違い過ぎるように思います(事実、今回立て続けに不正が発覚してい
る企業は全て、素材産業や製造業と言った、かつて日本の中心となっていた産
業ではないでしょうか)。

資本主義経済は自転車操業であると形容されますが、それは経済全体が成長す
ることで、誰も損をせず、皆が勝者になることが大前提であるように思います。
それが一たび停滞すると、勝者と敗者が出てきて、敗者が多くなることで不況
になり、資本主義は停まってしまうという理屈です。IoTやAIと言った、今後
成長する可能性の高い分野の出現や、技術革新によって、今まで不況を克服で
きたということもあるでしょう。

しかし資本主義経済であることから、毎期の成長、言い換えると利益を計上し
続けることがあまりに強く求められる結果、その市場圧力が不正の要因となる
のであれば、逆に投資家が利益をそこまで求めなければ、不正を起こそうとす
る動機が減り、その結果ガチガチで窮屈なガバナンスでなく、ほどほどの健全
なガバナンスで済むような気がいたします。とは言っても資本主義経済よりも
いいと考えられる経済システムはないのが現状ではあるのですが。

グローバル化がどんどん進展し、未開拓地域がなくなる一方、人間の生活には
消費活動が必要ですから、皆が豊かになり人口が増えると、物的な資源が徐々
に枯渇していきます。このような問題に対応するため、大量生産・大量消費で
はなく、循環型社会への取り組みが色んな形で試されています。シェアリング
エコノミーの提唱もその問題解決への取組みの1つでしょう。


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■ 3.利益が全てではない

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それでは投資家は利益以外に何を企業に求めればいいのでしょうか?利益は、
企業の決算書の中でも代表的な指標であり、決算書に関する情報を財務情報と
分類します。一方、有価証券報告書やアニュアルレポートの中には、財務情報
以外の情報があり、これを財務情報に対して非財務情報と分類します。非財務
情報は、経営者による財政状態・経営成績の分析、経営理念や経営ビジョン、
経営者や従業員の情報、中期経営計画と言ったものがあります。また古くは
環境報告書と言われ、近年ではCSR報告書から、サスティナビリティレポート
と形を変えて来ていますが、主に環境問題や社会問題に対しての企業の社会的
取り組みをまとめたものです。

最近では、この財務情報と非財務情報を別個のものではなく、1つにまとめた
「統合報告」を作成することが、ヨーロッパ企業を中心にトレンドとなってい
ます。企業としては、『財務情報以外にも社会に提供する価値を含めて、企業
価値を含めて欲しい』というメッセージと理解しています。実際、機関投資家
の中には、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)
の頭文字を取ってESG投資と呼び、そこへの取り組みが優良な企業に投資して
行こうというという考え方も生まれています。ただ、環境問題や社会問題に対
する取り組みが財務情報と結びつきにくく、また過去・現在のみならず将来に
影響するものでもあるため(財務情報は基本的に過去情報)、投資効果として
判断しづらいと言った課題もあるので、投資指標として『利益』を超えるもの
にはなっていません。

少し前になりますが、ブータンで重要視されている指標として、GNPならぬGNH
(=Gross National Happiness)が話題となりました。国民1人当たりの幸福を
最大化することで、社会全体が幸福となるとの考え方から生まれた指標です。
コンセプトそのものは大変理想的なものですが、最近ブータンで問題となって
いるのは、『幸せ』の定義が揺れていることだと言います。当初近代的な物を
持っていない状況では、皆が欲しい物は共通で経済の成長とともにそれらが手
に入り幸福度も上がっていったのが、ある程度の物が普及し、経済格差が徐々
に出てくると価値観も多様化し、それぞれの『幸せ』の尺度に幅が出てきてい
るようです。これは、高度成長期前後の日本と同じではないでしょうか。

以前高校生時代の夏休みの課題図書で、『豊かさとは何か』(暉峻淑子 著、
1989年 岩波新書)という本を読んだ記憶があります。漠然とですが、本当に
幸せなのは物質的な豊かさではなく精神的な豊かさなのだというような話だと
漠然とは感じたものの、未熟な高校生の経験ではからは、本当に深い意味では
理解できず、難解な本だったように思います。1989年と言えばバブルの真っ只
中にあって、その中で30年も前にこの本を書いた著書の社会の洞察力は、今更
ながら凄いと感じます。

今年の11月はちょうど北海道拓殖銀行の破綻、山一証券の自主廃業から20年の
節目ということで、雑誌等で関連の記事が多く書かれています。詳細はそれら
の記事に譲るとして、やはり根本的な原因は、利益を追求するあまり無茶をし
た、ということでした。

ここで改めて企業の社会的な役割について、大学時代に学んだことを思い返し
てみると、企業には多くの利害関係者(ステークホルダー)が存在して、株主
だけでなく、従業員、顧客、債権者、取引先、政府、地域社会などとお互いに
助け合うことで企業は存続できているのであり、そのための利害調整をする役
割を、財務会計が果たしている、と学びました。つまり、企業は株主や投資家
だけを見るのではなく、それ以外の利害関係者にもきちんと向き合わなければ
ならないところ、最近特に、投資家の方を向く傾向が強くなっています。

投資家からみれば、人件費、仕入、税金、金利、いずれもコストですが、それ
らを受け取る側に取ってみれば「利益(あるいは収入)」であって、売上が
一定の下では、投資家の『利益』を増やそうとすると、その他の利害関係者へ
の分配を減らさなければなりません。果たしてそれが社会的にいいことなのか、
それを改めて考えなければならないと思います。先程の著書のタイトルを借り
ると「企業の豊かさとは何か」を考えた場合、それは投資家の懐を潤すことだ
けではないはずです。そのような観点から、企業活動の責任とその果たすべき
役割を見直すべき時代に来ており、持続可能な社会実現のためには、個々の企
業そのものの持続可能性を『利益』以外の部分でも高めて行く必要があります。

ステークホルダーとの関係性が投資家偏重になるのではなく、バランスの良い
関係を再構築することが、今後の健全な企業ガバナンスではないかと考えます。

ビズサプリグループでは、上場支援、企業再編、M&A、PMIにおける各種支援の
他、内部統制やガバナンス向上支援も行っておりますので、ご興味ありました
らご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

 

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