株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

経営上の意思決定について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.077━ 2018.7.04━━

【ビズサプリ通信】

▼ 意思決定の難しさ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

こんにちは。ビズサプリの花房です。今年はもう梅雨が明けてしまったとかで、
例年海の日の前後と思っていたのでちょっと拍子抜けですが、その分暑い夏が
続くことで恩恵を受けるビジネスもあり、天気、さらに言えば地震も含めて自
然は予測不能ですが、それでも企業は日々意思決定を行っています。

日本では3月決算会社が多く、その株主総会は6月に行われて、中でも集中日と
言われる日が今年は先週6月28日でした。当日は今回注目されていた富士フイル
ムホールディングス、武田薬品工業、出光興産の株主総会も行われましたが、
いずれも経営上の大きな意思決定を抱えています。

それらは、富士フイルムは米ゼロックスの買収、武田薬品工業アイルランド
の製薬大手であるシャイアーの買収、出光興産は昭和シェル石油との経営統合
についてです。いずれも賛否両論の戦略であり、また相手のある交渉事のため、
会社自身で必ずしも決められない経営課題であり、今後どのような展開になっ
ていくのか、外部からでも予想がつきませんが、意思決定する立場の経営陣は
本当に大変だと思います。

今回は、このような経営上の意思決定についての手法を考えてみたいと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 1.経営判断の原則
----------------------------------------------------------------------

取締役、特に上場会社の取締役となると、その責任は重大です。会社法では、
忠実義務や任務懈怠責任、善管注意義務等が定められています。特に意思決定
ということになると、「経営判断の原則」と言われる考え方です。これは平た
く言うと、ある意思決定が結果的に会社に損害をもたらしても、意思決定の経
営判断が合理的であれば、結果責任を問わないとするものです。

意思決定の結果会社に損害が出た場合、全て意思決定時の取締役に責任がある
ことになれば、取締役は委縮してしまって、必要な投資や大胆な事業計画を実
行しなくなってしまい、結果的に会社の成長を妨げることになります。そこで、
意思決定に際して、きちんと必要な情報収集をし、リスクを分析して、慎重に
合理的な判断をしているのであれば、結果的に経営責任を問われることはない
ため、経営陣もリスクを取って挑戦できることになります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 2.経営者の意思決定

----------------------------------------------------------------------
「人生は選択の連続である」とかつてシェイクスピアが行ったように、我々は
必ず何か選択をしながら日々生きていますが、それも小さな意思決定の積み重
ねと言えます。日常生活に必要不可欠な意思決定もあれば、企業においては、
売上を増やす、コストを下げる、生産効率を上げる等、業績の向上、財務体質
の改善等、企業をより良くするために、様々な意思決定を行っています。

意思決定の手法として、昔からよく教科書に出てくるのは、PDCAサイクルです。
これは、P:Plan(計画)、D:Do(実行)、C:Check(評価)、A:Action(改
善)のイニシャルを拾ったものですが、「サイクル」という言葉が付くように、
一連の業務フローがある中で、計画したものが実行され、それを評価して課題
を抽出し、改善のアクションをまた計画してそれを実行することを繰り返すの
であり、基本的にはルーチンワークが前提と言えます。その意味で、すでに会
社の業務として確立しているものであり、そこから革新的な何かが出てくる可
能性は薄いでしょう。

経営者は、現在行われていることをきちんと執行するのも大事ですが、より重
要なのは、将来のビジネスの基礎を作ることだと言えます。未来永劫何十年も
同じ事業で成り立っている会社がゼロとは言いませんが、多くの長寿企業では、
時代によって何十年周期で中核事業を変えながら継続している老舗がほとんど
であり、必ず新たな中核事業を作り出し、育ててきた経営者がいます。

そのような意思決定こそ、経営者として真に求められる意思決定と言えます。
それは過去の延長線上にあるものではなく、予測不能な中でも将来を見据えて、
時代に必要とされるものを見つけ、あるいは作り出す必要がある、高度な意思
決定です。このような意思決定に役立つ手法として最近注目されているのが、
「OODAループ」と言われるメソッドです。

PDCAが工場で生まれたのに対して、OODAは軍事の世界から生まれました。戦場
は常に敵との遭遇するリスクに晒されながら、刻々と変化する状況の中で、生
き残るための最適な判断をしなければなりません。OODAは、O:Observe(観察)
、O:Orient(状況判断、方向づけ)、D:Decide(決断)、A:Act (行動)、
のイニシャルを取ったものです。

PDCAはプロセスが重視されるので、ある程度長期、変化の少ない状況で有効な
手法に対して、OODAは変化が激しく、すぐに対応しなければならない機動性が
要求される状況で有効な手法という意味で、変化が激しく1年後すら将来の予測
が難しい現代に当てはまりそうな手法と言えます。

もう1つ注目されているメソッドとして、「QPMIサイクル」と言われているものが
あります。これは、Q:Question(クエスチョン)、P:Passion(パッション)、
M:Mission(ミッション)、I:Innovation(イノベーション)、のイニシャル
です。最近はソーシャルビジネスが盛んですが、これはまさに、社会問題に疑
問を持ち、その解決に情熱を持つ人が、それを自らの使命として、今までにな
いようなアイデアや技術で改革やソリューションを創出するビジネスモデルの
サイクルと言えます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 3.意思決定以上に必要なもの

----------------------------------------------------------------------
今まで数多くの経営者を見て来て、最近では経営者のそばで仕事をする機会も
増えてきました。そこで改めて思うのは、QPMIサイクルにもありますが、優秀
な経営者の方は、例外なく、熱いPassionと、世の中を変えたいというMission
を持っていると思います。

大学の経営学や、MBAで学ぶような○○サイクルと言ったメソッドは、昔から行
われいる事象を類型化し、体系的に整理して、学問的に分かり易い言葉で表現
しているにすぎません。歴史を作ってきた経営者の多くは、学問的なことを身
に付けるよりも早く、深く考え、様々な経験をして、重要な意思決定を繰り返し
てきました。そしてそれは1人では出来るものではなく、従業員を始め、多くの
方のサポートが合って初めて実現できたものと言えます。

昔から読まれている名著で、「人を動かす」(デール・カーネギー著)があり
ますが、そこでの人を動かす三原則の1つは『強い欲求を起こさせる』ことなの
であり、経営者が明確なMissionを従業員に対して強いPassionで伝えられるこ
とが出来れば、多くの従業員が味方になってくれることでしょう。

経営者の意思決定の内容がどれだけ優れていても、それを実行し切れて初めて
世の中から評価され、歴史に残ることになります。その意味でも、Passionと
Missionは欠かせないと言えます。それがあれば、富士フイルムHD、武田薬品
工業、出光興産の重要な意思決定もいい方向に向かうかもしれません。

今回は意思決定のメソッドをいくつか紹介してみましたが、いずれも観察であ
ったり評価であったりと言葉は違えど、本質としては、現状分析と解決策の方
向性を導き出すことが不可欠です。ビズサプリグループでは、会計士、事業会
社での経験豊富なコンサルタントにより、企業の意思決定支援のコンサルティ
ングも行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

危機 管理について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.076━2018.06.20━


【ビズサプリ通信】


▼ 危機管理の重要性~いきなり重大な危機にはならない~

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ビズサプリの辻です。

梅雨のじめじめした雨模様が続きますね。ただ、これだけ異常気象の中で、
1年に1回きちんと梅雨が来るというのもほっとするような気もします。美しい
紫陽花の花を見ると少し癒されますね。

さて、日本大学アメリカンフットボールの事件、みなさんはどのようにご覧
になったでしょうか。事件については様々な見方がありますが、今日は危機
管理について考えてみたいと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 1.危機管理の基本

----------------------------------------------------------------------

危機は、リスクが実際に顕在化している状態です。危機には自然災害のように
その発生自体を自らコントロールできないものや、「不正・不祥事」や「事故」
のようにリスクマネジメントをしっかり行うことで発生自体をコントロール
きるもの、及びサイバー攻撃やテロなど故意に起こされる事故の3つがあります。
(「健全なる組織はクライシス感度が高い」DIAMOND HBR 編集部)
ただ、いずれの場合も、危機が生じた場合、その危機に迅速かつ適切に対応す
ることで、その危機による被害を最小限にとどめ、なるべく早く平時の状態に
戻すことが求められます。これが危機管理の基本です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 2.危機管理の最初の関門

----------------------------------------------------------------------

東日本大震災熊本地震などの大きな自然災害のような場合、誰もが危機だと
認識をすることができます。このため、組織全体で「危機対応モード」のス
イッチが作動し、危機管理のために事前定めた指揮命令系統や対応マニュア
ルにしたがって行動していくことになります。

一方で、今回の日本大学の対応を考えると、今目の前に起きている状況が
危機だと認識できなかったことで初期対応を誤ってしまった結果、より重大
な危機を招いてしまっているように思います。

つまり、危機を危機と認識できるかが危機管理に成功するかどうかの最初の
関門ということになります。この初期対応を誤ると、問題の中身や背景に正
しく目を向けられることなく、非難やバッシング、炎上といった状況になって
しまいます。

一度このような状況に陥ってしまうと、後から何をやっても非難される一方と
なります。(マスコミのヒステリックな対応もどうかと思うところは
もちろんあります。)そのような非難やバッシングに対して冷静に対応する
のは大変難易度が高く、どうしても感情的に応戦してしまい、またバッシン
グを受けてしまう、というのは今回の件に限らず過去の多くの不祥事の謝罪
会見で見られてきた光景ではないでしょうか。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 3.いきなり「重大な危機」になるわけではない

----------------------------------------------------------------------

「不正・不祥事」といったリスクは、いきなり「重大」な危機になるわけでは
ありません。重大な危機になる前に小さな危機が生じているはずです。
ヒヤリハットの法則」「ハインリッヒの法則」ということでよく知られて
いますが、重大な事故の前には予兆なるような小さな兆候あるはずです。
本来であれば、この段階で自ら危機の存在に気づき、いわゆる自浄作用
を発揮することが求められることになります。

この点、2018年3月に日本取引所自主規制法人から公表された「上場会社に
おける不祥事予防のプリンシパル」の「原則4」の中で、「コンプライアンス
違反を早期に把握し、迅速に対処することで、そが重大な不祥事に発展すること
を未然に防止する。早期発見と迅速な対処、それに続く業務改善まで、一連の
サイクルを企業文化として定着させる。」と書かれています。

ところが、もともとムラ社会の日本人には、「調和を重視する価値観」「集団
内の軋轢を避けるインセンティブ」が強く働きがちです。(「会社は頭から腐る」
富山和彦著)小さな危機が目の前にあるのに「見て見ないふり」「無関心」で
放置されていたり、「前任がやっていたから」という思考停止の状況になって
違反行為が長年続けられることで、気がついた時には危機が大きくなっている
ということになりかねません。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 4.見てみないふり、無関心、思考停止を防ぐには

----------------------------------------------------------------------

違反の事実というよりは、「違反を指摘することをあきらめて見過ごしてしまう
人が生き残っている(えらくなっている)組織文化」が本当は一番の危機なの
かもしれません。危機の中にいる人たちの危機感が薄いため、このような危機は
質(たち)が悪いと言えます。

見てみないふり、無関心、思考停止とならないためには、業務を行う中で「
何かおかしい」「これでいいのかな」というような疑念や「まずいことになる
かもしれない」「危機につながるかもしれない」というマイナスの情報が
どこかで目詰まりすることなく適切な人に伝わるような仕組みが整備され、
それが実際に運用されていることが必要です。そして何よりそれを伝えやすい
雰囲気の組織であることも重要です。

まずは、最初の第一歩として皆様自身にマイナス情報も含めた正しい情報が
入ってくるかどうかを自己点検してはいかがでしょうか。

自己点検項目とし、これまで私が意識してきたことをご紹介します。決して私が
完璧にできているわけではなく、「意識してきた」ことです。そのあたりは
ご容赦下さい。

・「ちょっといいですか」と声をかけられたら膝をきちんと向けて口角を上げて
「何ですか」と言う
・上司でも部下でもお客様でも取引先様でもリスペクトをして話を聞く
・まずは共感してみる(「なるほど」「そうなんだね」という相槌が多くなり
ます。)
・「ジョハリの窓」を意識する
・前向きのフィードバックで話を終わりにする

これを書いていて、仕事では意識しているのに、娘に対してはさっぱりで
いつも頭ごなしに叱っているな、と思うのでした。


ビズサプリでは、リスクマネジメントの取組へのサポートや意識調査業務も
実施しております。お気軽にお問合せ下さい。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

経理の役割について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.075━2018.06.06━


【ビズサプリ通信】


▼ 経理の役割

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ビズサプリの泉です。

私の今までのキャリアにおいては、一般的に公認会計士が実施する業務よりも
経理実務的なことが多いこともあり、今回のメールマガジンでも前回に引き続き
経理部門について取り上げたいと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 1.経理部内の役割の分化

----------------------------------------------------------------------

前回のメルマガでは、経理部門に期待されている役割が変わってきており、
従来の数値集計の役割よりも、分析や分析、経理情報等に潜んでいる経営上
の問題点の把握、さらにマネジメントが経営判断を実施する際に有用な情報
を提供することがより重要となってきていることをお話ししました。

とはいっても、やはり決算作業を締めて数値を集計することや支払業務は、
申請された書類(ワークフローを利用した電子申請の場合もありますが)
と添付されているエビデンスを照合するといった労働集約的な作業となり、
経理部門はその実施にかなり時間を費やすこととなります。
そのため、一部の経理部員のみが上記の業務を実施することとなり、経理部員
の大半の人はいわゆる定型的業務(ルーチン)を実施することとなります。

ある一定規模以上の経理部門において、各部員は次のような担当に分かれて
いると思います。
責任者:実務業務はせず、社内調整や部員マネジメントを実施する部門責任者。

プレイングマネージャー
決算に基づいた各種資料の分析や月次のマネジメントへの報告書の作成を担当。
必要な場合はルーチンも実施し、また中期計画や予算との絡みもあって会社に
よっては経営企画部門や事業部内管理部門が担当することもある。

ルーチンマネージャー:ルーチン担当者を仕切り、定型作業の円滑な遂行及
び効率化を担当。

ルーチン担当者:伝票処理や支払い処理といったルーチンの実際の処理を担当。
いわゆる経理事務員。

その他、もちろんM&A、法定開示、会計システム関連の導入といったスポット
業務については各担当者が実施することになるかと思います。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 2.経理部門の置かれている状況

----------------------------------------------------------------------

従来より経理業務のうち、ルーチン担当者が担ってきた業務、例えば経費精算
業務などはグループ内のシェアード化や海外へのオフショア化によって集約化、
あるいは会社からなくなるといわれてきました。
これに加え、近年においては、人工知能(AI)やRPA(Robotic Process Auto
mation)によって、そもそもそういった業務は人が担当する業務ではなくなり
消える職業であるともいわれています。

野村総合研究所の2015年の発表においては、経理事務員はAIやRPA等による代
替可能性が高い職業とされており、次のような見解が述べられております。
「必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や
秩序的・体系的操作が求められる職業については、人工知能等で代替できる
可能性が高い傾向が確認できました。」
(「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に」株式会社
野村総合研究所 2015年)

元々、経理部門は会社内において力が強くないことが多いことですが、こう
いった研究や社会における見方が広がることにより、ますます社内における
経理部門の地位は低下し、その結果人員を削減されることや、場合によって
は事業部門で評価の低い社員の異動先になってしまうなど厳しい状況に追い
込まれる可能性があります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 3.経理部員のキャリアの悩み

----------------------------------------------------------------------

前回のメルマガのとおり経理部門がますます忙しくなってきているという状況
に加え、人口知能等により将来的にはなくなる職業の1つと言われ、ますます
難しい状況であるといえますが、さらに経理部門を含む人事や総務といった
バックオフィス部門の部員はそのキャリアパスにも別の悩みがあります。

バックオフィス部門は、それなりに専門性があるためかえって社内においては
異動することが難しく、結果としてその所属する部門で昇進していかざるをえ
ません。
ところが、日本中、あるいは海外も含めて子会社を多数もち、経理部員として
もローテーションができる大企業は別として、大半の企業では、経理部は1つ
であり経理部長は1人です。
そして、上記に述べたように専門性があるが故に、部長クラスの人が異動する
ことはさらに難しく、特に問題が顕在化しない限り会社としても経理部長を
異動させるインセンティブはありません。

そのため、経理部員の多くは昇進のポストが空いておらず、報酬の面において
も個人の成長の面においても業務に対するモチベーションを維持することが
困難になりやすいと個人的には思っています。(もちろん、ワークライフバラ
ンスを重視するなど別な観点から評価するとよい点もありますが。)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 4.経理部員の目指すべき方向性

----------------------------------------------------------------------

さきほどの野村総合研究所の発表においては、次のようにも述べられています。
「芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するため
の知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエー
ション、サービス志向性が求められる職業は、人工知能等での代替は難しい
傾向があります。」

経理部門と近しい具体的な職業としては、経営コンサルタント中小企業診断士
が代替可能性の低い職業として挙げられています。これは外部のコンサルティ
ング業がいい意味ではなく、今後、経理部門は社内において、経営陣、事業部門
等に対してコンサルティング的な業務、単なる伝票処理部門ではなく他部門との
連携や他部門の課題解決の助けとなるような業務にシフトするべきということ
だと考えることができます。

そのためには、経理部員は従来の業務に固執することなく、積極的に他の部門、
特に事業部門の実施している業務について興味をもち、可能であれば異動して
社内の理解を深めていくことが必要ではないかと思っております。

ビズサプリグループでは、経理部門のバリューアップを目指した改善コンサル
ティングや定型業務のアウトソーシングも行っておりますので、何かありまし
たらご相談ください。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

米国会計基準について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.074━2018.05.23 ━
【ビズサプリ通信】
米国会計基準を採用する日本企業
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ビズサプリの久保です。このたび「東芝事件総決算」という本を日経新聞出版社から上梓することになりました。この本では、東芝の不正会計とその後3年間の会計処理について、いくつかのテーマに分けて分析しました。すこし厚めの本ですが、図を多用して、できるかぎり分かりやすく書きました。6月中旬には書店に並ぶ予定です。お読みいただければ幸いです。
さて、今回のメルマガでは、この本のテーマの一つである米国会計基準について検討したいと思います。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 1.なぜ、日本の上場企業が米国会計基準を採用できるのか
----------------------------------------------------------------------
東芝は日本の上場会社ですので、有価証券報告書(有報)を提出していますが、そこに含まれる連結財務諸表の作成基準は、本来であれば日本基準です。しかし、報道でも分かるように東芝米国会計基準を採用しています。実は、米国に上場している会社(SEC登録会社)は、日本の有報の連結財務諸表を米国会計基準で作成してもよいという特例があります。 これは、米国会計基準に加えて日本基準で連結財務諸表を作成する負担を軽減するために設けられた特例です。この特例を受ける会社は、米国基準で作成した連結財務諸表とその注記を和訳して、有報に掲載しています。この特例は、連結財務諸表のみを対象にしています。単体の財務諸表は日本基準でなければなりません。東芝を含む日本の上場会社の何社かは、米国上場を廃止したのに米国会計基準で有報の連結財務諸表を作成しています。これは、連結財務諸表制度導入前より米国基準で有報を提出している会社は、米国上場を廃止しても「当分の間」そのまま認められることになっているからです。米国上場というのは、具体的には米国預託証券(ADR)をニューヨーク証券取引所やナスダック市場に上場することを言います。ADRは、米国以外の国で設立された企業が発行した株式を裏づけとした有価証券です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 2.米国上場廃止ラッシュ
----------------------------------------------------------------------
昨年の3月に「NY上場廃止ラッシュ」という記事が日経新聞に掲載されました。この記事のきっかけはNTTが米国上場廃止を発表したことです。その前の年の2016年には日本電産アドバンテストも米国上場を廃止しています。そして、今年なってNTTドコモが昨年からの予告どおり上場廃止し、2月には京セラもこれに続きました。 日経新聞によるとNTTの上場廃止の理由を「証券市場をめぐる環境が変わり、上場を維持する必要性が低下した」としています。ソニートヨタ、ホンダなどに比べると知名度が低く、米国市場での取引量が少ないのが現状なのだと思います。日本企業が米国に上場する理由の一つは、米国での知名度を上げることです。しかし、米国上場を維持するためには米国会計基準での連結財務諸表の作成だけでなく、日本より厳しいと言われる会計監査と内部統制監査(US-SOX監査)を受ける必要があり、そのための労力とコストがかかります。実はそれだけでなく、米国上場会社は米国企業とみなすという米国の法律がいくつかあります。特に海外腐敗行為防止法(FCPA)は、米国企業による外国の政治家や官僚への賄賂を禁止する法律です。これに違反すると信用失墜するだけでなく、巨額の課徴金が課されることから、コンプライアンス対策に多額のコストがかかります。そういうコンプライアンス上の問題も米国上場廃止の理由と考えられます。日本のグローバル企業で、米国上場していた会社は40社近くあったと思いますが、今は11社になりました。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 3.米国会計基準を採用する会社とその動向
----------------------------------------------------------------------
 米国に上場している会社は、筆者が調べた限りでは、ソニートヨタ、本田、キヤノン三菱UFJ、三井住友、みずほ、野村、オリックスIIJ、FRONTEOの11社(会社名略称)です。これらの会社は、有報の連結財務諸表には米国会計基準を採用することができるのですが、三菱UFJ、三井住友、みずほ、FRONTEOの4社については、有報では日本基準を採用しています。本田は有報では国際会計基準IFRS)を採用しています。 前述のとおり、米国上場を廃止しても米国会計基準を採用している会社が東芝の他にもあります。それは、日本ハム、ワコール、富士フィルム、クボタ、コマツ東芝三菱電機オムロンTDK村田製作所、マキタの11社です。 米国上場廃止後においても米国会計基準を採用するこれらの企業は、次々と国際会計基準への移行を表明しています。冒頭にご紹介したNTTとNTTドコモ、それに日本ハム三菱電機は、2019年3月期から国際会計基準に移行することを発表しています。日立製作所パナソニックも昔は米国上場していましたが、すでに国際会計基準に移行済みです。 東芝は、2015年1月に国際会計基準への移行を発表しましたが、2017年3月にはその中止を決めています。これは原子力事業の減損問題の真っただ中で、会計基準を変えるのを避けたためと考えられます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 4.米国上場していない会社の米国会計基準の取り扱い
----------------------------------------------------------------------
 米国に上場している会社における会計基準の適用を監督するのは米国の証券取引委員会(SEC)です。この役割は、日本では金融庁とその下部機関である証券取引等監視委員会が担っています。このため、米国に上場していない日本企業が採用する米国会計基準の監督は、金融庁証券取引等監視委員会が行う必要があります。 東芝のように監査法人の監査が適切かどうかを判断するような場面では、監督官庁が直接乗り出す必要が出ています。そうなると、米国会計基準の専門家がほとんどいない日本の当局としては、対応が非常に難しくなってしまいます。ただし、東芝のようなことは、もともと想定外だったということは言えます。その理由は、米国に上場する会社は日本を代表するグローバル企業ですので、そのような会社の会計処理が問題になることはこれまでなかったからです。東芝の2015年に発覚した不正会計事件や、その後の原子力事業の減損問題に対して、金融庁証券取引等監視委員会は、米国会計基準を理解しないと行政処分などの行政判断ができないことに気が付いたはずです。これは、当面の間、米国に上場していた企業に対して米国会計基準を認めていたことがそもそもの原因でした。前述のとおり、米国上場を廃止した企業は、米国会計基準から国際会計基準に移行する会社が増えてきています。金融庁は、過去に米国上場していた会社で米国会計基準を採用する会社に対して、個別に国際会計基準に移行するよう勧めているという話を聞いたことがあります。当面の間認めるという経過措置を廃止するハードランディングか、行政指導でのソフトランディングか、このどちらかにより、近いうちに米国会計基準を採用する会社は、米国に上場している企業だけになると思います。
ビズサプリグループでは様々な会計上の課題について対応支援を行っています。気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

収益計上の会計処理について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.073━2018.05.09 ━
【ビズサプリ通信】
▼ 収益認識の新基準
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ビズサプリの三木です。仕事柄、私はいろいろな会社の経理の人と話をしますが、どの会社でも売上の会計処理には苦労しています。今回のメールマガジンでは、収益計上の会計処理について取り上げます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 1.新基準の導入
----------------------------------------------------------------------
2018年3月30日に企業会計基準委員会から「収益認識に関する会計基準」が公表され、2021年4月1日以降開始事業年度から適用となりました(早期適用は可能)。この基準はIFRSが2018年1月1日以降開始事業年度から適用しようとしている新基準(IFRS15号)と内容がほぼ同一で、IFRSのコンバージェンスの流れに沿ったものと言えます。
驚くべきは、日本では今回の基準策定まで、企業会計原則に「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」程度の記載があるだけで、収益認識に関する包括的な会計基準がなかったことです。もちろん、相応の実務慣行は出来上がっており滅茶苦茶な会計処理がなされているわけではありませんが、それでも会社経営にとって最重要ともいえる売上のルールがなかったというのは驚くべきことです。今回の基準策定は、日本の会計を世界から見える化していく上で大きなステップと言えます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 2.新基準の考え方
----------------------------------------------------------------------
新基準はかなりボリュームがあり、正直いって難解です。すべては解説しきれませんので、ここではポイントだけ説明します。
1 認識認識というのは、収益をどのタイミングで計上するかという問題です。新基準では「履行義務アプローチ」が取られています。顧客との間には商品やサービスを提供する代わりに代金をもらうという双務関係がありますが、このうち商品やサービスの提供という義務が果たされたときに収益を認識しようという考え方です。例えば、単純な物品だったら客先に届ければ義務は完了ですが、精密機器を販売していれば据付や試運転が終わるまで義務が完了したとは言えないでしょう。また、1年間など期間契約によるサービスであれば義務は時間の経過とともに完了していきます。このように取引のタイプごとに義務が完了するタイミングを整理していくことが必要になります。
2 測定測定というのは、収益をいくらで計上するかという問題です。いくつか論点はありますが、値引やリベートの処理、代理人取引、複合取引という3点がよく問題となります。1点目の値引やリベートについては、特定のキャンペーンなどの対価が明確でない限り、原則は販管費ではなく売上控除になります。2点目の代理人取引というのは、売買の仲介のようなビジネスのことです。仲介ビジネスとして一定要件を満たす場合、売上と仕入をそれぞれ総額で計上するのではなく、差額のマージン分(純額)だけを売上に計上することになります。3点目の複合取引というのは、例えば保守サービスと機械本体のセット価格販売のように、1つの取引に複数の構成要素がある取引のことです。この場合は構成要素ごとに分解し、保守サービスと機械本体それぞれに客観的な比率で価格を配分しなければなりません。そのうえで、機械本体の義務を果たしたとき(納品や据付など)サービスの義務を果たしたとき(時間の経過など)に、それぞれの収益を認識します。商社など代理人取引が主たる業務になっている場合、新基準の適用で売上が激減する可能性があります。また、値引きやリベート、複合取引は新基準対応のための事務処理が煩雑になる可能性があり、システムを含めた対応方法に注意が必要です。
3 検討の5ステップ新基準では5つのステップで以上のような検討をしていくことになっています。この5つのステップについては様々な解説記事が出ていますので、ご興味のある方は探してみてください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 3.財務会計だけではない論点
----------------------------------------------------------------------
収益(すなわち売上)が変わるということは、管理会計にも影響を及ぼします。会社にとって売上は最も重要な指標といっても過言ではありません。投資家サイドではROEなど事業効率を見る指標が重要視されますが、社内管理では売上に紐づく管理指標が多く使われています。当然、社内管理の指標にも売上は頻繁に用いられています。例えば売上を基準に営業担当者の賞与が決められている場合、値引やリベートをどう取り扱うかによって賞与額が変わります。私の知っている事例(米国基準)では、ハードウェアとソフトウェアのセット販売を複合取引として両者に価格配分することになり、取り分争いの社内綱引きに膨大な時間が浪費されてしまいました。新基準通りの会計処理は必要ですが、それが管理会計にどう影響するのか見極めないといけません。もちろん予算管理や業績予想などにも影響が出てくる可能性があります。
税務も頭の痛い問題です。財務会計でどのタイミング(認識)でいくら(測定)収益を計上しようが、税務上で同じ判断になるとは限りません。両者で判断が異なる場合は税務調整に必要なデータを別途把握する必要があります。特に複合取引で両者の判断が分かれると複雑な事務処理になる可能性が高くなります。法人税だけでなく消費税も課題となることがあります。値引やリベートを売上控除しても消費税は控除前の総額で発生するでしょうし、財務会計上は代理人取引となっても消費税は純額ではなく総額ベースで発生します。消費税の適正計上と収益新基準対応を今の会計システムで両立できるのか考えていく必要が出てくるでしょう。
こうした対応のために、システムに手を入れなければならない可能性もあります。複合取引での価格配分のシステム化が必要なこともあるでしょう。出荷日が売上のトリガーとなっているシステムでは、履行義務を果たすタイミングも別途把握が必要になってきます。しかし単純に切り替えればよいという話ではなく、社内管理や税務調整のために従来のデータも必要だったりしますので、システムに必要な要件をきちんと見極めないといけません。
新基準が余裕を持った適用時期(2021年4月1日以降)になっているのは、こうした課題対応に時間がかかるためです。まだ3年もあると悠長に構えていると直前に大慌てします。少しずつでも対応方法を考えていったほうが良いでしょう。
ビズサプリグループでは様々な会計上の課題について対応支援を行っています。気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。
本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

リスクマネジメントの全体像

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.072━ 2018.4.20━━

【ビズサプリ通信】

▼ リスクマネジメントの全体像

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

こんにちは。ビズサプリの庄村です。

新聞紙上でも、企業の不祥事関連の記事が目につきます。今回のビズサプリ通
信では、会社法で大会社に義務付けられている内部統制システムの構築の基本
方針の決定のうち、「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」、いわゆ
るリスクマネジメントの全体像について記述していきます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 1.リスクマネジメント方針
----------------------------------------------------------------------
リスクマネジメントとは、文字通り、リスクを管理することです。色々な定義
が存在しますが、一般的には企業が経営を行っていくうえで、事業に関連する
内外の様々なリスクを適切に管理する経営管理手法と定義できます。
ここでのリスクは顕在的なリスクのほか、潜在的なリスクも含まれます。

以下では、リスクマネジメントの代表的な方法を説明します。

リスクマネジメントを実施するにあたり、まずはリスクマネジメント委員会な
どの委員会を設置します。
一般的なリスクマネジメント体制は、CEOや社長など最高経営責任者を最高
責任者とし、役員の中からリスクマネジメント担当責任者を選出し、役員や部
門長などによりリスクマネジメント委員会を組織します。そしてリスクマネジ
メント委員会の下部組織としてリスク管理部署を設置し、リスクマネジメント
委員会、リスク管理部署で全社のリスクマネジメントを統括します。
さらに、各グループ、事業部、部署にリスクマネジメント担当者、リスク推進
担当者を任命し各グループ等のリスクマネジメントを管理します。
リスクマネジメント委員会では、各グループ・事業部等からあがってきたリス
クマネジメント報告の承認を行い、社内に存在する全てのリスクに対する評価
の最終化を行うとともに全社で対応するリスクの対策を議論し、策定します。

つぎに、リスクマネジメント委員会メンバーの責任や権限を明確にします。
また具体的にどのような手法でリスクマネジメントを実施するかの方針を策定
し、リスクの洗い出し、評価、リスク戦略、リスクマネジメントの目標、リス
ク対策の選択などリスクマネジメント計画を策定します。計画を策定したらリ
スクマネジメントを実施し最後はリスクマネジメントシステムの評価、是正・
改善を行い翌期のリスクマネジメントに備えます。
すなわち、リスクマネジメントの体制や方針を定めたら、あとはリスクマネジ
メントのPDCAサイクルを毎年回していくこととなります。

また、リスクマネジメントを社内に浸透させ効果的に実施するためには社内の
教育、社内リスク情報を共有するための仕組み、リスクマネジメントガイド
ラインやマニュアル等の策定が必要となってきます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 2.リスクマネジメント計画の策定

----------------------------------------------------------------------
リスクマネジメント計画の策定にあたっては、まずは、リスクの洗い出しを行
います。

リスクの洗い出し方法には、チェックリスト方式、アンケート方式、インタビ
ュー方式等色々ありますが、一般的には、リスクマネージャーがアンケート用
紙(リスク調査票)を開発し、対象部門へリスク調査票を配布します。各対象
部門から回収したリスク調査票は内容を確認し、データの集計を行い対象部門
ごとにリスクの一覧表をまとめます。
各部門から洗い出されたリスクは相当数にあがることが予想されますので、収
集されたリスクは内容別に分類されます。

また、内容別に分類されたリスクはリスクの発生頻度とリスクが顕在化した場
合の影響度で評価し、その結果をリスクマップとしてまとめていきます。
洗い出されたすべてのリスクに対応することは困難ですので、リスクマップを
作成したら、自社で優先的に取り組むリスクを選定します。
全社で優先的に対応すべきリスクとして、多くの会社では10個前後のリスク
を選定し、リスク戦略を検討していきます。

リスク戦略には、「リスク低減」、「リスク回避」、「リスク移転」、「リス
保有」があります。
「リスク低減」はリスクの発生頻度を低減させるリスク予防と影響度を軽減さ
せるリスク軽減の観点からリスクをコントロールするものであり、会社が自ら
積極的にリスクを低減させる戦略です。
「リスク回避」はリスクのある状態から撤退するものであり、リスクを行う業
務をすべて中止するリスク戦略です。
「リスク移転」は保険や契約などにより特定のリスクに関する損失の負担を他
社と分担する戦略です。
「リスクの保有」とは、特定のリスクに関する損失の負担を享受するリスク戦
略で、費用対効果の観点からリスク対策を講じないということです。

会社はリスク戦略を決定したら、具体的なリスク対策を検討していきます。
リスクと具体的なリスク対策は目的と手段になるので、複数の手段が考えられ
ますが、リスク低減度や費用対効果を加味して最適なリスク対策を選択するこ
とになります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 3.リスクマネジメントの実施、是正・改善

----------------------------------------------------------------------
優先的に対応すべきリスクとその具体的なリスク対策が計画されれば、あとは
粛々とリスク対策を実行していきます。

リスク対策の実行後は、対策した個々のリスクに対してリスクマネジメントの
パフォーマンス評価とリスクマネジメントの有効性評価を行います。リスクマ
ネジメントのパフォーマンス評価はリスクメネジメント計画で策定された対策
がどの程度実施されたかを評価することで、リスクメネジメントの有効性評価
はリスク対策がリスク戦略に沿ったものであったかを評価することです。
具体的には、例えば、店舗現金の盗難リスクとして店舗レジ前に盗難カメラを
設置する対策を策定した場合で、リスクマネジメントパフォーマンス評価は
全ての店舗で盗難カメラを設置したか否かの評価、リスクマネジメントの有効
性評価は盗難カメラを設置することによる店舗現金の盗難が減少したか否かの
評価です。

これらの評価はまずはリスクマネジメント担当の自己評価によって行われ、その
あとは内部監査部門や外部の専門家等により行われることが多いです。
また、評価結果を次年度のリスクマネジメントの実施に当たり是正・改善してい
くことによりリスクマネジメントシステムが有効に機能していきます。

ビズサプリグループでは、リスクマネジメントシステムの導入支援や外部評価
も行っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

財務経理業務の改善

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.071━ 2018.3.28━━

【ビズサプリ通信】

▼ 財務経理の業務改善の進め方

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

こんにちは。ビズサプリの花房です。今年の冬は実感と違わず統計データでも
いつもより寒かったそうですが、ようやく暖かくなってきたと思ったら、あっ
という間に桜が満開となりました。桜の開花も平年より1週間ほど早いようで、
今年は色々と平年とは違っているようです。そして今週の国会では、森友学園
問題での佐川氏の証人喚問に注目が集まっていましたが、昨日の報道では疑惑
解明に繋がるような発言はなかったようですね。

今国会では1ヶ月ほど前に、厚労省から提出された不適切な調査データがきっ
かけで、今回成立を目指す働き方改革法案の目玉の1つであった裁量労働制
拡大について、法案から切り離すとの決定がなされており、これによって、少
高齢化が進んで益々働き手が減ることで急がれる日本の生産性向上に、ブレ
ーキがかかるのではという声もあります。しかしながら企業としては、法案の
成立云々に関わらず、生産性向上を進めて行かなければなりません。

生産性向上が求められるのは現場だけでなく、財務経理の業務についても同様
であり、言葉を変えれば業務改善ですが、今回は財務経理業務の改善について
考えてみたいと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 1.経理業務の特質
----------------------------------------------------------------------

業務改善は「カイゼン」として海外でも使われているくらい、製造現場におい
ては現場発信の活動として普及していますが、経理を始めとする管理部門にお
いては、業務改善をやろうとして何度取り組んでも、なかなか進まないケース
が散見されます。

理由の1つとして、製造現場や店舗のような現場作業は、仕事の対象がモノや
サービスと言った、具体的に品質を評価したり、作業手順を標準化しやすく、
成果を絶対評価し易いのに対して、経理業務は主に情報を取り扱い、仕事の品
質や成果について明確に定義できないことが多く、絶対的な評価をしにくい、
という特徴があります。

また現場作業は工程を細かく分けることができ、1つ1つの工程をシンプルな業
務に落し込むことが出来るのに対して、経理業務は種類が多岐にわたり、複雑
な業務も多いという特色があります。

さらに評価について言えば、現場作業は通常は品質やサービス評価について専
門の部署が評価を行うことから評価手法が確立し、非効率さや不良品は製造原
価を押し上げることになるため、現場そのもののコスト削減意識が元々高い一
方で、経理業務は仕事が見えにくく、担当者のスキルの差が影響しやすいので、
品質管理が難しく、非効率な作業によるロスも金額的に評価することが難し
い、と言えます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 2.業務改善のプロセス

----------------------------------------------------------------------

このように経理業務は見えにくく評価しづらいからと言って、業務改善を諦め
るわけにはいかないので、ではどのように経理業務を改善して行けばいいかの
プロセスを示すと次のようになります。

経理業務に限らず業務改善は通常、大きくは、①業務の可視化、②業務の定量
化、③課題・問題の特定、④解決策の策定・導入、の流れになり、それぞれ、

①業務の可視化:現状の業務内容を棚卸しすること
②業務の定量化:それぞれの業務内容について工数(時間)を算出すること
③課題・問題の特定:現状の姿とあるべき姿のギャップ=問題点、を把握する
こと
④解決策の策定・導入:現行プロセスを前提とした改善と、プロセスそのもの
を再構築する改革

ということになります。

業務は放っておけば、自然と増えるものです。例えば上司が変わると要求する
資料が変わる、制度が変わり新たな資料の作成が求められる、担当者の引継ぎ
の中で、伝言ゲームのように当初の最短だったプロセスが遠回りなプロセスに
代わってしまう、監査の厳格化に伴い監査対応の時間が増える、等その原因を
挙げるときりがありません。

そこで、業務効率化の第一のステップとして、現状どのような業務を行ってい
るかを改めて棚卸し、適切に現状を把握をすることから始める必要があります。
業務の棚卸は自己申告による方法もありますが、合わせて担当者が業務上支障
があると感じていることも情報として有用ですから、経理業務全体の経験と
知識を有するものが、個々の担当者にインタビューしてまとめて行く方が望ま
しいです。

業務効率化のステップの2番目は、棚卸して把握した業務について、工数=実際
の作業時間を算出することです。その目的は、全ての業務を一度に改善できる
わけではないので、工数の多い業務から手を付けた方が改善効果は高いため、
改善の優先順位を付けるためです。

そして業務上の課題、問題を特定し、解決策を考えて行くわけですが、その際
の視点として、次の8つのポイントで現行業務を見極めると整理しやすいです。

「廃止」…現行の成果物をやめる、作業をやめる、チェックをやめる
「削減」…現行の成果物のボリューム、頻度、細かさ、例外処理を減らす
「容易化」…情報の入手し易さ、判断のし易さ、後戻りしない仕組みにする
「標準化」…ルール化、ミスの起こりにくい仕組み、ルーチン業務にする
「計画化」…前倒し実施、集中化、作業時間の短縮、他部署等との連携
「分業化」…スキル・経験による最適配置、業務量の平準化、外注化
「同期化」…重複資料の統一、関連業務の集約、ワークシートの統合
「自動化」…単純業務に関するExcelの関数・マクロの活用、システムの導入

どの業務も基本的に上記の8つの観点で課題がないかを検討し、課題があれば
改善が期待できることになります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 3.「改善」と「改革」の違い

----------------------------------------------------------------------
業務改善と似た言葉で、業務改革という言葉があります。業務改善は自動車で
言えばいわばマイナーチェンジで、現行業務の基本的な流れは維持しつつ、一
部をよりよく変えること、例えばエクセルの資料を簡素化したり、不要な作業
を削減するのに対して、業務改革はフルモデルチェンジであり、ゼロベースで
一からプロセスを再構築することで、例えばエクセルの資料を一から作り直す、
システムを導入する、アウトソース化、ロボットの導入、等です。

業務改善ですと、抜本的な解決策にはならないので改善効果は自ずと限界があ
り、数%から多くても1,2割程度の改善に留まるのに対し、業務改革では、業
務量を半減、あるいは成果を2倍にするような、ドラスティックな成果を求め
ます。業務改革を成功させるためには、最初に全体の設計図、グランドデザイ
ンを如何に描けるかが特に重要となります。

最近話題になっているように、労働人口減少に対応するため、これらかのトレ
ンドとしては、ITのクラウド化による低価格化、AIを搭載したロボットの進化
により、これらを活用した業務の効率化が進むと考えられます。但し気を付け
なければならないのは、現状はまだ任せらるのはコピペのような単純作業で、
ルールが完全に決まっている業務には向いていて、むしろ人がやるよりも速く
て正確ですが、複雑で高度な作業(経理で言えば決算上の見積り計上が必要な
業務等)は引き続き人が行う必要があると思います。またロボットの設定やメ
ンテナンス、最終的なチェック業務と言ったものは人が行うことになるので、
作業が減る一方ではなく、増える作業も出てきます。

また最近は経理人材の不足している中で、財務経理業務の一部、あるいは財務
経理業務そのものをアウトソースすると言ったことも増えてきているようです。
アウトソース先が信頼できる先であれば、退職者が出たらそれを補充して教育
すると言った、採用コストと教育コストが不要になることから、結果的に内製
化よりもコストパフォーマンスが高いこともあり得ます。

ゴールとして何を目指すのかにより、とりあえずマイナーチェンジで行くのか、
一時的に時間とコストをかけてでもフルモデルチェンジを行うのか、国の働き
方改革の方向性は読めませんが、皆様の会社では確実に働き方改革を実践でき
るよう、検討されては如何かと思います。

ビズサプリグループでは、会計士の他、事業会社での経験豊富なコンサルタン
トによる業務改善支援、システム導入支援、財務経理業務のアウトソースも行
っておりますので、ご興味ありましたらご相談頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。