株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

善玉になってきたアクティビストたち

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.085━2018.11.22 ━
【ビズサプリ通信】


▼ 善玉になってきたアクティビストたち


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ビズサプリの久保です。日産のカルロスゴーン会長が金商法違反容疑で逮捕されました。 これは有価証券報告書における役員報酬の虚偽記載の疑いということです。それ以外に同氏による不正もあったようです。会社は、第三者委員会により調査をするそうですので、今後いろいろと明らかになると思います。
さて、今回のメルマガの話題は米国における物言う株主の動向です。日本でも今後同様の動きが見られることになるかもしれません。
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■ 1 アクティビストは悪玉か
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アクティビストは「物言う株主」とも呼ばれ、株式を買い占めた後、配当の増額や事業の切り売りなどなどを主張し、株価が上がったところで売り抜けて大金を儲けるような人たちと、一般には考えられているのではないでしょうか。
有名な村上ファンドは、東京スタイルに対して議決権争奪戦(プロキシ―ファイト)を行ったのち、ニッポン放送株式買い付けに関するインサイダー取引実刑判決を受けています。しかし、最近では、出光の創業家に対して昭和シェルとの経営統合を受け入れるよう助言をしたことが報道され、少しイメージが好転しているとは言え、悪者のイメージが付きまといます。
一方、野村證券(ホールディングス)に対して、社内のトイレを和式にすべきだという不合理な提案をする株主もいました。これも物言う株主ではありますが、株主提案権を濫用しているだけであり、ここでのアクティビストには含まれません。
いずれにしても、多額の資金によって株式を買い占めて、会社を手玉に取る「悪玉株主」というのがアクティビストのイメージだと思います。
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■ 2 米国での株主機関化の影響
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最近米国では機関投資家がアクティビストの主張を支持するようになり、結局のところ長期的な企業価値が上がっている上場会社が増えてきているようです。悪者イメージのアクティビストが、株主や会社のために良い提案をする人たちに変わってきたそうです。それはなぜでしょうか、またそれにはどのような背景があるのでしょうか。一橋大学大学院の田村俊夫教授によれば次のとおりです。
米国では、年金、保険、投信などの機関投資家による上場会社の株式所有比率が増加しています。個人株主が大部分であった米国では、今や上場会社株式の70%を機関投資家が所有しています。これは特に年金ファンドの資金が増加していることが要因です。
昔、米国ではウォールストリート・ルールが支配していました。それは、そもそも株式投資は経営者を信頼して行うものであり、その経営に不満があれば株式を売却すればよいという考え方です。経営者の経営が悪いと株が売られ、株価が下がるので、経営者が経営を改めるという市場原理が働くという考え方です。
しかし、機関投資家は薄く広く多くの会社に投資をするため、もはや特定の会社の経営に不満があったとしても、株式を売却することができなくなってしまいました。例えば年金は典型例です。多額の資金を運用するためには分散投資をする必要があります。
インデックス投信は、企業業績に関わらず、株価と連動するように運用します。このようなパッシブ運用ではなく、アクティブ運用を行うファンドであっても、機関投資家株主権を行使して、会社の経営方針を変えさせることをするための人材がおらず、そのコスト負担をすることもできません。
すなわち、機関投資家は、会社の経営戦略を十分調査研究して長期的な視点で投資するのが本来の姿であることは認識しているものの、その調査研究を丹念に行い、各会社の経営方針に反対する意見を提案するところまではできないというのが現状です。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 3 善玉アクティビストの登場
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これに対して、アクティビストは少数の会社に集中投資するため、投資先の企業を研究することができます。アクティビストは特定の上場会社の事業環境や経営戦略を徹底的に調査し、その結果に基づいて株式を買い付けます。彼らは優秀な人材を抱えており、場合によっては業界に詳しい元経営者をヘッドハンティングしています。
従って、これらのアクティビストの提案は、短期的な利益を得るために自分勝手な無理難題を会社に押し付けるようなものではありません。アクティビストが提案する経営方針の変更は、プロが徹底的に調べ上げた結果に基づいているので、会社の経営者にとっても容易に反対できない戦略であることが多いようです。
田村教授によると、アクティビストは1000億円ぐらいを1社に投資するようなことをして、物言う株主として経営方針の変更を迫るとのことです。しかし、米国の時価総額が大きい大会社の場合、アクティビストが1000億円出資したとしても、持株比率が1%に満たないことがあります。例えば、時価総額が100兆円を超えるアップルの株式を1000億円分買ったとしても、0.1%しか取得できません。
それでは株主権を行使して経営方針を変更させることはできません。多くの株式を所有している機関投資家の賛同がないと、経営を変えることはできません。ここで、アクティビストの提案が非常に筋の通るものだったらどうでしょうか。機関投資家としても「渡りに船」の状況になります。
前述のとおり機関投資家には、特定の会社について詳しく調べる人材もお金もありません。アクティビストが丹念に調べ上げた結果に基づき、経営方針の変更をすれば企業価値が上がるというのであれば、その提案に乗らない手はありません。
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■ 4 結果として長期的な企業価値向上があったのか
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このように最近では、機関投資家がアクティビストの主張を積極的に後押しするようになったというのです。しかし、実際にこれらの株主の提案に基づいて会社が経営方針の変更をしたことによって、その企業価値が向上したのでしょうか。
米国でこの分野で大きな影響力があるべブチャク教授(ハーバードロースクール)が、1994年から2007年のアクティビストの活動約2000件を実証分析した結果、「アクティビスト活動が長期的な業績を低下させる統計的根拠はない」、「アクティビストの株式売却後、長期的に株価が下落する傾向は見いだせない」などの結論が出されました。
米国ではその後も同様の実証分析が行われていますが、この結論を否定するような結果は出ていないとのことです。ということは、アクティビスト活動は、企業業績や株価に良い結果をもたらすことはあるとしても、悪い結果をもたらすことはないという結論になります。
このように、これまで悪玉だと考えられていたアクティビストたちに対する考え方が、最近米国では大きく変わったのが現状のようです。すべてのアクティビストが善玉であるとは限りませんが、アクティビストは悪者であるという一方的な見方は改める必要がありそうです。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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収益認識とプライシング

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.084━2018.11.07 ━
【ビズサプリ通信】
▼ 収益認識とプライシング
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ビズサプリの三木です。以前のメルマガで新しい収益基準のことを取り上げました。新しい基準のポイントの一つに「価格」があります。今回のメールマガジンでは、この新基準における価格の扱いと、商品やサービスの値決めについて取り上げます。
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■ 1.値段は案外わからない
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物やサービスの値段というのは、案外分からないものです。電気量販店で家電を買ったらポイントがつきました。ポイント込みの金額が家電の価格でしょうか。それともポイントは控除すべきでしょうか。出張でホテルに泊まったら、「無料朝食券」がついていました。朝食は無料でしょうか、それとも宿泊代とセットでしょうか。スーツを2着買ったところ、1着無料券をもらいました。もし無料券を使って3着目を買ったら、売り手にとって売上ゼロでしょうか。タバコやお酒の価格には酒税やたばこ税が含まれています。税抜価格がタバコやお酒の値段でしょうか。それとも税込でしょうか。
物やサービスを売りたい側は、お得感を演出したり、顧客を囲い込んだりするために、あの手この手の販売戦略を取ります。この販売戦略が複雑になると、物やサービスの値段が本当はいくらなのかどうしても分かり難くなります。大企業であればその辺はしっかり管理しているかと思いきや、ポイント制度、セット販売、事後キャッシュバック、ボリュームディスカウント、各種キャンペーンなどを組み合わせて実施しているうちに、実際のところいくらで売れていて、利益があるのかどうかよく分からない・・・・なんていうこともあります。
会計的には、どこまでが売上のマイナスで、どこからが販売促進費販管費の一部)なのかという問題が出てきます。値引を販売促進費にすれば大幅値引で売っても売上総利益が上がりますが、それで喜んでいると営業利益はマイナス、なんてことになりかねません。何をどういう費目で処理していて、それを販売管理上どう扱っているのかが肝心と言えます。
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■ 2.新基準の計上価格ルール
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収益の新基準の考え方は「履行義務アプローチ」と呼ばれ、要するに、「お客さんと約束したこと(履行義務)をやった時に、その約束の対価で売上を計上しなさい」ということです。そこで、何が「対価」なのかをしっかり考える必要が出てきます。
事後のキャッシュバックやリベートなど、お金は払っただけで対応する商品やサービスが無いとなると、売上のマイナスになる可能性が高いと言えます。例えば、スーツを2着買って1着無料券をもらった場合、2着を売った時点で売り手にとっては3着目を無料で渡すという義務が残ります。このため、2着分として受け取った金額の3分の2は売上からマイナスされ、前受金となります。このとき、それぞれのスーツが同じものなら2着分の代金を3で割って1着分の代金を求めればよいのですが、それぞれ異なる値段のスーツであれば代金を比例配分することが必要です。
それでも、スーツのように比較的価格がはっきりしているものはまだ分かりやすいのですが、価格がはっきりしないものと組み合わせになると厄介です。例えば「いま車を買えば3年間はエンジンオイル交換無料」というキャンペーンでは、お客がどれくらいエンジンオイル交換に訪れる分かりません。それでも3年間のエンジンオイル交換の権利の値段を考え、価格を配分しないといけません。
販売戦略によってパターンは様々ですが、新基準では「本当の対価はいくらなのか」を突き詰めることになります。そして企業にとっても、複雑に組み合わせた値引やキャンペーンを整理して「本当の対価」を把握することは、販売価格を決めていく上で重要です。

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■ 3.プライシング
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物やサービスを売るときの大きな悩みとして値決めがあります。高すぎれば売れないし、安すぎれば赤字になります。この値決めにはいくつかの流儀があります。
まずコストプラスマージン、すなわち原価に一定率の利益をのせて価格を決める方法です。汎用品というよりオーダーメイド品、B to CよりB to Bで比較的多く使われ、建築工事などが代表的です。これと対照的なのがマーケットベースの方法です。市場で競争できる価格設定にする方法で、競争の激しい汎用品でよく見られます。牛丼チェーンなどでの驚くような安価な価格設定が代表的で、その販売価格の範囲内で原価構成を考えることになります。それ以外に、希少性や技術力を価格に反映させることがあります。例えば高級腕時計などは、職人の技術力や独自性、あるいは数の少なさによって価格が決まります。ハイテク産業で使われるレアメタルが高いのも埋蔵量の少なさが大きな要因です。
商売をするときは、無意識にこうした要素を組み合わせて価格を決めています。ただしそれも正解があるわけでもなく、どういう顧客をターゲットにするか、どういうブランドイメージを作りたいか等の経営判断によって変わってきます。
場合によっては大口顧客とスポット客で値段が違うこともあるでしょう。一般的には大口顧客に対しては売価を下げますが、新規顧客開拓のためむしろスポット客に安価で販売することもあります。その場合は新規顧客への値引き額は、売上のマイナスというより営業コストと言えるかもしれません。
収益認識の新基準では、こうした取引実態を踏まえた会計処理が求められます。そうすることで商品やサービスごとの利益獲得能力が見えてきます。今まで花形と思われていた商品が実は大して利益に貢献していなかった、ということも考えられます。このため、新基準に切り替える際には社内的には大きなストレスがかかるかもしれません。しかしながら、利益の源泉が見えやすくなることで力の入れどころが分かるようになり、収益認識の新基準の導入が収益性の向上につながる可能性も大いにあります。
商品展開や値決めに歪みを感じている方がいらっしゃいましたら、収益認識の新基準を改革のきっかけとして考えてみてはいかがでしょうか。
ビズサプリグループでは様々な会計上の課題について対応支援を行っています。気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。
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IFRS 新会計基準の概要と導入のポイント

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.083━ 2018.10.26━━

【ビズサプリ通信】

▼ IFRS新リース会計基準の導入

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こんにちは。ビズサプリの庄村です。
とても暑かった夏が終わり、少し肌寒い季節へと変わってきました。

東京証券取引所が2018年7月31日に公表した「会計基準の選択に関する基本的な
考え方」によると、IFRS(国際会計基準)適用済・適用予定・適用を検討してい
る上場会社は204社となっているようです。
IFRSでは新リース会計基準の導入が決定しており、今回のメルマガでは、IFRS
会計基準の概要と導入のポイントを中心に取り上げていきます。

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■ 1.IFRS新リース会計基準の概要

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IFRS新リース会計基準IFRS16号「リース」)では、リースを「資産を使用
する権利を一定期間にわたり、対価と交換に移転する契約」と定めています。
従来の「リスク・経済価値モデル」から「支配モデル」に変更されました。
「支配モデル」はIFRS10号「連結財務諸表」やIFRS15号「顧客との契約か
ら生じる収益」と同様の概念です。
一定期間にわたり資産を使用する権利とリース料を支払うと義務をそれぞれ資
産、負債として認識するものです。

大きな変更は、借手側でファイナンス・リースオペレーティングリースの区
分がなくなる点です。すなわち、従来のファイナンス・リースのみならず、オ
ペレーティング・リース、レンタルや不動産の賃貸契約などもリース会計処理
が必要となり、使用権資産とリース債務がオンバランスとなるのです。
事務所のコピー機や賃貸借している店舗などもオンバランスとなるので、航空
業、店舗を多く運営する小売業・外食業などへのインパクトが大きくなりそうです。

リース債務は、リース期間中に発生する全ての支出を含めて総額を求め、リー
ス期間で割引計算した現在価値を算定します。一方、使用権資産はリース債務
に「当初直接費用」を加算して算定します。
これはファイナンシャル・リースでの算定方法と基本的に変わりはありません。

原則すべてのリース取引をオンバランスしますが、実務的に非常に煩雑となるた
め例外処理(簡便処理)を設けています。
すなわち、1資産あたりの金額が5,000米ドル以下の少額リースや取引期間が1年
未満の短期リースはオフバランスが認められます。

貸手側の会計処理については基本的な変更はありません。

IFRS新会計リース会計基準は2019年1月1日に開始する事業年度から強制適
用されるので、3月決算の場合は2020年3月期決算から、12月決算の場合
は2019年12月期決算から適用されます。
したがって、IFRS任意適用会社ではあまりのんびりとしていられず、早急な対応
が求められてきます。

経過措置・初度適用ですが、リース判定は新リース基準適用開始前の期首前に開始
された契約については、リース判定のやり直しは必要ないこととなっています。
また、IFRS新リース会計基準を適用した使用権資産やリース債務の再評価方法には
全面遡及アプローチと修正遡及アプローチがあり、いずれかのアプローチで再評価
します。ここで、全面遡及アプローチとは、過年度に遡及して使用権資産やリース
債務を再計算して各報告年度の金額を再計算する方法で、比較年度も新リース会計
基準を適用して修正再表示します。修正遡及アプローチは比較年度は修正再表示し
ないアプローチで新リース会計基準との差異は適用開始日の期首利益剰余金残高の
修正として認識します。
いずれのアプローチでも比較年度の再評価は必要となってくるわけです。


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■ 2.導入のポイント

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IFRS新リース会計基準の適用にあたり、まずは、財務数値へのインパクトを分析
します。
借手側は、従来はオフバラン処理されていたオペレーティング・リース、レンタ
ルや不動産の賃貸契約に対しての使用権資産が資産計上、リース債務が負債計上
されることとなるので、財政状態計算書(貸借対照表)では、総資産及び負債が
同額増加します。純資産の金額にはインパクトを与えませんが、自己資本比率
ROA等の経営指標従来と変わってきます。

一方、従来はオペレーティング・リース、レンタルや不動産の賃貸契約に関する
支払いを「支払リース料」や「賃借料」としてとしてリース(賃貸)期間中一定
額を計上していました。IFRS新リース会計基準では使用権資産を定額法で償却し
減価償却費、リース債務は償却原価法を用いて支払利息を計上します。
したがって、包括利益計算書(損益計算書)では、税引前当期純利益へのインパ
クトほとんどありません。ただし、支払利息は営業外損失に計上されるため、営
業利益が改善します。
また、従来の支払リース料はリース期間中一定額、利息法による支払利息はリー
ス負債残高が大きい初期に多額に計上されるため、リース期間前半に税引前当期
純利益は減少し、リース期間後半に増加することとなります。

次に、日本の開示制度上は、IFRSは連結財務諸表のみで適用され、単体財務諸表
は日本基準が引き続き適用されるため、IFRS新リース基準への対応は連結決算に
おける調整となり、そのような対応をするための業務プロセスの見直しやシステ
ム改修が必要となってきます。

日本本社が新基準に対応する以上は海外拠点も含めた子会社の対応も必要となっ
てくるので連結パッケージの見直しなども必要になってきます。


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■ 3.日本でのリース会計基準の動向と論点

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IFRS新リース会計基準の適用を受けて、我が国の企業会計基準委員会(ASBJ)で
IFRS第16号「リース」のエンドースメントに関する議論を進めています。
審査の結果、実務上の困難さはあるものの、受け入れ難いとするほどの事情はな
く、改正案では「削除又は修正」を行わないとする案が掲示されています。
したがって、現状では、日本でもIFRS第16号「リース」を削除又は修正なく適
用される可能性が高くなっています。

そこで、論点となるのが、日本の会計基準では、IFRS第16号をそのまま適用す
るようにリース基準を改定する見込みですが、その適用時期がまだ不明確である
ことです。時期的に考えて、IFRS第16号「リース」の強制適用される2019
年1月1日に開始する事業年度に適用することはなさそうで、それ以降の適用と
なりそうなことです。
IFRS任意適用会社では特に問題はありませんが、IFRS任意適用会社以外の上場会
社では、日本基準を適用する日本親会社よりも早くIFSR第16号を適用する海外
子会社がでてくることです。
すなわち、連結パッケージをIFRS基準で作成し監査報告書(レビュー報告書)を
入手している海外子会社ではIFRS基準で会計処理する必要があるため、連結財務
諸表上では、IFRSを適用した海外子会社のオペレーティング・リース等に関わる
使用権資産やリース債務は計上されるものの、日本親会社の使用権資産やリース
債務は計上されないことなってしまいます。


ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタントによ
り、IFRSインパクト分析を含めた導入支援、企業内ルールの作成支援コンサル
ティングも行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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のれん費用化の国際的な会計処理が見直される?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.082━ 2018.10.03━━

【ビズサプリ通信】

▼ のれん費用化の国際的な会計処理が見直される?

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こんにちは。ビズサプリの花房です。今年は台風が多く、先週末も台風24号
でものすごい強風ではありましたが、事前対策がしっかりされたことや休日
でもあり、それほど大きな被害が出ずホッとしています。ただ今週末には台風
25号の進路が24号と似通っているようで、日本に上陸する可能性もありそう
なので、引き続き注意が必要ですね。1ヶ月前の台風21号は西日本を中心に
甚大な被害をもたらしており、改めて自然の怖さを思い直すとともに、台風
により被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

さて、先日日経新聞のニュースで、「国際会計基準IFRS)を策定する国際
会計基準審議会(IASB)が、企業買収を巡る会計処理の見直しに着手した
ことが明らかになった。」との記事がありました。(今後)「費用計上義務
付けの議論を始め、2021年にも結論を出す。」とのことで、今までは減損
一辺倒であったIFRSにおける、のれんの会計処理が、規則償却を基本とする
日本基準に近づく可能性が出てきました。

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■ 1.見直しの背景

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のれんの償却について見直しの議論が深まった背景としては、最近の大型
M&Aの増加に伴い、B/Sでののれん残高が積み上がって来ている、ということ
は、大きな理由の1つだと思います。同記事には、欧州の主要600社ののれん
残高は240兆円、アメリカは主要500社で340兆円ののれんが積み上がっている
ようで、対して日本においては、国内IFRS導入企業(約160社)で約14兆円、
とのことです。

日本の企業でもIFRS導入企業の方がのれんは積みあがる傾向にあり、TOP3
として、ソフトバンクで4.3兆円、JTは1.9兆円、武田薬品工業1兆円の順と
なっています(武田については、今後シャイアーの買収が成功すれば、3兆円
規模ののれんが加わると言われています)。

M&Aが盛んな企業において、特に大型買収案件を数多く成功させている会社は、
場合によってはのれんが自己資本と同等かそれを超える場合もあり、仮に減損
によってのれんが一気にゼロになってしまうようなことがあれば、債務超過
なってしまいかねません。日本における最近の話題ですと、ビズサプリのメル
マガでも何回か取り上げましたが、東芝がウエスチングハウスの不正を発端と
する多額の減損で、一時債務超過に陥り、上場廃止になるかどうかの攻防が
ありました(結果的に債務超過は解消され、上場も維持されています)。

のれんの費用化を減損だけに依拠すると、投資先が順調な時は基本的に問題に
なりませんが、いざ経営が傾くと、巨額の減損リスクを負うハメになるという
意味では、一種の「爆弾」を抱えていると言っても言い過ぎではないと思いま
す。のれんが積み上がっている状況は、ある意味爆弾をたくさん抱えることに
なるので、のれんの会計処理ルールを「減損」から「償却」ベースに変える
ことで、のれんの一方的な増加を抑え、企業のバランスシートを健全に維持
して行くことに繋がります。

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■ 2.償却することの理論的根拠

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そもそも「のれん」というのは、会計理論上は「超過収益力」を意味します。
それは、ブランドであったり、同業他社より優れた経営効率・技術力・成長性
等を持つことによる、超過収益力への対価として、プレミアムとして支払われ
るものです。理屈上は、のれんの効果が続く期間、想定される収益を生み出し
た場合、のれんの支払を差引いて初めてペイするため、より大きな収益を挙げ
れば、あるいは想定よりも長期にわたってのれんが継続すれば、買収は成功し
たと言えますし、ブランド価値がそこまでないとか、キーマンが辞職したりで
想定より収益を挙げられないと、プレミアムがそのまま払い損となってしまい
ます。

そして会計処理上難しいのは、「のれん」がソフトウェア、その他の無形資産
同様、『見えない価値』であることです。つまり、のれんが生み出す収益をど
のように測定するかの問題でもあり、当初は、のれんと関連する収益が明確で
あっても、時間の経過とともに事業再編や組織再編があると、当初ののれんから
生み出した収益を明確に分離して測定することが難しくなります。また変わら
ず同じように収益を生み続けているとしても、それが当初の「のれん」の効
果によるものなのか、それ以後の企業努力(生産性の向上、研究開発や広告
宣伝等)によって新たに生じた「のれん」(自己創設のれんと言います)に
よるものかが、不明瞭になっていきます。

会計上は自己創設のれんの計上は認めらておらず、買収や事業の譲受等で他社
から購入した場合のみ、資産計上が認められています。他社から購入したのれ
んが何の努力もなしに維持されるとは通常考えられず、徐々に減っていくこと
を前提にした会計処理が「償却」であり、将来キャッシュ・フローが落ち込ま
ない限りはのれんは減耗せず維持されるが、将来キャッシュ・フローが一定
程度減少した場合にのれんの毀損が生じたと考えるのが「減損」の会計処理
の前提です。

日本基準での「償却」はのれんの継続についてコンサバティブな前提を置き、
IFRSはアグレッシブな前提に基づいているとも言えると思います。


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■ 3.会計基準は政治的な駆け引きの賜物である

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IASBがのれんの費用化の会計処理について変更する検討を始めたというのは、
何も理論的に今までが間違っていたので理論的に正しい方法に改める、という
のではなく、従来の方法だと、投資家等をはじめ、経済活動への影響として
不具合が出てきたということではないかと思います。すなわち、減損はある日
突然やってくるため、従来の業績の延長線上にない多額の損失が計上されると、
将来の業績見通しがやりにくくなり、投資家も企業価値の将来予想の判断に
困ってしまいます。

のれんを規則償却する処理は、保守的である以上に、のれんの費用化が各期に
与えるインパクトを平準化することが出来るので、企業価値を予測しやすい点
で、投資家にとっても好ましい会計処理だと思われて来ているのかもしれません。
またのれんの取得から期間が経過するほど、将来キャッシュ・フローによる
のれんの減損判定が、技術的に困難になっていく、という話も聞こえて来ます。

世の中の活動は、基本的に法律を含む、ルールの上で成り立っています。そして
ルールの変更により、当初有利だった立場の人や組織が不利になったり、その逆
もあります。また最初にルールを作った人が一番恩恵を受けたり、ルールを変え
ることで、立場を逆転させてしまえることもあります。その意味で、ルールを
作ったり変えられる立場の組織は非常に強い立場にあります。
会計基準のような、理論的にどうあるべきか、ということで決まっているよう
に見えるルールでも、唯一絶対のものはなく、時代、場所によって正しいとさ
れる内容は、変わります。世の中のインフラとなる重要なルールですから、誰か
が勝手に決めれるものではないですが、新しいルールの導入、ルールの変更の際
には、会計基準設定主体(IFRSではIASB、日本基準ではASBJ)が中心となって
議論しますが、ある程度詰まってきたら、論点整理(DP)、そして公開草案
(ED)のような形で公表し、世間の意見を聞いた上で、合意形成をしていきます。

そこで、国内ルールであれば、業界団体や、業界を代表するような企業が、
自分たちにとって有利な方向になるよう働きかけるのは当然のことですし、
国際ルールであれば各国間、あるいはヨーロッパ(IFRS)と米国(US GAAP
と言った対立軸で、政治的な綱引きが行われることになります。これは、
ルールメーカー、あるいはルールチェンジャーが最も有利に事を進めること
が出来ることが分かっているからだと言えます。

今回、IASBでのれん費用化の見直しが議論され始めるのは、それが日本に
とって有利ということで日本から働きかけたわけではないと思います。
どちらかというと、M&Aに積極的な欧米企業、あるいは業界が、業績に与え
るマイナス方向のインパクトを緩和するため、減損のみに頼り、規則償却を
避けてきた印象があります。それが世の中的に行き過ぎて来たので、少し
ルールを揺り戻そうという流れではないでしょうか。

日本企業でIFRSを導入した企業、あるいは今後導入を検討する企業の多く
にとって、のれんを非償却に出来る、というのも導入の大きな理由の1つ
だったと思います。もちろんそれだけが理由ではないので、仮にIFRSでも
のれんの規則償却が導入されてもIFRS適用を辞めたり、導入の流れが止ま
ることはないと思いますが、業績に与えるインパクトが比較的大きいと
考えられますので、今後どのように議論が進んで行くのか、注意していき
たいところです。

ビズサプリグループでは、会計士、事業会社での経験豊富なコンサルタント
により、IFRSの導入支援、企業内ルールの作成支援コンサルティング
行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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東京医科大学の問題から女性活躍のホンネについて

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.081━2018.09.12━

【ビズサプリ通信】

▼ 東京医科大学点数操作と女性活躍のホンネ

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こんにちは。ビズサプリの辻です。

今年の夏は本当に暑かったですね。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、何と
か乗り切ったということに安堵してしまっています。「〇年に1回の猛暑」
ゲリラ豪雨や線状降水帯による豪雨も含めて、「異常」と片付けるのでは
なく、これが毎年起こることを前提に備えておかないといけないのかもしれ
ないですね。

さて、今日は女性の受験者に不利になるような得点調整を行っていたという
東京医科大学の問題から女性活躍のホンネについて考えていきたいと思います。
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■ 1.点数操作と女性活躍のホンネ

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「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる」(学校法人
東京医科大学内部調査委員会の調査報告書)などということで、女性の受験者
に対して不利となるような得点の調整を行っていた東京医科大学の不正入試問題。
この報道を聞いた時、みなさんはどのように感じられたでしょうか。

上記の調査報告書では、「女性の受験生をただ女性だからという理由だけで
差別してきたことに関しては、社会が女性の活躍を促進するべく様々な方策を
施していることに真っ向から反抗するものであって、断じて許されるべきでは
ない。」とばっさりと言い切っています。また様々な報道をみても「女性がや
めなくて済むような勤務形態とか働き方とかを真剣に考える方が先で、それで
入試の点数を操作するなんて許されるべきではない。」という論調が大半だった
かと思います。

確かにおっしゃる通り。私自身も一女性としてこのような調整が入試で行われ
るということは本当に腹立たしいと感じます。ただ、東京医科大学をバッシン
グしておしまいにしていいお話ではないように思います。むしろ、バッシング
報道が色々な議論の機会を奪っているようにも思えてきます。

医師向けの人材紹介エムステージが、今回の東京医科大学の対応について女性
医師を中心にアンケートしたところ、肯定的な回答(「理解できる」「ある
程度理解できる」)と回答した医師が65%ということだったとのことでした。
男性医師ではなく女性医師がこのように答えているということは興味深いこと
です。「現状では仕方がないというあきらめの境地」とか、「産休や育児休暇
で抜けた穴をカバーしている未婚の女性医師が複雑な環境を吐露している」
とした分析がされています。産休・育児休暇でお休みをとる人、復帰後の時短
勤務のカバーをしている未婚の方や男性社員が持つ割を食ったような感情は何も
医師に限ったことではなくよくあるお話です。ただ、このようなホンネは口に
出すことはできない空気があります。

一方でお休みや時短勤務をしている側としては子育てで必死です。なかなか
自分の仕事をカバーしてくれている上司、同僚、後輩に感謝や配慮するまでの
余裕がない場合も多いかと思います。いきおい「こんなに頑張っている」と
いった自己主張をしてしまうケースもあるかと思います。

支える人と支えられる人、両者の溝は深まるばかりです。「何か報われてい
ない感じ」や「何か損をしている感じ」といった感情が渦巻いている職場も
結構あるのではないでしょうか。

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■ 2. 日本人はもっとも会社を信用していない?

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性別に関係はないですが、米国のPR会社Edelmanの調査では、世界28カ国中、
日本人は、「世界で、最も自分の働く会社を信用していない国民」という
結果がでたそうです。「自分の会社を信用するか」と言う問いに対して
「信用する」と答えた割合はわずか40%で調査した中で最低で、米国(64%)
、イギリス(57%)、中国(79%)、インド(83%)よりはるかに低く、
ロシア(48%)よりも低いそうです。

その要因の仮説として筆頭で挙げられているのが、「長時間労働」です。
東洋経済オンライン 2016年9月4日号)つまり、女性活躍促進を妨げて
いる長時間労働は、女性の活躍を阻んでいるだけではなく、性別に限らず
働く人のモチベーションを下げ、会社と個人の信頼関係を壊している残念な
結果のようです。

最近は、「働き方改革」で長時間労働を見直す動きも出てきています。
この動きの中で、RPAやAI等のテクノロジも積極的に活用し、生産性を高め
ていくことは有力な解決策の一つです。「必要なのは技術を正しく使うこ
とだ。急速に普及するロボットや人工知能(AI)を企業ごとにふさわしい
やり方で取り入れ、効果を検証しながら改善する。ITの導入で機械ができる
ことと人が担う業務を選別し、テレワークも活用したい。(中略)姿が見え
ないからさぼっているというのは過去の発想だ」(日本経済新聞2018年9月
4日号 サントリーHD新浪氏の記事より)ということです。これまでの仕事に
ついて、「人間がやるか」「人間がやらなくていいのか」といった新たな
目線で整理すればこれまでにない形で長時間労働から解放されるようになる
かもしれません。

また、日本航空も新しいシステムを導入してAIを活用して料金設定を行った
ところ、収益が大幅に改善したという記事もありました。(日本経済新聞
2018年9月3日)。この料金設定は長年の勘と経験でベテランが実施していた
業務ということですから、長年の勘と経験がAIまたはAIとデータベース
という新たな資産となって、会社の収益に貢献したということでしょう。

一方で、「医師はAIの導入に消極的な人が多い。」というお話をあるシス
テム会社の方からお聞きしました。「今やっていることが変わることに対
する抵抗感」があるそうです。確かに仕事のやり方を変えていくということ
は簡単な話ではないかもしれませんが、そうしないと今の人手不足と長時間
労働は解消されません。それは性別に限らず不幸な働き方であることは前述の
アンケートからも明らかです。

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■ 3.「できる」と期待される方が本当にできる


ITといったテクノロジだけでなく、人間同士の信頼関係も女性活躍のためには
必要です。私自身の経験からも、色々な研究からも、女性は自分の能力を過小
評価し、物事に対して保守的に考え「できない」と予防線を張ってしまう事が
多いようです。(逆に男性は、自分の能力を過大評価し、「自分はできる」
というアピールをすることが多いそうです。)
女性に何かチャレンジの機会を与えようとしても、「できない」といった否定
的なレスポンスを受けてしまうと、チャレンジの機会を設けようとした上司側
としては、あまりよい気持ちがしないものです。特に上司側は男性であることが
多いため、そのレスポンスを理解できず、物足りなく思ってしまう気持ちはな
おさらだと思います。
ただ、このようなレスポンスが性差に基づく「癖」みたいなものだと知って
いたら、少し心持ちは変わってくるのではないでしょうか。「男女分け隔て
なく」といいますが、生物学的に色々な違いがあるわけです。その違いを一つ
の個性と考え、そのような違いを知っておくだけでずいぶんコミュニケーション
の仕方も変わってくると思います。

また、「上司の期待に合わせて部下の成績が上下する」といった実証的な実験
結果や、治療にあたる医療関係者が、「この患者は治る」と期待している場合
の方がそうでない場合に比べて治療の効果が格段と上がるといった研究結果が
あるそうです。(動機付ける力 モチベーションの理論と実践 DIAMOND 
HBR編集部)

「個性を知り、信じて任せる」これも女性活躍に関わらず、幸せな会社への
第一歩かもしれません。

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■ 4.ちなみに公認会計士試験は?

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東京医科大学に入試の問題から色々述べてきました。また、文部科学省が全国の
医学部の合格率を調査し、男女の合格率に差異がある場合、その差異の理由が
合理的なものかどうか調査する、といった報道もありました。今後、医学部に
ついてはこのような調整が行われないようになっていくのでしょう。
ところで、公認会計士試験はまさかそのような調整はされていまいと公認会計士
試験の男女別の合格率を調べてみましたが、男女別の受験者数が公開されておらず、
男女別の合格率は検証できませんでした。男女別の合格率はどうなっているのやら。
(ちなみに司法試験は男女別受験者と合格者が公表されていました。)
試験での合格率はどうであれ、公認会計士の会員登録の女性比率は、12%程度
とお寒い状況です。我々の業界の女性活躍促進もまだまだ道は遠いようです。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

 

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管理部門の状況について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.080━2018.08.29━


【ビズサプリ通信】

▼ 管理部門の順番

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ビズサプリの泉です。

早いもので、私がビズサプリにジョインしてから半年以上たち、今回でメルマガ
も3回目となりました。今回は経理部門を含んだ管理部門の規模による状況を取
り上げたいと思います。
私は監査法人勤務時代、コンサルティング会社勤務時代、独立してからと様々な
会社の管理部門をみてきました。管理部門の業務の本質にそれほど差はないもの
の、やはり、その会社規模、業態によって異なっています。今回は規模に応じた
管理部門の状況について取り上げたいと思います。

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■ 1.管理部門のなりたち

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そもそも管理部門とは何か、という話はありますが、議論しだすと長くなり
ますので、ここではみなさんがなんとなく想像するバックオフィス業務、いわ
ゆる総務、経理、人事といった業務を行う部門として進めたいと思います。

創業者が起業したときは、まずは創業メンバーだけであり全員で事業をして
います。
専任の管理部門の人員を保持する財務的余力がなく、また業務量もないため、
通常、バックオフィス業務専任のメンバーはおらず、各人で掃除やゴミ捨て
といった庶務的業務から、請求書の作成や支払いなどの経理回りの業務や
採用等の人事業務も自ら行っていることが一般的です。

経理部の基本的な業務である記帳、支払のうち、記帳は給与計算とともに
外部の会計事務所に委託していることも多く、支払は経営者が自分で行って
います。記帳については、最近ではfreeeといった従来の簿記の知識がほと
んど必要なく使える会計ソフトがでてきており、経営者自らがやっていること
もよくあります。
この段階では、当然、経理部門どころか管理部門自体がありません。

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■ 2.従業員10人~30人ぐらいの会社

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事業がある程度うまくいき、創業者の他にベンチャーとして、中途社員が増え
ていき10人を超えたぐらいで、経費精算、給与支払いなどの庶務業務も増えま
す。加えて本業においても外部に委託する業務のやりとりも増えてきます。
このため、管理部門専任の人がほしくなります。
オフィスも元々マンションの一室であったようなところから、きちんとした
オフィスに移転するのもこれぐらいの時期です。

この規模の会社では、庶務を含め管理部門的な様々なことをやってくれる人は
正社員ではなく、派遣社員やアルバイトの場合も多く、記帳や給与計算といっ
たものはまだまだ外部の会計事務所に委託しているケースが多いかと思います。

さらに人員が30人規模となってくると、経営者がすべての社員に密にコミュ
ニケーションとることが難しくなり、創業当時の阿吽の呼吸で業務を行うと
いったこともできず、会社を運営するうえである程度ルールや仕組みが必要
となってきます。
管理部門が実施するような業務も増えてきて、複数の専任者が置くことにな
ります。よくあるパターンとしては正社員1名+1,2名のアシスタント
(派遣やアルバイトの場合もあります。)の管理部という形で部署となります。
まだ経理部門を別に置いている企業は多くありません。

この規模になると取引先の数や取引の件数も多くなり以前のように、経営者が
資金繰りを頭の中で片手間に実施することが難しくなり、専任の者を配置して、
定期的な報告がほしくなります。このような経営者のニーズに応えるべく管理
部社員は財務的な業務である資金繰りも考えることになっていきます。

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■ 3.従業員50人規模の会社

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さらに事業規模が拡大し、従業員が50人くらいになってくると、経営者が各人
に指示を与えるのは現実的に難しくなるため、中間管理職がおかれ、組織とし
て業務の分業化や組織化が進んでいきます。。
管理部門においても、業務の細分化がすすみ、まず、業績や資金繰りなどの
数字周りの専任となる経理チームが管理部の中で分離され、外部に委託して
いた記帳業務なども内製化されます。ここでやっと経理部門として成立しま
すが、主要な業務は月次締め、支払い、資金繰りといった業務であり、予算
実績管理といった経営を数値で検証することはしていない会社がほとんどです。

ちなみに最近のベンチャー企業では採用業務を重視しているところもあり、
その場合にはこのぐらいの規模の会社でも専任の採用担当者をおき、管理部
とは別に経営者直轄のチームとして組織化することもあります

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■ 4.従業員100名規模の会社

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従業員が100人規模となってくると、経営者は経営に集中することになります。
経営とは何かというと話が広がっていくため、ここでは特段言及しませんが、
組織としては、役割毎の部署ができ、分業体制が進んでいく状況となり、管理
部門としては一定の専門性も求められることが多くなります。

事業規模の拡大、組織の拡大によりバックオフィス業務増えることになり、
管理部門の人員が増えるとともに、専門性の高まりにより管理部門内での分業
が進み、経理以外の各業務のおいても専任の担当者が置かれ、場合によっては
チームとして組織になります。

個人的見解ですが管理部門の分業の進み方は下記のようかと思われます。
1.管理部のみ
2.経理チームと人事総務チーム
業績や支払いといった数字周りの業務が高まり、専任の経理担当が置かれる。
この段階では人事総務チームが経理業務以外の契約書関連や情シス的業務も
含めて実施していることが多い。
3.経理チーム、人事チーム、総務チーム
社員が増え、採用、勤怠、給与計算、入退社手続き、社会保険手続きなど人事
関連の業務が増え、人事チームが専任となる。それ以外の庶務や備品管理、契
約管理などの管理業務は総務チームが担う。
4.経理チーム、人事チーム、総務チーム、情報システムor法務
経理、人事、総務により会社として大体の業務がカバーできるが、業種によって
は契約が重要になったり、情報システムが重要であったりする。その場合、さら
に総務チームから情報システムチームや法務チームが切り出される。
5.広報、IRの設置
会社がさらに成長し上場をした場合、会社のブランディングや適切な情報発信、
メディア対応等の必要性から広報が設置され、投資家対応のためにIRが設置さ
れる。

そのため、いわゆる上場前のベンチャーといっても各フェーズにおいて管理部門
の求められる業務の範囲、深度、専門性は全く異なります。

ビズサプリグループでは、創業間もない会社の経理業務のアウトソーシングから、
経理部門の業務改善コンサルティング、上場のためのIPOコンサルティング
上場会社の法定開示、JSOX業務のサポートなど各フェーズにおいて必要とされる
サポートを行っておりますので、何かありましたらご相談ください。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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ソーシャルレンディングの行方

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.079━2018.08.01 ━
【ビズサプリ通信】
ソーシャルレンディングの行方
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ビズサプリの久保です。今年は梅雨明け直前の大雨で大きな被害が出たかと思うと、その後は毎日厳しい暑さが続きます。東京オリンピックの年だけは、こんな暑さではないことを願うばかりです。さて、皆さんはソーシャルレンディングとは何かご存じでしょうか。試してみた方はおられるでしょうか。
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■ 1.maneoの行政処分
証券取引等監視委員会によるmaneoマーケット株式会社(maneo)に対する立ち入り検査の結果を受け、金融庁が7月13日に同社に対して業務改善命令を行いました。 maneoは、ウェブサイト上でソーシャルレンディングと呼ばれるビジネスを行う業界最大手の会社です。これはFintechの一種で、ウェブサイト上でファンドへの少額の出資を募り、そのファンドが特定の事業に対して貸付をするというものです。
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■ 2.maneoのビジネスモデル
 ベンチャー企業や中小企業がインターネット上で資金調達するウェブサイトとしては、米国のKickstarterや日本のMakuakeが有名です。これらは、購入型のクラウドファンディングを仲介するサイトです。簡単に言うと、前払いで製品やサービスを注文してもらうサイトです。ベンチャー企業にとっては、資金が先に得られるというメリットがあります。 一方、クラウドファンディングには出資型もあります。募集総額1億円未満かつ一人当たり投資額50万円以下であれば、インターネットを介して出資を募ることができます。これは、個人の投資家がベンチャー企業に対して直接出資して株主になるというものです。 maneoの場合は、出資を募るため出資型のクラウドファンディングに似ています。しかし、出資先はファンド(匿名組合)であり事業を行う企業ではありません。このファンドが事業を行う企業に対して「貸付」をするというのがmaneoのビジネスモデルです。ソーシャルレンディングのレンディング(lending)は貸付という意味です。多くの人から少額の貸付資金を集めるということから、ソーシャル(社会)レンディング(貸付)と呼ばれています。
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■ 3.行政処分の理由
 問題は2つあったようです。その1つは、ファンドへの出資を募る際に、ファンドから貸付する先の企業と貸付目的を特定しているのですが、それとは別の企業に対して別の目的のために貸付していたことです。2つ目は、貸付先の企業が自己資金とファンドからの借入資金を区別せずに管理していたことです。 1つ目の目的外への資金の利用はありそうな話です。この場合は太陽光発電事業の資金として募ったのに、それ以外の目的に使用したようです。日経新聞ではこの流用額が「100億円規模か」とされています。2つ目の自己資金との区別がないというのは、どうしてダメなのでしょうか。お金には色がつかないので、自己資金と借入資金を区別しないと太陽光発電事業のために使ったのかどうかが分からなくなってしまいます。このため、自己資金とファンドからの借入資金をしっかり区分して管理する必要があるのです。
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■ 4.ソーシャルレンディングの条件
maneoが業務改善命令を受けた案件は「グリーンインフラレンディング」(GIL)という太陽光発電事業への貸付案件です。金融庁によると、maneoがGILに仲介した出資者数は昨年末時点で約3000人、貸付残高は約103億円とのことです。これに関する最近のファンドである「200億円突破記念ローンファンド(第1次募集)」は募集キャンセルになっています。ウェブサイトでその募集条件を見ると次のようになっています。
「借り手A社、運用利回り13%、募集額2,005万円、運用期間12ヶ月、担保なし、保証なし、一括返済、投資可能金額5万円から」
事業者A社は、太陽光発電開発事業者T社に対して、太陽光発電所の開発資金として貸付し、その資金で開発業務の委託先に対して業務委託料残金の支払いをし、この残金支払いにより、太陽光発電所を建設するための土地などを取得する計画であるとしています。
 ファンドからの直接の貸付先はA社ですが、A社からT社(特別目的会社)に貸し付けるという資金の流れになります。このT社は太陽光発電事業を行うために設立された会社のようです。資金の流れは次のようになります。  「個人投資家」 →(出資)→「GILが組成するファンド」→(貸付)→「A社」→(貸付)→「T社」
 ファンドの運用期間は前述のとおり12ヶ月のため、T社が太陽光発電事業を継続して行うのであれば、12か月後にまた新たな借入金をしてその資金で返済するのでしょう。または、事業売却を計画しているのかもしれません。 利息制限法に定められた金利の上限は100万円以上の場合は年利15%です。13%の運用利回りは非常に高いです。GILとA社の金利取り分を仮にそれぞれ1%とすると、T社の借入金利は上限の15%になります。この案件の場合、T社は15%で借入しなければならないほど信用力がないと考えられます。これだけ運用利回りが高いとファンドの資金を集めるのには苦労はしませんが、T社はこの高い金利の支払いだけでなく、そもそも元本を返済できるのかが心配になります。
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■ 5.ソーシャルレンディングのリスク
 maneoのサイトには「リスク説明」と書かれた赤いボタンがあります。そのボタンを押すと、貸付金が回収できないときは出資金元金が全額返ってこないリスクがあると書かれています。13%の運用利回りに目がくらみそうですが、元本保証ではありません。運用利回りが得られないだけでなく、元本が返ってこないことがあるということがはっきりと書かれています。 しかし、個人投資家はこのリスクをどれだけ理解した上でファンドに出資しているのでしょうか。ソーシャルレンディングは新しい業態なので、これに対する規制が十分でないと考えられます。
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■ 6.今後の規制強化が急務
maneoは金商法上のファンド販売業者(第二種金融商品取引業者)ですので、監視委員会の検査権限が及びます。しかし、上記のA社やT社には権限が及ばないため、全容解明が難航したと報道されています。検査権限の見直しを行う必要があるでしょう。また、ソーシャルレンディングでは、借り手保護の観点からA社やT社のように貸付先が匿名にされていますが、これでは投資家保護にはなりません。これについては、金融庁は借り手企業の名称などを開示させることを決めているそうです。 個人投資家は、貸付先の財政状態がどうなっているかを知らない状態で、maneoを信用して出資しています。この問題案件の場合は、筆者から見たら、運用利回りが非常に高いことだけをとってもリスクが高いと感じます。しかし、この業界の最大手であるmaneoが募集しているというだけで、信用して投資する人もいるでしょう。今後は、貸付先の財政状態を開示する義務や、ファンドからの借入資金の区分経理を強制するなどの規制強化が必要になると思われます。仮想通貨取引所コインチェックでは580億円が流出しました。Fintechを育てるという政府の姿勢は大事なことですが、ソーシャルレンディングでは、巨額の回収不能事故が起こる前に対策を急ぐ必要があると思います。

ビズサプリグループでは様々な会計上の課題について対応支援を行っています。気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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