株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

“えらい人”には誰がなる?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.119  2020.7.1━

【ビズサプリ通信】

▼ “えらい人”には誰がなる?

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ビズサプリの辻です。
2020年も半分が終わり7月に入りました。気象庁から発表された夏の3か月長期
予報は日本全国「平年より暑い」。今年も暑い夏になりそうです。マスクを着用
しながらの猛暑。あまり考えたくないですよね。

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■ 1.“えらい人”の不祥事

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ちょうど1年前、人事院からのご依頼で国家公務員の皆様に「公務員倫理セミ
ナー」を実施しました。人事院では幹部公務員を中心とする不祥事が続発した
ことを受けて「倫理原則」を定め、国家公務員倫理審査会を中心に公務員倫理
について様々な取り組みをされています。NGの行動をわかりやすくまとめた
「マンガで学ぶ公務員倫理」という冊子や、常時携帯可能な「国家公務員倫理
カード」を作成・配布したり、「公務員ホットライン」を設置したり。また、
倫理に関するシンポジウムを開催し、不祥事を起こした省庁の若手官僚の皆さ
んが、不祥事で揺らいだ官僚に対する信頼を取り戻すための様々な施策に真摯
に一生懸命取り組んでいるプレゼンをお聞きもしました。

そのような中、
経済産業省の「持続化給付金」業務の不透明な発注
検事長の「賭けマージャン」辞職
中小企業庁長官と取引業者の「前田ハウス」パーティー疑惑
といった公務員による不祥事の報道が相次ぎました。
ある意味目新しくもない伝統的な不祥事の内容で「いつの時代の話なのだろ
う…」「変わらないね…」と思った方も多かったのではないでしょうか。

しかし人事院の取組を一部ではあるものの実際に見てきた私としては強烈な
違和感があるのです。

「“現場”と“えらい人”とのこの温度差は何だろう」

これは企業でも同様のことが起こっていることがあるように思います。

もちろん“えらい人”だからこそ報道価値があり、文春砲に狙われ公表されて
しまうわけであって、“えらい人”だけが不祥事を起こすわけではありません。

ただ“えらい人”の不祥事はその人の権力が大きいため面と向かって行動の
是正を指摘することが難しく「もう抑えきれない」となったところで情報が
外にあふれてきます。このためいったんあふれて外に情報が出たときには結構
大事(おおごと)になっていることが多いのはこれまでも様々な不祥事で皆さん
目にしてきたことではないでしょうか。そのような例で最近記憶に新しいのが
関西電力の「金品受領問題」です。

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■ 2.関西電力の金品受領に関する調査報告書から

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先日、関西電力の「金品受領問題」後の株主総会が終了し、監査役会設置会社
から指名委員会等設置会社への移行と外部人材の取締役会長への起用等を行っ
た新体制がスタートしたとの報道がありました。株主総会後には社長が記者会見
を行い、改めて金品受領問題への謝罪等を行い、新たに社外より会長に就いた
榊原定征経団連会長は、「関電は一連の問題で危機的な状況にある。これまで
の経験・知見を総動員して強固なガバナンス体制を構築し、新しい関電の創生に
全力で取り組む」(日本経済新聞2020年6月25日付より抜粋)といったコメント
を発表したそうです。

関西電力の一連の問題を調査した第三者委員会の「調査報告書」(2020年3月14日)
の中で次のような記載があります。

『役職員2万人を超える巨大企業である関西電力の人員の中から選抜された数十
名もの幹部が、以上のような(報告書に記載のような)基本的なコンプライア
ンスに違反する行為を行い、あるいは、そうした行為を知りながら、何十年も
の間、誰も異を唱える勇気を持てず、さらに、経営陣の一部も、この問題を認識
しながら、長年何らかの対策を取らず、税務調査を契機として本件問題が発覚
するまで漫然と放置し続けていたという責任感・決断力の欠如は深刻である。』

多くの方が共感すること思いますし、恐らく関西電力の多くの従業員の方が
そう思ったのではないでしょうか。関西電力程の大企業であれば、おそらく
毎年コンプライアンス研修を実施してきていることだろうし、社長を始め多く
の役員が今回金品受領を受けた人も含めてコンプライアンスの重要性を公の場
で発言をしてきたことでしょう。それでも金品授受や特定の人の影響力で発注
先を変えてしまうようなコンプライアンスの基礎を長年辞める事ができなかっ
たわけです。

「建前と本音」「聖域」「会社のため」「この場合は仕方なかった」といった
“えらい人”論理があったのでしょうか。ただそれが社会一般の感覚とずれて
いる場合、それがいつかは表に出て強烈な非難を浴び会社を危機に陥れること
になります。

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■ 3.高級車の方が運転が粗い?

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「人の行動は「権力」によってどう変わるのか」については数多くの実験が
行われています。「権力を持つ人の振る舞いはそうでない人よりも非倫理的
となるか」については、皆さんの予想通り「時と場合による」です。ただ、
『権力には人間の心理を変える作用がある、すなわち、自分に「権力がある」
と感じている人と「権力が欠如している」と感じている人とでは、考え方、
感じ方、振る舞い方が異なる』ということは膨大な数の実験の結果が示して
いるそうです。(ハーバードビジネスレビュー 2016年5月号より)

いくつかの実験とその結果をご紹介します。
・被験者を3名のグループに分けて、その中で1人「リーダー役」を決める。
グループ毎に座り、4枚ずつクッキーを配ると7割のリーダー役が他のメン
バーに断りをいれずに2枚目のクッキーを取る。権力があると自分が2枚目
のクッキーをもらうのは当然と思ってしまい、他社への配慮が足りなくなる
傾向がある。

・被験者を上司役、部下役にわける。この被験者たちには、質問や文書をする
ことで、「上司役」には権力感の高揚を、「部下役」には権力感の低下を
誘発した。そのうえで、自分用と他者用にチョコレートの詰め合わせを作っ
てもらった。すると、「上司役」が作ったものは自分用が平均31個、他者用
が平均11個だった。一方「部下役」が作ったものは、自分用が平均14個、
他社用が平均37個となった。権力がある人は自分自身を大切にする傾向がある。

・公道で歩行者が横断しようとしているところで、車が止まるかどうかの実験
を行った。この結果、高級車はファミリーカーに比較すると止まらない車が
多かった。

・大学生を「強い権限を持つ上司グループ」と「弱い権限をもつ上司グループ」
 に分け、両グループともに部下役の高校生に指示を与えて生産性を上げること
 で利益を上げるような疑似企業を作った。「弱い権限上司グループ」は部下
 役の高校生の生産性を上げるために粘り強く高校生を説得し、また仕事以外
 にも積極的にコミュニケーションをとって生産性を上げようとした。一方
 「強い権限グループ」は高校生の意見を聞かず、報酬と配置転換で生産性を
 上げようとし、そのうち解雇を脅しに使うような行動もとるようになった。
 そのうえ部下(高校生)の能力を低く評価し、業績アップは自分のおかげだ
 と高い自己評価を付けた。

どれも社会科学や心理学の実験なので、本当に権力をもったわけでもなく、
実際に人事評価で“えらく”なったわけではないのですが、「権力を持つ」
こと自体で人間のふるまいが変わるということを示しています。

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■ 4.ガバナンス=社外だけではない

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組織内で権限を持っている「経営者」が強い権限の使い方を誤り、誤った判断
をすることで企業が危機に陥ることがないようにする仕組みがガバナンスとな
ります。このコーポレートガバナンスの切り札が「社外の目」であり、上場企
業が守るべき行動規範を示した東証の「改訂コーポレートガバナンス・コード」
(2018年6月公表)では、「上場会社は少なくとも2人以上」とし、「3分の1
以上の社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は十分な人数を選任
すべき」としています。つまり、「3分の1以上」を事実上の目標になっている
わけです。
ただ、このように執行側が行った判断の是正をすべて社外にお任せしないとい
けないようなガバナンスはお粗末ではないでしょうか。先に紹介した事例を含
めて過去報道された大きな不祥事事案についても社外取締役がいなかったわけ
ではありません。むしろ形式的には立派なガバナンス体制があり、とても高名
な方が社外取締役に連なっていたのではないでしょうか。ただ、社外は社外で
す。社内の情報、特に伝わりにくい不祥事の情報をキャッチしその判断をタイ
ムリーに是正するのには限界があります。むしろ社内メンバーでもきちんとし
たガバナンスが効くような組織を作っていく必要があります。そのためには
社内の中で多様な判断軸が持てるような組織、つまりはダイバーシティ
(多様性)に富んだ組織を作っていく必要があります。

危機が起こってしまってからでは自律的な改革がなかなかできず、とにかく
「緊急手術」的に無理やりにでも社外に大幅に権限を与えた改革が必要になっ
てしまいます。そうでないと利害関係者全体が納得しないからです。その状況
は会社にとって望ましいことではないことは確かですから、緊急手術になる前
の平時から権威や権力をもって多様な意見を封じるようなことになっていない
か、「聖域」がないか、「聖域」を許すような風土になっていないかどうか
を検証していく必要があります。ただ、これは当たり前ですが、“えらい人”
、つまり権力を持つ側から提案しない限りはなかなか進みづらいことです。

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■ 5.“えらい人”に誰がなるか

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“えらい人”が平時から多様な意見を取り入れ、間違った判断で物事が進んで
いかないようなガバナンスが効く仕組みを構築していくためには、そういうこ
とをできる人が「えらく」なっていくような人事制度が必要となります。経営
者が絡んでいるような不正や不祥事が起こった場合には、そのような人が
「経営者」として選ばれるような人事制度を変えない限りはその後の再発防止
策は絵空事になります。今後コロナの影響もあり、仕事の仕方も評価の在り方
も益々多様になってくるでしょう。その変化に同質性が高いばかりに気付くこ
とがきない会社は、優秀な人を集める事ができずボディブローのようにマイナ
スの影響が出てくることでしょう。

自分の会社はどのような人が“えらく”なっていますでしょうか。
“えらくなった人”はどのような判断軸、行動をとっていますでしょうか。
また皆さん自身がどのような判断軸、行動をとっていますでしょうか。

ビスサプリグループでは人材コンサルティング会社とも連携をとり、内部統制
と人事制度に関する知見を活かした従業員意識調査や統制環境の根幹としての
人事制度の考え方についてのオンラインセミナー等を実施しています。是非
お気軽にお問合せ下さい。

本日もビズサプリ通信をお読み頂きありがとうございました。

☆月次オンラインセミナーの今後の予定はこちら☆

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現金・預金の横領

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.118━2020. 6.15━

【ビズサプリ通信】

▼ 現金・預金の横領

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ビズサプリの泉です。

新型コロナ感染症について、緊急事態宣言が解除され経済活動が再開されつつ
あるものの、東京では新規感染者数が少し増加しているように感じます。
電車などの公共交通機関に乗ると乗車客数も一時期に比べると明らかに増加して
いますし、繁華街の人手も戻ってきているようです。

自分の業務においても出張や会食の予定が入り始めたりと、ステージが変化した
のだろうとは思いつつ、ワクチンもまだないため、油断は禁物と感じています。

そんな中、自分の業務と割と関わりあいのあるベンチャ―業界において29億円
という巨額の横領事件がおきました。
今回は、現金・預金の横領について考えてみたいと思います。

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■ 1.なぜ横領するのか?

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新聞報道によると今回の29億円の横領はFX取引に使われたとのことでした。
巨額横領事件として少し前になりますが、青森県住宅供給公社横領事件では
15億円を横領し女性に貢いだといわれています。

売店舗においては、少額ですが現金の紛失は割と日常茶飯事であり、「こち
らは今日飲み会だけどちょっと手持ちがないな」といった軽い気持ちから起こ
ることが多いと思われます。

いずれにしても、派手な生活をしたい、投資の失敗を穴埋めたいなど、粉飾
などとは異なり、完全に個人の金銭の欲に起因することが多いといえます。

また、東京三菱銀行の10億円横領やみずほ銀行の13億円横領などに代表され
るように金融機関においては横領事件がよく報道されていますが、現預金を
取り扱う業種という特殊性があるため今回は考慮せず、一般の事業会社、特
に本社部門について考えてみたいと思います。

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■ 2.不正のトライアングル

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一般的に不正は「不正のトライアングル」が揃ったときに発生するといわれて
います。詳細はここでは省きますが、簡単にいうと次の3つの要素となります。

動機:不正を行う理由(例:ノルマへのプレッシャー)
機会:不正を行える環境(例:担当が自分のみで発見される可能性が低い)
正当化:不正を正当化する事情(例:待遇への不満、自分だけやっているわけではない)

現金・預金の横領に不正のトライアングルをあてはめると具体的には次のよう
なものになります。

動機:個人的に借金を抱えている
機会:担当者は自分のみ、又は自分に決裁権限がある、第三者のモニタリングがない
正当化:一時的に借りるだけ、報酬・待遇への不満(もっともらっていいはず)

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■ 3.非上場会社における横領

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非上場会社では通常オーナーに権限が集中しており、ネットバンキングの承認
権限や銀行印もオーナー自ら管理していることが多く、その場合は横領も起き
づらいといえます。(オーナー自ら横領する動機もないため)

ただし、その権限を従業員に移譲した後は、中小企業が多い非上場会社におい
ては、十分に人員がいないため、担当者は少数又は1人、出納と記帳は同じ担当
となりがちです。特にオーナーが信用して移譲している人物の場合は人事異動
もなく、同じ担当者が1人で長期に担当することもよくあります。当然、銀行印
などもその担当者が管理を任されます。
ベンチャー企業やその他の非上場会社では厳しい監査もないこともあり、経理
担当者による現金・預金の横領や不正な経費精算が実は結構おきています。

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■ 4.上場会社における横領

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上場会社となると、少し事情が異なります。
経理担当は複数いることに加え、通常上場の過程において出納担当と記帳担当は
分けられており、現金出納、振込業務は1人で行うことはなく、ダブルチェック
体制が基本的に備わっています。

そのうえで上場会社における横領は大きく2つあると思います。

<不正な送金>
経理担当役員や経理部長など決裁権限のある人が、通常の支払フローを経ること
なく直接、支払作業担当者に指示をして送金することがあります。
この場合において、担当者は自分の上長から、時には役員から指示されると、
イレギュラーにもかかわらず適切であるかを考えずに実施することがままあります。
(後で理由をきくと「誰々さんからいわれたから。」と答えます。)

実際、直接の上長である課長を通さず部長が担当者に直接送金依頼し、途中で
そのことを知った課長が作業をとめさせ、通常の支払フローを経るよう指示する
という事例もありました。(幸いにもその件では不正ではありませんでしたが。)

<不正な経費精算>
上場企業となると規模も大きくなり経費精算の権限もオーナーから委譲される
こととなります。請求書などに基づく通常の支払は取引先の登録など一定、統制
が入っていますが、経費精算は従業員に払うこともあり甘くなりがちです。
結果として、プライベートの費用を不正に精算することいったことが起きやすい
構造となります。

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■ 5.対応策

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現金・預金の横領は個人の金銭の欲によるものが多く、また動機は他者から認識
することは難しいため、正当化と機会に対応することが効果的です。
<正当化への対応>
コンプライアンス意識の高い企業風土の醸成
  ルール軽視の企業風土の場合個人の主観による正当化が起きやすい
・(難しいですが)できるだけ透明性、納得性の高い評価制度、報酬制度の設計
  待遇への不満がたまりやすい
<機会への対応>
経理担当、特に責任者(部長クラス)の定期的な異動
・決まった承認、決裁手続きの順守
  不正の場合は責任者自ら支払データを作成や指示などイレギュラーな場合が多い
・経費精算においては、使用用途を制限するとともに自己承認を許容しない

ビズサプリグループでは、不正に関する統制行為の設計から不正の調査まで
広くコンサルティング業務も行っておりますので、何かお役に立てることが
ありましたらご相談ください。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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株主提案の背景と なった地面師事件について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.117━2020.5.27 ━

【ビズサプリ通信】

▼ 積水ハウス地面師事件を考える

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ビズサプリの久保です。1月決算の積水ハウスは、新型コロナ禍の中、4月23日
株主総会を開催する予定でしたが、会場のホテルの営業が中止されたため、
急遽会場を変更するという事態になりました。このような状況で開催された
株主総会での株主提案が話題になりました。今回は、この株主提案の背景と
なった地面師事件について考えてみたいと思います。

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■ 1.公開された調査報告書

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現役取締役と元取締役が株主提案により、11名の取締役選任議案を提示した
ことで積水ハウスが話題になりました。ISSなどの議決権行使助言会社が賛成
に回るなどの動きがあったものの、4月23日の株主総会では、会社側の取締役
候補者が全員選任され、この騒動は一旦収まったかのようです。
このような事態の直接の原因は役員間の確執と考えられますが、そのきっかけ
は同社が地面師事件に巻き込まれ、55.5億円の損失を計上したことでした。
この事件の後、社外役員による調査対策委員会が設置され、調査報告書(本文
13ページ)が提出されていますが、外部に公表されたのは2ページ半の経緯概要
でした。このうち事件の概要は半ページぐらいしか書かれていません。
代表取締役などに対して損害賠償を求める株主代表訴訟が提起されており、
裁判所は調査報告書の提出命令を出しましたが、取締役・会社側はその命令の
取り消しを求めて控訴しましたが、これが棄却されました。その結果、個人
情報を黒塗りした調査報告書が裁判所に提出されています。
その調査報告書がSAVE SEKISUI HOUSEというウェブサイトに掲載されています。
同社の経営陣に不満を持つ何者かがこのサイトを立ち上げ、自らの主張ととも
に調査報告書を公開したのです。
この調査報告書には誤字脱字があったり、一部推敲が不十分な箇所があったり
します。そういう点では、社内利用目的で作成したとも考えられます。見方を
変えると、社外役員たちによる「手作り感」のある報告書であるとも言えます。
その調査報告書は、強い語気が感じられる次の文章から始まります。
「不動産を専業とする一部上場企業が、55億円5千万円という、史上最大の地面
師詐欺被害にあったということである。また、被害金が裏社会に流れたと推定
される。大手金融機関が振込詐欺で甚大な被害を受けるのと同じで、通常起こ
りえないことであり、絶対にあってはならないことである。」

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■ 2.事件の概要

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この調査報告書に基づいて簡単にその概要を説明しましょう。
マンション事業を行う事業部の営業次長のところに、東京品川区五反田にある
元旅館の土地を売却するという話が2017年4月3日に持ち込まれました。土地
所有者はパスポートと印鑑証明で本人確認ができる状況でした。
会社は、稟議決裁を行った後、4月24日売買契約を締結し、手付金14億円を
支払いました。所有者から直接買い取るのではなく、一旦中間業者が買取り、
それを積水ハウスが買うという契約になっていました。
中間業者の買取価額60億円、積水ハウスの買取価額は70億円でした。
時価100億円すると言われていた土地が70億円で手に入る契約です。この後、
所有権移転の仮登記が完了しています。
その後、6月1日に残金の支払いを行いました。建物取り壊し後に支払う留保金
7億円を除いた残金49億円が支払われました。その5日後に法務局から不動産の
本登記却下の連絡が入りました。ここで偽の所有者から土地を購入していた
ことが判明しました。

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■ 3.経緯概要に記載されていなかった事実

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会社が発表した経緯概要と調査報告書を比較すると、経緯概要には次の重要な
事実が記載されていませんでした。
まず、積水ハウスは、不動産会社が地面師対策として通常実施する「知人に
よる確認」を実施していませんでした。これは写真を所有者の近隣住民や知人
に見せる方法で行われます。
本当の所有者は、この旅館で生まれ育っていますので、近所の人が知らない
はずがありません。地面師から見せられたパスポート写真のコピーを持って、
近隣を回れれば済むことです。
 土地購入の承認を得るための稟議書承認の際、4名の回議者が飛び越され、
予め現地視察をしていた社長が先に承認していました。回議者全員が押印した
のは手付金支払後だったという報道もあります。
手付金支払いと仮登記を行った後に内容証明郵便が4通届きました。これは本当
の所有者が郵送したもので、これらには「売買契約はしていない、仮登記は無効
である」などと記載されており、その一通には印鑑登録カードの番号が記載され
ていました。
これらを土地売買を知った者による妨害行為と思いこんだ積水ハウスは、偽の
所有者から内容証明郵便を送っていない旨を記載した確約書を入手しました。
もちろんこれには何の意味もありません。
妨害行為に対応するため、残代金の決済日を約2か月早めて6月1日にしました。
これは地面師にとっては願ってもないことでした。
残代金支払日の6月1日には、本当の所有者に呼ばれた警察が元旅館に来ました。
警察官は、そこにいた積水ハウス社員に対して警察署への任意同行を求めました。
これは残金支払手続中のことで、この連絡を受けた積水ハウス担当者は妨害行為
だと思い、そのまま支払手続を完了しました。

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■ 4.内部統制の機能不全

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積水ハウスは、前述のように気づくべきタイミングをことごとく見逃しています。
この失敗の原因は、そもそも積水ハウスが地面師に無防備で、同社にはこのよう
な詐欺行為を想定した内部統制がなかったということに尽きます。
同社は、戸建住宅には強いですが、都心でのマンション用地買収は得意分野では
なかったという見方もできると思います。2.4兆円の売上高のうちマンション事業
の売上高は4%程度です。この事業の社員数は全体の1%以下です。
地面師が複数の不動産会社に声を掛けたところ、所有者の本人確認ができないと
いう理由で断られていた、ということも一部報道されています。
マンション事業部はこの案件を是非とも進めたいという一心で、稟議承認の前に
社長に現地を見せています。その後、社長による飛び越し承認があったことから、
社内ではこれは「社長案件」と呼ばれるようになっていたそうです。
社長が現地視察したときに「所有者の本人確認をしっかりして慎重に取引を進め
るように」と社長が指示していたら、大きく方向が変わっていたと思います。
しかし、そもそも同社には役員を含めて、マンション事業の経験が長い人など
いるはずがありません。社長の責任というより、会社全体が地面師に無防備だっ
たのだと思います。
全体の流れとしては、マンション建設用地を確保したいという社内の勢いが強く、
その承認体制が機能しなかったという構図でした。

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■ 5.不動産部の機能

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積水ハウスに不正な取引を防止するための内部統制がなかったわけではありま
せん。不動産部という部署があり、ここでは取引相手の信用調査や契約の内容
をチェックします。不動産部は、銀行の審査部のような機能を持つ部署とされ
ています。
前述の稟議書は、取引の窓口であるマンション事業部から不動産部に回付され
ました。不動産部で内容をチェックしたうえで、関係役員に回付される手順に
なっています。
この案件では、マンション事業部から稟議承認を急ぐようにとの依頼を受け、
4名の回議者を飛ばして社長が承認しています。「社長案件」と呼ばれ、先に
社長に即時承認されては反対意見を出しにくいのが普通です。社長自らが不動
産部のチェック機能を飛び越してしまったと言えます。不動産部は親切にも
マンション事業部の依頼に基づいて動いています。営業が強い会社ではありが
ちですが、審査部門などのリスク管理部門による抑えが弱い会社なのだと思います。
手付金の支払時には、不動産部の承認がないと経理財務部が資金手当ができな
いという内部統制がありました。報道ではこの時点で稟議決裁が完了していな
かったことになりますが、社長承認があったからでしょうか、経理財務部に対
して資金手当の承認を行っています。
この後、内容証明郵便4通が届いたことについては、マンション事業本部は不動
産部に連絡しませんでした。この事件後に退職した当時の不動産部長の取材記事
週刊文春4月16日号に掲載されています。
不動産部長のところには、不審な者が来社したことなどのリスク情報が入って
いたことから、マンション事業部長の担当役員に対して「手付金の14億円は
流しても、取引はやめた方がよい」と電話で伝えたと不動産部長は語っています。

取引を進めたいマンション事業本部としては、内容証明郵便のことを不動産部長
には伏せておいたのだと思います。
この週刊文春の記事には、社長(現会長)が、「変な郵便が3、4通とどいて
いるだろ」と話したことから、内容証明郵便の件について、社長は知っていた
と書かれています。

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■ 6.この事件の教訓

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社名からも分かるように、積水ハウスにとってマンション事業は後発事業です。
この事業のランキングでは10位から20位の位置づけです。業界大手を追う立場
にあると勇み足になりがちです。さらに、社内に事業環境を熟知した人材が不足
する状況でした。
一般に、本業以外の事業から不祥事が発生することが多いと言えます。本業で
あれば、長年の事業経験があり、内部統制がしっかり構築・運用されるからです。
優秀な人材も本業に集まる傾向があります。積水ハウスの場合は、後発のマン
ション事業における内部統制上の弱点が災いしたと見ることができます。
支払ったお金は分散されており、どこにあるか分からなくなっています。調査
報告書の冒頭では、前述のとおり「被害金が裏社会に流れたと推定される」と
記載されています。すなわち、この地面師事件に巻き込まれた会社は被害者で
あるだけでなく、犯罪者に対する巨額の資金提供という反社会的な行為を行った
ということも言えます。
積水ハウスは「ESG経営のリーディングカンパニーを目指し、持続可能な社会を
実現」という目標を掲げていますが、犯罪者に貢献してしまったこともしっかり
と認識しなければなりません。

今回もビズサプリ・メールマガジンをお読みいただきありがとうございました。

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印鑑について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.116━2020.5.13 ━
【ビズサプリ通信】
▼ 印鑑について
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ビズサプリの三木です。
今年のゴールデンウィークは、緊急事態宣言の中、これまでにない我慢と忍耐の期間となりました。連休後もテレワークをしている人も多いと思いますが、テレワークを進める際に印鑑が障害となることがあります。今日はそんな印鑑について、その効力や意味合いを考えてみます。
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■ 1.印鑑の種類
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実印、認印、シャチハタ、三文判、銀行届出印。ご存知の通り印鑑にはいくつもの種類があります。実印は役所に陰影を届け出た印鑑です。個人の場合は市町村に任意で登録し、会社の場合は法務局に登録することが必須とされています。会社の実印の多くは丸印で、真ん中に社名、その周りに代表取締役之印といった文字を丸く配していることが一般的です。実印は印鑑登録証明書とセットにすることで証明力を発揮します。当然ながらむやみに押すものではなく、使用する場面は重要な契約書等に限定されます。実印以外で重要な印鑑としては、銀行など金融機関への届出印があります。これは特定の印鑑を本人確認に使うという金融機関との取り決めによるもので、法務局などの公的機関が信用力を担保しているわけではありません。ネット銀行は印鑑以外の方法を本人確認に使うことが多く、印鑑レスの銀行も増えています。こうした登録をしていないその他の印鑑は認印ということになります。会社で通称「角印」と言われる請求書等に押印する印鑑も認印の一種ですし、宅配便が来た時に押す受領印も、会社の稟議書に押す印鑑も認印です。シャチハタは厳密にはシヤチハタ株式会社の作った印鑑のことですが、その知名度からインク自動補充のゴム印の通称となっています。三文判は安い印鑑を指す通称です。当然ながら、シャチハタも三文判も、実印として登録していない限り認印の一種です。ゴム印は押す際の力加減で印影が変わるため実印には向かないとされています。
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■ 2.印鑑の効力
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「この契約書は押印されていないので無効です」という理解は正しいでしょうか。実は、印鑑が押していなくても契約書は有効になります。契約は双方の意思として合意されていれば成立するので、印鑑はその意思確認の方法の1つに過ぎません。日本の社会通念では、印鑑=その人の意思表示、と捉えます。契約書であれば契約内容への合意、稟議書の承認印であれば承認の意思表示、宅配便の受取であれば受け取ったという事実確認と捉えます。このように押印を承認とみなす慣習は広く根付いています。この慣習を多くの会社がルール化した結果、我々は多くの場面で認印を押すことになっています。保険を申し込む際にはルールに従って申込書に押印が求められ、勤務先の会社でも社内ルールに従って稟議書などの社内文書に押印します。しかしながら100均などで販売されている安価な三文判などは同じ陰影のものが多数流通していますし、そもそも印影を見ただけでは誰かが押した印鑑なのかも分かりません。印鑑が1つ1つオーダーメイドだった時代ならともかく、安価で流通する現代では押印の証明力は限りなく下がっています。こうして考えてみると、押印を本人の意思とみなすことで(不正行為などが無い限り)世の中がスムーズに動くために慣習が出来上がってきただけで、論理的には殆ど根拠が見いだせません。世界を見渡してみると、ほとんどが印鑑ではなくサインを使っています。中国、韓国、台湾では印鑑も用いられていますが、実印登録の仕組みがあるのは日本と台湾だけで、韓国も実印登録の仕組みを廃止している最中のようです。文化としての印鑑はともかく、印鑑でビジネスを動かすのは世界的にもガラパゴスになりつつあるのが実情と言えそうです。なお、法律上も限られたケース以外では印鑑自体に絶対的な効力を認めているわけではありませんが、法律的にも印鑑が必要とされていたり、印鑑の有無で扱いが変わったりするケースはあります。例えば取締役会議事録には記名押印が求められますし、私文書偽造罪は有印か無印かで罰則の重さが変わります。しかしながら、取締役会議事録は署名や電子署名でも可能になっていますし、有印私文書偽造罪も押印=証明力が高い=影響力が大きいという慣習が根付いているからこそ法令に導入された区分けと言えます。
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■ 3.印鑑の今後
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それでは印鑑は今後どうなっていくのでしょうか。新型コロナの前から脱印鑑の動きはありましたが、長年の慣習から印鑑が無いことに不安感が残るだけでなく、実は脱印鑑で大幅に得をする人が少ない(押印自体がそこまで業務上のネックになっていなかった)ため、もともと印鑑が多すぎた役所などを除き徐々にしか進んでこなかった面もあります。上場企業では押印があるとJ-SOX上の「承認証跡」として説明がつけやすいという事情もありました。しかしながら今回の新型コロナでは、押印業務がテレワークの障害になりかねないため、社内ルールを変えて脱印鑑を図る動きが加速しています。メルカリやGMOなど脱印鑑を宣言する企業も出てきました。「ハンコは重要」と刷り込まれてきた世代も減ってきますし、上記の通り法的な問題は殆どありません。何よりウィルスとの戦いが長引けば空気も変わるでしょう。ただ、メルカリやGMOなど新興のインターネット業界では、もともとの業務フローが印鑑に重きを置かずに業務設計されているケースが多いと思われます。長年印鑑ベースで業務を行っていた企業は、拙速な脱印鑑で業務品質の低下を来さないよう注意が必要です。押印文書であれば承認の有無や承認者も明確で、文書のファイリングや保存期間も定められていると思います。ワークフローなどがあれば業務品質を保って脱印鑑の仕組みを構築しやすいですが、そうしたITインフラが無くメールや社内SNSでその場対応していると、承認レベルが不明確(反対はしていない、条件付き賛成等)だったり、履歴が消えてしまってあとで問題となるといった事態も考えられます。今回の突然の緊急事態宣言下では暫定運用もやむを得ない状況だったとしても、今後の「新しい生活様式」でテレワークが定着していく中では、脱印鑑の業務フロー構築、記載必須項目の設定やアーカイブなど、適切な管理レベルを保ち、維持可能な仕組みを作っていく必要がありそうです。
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■ 4.余談
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余談1ハンコ本体のことは印章、陰影を一覧化したものを印鑑と呼ぶのが元々の言葉遣いのようです。しかしながら、今は一般的に印鑑と言えばハンコ本体のことを指しますので、本メルマガでもそのように呼んでいます。
余談2本人確認としては、拇印が一番証明力が高いと言えます。自分の指紋なら同一の印影が出回ることもなく、盗まれることもありません。それでも拇印が広まらないのは、印鑑業界の陰謀ではなく一見しただけでは本人確認ができないためですが、拇印ではなく指紋認証という形でその証明力が生かされています。銀行取引にも指紋認証は広まり、銀行届出印の存在感も減りつつあります。ちなみに、悪いことをして警察のお世話になると、やはり証明力が必要なのか、供述調書には拇印が求められるそうです。
余談3日本で最も重みのある印鑑と言えば、天皇陛下の印章である御璽(ぎょじ)や、国家の表徴として押される国璽(こくじ)があります。いわば天皇陛下の実印と、日本国の実印です。御璽は法律の公布文や内閣総理大臣の辞令書などに、国璽は外交文書などに押されているそうですが、実は御璽や国璽の押印が必要という法令根拠は現在は存在せず、これも慣習で押しているもののようです。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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経済活動の断絶の可能性

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.115━ 2020.4.22━━

【ビズサプリ通信】

1. 経済活動の断絶の可能性

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ビズサプリの花房です。前回メルマガを書いた新年の頃から、すっかり世の中
の様相が変わってしまいました。新型コロナウィルスの感染拡大防止のために
政府から緊急事態宣言が出され、日本でも一斉に在宅勤務へとシフトしていま
す。但し印象としては、大企業とIT企業は対応が早く、大規模に実施している
のに比べて、中小企業はそもそものインフラが整っていなかったこともあり、
在宅勤務にしたくても出来ていないところも多いようです。

また営利事業への影響として、現時点で影響が大きいとされるのは個人相手の
サービス業で、緊急事態宣言は人が集まることを自粛していることから、商業
施設や劇場は休業要請を受け、飲食店は営業時間の短縮を要請されている地域
もあり、人との接触8割減を達成するために不要不急の外出は控えることから、
通勤、出張、旅行等が控えられることで、交通機関・旅館/ホテル業には、す
でに多大な影響が出ています。

むしろ影響を受けていない業種は皆無で、企業業績への悪影響はこれから徐々
に大きくなるでしょう。さらに怖いのは、その影響がどこまでどの規模で拡大
していくか分からないことです。人は、終わりのある苦痛は耐えようと思いま
すが、無限の苦痛には耐えようがありません。その意味でも、今回の新型コロ
ナウィルスというのは、リーマンショック東日本大震災を超える負の影響を
予感させます。

今回の新型コロナウィルスの蔓延は、戦後、基本的に連続性のあった経済活動
の流れの中で、初めて非連続、言い換えると断絶を生じさせてしまうかもしれ
ません。つまり、新型コロナウィルス発生前と終焉後の世の中が、ガラッと変
わる可能性があります。コロナウィルスが終焉すれば、景気はすぐに元に戻る
と予想する方もいますが、今まで経験したことのない危機の後がどうなるかは、
誰にも予想は出来ません。長期の不況に陥る恐れもあります。

新型コロナウィルスが企業の決算に与える影響はどうなのでしょうか?特に
この3月決算において、すでに様々な影響が出てきています。そこで今回は、
新型コロナウィルスによる経済活動の低迷が企業の会計処理に直接影響する
ものとして、会計上の見積り計上に対する影響、また、外出制限が企業活動
を制限する中で、決算作業や会計監査にも後れを生じさせていることによる
決算開示への対応について、見ていきたいます。

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2. 会計上の見積りによる限界

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現在の企業会計は、債権の回収可能性や引当金の計上、減損会計、退職給付
会計、繰延税金資産の回収可能性等、将来のキャッシュ・フローや費用額を
予測して、金額を見積り計上することになっています。その見積を行う過程
においては、将来の状況を見積るとは言え、多くの場合は、過去もしくは現
在の情報を基礎として、それに一定の仮定を置き、その仮定の下で計算され
る将来の状況から、現時点において合理的と考えられる資産・負債の金額を
算出することになります。

つまり、基本的には過去の延長線上に将来が予測されるため、見積りの合理性
を比較的容易に明らかにしやすいと言えます。しかしながら、新コロナウィル
スの前後で売上やコストの状況が極端に変わってしまうような状況においては
、もはや過去の実績を元に従来の方法で、将来を予測するのは困難な場合も多
くなると考えられます。

そこで企業会計基準委員会は、4月9日開催の委員会で審議を行い、「会計上の
見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」を公表しまし
た。これによると、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等
を予測することは困難であるため、 会計上の見積りを行う上で、特に将来キャ
ッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況において、会計上の見積り
を行う上では、以下の点に留意する必要があるとのことです。その留意点を挙げ
ると、

1. 新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、
一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要がある
2. 新型コロナウイルス感染症の影響については、会計上の見積りの参考とな
る前例がなく、 今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がない
ため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多い
と考えられるので、新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の
広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる
3. 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積
りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間
に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられる
4. 最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定
の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積
りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられる。このよ
うな状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会
計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような
情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追
加情報としての開示が求められるものと考えられる

このように、今回の新型コロナウィルスの影響はについて、不確実性が高い
ことを理由に、会計上の見積りが困難であったとしてもそれを行わないこと
は許されず、経営者が一定の仮定を置いた上で最善の見積りを行い、重要性が
高い場合はその見積方法についての情報開示をしなければなりません。しかし
ながら、国や都、ましてや専門家と言えども、収束の時期や影響を見通せない
中で、一企業の経営者に一定の仮定を置き、将来の予測を求めることが果たし
ていいかどうかについては疑念が残りますが、一方で見積りが出来ないことを
理由に決算数値が固まらず、その金額的な重要性が高い場合は、監査において
意見不表明となる可能性があることを鑑みると、致し方ない措置なのかもしれ
ません。

なお、日本公認会計士協会からは、4月10日付で会計士の会員向けに、「新型
コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」が通知され、
『財務諸表の利用者等の意思決定に資するという公共の利益を勘案し、不確
実性の高い環境下においても、それを要因として会計上の見積りの監査が困難
であることを理由に監査意見を表明できないという判断は、慎重になされる
べきである』等、このような環境下でも適切に監査意見が表明されることを
後押ししているようです。

いずれにしても、不確実性が高い世界において、最善の見積りとは言え、経営
者が独自に置いた一定の仮定の下で算定される財務情報は、投資家に本当に役
立つものなのかどうか、仮にその前提条件が財務諸表の注記等で開示されると
しても、投資家が正しく読み解くことが出来るのかどうか、よく考えてみる
必要があると思います。

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3. 3月決算会社の株主総会、及び有価証券報告書の提出期限の延長

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今の時期は、3月決算会社の本決算作業の最中ですが、在宅勤務が半強制的に
なり、上場会社の経理担当者の方も四苦八苦されています。何とか当初のスケ
ジュール通りにされようとしている企業はあるものの、物理的に対応が困難な
状況も出てきており、また、監査法人も原則在宅勤務の体制を敷いているため、
例年通りのようにはいかなくなってきています。

そこで金融庁は、スケジュール順守の無理な対応を強いることで関係者の健康
と安全が損なわれないよう、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等を改正
し、今年の4月20日から9月29日までの期間に提出期限が到来する有価証券報告
書、四半期報告書等について、企業側が個別の申請を行わなくとも、一律に本
年9月末まで延長しました。これにより、金商法に基づく開示書類については、
大幅な余裕が出来たと言えます。

ただ、有価証券報告書を9月末まで延期できたとしても、株主総会は決算日から
3か月以内に開催する必要があります。通常は配当金の権利の確定する基準日は
企業の決算日と同一であるため、仮に株主総会を7月以降に延期しようとすると、
基準日を設定し直す必要があり、決算日直後に株式を売却した株主は配当金を
受け取れない可能性がある等、ハードルが高いです。

そこで、金融庁東証経団連などは4月15日に連絡協議会を開き、3月決算
会社は当初予定の株主総会で、取締役の選任等の決議を行った上で、続行の
決議(会社法317条)を行い、その後合理的な期間内に継続会を開催して、
計算書類、監査報告等について十分に説明することを求めています。実際、
そのような対応をする上場企業も出てくることが想定されます。課題は、新型
コロナウィルスの収束状況によっては、実際に総会への参加が憚られる可能性
があり、企業によっては、Webを介した参加が出来るような対応が図られるかも
しれません。

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4. まとめ

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今回、非常事態宣言で外出が自粛される状況の中、自宅で様々なことを考える
時間を経て、大勢の価値観が変わるかもしれません。新型コロナウィルスの発生
原因は明らかになった訳ではありませんが、環境破壊を顧みず開発を続けてきた
人類に対する、自然のしっぺ返しではないか、という見方もあります。SDGs
ESGを合言葉に、先進国は環境に対する配慮を意識し始めて来たところでの、
予想もしなかった自然の脅威に対し、人間の無力さを感じずにはいられません。
地球あっての人間の営みですから、これを戒めとして、企業活動も利益追求を
第一とするだけでなく、自然との共存共栄を前提とした、持続可能なビジネス
モデルを求めなくてはならないと強く思います。

ビズサプリグループでは、テレワークのための業務改善支援、非常事態における
決算開示支援も行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult


本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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新型コロナウイルス感染症の企業対応について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.114━2020.4.8━

【ビズサプリ通信】

▼ 新型コロナウイルス感染症の企業対応について

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ビズサプリの辻です。

前回1月にこのメルマガを記載したときは、「いよいよオリンピック2020です」
と書きました。まさかその3か月後に世界的なパンデミックとなり、オリンピック
は延期され、卒業式も入学式も入社式もままならず、お花見も歓迎会もできず、
そしてまだ収束も見えない状況になっていようとは。
2019年12月に武漢の市場関係者から始まったとされる今回の新型コロナウイルス
感染症グローバル化した社会をせせら笑うかのように数か月後には世界中を
かけめぐっています。1月、2月頃はWHOはじめ、多くの専門家が「たいした
ことではない。」といったニュアンスでお話している姿に、東日本大震災後の
福島第一原発の事故の報道で「直ちに健康に被害を与えるものではない。」と
連日報道されていたことを思い出し、少しだけいやな予感はしたもののここまで
の広がりが起きるとは想像していませんでした。

このような状況で多くの会社が3月末の決算を迎えました。今回の新型コロナ
ウイルス感染症では、企業は事業面、人事労務面、資金面等多くの面で事業
継続に向けた危機管理を行う必要があります。まさに事業継続計画の実践です。
今回のメルマガでは、企業のそのような対応の一助になるべく、決算、株主
総会に対する対応及び公表文書等をご紹介していきます。ただし、ここでご紹介
した対応についてはコロナウイルスの状況に応じて刻々と更新されていきます。
最新の情報は、今回ご紹介したHPの最新の情報でご確認下さい。

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■ 1.決算発表及び業績予想について

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コマツは、3月31日に2020年3月期連結決算発表を当初予定していた4月30日から
5月18日に延期すると発表しました。コマツによると、「世界各国で社員が出社
できず、在庫の確認など決算に必要な情報がまとまっていない。監査法人の担当
者も在宅勤務となり、会計監査の一部業務に支障が出ている」とのことです。
日本経済新聞電子版3月31日付より抜粋)

上場会社は、四半期及び年度末に決算の内容を開示することが証券取引所
ルールとして定められています。この期限は、遅くとも決算期末日後45日であり、
決算期末日後30日以内の開示が望ましいとされています。前述のコマツはこの
「望ましい日程」での決算発表を予定していましたが、世界各国の子会社の会計
情報が予定通りには集まらず、また監査も受けられないため、延期の発表をした
ものでした。世界中で混乱が生じている今、恐らく同様の状況に陥っている会社
は多くあるでしょう。このような状況をいち早く把握し、延期の発表を早期に
実施できるということは決算における危機対応がある程度うまくいっている例か
と思われます。

今回、新型コロナウイルス感染症の状況を受け、東京証券取引所からは、2020年
2月10日付で「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取り
扱い」(https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/01.pdf
を発表しています。ここでは、新型コロナウイルス感染症の影響で決算内容を確定
することが困難になった場合には、45日ルール等の時期にとらわれず、確定次第
開示することで差支えないとしています。また、このように決算発表が遅れる
ことが見込まれる場合には、その旨、確定見込みがある場合にはその時期を適時
開示することが推奨されています。

また、合わせて業績予想について、「今般の新型コロナウイルス感染症が事業
活動及び経営成績に与える影響により、決算内容の開示に際して業績予想の
合理的な見積もりが困難となった場合や、開示済みの業績予想の前提条件に
大きな変動が生じた場合などにあっては、その旨を明らかにして、業績予想を
「未定」とする内容の開示を行い、その後に合理的な見積もりが可能となった
時点で、適切にアップデートを行うことなどが考えられます。」としています。
業績予想を「未定」とする選択肢があることを踏まえつつ、「何でもコロナの
せい」という思考停止に陥ることなく、早期に見積もり開示していくための情報
収集と正しい現状認識をしていくことが必要です。そうすることがアフター
コロナで大きな差を生むことになりそうです。

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■ 2.有価証券報告書等の開示書類について

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金融商品取引法のもとでの開示書類については、通常の提出期限は「有価証券
報告書」「内部統制報告書」については、事業年度末から3か月以内(3月末決算
であれば、6月末まで)となっています。(なお、四半期報告書は、四半期末日
から45日以内)。これについて金融庁は、2020年2月10日付で「新型コロナウイ
ルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200210.html
を公表しました。これによると、「中国子会社への監査業務が継続できないなど、
やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認
により提出期限を延長することが認められていますので、ご遠慮なく所管の財務
(支)局にご相談下さい。」とあります。
この金融庁の公表日は2月10日なので、中国子会社に対する監査業務が継続で
きないといった例示が上がっていますが、3月決算会社を考えると中国に限ら
ずグローバル全体で決算及び監査ができない状況があり得ると考えられます。
この場合に提出期限の延長の申請を行う事ができることになりますが、提出
期限の延長に関する申請を行う際には、上場会社であればその旨の適時開示が
必要となります。こちらは、先ほどの東証の「新型コロナウイルス感染症
影響を踏まえた適時開示実務上の取り扱い」
https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/01.pdf
でも記載されていますのでご留意ください。

また、ここ数年、有価証券報告書の非財務部分についてステレオタイプの記載
ではなく、各社自身で記載内容を充実させることが求められてきました。今回
新型コロナウイルス感染症に対する企業に対する影響を非財務情報でどのよう
に開示していくかも大きな課題となるでしょう。例えば「事業等のリスク」の
記載に追加し、今回のような世界的なパンデミックになった場合にどのような
影響を受け、それがどのように業績に影響を与えるのかを記載することになる
ことが考えられますが、その記載に先立ち影響の現状把握を進めていくことが
必要となります。

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■ 3.減損等の会計処理について

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上記で決算確定後の発表、開示について述べてきましたが、見積もりの要素が
多い決算作業において、そもそも決算数値を固めることが困難な状況が生じる
ことも多くなると考えられます。これについて2020年4月2日に日本経済新聞
「店舗・工場の減損見送り 金融庁等新型コロナに対応」といった見出しで、
資産の減損に関する会計基準を変えることなく、減損に対して企業や監査人が
柔軟に判断できるようにするといった記事が出ました。これに対して、日本公認
会計士協会は、4月3日に「昨晩および今朝の会計ルールの弾力化に関する報道
の内容については、当協会から発したものではありません。」と発表しています。
確かに会計基準の適用が企業や監査人によって、何らの目安なく「弾力化」さ
れてしまっては、それはそれで問題です。
ただ、将来の収益や利益を見積もる必要がある減損の判定は、そもそも難易度
が高い会計処理です。新型コロナウイルス感染症の蔓延で急激に業績が悪化し
ているような業種において、新型コロナウイルス感染症の収束が見えない中、
詳細の業績の見積もりについてはかなり困難を伴うことは容易に想像ができます。
なお、前述の日経の記事については公認会計士協会によって否定されましたが、
4月3日付で、金融庁が、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けた
企業決算の取り扱いについて、日本公認会計士協会東京証券取引所経団連
などと連絡協議会を設置して、各団体が出席しての電話会議にて協議を行った
ことは事実です。そこで新型コロナウイルス感染症による業績悪化が一時的で
あり、その判断に監査法人も合意できれば、即減損をする必要がないということ
になったようです。(ロイター2020年4月3日)ただ、これは現状の会計ルール上
でも同様の取り扱いであり、何らルールが変わったわけではありません。

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■ 4.株主総会について

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決算の遅れにより、会計監査人や監査役への計算書類等の提出が遅れてしまう
ことや、上述した通りに会計監査ができずに会計監査報告の受領が遅れてしまう
ことも考えられます。この場合、その他の手続きを短縮することで予定通り株主
総会が開催できることもありますが、そうでない場合は定時株主総会の開催の
延期を検討する必要が生じる可能性があります。
この点、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を理由にする定時株主総会の延期
について法務省が見解を示しています。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html
そこでは、定款で定めた時期に定時株主総会をすることができない状況が生じた
場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば
足りるとしています。また配当や議決権の基準日についても述べられています。

一方、予定通り株主総会を実施する場合においても感染拡大防止に向けて運営上
の工夫がかなり必要となるでしょう。この点、12月決算の会社が感染拡大傾向で
あった3月下旬に株主総会を実施しており、その対応が参考になると考えられます。
6月下旬がどのような状況となっているかは不明ですが、この運営上の工夫を
参考にして準備を進めていく必要があります。

この3月に株主総会を実施した企業の具体策として以下のような取り組みが行われていました。
・総会会場でのアルコール消毒液の設置
・運営スタッフのマスク着用
・通常は受付時に手渡しする書類を会場内で準備
・一定の間隔をあいて着席
・体調不良の方の入場の制限(高齢者、基礎疾患者はご出席をお控え下さいとの記述)
・お土産の廃止の検討
・総会の所要時間の短縮化(シナリオや映像を短縮化)
株主総会後の懇親会の中止
・来場の方を最小限とするためのWEB配信の充実(及びその連絡)

また、当日会場への来場を自粛したとしても、株主総会の状況を把握するために、
IT等を活用して遠隔地から参加することは可能です。(但し、会社法上株主
総会の招集に関しては株主総会の場所を定めなければならないとされており、
インターネット等を用いた株主総会のみとすることは解釈上難しいと言われて
います、(第197回国会 法務委員会第2号(平成30年11月30日))このような
インターネット型の株主総会は、双方向と即時性が確保されない限りは、単なる
「参加」であり、当日出席の株主にもカウントされず、また質問や動議も行う
ことはできません。但し、最近のアンケート調査で当日の株主総会に参加する
株主は、質問や動議を行うよりも経営者の声や、将来の事業戦略を経営者から
直に聞くことに意味を見出している場合が多いのが実態ということ(経済産業
省 ハイブリット型バ株主総会実施ガイドP8)を考えても、コロナウイルス
感染拡大予防のためにも議決権行使は書面などで予め実施して頂き、会場への
出席は自粛して当日はインターネットで視聴してもらうことを推奨していくこと
は株主の安全確保という意味でも必要な措置ではないでしょうか。

なお、株主が来場しない「バーチャル株主総会」に関する論点については、経済
産業省が2020年2月26日に「ハイブリット型バーチャル株主総会の実施ガイド」
で整理されています。
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf

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■ 5.コロナ後 

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今回、このような状況になって公立学校のオンライン化の遅れ、企業における
「紙」文化の根強さなどずいぶん電子化の遅れを実感した方も多かったと思い
ます。私も、アメリカ在住の友人から、学校の連絡、宿題は休校になったところ
からオンラインに切り替えになったということを聞いて、日本では「プリント」
が配られない限り何も学習は進まないことに愕然としました。この遅れはどの
ように取り戻すのでしょうか。一方で友人の間で流行っているのがZOOM飲み
会。「酔っぱらって、どこでもドアで家に帰ってすぐ寝る」ということを実現
したとのことで、実際に参加した方からは大好評のようです。

コロナ後の世界、少し変わった形となっているかもしれないですね。

とにかく早くこの状況が改善されますよう、願ってやみません。

本日もビズサプリ通信をお読み頂きありがとうございました。

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在宅勤務と経理業務について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.113━2020. 3.31━
【ビズサプリ通信】
▼ 在宅勤務と経理業務
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ビズサプリの泉です。
今、世間の話題はもっぱら新型コロナに関するもので、東京では小池都知事による外出自粛要請により、スーパーではティッシュやトイレットペーパーだけでなく、食料品も買いだめが起こっているようです。2020年は東京オリンピックの年だと前回のメルマガでかきましたが、新型コロナの影響により、なんと1年の延期となってしまいました。
もう3月もおわり仕事柄の繁忙期である4月が目の前にせまっています業務上もクライアントとの打ち合わせはテレビ会議となったり、また打ち合わせ自体がリスケジュールとなってきています。あまり仕事には影響ないかなと思っていましたが、いよいよ本格的に仕事そのものが減ってくるかもしれないと思っています。
今回は、最近特に話題となっている在宅勤務と経理業務について考えてみたいと思います。
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■ 1.在宅勤務・テレワーク
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テレワークとは「ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」です。(厚生労働省「テレワークではじめる働き方改革」)在宅勤務とは、自宅でテレワークをすることであり、厳密には異なるものですが、業務を行う上ではあまり区別する必要はないので、ほぼ同義で扱いたいと思います。
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■ 2.テレワークのメリット・デメリット
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新型コロナ以前から、昨今の働き方多様化の一環としてもテレワークの推進はされてきており、主なメリットは次のとおりです。<会社>1. 優秀な人材の確保や雇用継続2. 資料の電子化や業務改善の機会3. 通勤費やオフィス維持費などを削減4. 非常時でも事業を継続5. 顧客との連携強化、従業員の連携強化6. 離職率が改善し、従業員の定着率向上7. 企業のブランドやイメージを向上<従業員>1. 家族と過ごす時間や趣味の時間が増えた2. 集中力が増して、仕事の効率が良くなった3. 自律的に仕事を進めることができる能力が強化された4. 職場と密に連携を図るようになり、これまで以上に信頼感が強くなった5. 仕事の満足度が上がり、仕事に対する意欲が増した
一方、主なデメリットは次の通りです1. 工場や、紙の書類などが業務上必要になる場合に業務ができない、あるいは        著しく非効率になる2. 情報セキュリティを十分に確保できる環境がない3. コミュニケーションが希薄になる、新メンバーへのフォローも薄くなる4. その過程がみえづらくなりアウトプットベースの業務評価となる5. 労働時間を正確に把握するのが難しい6. デスク等がない状況での長時間労働による体への悪影響
では、具体的に経理業務への影響はどのようなものでしょうか。
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■ 3.経理業務への影響
----------------------------------------------------------------------全般的な業務経理は取引先との請求書のやりとり、金融機関、税務署等からの書類の送付などまだまだ郵送によるものが多く、郵送物の処理が課題となります。この点、徐々に電子申告やインターネットによる手続きなど書類の提出も減ってきており徐々には解決していきそうです。
支払業務・取引先や事業部からの請求書の回収 請求書はまだまだ紙の場合が多く、また、実際に事業部からの支払依頼はワーク フローを使っていても紙の請求書を添付して経理部に提出するのが一般的です。 もちろん、ワークフローにpdfなどで添付することも考えられますが、紙の請求書 をpdf化するにはスキャナが必要であり、完全に自宅で作業するのは難しそうです。・請求書と支払データの照合 経理部では実際の支払データを作成する際には、支払先毎に名寄せを行い、 請求書の束と実際の支払額が一致していることをチェックします。 pdfとなると確認作業がかなり非効率となりますが、RPAなどでOCR的に自動照合 する、あるいはもっと大胆に中国のように請求が電子化されれば、そもそも そのような業務はなくなるでしょう。・振込業務 昔は振込のために伝票に銀行印を押印し窓口で手続きをしてきましたが、今は ネットバンキングがかなり普及しているので、基本的には問題なさそうです。 ただし、振込不備の場合や組み戻しなどについて、銀行とのやりとりはまだまだ 電話、紙、FAXを使うことも多く、一部対応が難しい業務が残ります。・金融機関業務 振込とは直接関係しませんが、現金の受け取り、金融機関への銀行印が必要な 書類のやりとりなどはまだまだ対応が難しい業務が多いといえます。
経費精算経費精算では、立て替えた従業員が領収書を紙に貼付して紙の申請書を経理に提出することが一般的であり、支払業務と同様の課題が残ります。この点、最近は電子帳簿保存法の要件も緩和され、写真をとってワークフローで申請することで対応が可能になりつつあります。(詳細な要件はここでは省略します。)
月次決算作業月次の費用計上においては、上記の請求書や領収書などに基づき起票することが多いため、ワークフローなどにより電子化することで対応できると考えられます。
期末決算・税務 大法人においては電子申告が義務化されているように、電子申告、電子申請が かなり浸透してきており、主な業務務は問題なさそうです。 ただし、中小企業ではまだまだ普及していなかったり、支払調書の送付業務 など一部の業務では紙による運用が残っています。・上場会社の法定開示業務 上場会社においては法定開示を行いますが、その前提として監査法人による 監査をうけます。監査手続きでは、確認状や請求書の提出を行うのですが、 まだまだ紙の資料が多く、往査自体は不要だとしても、監査対応業務を完全に リモートで行うのは難しそうです。
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■ 4.今回を契機とした業務フローの変更について
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現状では、まだまだ、完全に全く出社しないフルリモートでの対応は難しいですが、テレワークを部分的に導入することはできそうです。
現状の新型コロナのような完全に出社しないという状況は非常事態なのですし、できない業務はあきらめる(月次決算や支払いも一定あきらめる)といった思い切った判断をするのも個人的にはあり得るのではないかと思っています。3月決算の会社が今から繁忙期となりますが、決算発表、税務申告、株主総会といったスケジュールについても各社どのように対応するか大変興味深いところです。
また、今回の新型コロナが契機となり、テレワークできる業務の切り分けや、思い切った業務フローの変更が行われ、テレワークの普及が進むのではないかと思っています。
ビズサプリグループでは、通常の業務改善だけでなく経理業務の実務に沿ったコンサルティング業務も行っておりますので、何かお役に立てることがありましたらご相談ください。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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