株式会社Bizsuppliのメルマガバックナンバー

会計を中心とした実力派プロフェッショナル集団であるビズサプリのメンバーが、旬のネタや色々な物事への洞察を記載したメルマガのバックナンバーです。

決算短信の自由度の向上

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.048━2017.3.1━

【ビズサプリ通信】

▼ 決算短信の自由度の向上

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ビズサプリの久保です。
前回のビズサプリ通信は、東芝の会計処理についての話題でした。東芝は、
予定日の3月14日に決算発表ができず、その公表を1ヶ月延期することを発表
したのはご存知のとおりです。東芝が3月14日において公表する予定だったの
は第3四半期(2016年4月から12月まで)の四半期決算短信だったのです。

この決算短信について、新しい取り扱いがこのほど決まり、東京証券取引所
上場規程を改正するとともに、その作成要領を公表しました。

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■ 1.決算短信の様式廃止?

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金融庁に設置された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」
(座長 神田秀樹 学習院大学大学院法務研究科教授)において、平成27年
11月より、計5回にわたり、企業の情報開示のあり方等について、審議が行な
われました。この結果、「ディスクロージャーワーキング・グループ報告
ー建設的な対話の促進に向けてー」がとりまとめられています(平成28年4月
18日)。

この報告書の基本的な考え方は、「企業と株主・投資家との建設的な対話を
充実させるため、義務的な記載事項を可能な限り減らし、開示の自由度を高める
ことで、それぞれの企業の状況に応じた開示を可能とする」ことです。

要するにコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードに
おいて謳われた「建設的な対話」を充実させるためには、形式的な様式での
情報開示ではなく、企業独自の工夫に基づいた自由度の高いものでなければ
ならない、ということだと思います。

この報告書の中で決算短信と四半期決算短信については次の3つの提言が行わ
れました。
(1) 監査及ひ゛四半期レヒ゛ューか゛不要て゛あることの明確化
(2) 速報性に着目した記載内容の削減による合理化
(3) 要請事項の限定等による自由度の向上

これを受けて、東京証券取引所は、昨年10月28日に「決算短信・四半期決算
短信の様式に関する自由度の向上について」を公表しました。そこには
「当取引所が定める短信の様式のうち、本体である短信のサマリー情報に
ついて、上場会社に対して課している使用義務は、これを撤廃します。」
と記載されています。

これだけ読むと「あの慣れ親しんだ決算短信の様式がついに廃止?」と思って
しまいしそうです。しかし、その備考には「短信作成の際の参考様式として、
上場会社に対しその使用を要請するに止めることとします。」と書かれています。
すなわち、様式の使用は義務ではないですが、要請はしますよ、ということで
した。結果として、このようにルールを一段下げたことを「自由度の向上」
としているということが分かります。

確かに、改正以前の上場規程を見ると「当取引所所定の決算短信(サマリー
情報)・・中略・・により、直ちにその内容を開示しなければならない。」
と記載されています。新規程では「当取引所所定の決算短信(サマリー情報)
・・・により」が削除されました(有価証券上場規程第404条)。

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■ 2.決算短信は監査済みか?

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上場規程には記載がないのですが、これまでの決算短信の様式には「監査手続の
実施状況」の記載がありました。これは決算短信に記載する財務情報が監査済み
かどうかを記載するものと考えられていました。

前述の上場規程には、「決算の内容が定まった場合には、直ちにその内容を開示
しなければならない」と規定されています(新旧同様)。「定まった」という
のは監査を受けないとそうならないのか、会社が「定まった」と判断したら監査
終了前でも「定まった」として良いのか判断に迷うかもしれません。この点に
ついて、改正後の決算短信作成要領において「監査等の終了を待たずに、「決算
の内容が定まった」と判断した時点での早期の開示を行うよう、改めてお願いし
ます。」と記載されています(作成要領P4)。


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■ 3.J-SOXへの対応には注意が必要

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東芝の前年度(平成28年3月期)の決算短信の経緯をご存知でしょうか。3度に
わたり訂正が行われました。軽微な訂正ではありますが有価証券報告書も数度に
わたり訂正されています。特に最初の決算短信の訂正は重要な訂正と考えられ
ます。その訂正決算短信には次のように記載されています。

「5月12日の決算発表の時点においては、会計監査人である新日本有限責任監査
法人の監査が未了であり、2016 年3月期の計算書類及びその附属明細書並びに
連結計算書類 に対する監査報告書は受領しておりませんでしたが、その時点では
重要性のある修正が必要になる可能性は低いと判断し、決算発表の速報性を重視
し、決算発表を行いました。」

この結果として、(これだけが原因とは言い切れない面がありますが)、東芝
その内部統制報告書において「内部統制が有効でない」と報告しました。決算短
信は会社が「決算の内容が定まった」と判断した時点で開示すべきですが、その
財務情報に重要な誤りがある場合には、誤った決算を行うような内部統制だった
ということですので、「内部統制が有効でない」と見なされるリスクがある、と
いうことになります。

重要な誤りのある決算を会社が行い、会計監査人がそれを発見した場合には、
そもそも会社の内部統制によって適正な決算ができなかったということになり、
内部統制が有効でないと判断されます。これはその決算を公表したかどうかに
関わりはないのですが、一旦公表してしまえばそれは最終版ではなかったとの
言い逃れはできなくなってしまうのです。

東証決算短信の自由度向上の取り組みにより、実際にどれだけの効果が表れる
のか、注目していきたいと思います。

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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東芝と減損とプッシュダウン会計

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.047━2017.2.15━


【ビズサプリ通信】

▼ 東芝と減損とプッシュダウン会計

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ビズサプリの三木です。

いったん落ち着いたかに思える東芝の会計問題ですが、子会社ウェスチングハ
ウスを主力とする原子力事業について新規に減損が発生するとの報道がされ、
これに関連して「不適切なプレッシャーの存在を懸念する指摘」が東芝内部で
あったため2月14日になって第3四半期の決算発表が延期されるなど、再び混沌
としています。

実はウェスチングハウスがらみの減損の話は2段階あります。
1つは、2015年ごろ東芝全体で問題となった「不適切会計」の際に問題となっ
たウェスチングハウスそのものの減損の話。
もう1つは現在問題となっているもので、ウェスチングハウスが2015年に買収
したCB&Iストーン・アンド・ウェブスターという会社に関わるものです。

現在問題となっている件はニュースで見ていただくとして、今回は前者の減損
について取り上げます。


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■ 1.プッシュダウン会計

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2015年11月17日のプレスリリースを見ると、以下の記述があります。

「2006年度に当社がウェスチングハウス社(以下、WEC)グループを買収
した際、米国会計基準に基づきWECグループ及び当社連結ベースで約29億
3千万ドル(当時のレートで3,500億円相当)ののれんを計上しました。」

ここで「WECグループ及び当社連結ベースで」の部分を不思議に思う人がいる
かもしれません。
のれんは買収した側(つまり東芝)が計上するのが普通で、買収されたWECが
のれんを計上するのは不自然です。

実はこれはプッシュダウン会計と呼ばれている会計処理で、米国会計基準で認
められているものです。

子会社を買収した時ののれんとは、買収で支出した金額と子会社の(評価替え
後の)純資産の差額です。
明確な資産はないけれど、その会社に何らかの価値を見出して買収していたこ
とになります。要するに、ブランド力とか社風とか、買収された側の会社にあ
る何らかの価値がその実態です。

のれんは親会社の連結財務諸表で計上されますが、もともとは子会社にある何
らかの価値です。
ならば子会社の財務諸表にも計上すべきと考えたのがプッシュダウン会計です。
なお、子会社は買収対価を払っていないため、

(借)のれん(貸)資本剰余金

というやや無理やり感のある会計処理が行われることになります。

このルールに基づき、WECグループの財務諸表でも3,500億円ののれんが認識
されたわけです。


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■ 2.のれんの減損とグルーピング

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上述した東芝のプレスリリース(2015年11月17日)を見ると、2012年度の
減損の検討について、以下の状況が分かります。

WEC:プッシュダウン会計で認識したのれんを減損している
東芝(連結):減損を認識していない

WECでは減損しているのに東芝全体では減損していないのは矛盾に思えます。
東芝ではこの理由を、WECでは4つのプロダクトラインごとに減損を検討してい
るのに対し、東芝の連結決算では(東芝側の管理部隊も含めた)WECグループ
全体で減損を検討しているためと説明しています。
つまり、4つ合計すれば大丈夫だったという説明です。

実は、連結と単体で減損のグルーピングが異なるケースは皆無ではありません。
例えば親が製造、子が販売を担当していれば、子会社では仕入販売だけに着目
しますが、親会社の連結では製造から販売まで合算して減損を検討します。

しかしながら東芝のプレスリリースを見ると、WECで2012年度に762億円、
2013年度に394億円の減損を認識している一方で、連結ではこの期間にのれん
の減損を認識していません。
私は内部情報は知りませんが、ここまで原子力事業に対する見方が異なってい
るのは説明が苦しいように思います。
ご存知のとおり、この時期は福島第1原発の事故で原子力発電の先行きが見えな
くなっていた時期です。


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■ 3.グルーピング単位と経営管理

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東芝の事例を疑いの目で見ると、のれんの減損を回避するためにグルーピング
単位を故意に大きくしているようにも見えなくはありません。
一方、WECグループの4つのプロダクトラインはいずれも原子力事業という大き
な屋根の下に集う運命共同体でもあり、それぞれに相互依存関係があることも
十分に考えられます。

このように減損のグルーピングはけっこうファジーです。
外部者である私が、グルーピングが許容範囲なのか不適切なのか簡単には断定
できません。

しかしながら、のれんの減損というのは会計上の出来事である以前に経営上の
出来事です。
経営のピンチを会計数値で早期発見することは極めて重要です。その点、大き
すぎるグルーピング単位は問題の早期発見を妨げてしまうことがあります。

東芝では2013年度まではWECを含む「WEC事業部」を連結上のグルーピング
単位にしていましたが、WEC事業部と原子力事業部を統合した結果、2014年度
からはグルーピング単位が「原子力事業部」に拡大しています。

このグルーピングの変更は東芝内部の組織・責任体制の再編によるものですが、
結果として減損の表面化を遅らせた可能性はあります。
せっかくWECが認識していた減損がグループ経営管理に生かされていなかった
としたら、連結上のグルーピングが大きかったことは、東芝自身にとっても
残念だったと言えるでしょう。

のれんの減損の問題に限らず、東芝は不適切会計によって構造改革が遅れたと
言われています。
投資家を気にするあまり意思決定を歪めていないか、CFOや経理部長は十分に
注意する必要があるでしょう。


本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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税務調査について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.046━2017.2.7━━

【ビズサプリ通信】

▼ 税務調査について

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こんにちは。ビズサプリの庄村です。
暦の上では立春(2月4日)が過ぎましたが、まだまだ寒い日が続きます。
皆様、おかわりなくお過ごしでしょうか?

今回のメルマガは税務調査をテーマとします。
税務調査という言葉は良く耳にします。税務調査を受けたことがある会社経営
者や会社の経理担当者や関係者にとっては税務調査がどんなものかが分かると
思いますが、それ以外の方にはあまりなじみのないものです。
とはいっても、いつ税務調査が来るかわかりませんので、事前の心構えとして
税務調査の概要を説明したいと思います。最後まで一読していただければ幸い
です。

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■ 1.税務調査とはどういったもの?

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日本では、納税者もしくは納税者の代理人である税理士が自己申告によって申
告するのが、原則となっています。
つまり、自分が納めるべき税金計算を自分で計算し、自分で申告書を提出し、
自分で納税するの原則です。
すべての納税者が正しく税金計算していればいいのですが、誤った計算や申告
漏れ、脱税といった申告をする人がいるのかもしれません。そのため、誤った
申告が横行し、納税者間に課税の不公平感が生じないように税務調査が行われ
ます。

税務調査には、「強制調査」と「任意調査」があります。
強制調査はよく耳にする「マルサ」(国税局査察部)が脱税の疑われるよう
な納税者に対して、裁判所の令状を得て強制的に行われる調査です。納税に関
する資料を押収できる権限を有し、納税者はこの調査を拒否できません。

一方、任意調査は納税者の同意の下で行われる調査で、通常の税務調査のほと
んどが任意調査に該当します。任意といっても、調査に応じなかったり、妨害
などをすると、刑事罰が科されるため要注意です。

会社の規模により異なりますが、任意調査の多くは1名ないし2名で1週間程
度で行われます。規模の大きな会社では、数十名で数カ月調査が行われること
もあるようです。

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■ 2.調査されやすい会社は?

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税務署が管轄する法人は全国で270万社程度ありますが、とても全ての会社
を調査することはできません。そのため、調査対象となるのはその6%くらい
となるようです。全体に数字で見ると、10年に1回くるか来ないかといった
ところです。

税務署も無闇やたらに税務調査を行っている訳ではありません。机上調査で長
年のデータや資料、景気動向や業界動向から調査しある程度狙いを定め調査対
象会社を選定します。

では、調査対象となりやすい会社とはどのような会社でしょうか?
1.売上が大きく、黒字の会社
  赤字会社の場合は調査しても赤字の幅まで税金を取れない可能があるため
  、売上が大きく黒字会社のほうが調査に入る可能性が高くなります。
  ただし、赤字会社だからといって税務調査が来ないということではなく、
  経理操作によって黒字を赤字に見せて申告する会社も少なくないため、う
  さんくさい赤字会社にも税務調査はくるようです。

2.売上高利益率、人件費比率等の経営分析結果に異常がある会社
  売上高利益率が低い場合は、利益を小さくする(納税額を控えたい)ため
  に売上漏れや実在性のない原価を計上している可能性が高くなります。
  また、人件費比率が高い会社は、特に同業者と比較して法外な役員報酬
  支払っている可能性もあります。

3.設立後3年が経過した会社
  通常の税務調査対象期間は3年ですので、法人設立から3年を経過すると
  税務調査が入ることがあります。

 利益率が業界平均よりも極端に低い会社、以前の税務調査で指摘が多かった
会社、不正が多い業界に属している会社も税務調査は入りやすくなっています。

  

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■ 3.調査されやすい内容

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では、税務調査で調査官がどんな項目を重点的に調査するのでしょうか?

1.売上計上
  申告漏れや過少申告となる可能性が高い「売上高」がまず始めに調査され
  ます。脱税の常とう手段となっている売上除外、さらに売上計上にまつわ
  るミスや間違い、不正がかなり多いからです。
  売上の計上時期が適切であるが、売上の計上漏れがないかがチェッ
  クされます。

2.交際費計上
  交際費のトータル金額がまずチェックされます。特に中小企業の場合は、
  社長個人の私的な経費が使われていないかは必ずチェックされます。事前
  に誰と何の目的の交際費であるかを明確にしておくことが望まれます。

3.在庫計上
  期末に仕入計上がたくさんあるのに期末在庫が過少となっていないかがチ
  ェックされるポイントです。期末在庫が実態より少ないと売上原価が過大
  となり、結果、利益が過少となるためです。

4.人件費
  社員でないのに身内を社員として給与を支払っているような架空の人件費
  がチェックされます。この場合には、タイムカードや源泉徴収簿などもチ
  ェックされます。


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■ 4.税務調査後の処理

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税務調査の結果、申告ミスや記入誤りがあると判断されると、調査官は納税者
に「修正申告をしてください」と進めてきます。納得できるものであれば修正
申告に応じますが、納得できないときには修正申告に応じず、更生の処分に回
してもらうことが必要になります。
実際には、税務調査の97~98%が修正申告に応じているようです。

修正申告をする場合は、申告税額の納税は申告書の提出日までに行わなければ
なりません。


本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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昔の知恵

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.045━2017.1.20━━

【ビズサプリ通信】

▼ 昔の知恵

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こんにちは。ビズサプリの花房です。2017年になり1月もすでに3分の2が経過
しようとしており、まさにことわざの『一月往ぬる二月逃げる三月去る』を痛
感しています。ことわざは昔から言い伝えられてきている、事実や知恵、教え
等を端的に表した短い文章ですが、いわば経験則のようなものです。

また今日は暦の上で『大寒』に当たり、1年で最も寒いと言われている日であ
り、本日は天気予報で東京でも雪予報が出ているくらいです。これは経験則
というよりは、地球が太陽を1年かけて回るサイクルから導き出される天文学
的なものですが、それをうまく名づけることで季節感を出し、生活の目安とし
ている意味では先人の知恵だと思います。

時代は変わっても、人類史の宇宙の年齢からみるとわずかな期間において自然
の摂理や物事の本質はほとんど変わることがないものですから、歴史に学ぶ、
ではないですが、今年は経済書だけでなく、より一層歴史や先人の知恵に関す
る書籍を読む年にしたいと思っています。

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■ 1.トランプ大統領誕生
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さて日本における大寒の今日、アメリカでは第45代大統領にトランプ氏が就任
します。トランプ氏と言えば、昨年の選挙戦から徐々に注目され、クリントン
氏優勢の下馬評を覆し一躍時の人となったわけですが、大統領選最中もその後
もその言動が何かと注目されてきました。また情報の発信方法も独特で、旧来
のメディアでの発言はほとんどなく、常にツイッターで一方通行の過激発言を
発信しており、それが選挙に有利に働いたかどうか分かりませんが、当選後の
企業を攻撃する姿勢は、自動車会社を中心に企業活動に多大な影響を持ち始め
ています。

このように注目は集めつつも、国民の好感度は高くないようで、直前のCNN
テレビの世論調査によると、「好ましい」が40%。「好ましくない」が52%
となっていて、大統領就任前からの不人気ぶりは異例のようですが、これ
に対してもトランプ氏は数値が不正に操作されていると発言しているのは
驚きです。

本日1月20日(アメリカ時間)の大統領就任式には、50万人から100万人が
デモ隊も含めてワシントンに訪問すると予想されていて、ある試算による
とその経済効果は1,150億円以上と見込まれているようです。

またトランプ氏の話題がない日はないくらいメディアのネタとしてはしばらく
事欠かないでしょうから、各メディアとも力を入れており、ニューヨーク・タ
イムズはトランプ政権の取材に500万ドルの予算を組み込んでいるとのことで
すが、従来の大統領と情報発信の方法が大きく異なっていたり、マスコミへの
攻撃が凄まじいだけに、マスコミの方も苦労しそうです。

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■ 2.トランプ大統領の政策

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そして大統領選後に世間、特に日本の企業が注目しているのは、どのような政
策を打ち出すかということだと思います。選挙中からスローガンとして
"Make America Great Again"を掲げていて、アメリカ第一主義を唱えています。
それがTPPからの離脱や、NAFTA北米自由貿易協定)の再交渉ということに
繋がります。トランプ氏はツイッターで、メキシコ製の自動車に高い関税をか
けると言ってフォードに工場移転の計画を撤回させたり、トヨタにも同様の圧
力をかけています。

このような保護主義が最終的にアメリカにとっていいのかどうか分かりません
が、他にも移民政策を制限し、工場の国外移転阻止と合わせて、国内の雇用を
守り、作り出そうとしているのは確かなようです。ソフトバンク孫社長はす
でにアメリカに対して今後500億ドルの投資と5万人の新規雇用をトランプ氏と
の会談で話し、アリババのジャック・マー会長は同様に5年間で100万人の雇用
を創出すると約束、Amazonは10万人の雇用を発表し、早速トランプ氏の心を
掴もうとしています。

また最近は為替に対しての発言も増えて来ていて、トランプ氏が『ドルが高す
ぎる』と言ったとたんに一気に円高になる等、大統領選後からの2か月間の間
に円相場は20円くらいの幅で動いており、今後の為替相場の先行きは、景気へ
の影響も含めて企業経営者にとっては大変気になるところだと思います。

また軍事面では、選挙中から在日米軍の駐留費の日本への全額負担を求めてい
て、日米同盟の見直しに発展するのかどうかといったことも気になる点です。

ただ日本の多くの企業においては、日々変わるトランプ氏の発言に翻弄される
こともなくとりあえず様子見できていると思いますが、本日の大統領就任後に
徐々に政策が明らかになってくる中で、今年は様々な対応が求めれる1年にな
るのではないかと予想されます。

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■ 3.歴史は繰り返すのか?

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「歴史は繰り返す」という言葉があります。人類史はそれを紐解くと、基本的
には「争い」の歴史でした。民族紛争、国家間紛争、企業間競争と、「争い」
なくして人類の発展はなかったと思いますが、2度の大きな世界大戦も含めて
争いの後は必ず反省も繰り返してここまで来ています。

21世紀はますますグローバル化が進み、それが世界での所得格差を助長して
いる部分も確かにあるのだとは思いますが、一方でシリコンバレー企業のよう
に社会問題を解決するために活動している多くの人もいます。

今はちょうど歴史の転換期のような時代であり、リスクも高いと同時にチャン
スでもあります。そのために必要なのはこの1,2年をとらえる短期的な思考で
はなく、100年、200年といった長期スパンでの視点だと思います。数年単位で
あれば経験がものを言いますが、100年を超える経験は個人レベルではもって
いない訳で、その時間軸で考えるためには、過去の歴史に学ぶのが1つの方法
です。

ことわざは生活の知恵のようなものなので戦略思考にはあまり使えないかも
知れませんが、偉人の残した格言(例えば『論語』のようなもの)や、過去の
歴史を分析することは有用かもしれません。

トランプ新大統領には、今のグローバリズムの中でこそアメリカが果たすべき
役割を長期的な視点でとらえ、無用な争いを繰り返すことのないよう、必要の
ない歴史は繰り返さないような政治を主導して頂きたいと思います。

いよいよ、あと半日ほどで、日本時間の明日午前1時30分から新大統領の就任
式が開催されます。常に世間の期待を超える言動を見せてきただけに、就任演
説でどのような予想外の言葉が飛び出すか、不安と期待の中、見守りたいと思
います。

皆様の会社において予想外のことが起きた時に対応できる経験に裏付けされた
強みが我々にはあります。ビズサプリグループでは会計のみならず、その周辺
領域を含む幅広いコンサルティング、アウトソース業務を行っておりますので、
一度サービス内容をご確認頂ければと思います。
http://www.biz-suppli.com/menu.html?id=menu-consult

本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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本社の役割

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.044━2017.01.04━
【ビズサプリ通信】

▼ 本社の役割

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新年あけましておめでとうございます。ビズサプリの辻です。

2017年、新しい年が始まりました。今年のスタートは大変穏やかで、温かな
お天気となりました。皆様はどのようなお正月を過ごされましたでしょうか。

今年が皆様にとって佳き一年になりますことをビズサプリメンバー一同お祈り
しております。

新年最初のメルマガは、本社の役割について考えていきます。

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■1.本社は現場を知らない

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「事件は現場で起こっている」というちょっと古いですが「踊る大捜査線
のセリフにありますが、本社と現場の距離は今も昔も業界を超えて変わらぬ
課題のように思います。

先日、東芝が挑む風土改革の様子がテレビで報道されていました。風土改革の
取組の一環として、工場で勤務する若手社員と社長がざっくばらんな雰囲気で
積極的に情報交換している様子でした。以前は、社長や役員が現場に来ると
なると「大名行列」のような形でそぞろ歩いていたそうですが、その慣習を
やめて社長が1名で現場に赴き、現場の若手社員と直接情報交換するように
したそうです。そこでの30代若手社員の方の発言が辛辣。「本社の人は
そもそも現場を知らないものだと思い、指示は聞き流していました。」
社長は苦笑されていましたが、これまで拾われることがなかった現場の本音
なのでしょう。


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■2.現場はわかろうとする

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私は、仕事上本社側の立場にたって仕事をすることが多いのですが、よく感じる
ことは本社からの指示の“趣旨”が正しく伝わっていないということです。
本社も当然ながら会社を弱体化するために様々な指示や取組を行っているの
ではなく、指示や取組には、趣旨や目的があるわけです。

ただ、それが伝わる過程でその趣旨が忘れられてしまい、また議論されることも
なく、単に「チェックリストつぶし」が始まってしまうということです。
これでは現場は本社を見て仕事をしてしまうことになってしまいます。

最近はガバナンスやモニタリングという言葉をよく使うようになりましたが、
「本社が全体を管理し、現場や子会社は本社の指示に従うことがガバナンス」
といった誤解があるように思います。現場からみても、本社の指示通りに動いて
失敗したとしても自分のせいにはならないため、リスクを取らなくて済むという
点においては好都合ともいえます。
こういう思考回路になると、現場は目の前にある事実を正しく捉えて自ら
自律的に考えて判断、行動することをやめてしまいます。この結果、企業の
収益力や生産性が低くなっていることもあるのではないでしょうか。


ベストセラーとなっている「キリンビール 高知支店の奇跡」の中で、著者が
本社から業績不振の支店長へ異動となり奮闘する姿が描かれています。
(この異動、社内も本人も左遷と捉えられていたそうです。)著者も高知支店
に赴任してしばらくは、現場の状況の詳細を知らない本社から相次いで下りて
くる指示を、本社の事情に明るい著者でさえも「そんな指示は流しておけ」
と言わざるを得なかったそうです。ただ、本社とよくコミュニケーションを
とるようになると「同じ会社なのになぜこれだけ意見と結論が違ってしまう
のだろう」と不思議に思うようになり、考えた結果「持っている情報量が決定的
に違う」「この情報量のギャップを埋めるのは現場マターだ」と気づいたそう
です。そして到った考えが、「会社の方針とその意味をよく理解したうえで顧客
からの支持を最大化するために、どの施策に絞り組むかを決め、効率的なやり方
を議論し、現場ならではの工夫をし、実行する。その結果をチェックし次に
生かす」ということ。そのように考えると、本社からの指示についても面従腹背
ではなく、納得がいくまでコミュニケーションをとるようになっていったそう
です。

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■3.現場も自律的に行動をする

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「捨てられる銀行」という書籍では、人口減少にあえぐ地銀の中で堅実な業績
をあげている地銀は、徹底的に顧客の希望によりそい、時には金融庁(おかみ)
と闘いながらも確実に収益をあげているということでした。具体的には、営業
ノルマを廃止し、顧客満足を評価基準に据え、そして会計上引当を積んだ先
にも積極的に運転資金の追加貸し出しを行ったということでした。

いずれの例も売上や利益が究極の目標ではなく、リーダーも現場の一人一人も
「自分の会社が社会に存在している意義は何か」を真剣に考え、「顧客のため」
「地域のため」「従業員のため」にその存在意義に沿って判断し、その結果と
して売上や利益がついてくるということが書かれています。そしてまた利益は
悪ではありません。事業の結果として得られた利益でさらに人、設備、広告、
開発に対する投資余力が生まれさらに強い事業に持続的に育てることができる
といったことになります。経営学の書籍の名著「ビジョナリーカンパニー」
ではORの呪縛(理念OR利益)ではなくand発想(理念&利益)を信じている
会社が強い会社だといっています。


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■4.本社の役割

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では、本社の役割は何なのでしょうか。

私は本社の役割は、現場の一人一人が自律的に会社の存在意義に沿った事業
の判断ができるよう、そして事業に専念できるよう支援することにあると思
います。

具体的には、現場が会社の理念の理解を深める機会を設け、事業の強さを適切
に判断できるような評価基準を設計し、正しい行動が評価されるような人事制
度を整備し、事業が滞りなく行われ、様々な事業上の判断を正しく行えるような
業務プロセスや情報システムを構築し、そのどこに改善すべき点があるのかを
評価するモニタリングを行うといったことになります。本社部門は自身の業務が
どうすればより事業に貢献することができるかを常に頭においておくことが必要
です。

これには正答があるわけではありませんので試行錯誤をしていくことしか
ありません。この試行錯誤がない限り本社と現場の距離は離れたままとなって
しまい、長い目で見れば会社の事業も弱くなってしまうでしょう。


本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。

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新規上場会社数の減少の理由(わけ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.043━2016.12.21
【ビズサプリ通信】

▼ 新規上場会社数の減少の理由(わけ)

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ビズサプリの久保です。

だいぶ日が短くなったと思ったら、21日は冬至です。冬空の星が最近きれい
なのはご存知でしょうか。都会の夏は、ほとんど星座が見えませんが、冬に
なると空気が澄んできて星座が見えるようになります。その中でもオリオン座
がどこからでもはっきり見えています。天体望遠鏡でなくても双眼鏡でも
有名なM42(オリオン大星雲)がぼんやり見えるのはご存知でしょうか。
たまには夜空を見上げてみてください。

今回は、一年の締めくくりとして、今年の新規上場会社のお話をいたします。
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■ 1.新規上場会社数が減少

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日本取引所グループは、2016年の新規株式公開(IPO)企業数が前年より約1割
少ない84社になると発表しました(12月1日付日経新聞)。2009年の13社を
底にして、57社(2013年)、78社(2014年)、95社(2015年)と順調に
新規上場会社数が増えてきましたが、ここにきて84社と減少することに
なってしまいました。減少するのは7年ぶりということになります。自動
運転のZMP社が、情報漏洩のため12月での上場を延期したことから、東証
公表した84社からさらに1社減少しするのではないかと思います。(東証
ウェブサイトには、執筆日現在12月の上場会社数は未だ公表されていません)

今年始めには、昨年は95社にまでになったことから、100社超えが期待されて
いたところですが、このように減少したのは、東証による新規上場の審査強化
のためとされています。結果として、最近の上場ブームに水を差した感じに
なるのは否めません。
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■ 2.なぜ東証が審査強化?

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 2年ほど前から、上場直後に業績の下方修正を発表する会社が相次いでいまし
た。東証では、そのようなことにならないよう、上場後の業績を確かめるような
審査をしているものと思われます。これが新規上場会社数減少の大きな理由では
ないかと思います。その筋のお話によると、マザーズの上場審査は2ヶ月(東証
ウェブサイトより)とされていますが、それが半年以上掛かっている会社もある
とのことです。上場審査が長期間化していることは事実のようです。
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■ 3.再上場の審査も強化

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このほか別の観点から、上場審査が強化されていることが最近の報道で明らか
になりました。それはMBO後の再上場の審査強化です。上記の記事の翌日の
12月2日付で日経新聞に「日本取引所、再上場企業の審査強化」という記事が
掲載されました。

投資ファンドが上場会社の株式の大部分を買い取って上場廃止し、その後その
会社が再上場するという事例は、これまでもありました。例えば、スカイラー
クは、業績が悪化したことから2006年9月に上場廃止して野村プリンシパル
ファンアンス(NPF)などの傘下に入りました。その後業績が回復せず、2011年
秋にはベインキャピタルが買収し、2014年8月に再上場したのです。

このように業績が悪くなった上場会社にファンドが入って上場廃止するケースは
雪国まいたけ(これもベインキャピタルが投資しました)など、数が増えてきま
した。ファンドとしては、将来EXIT(株式売却)して株式の売却益を得るため
に投資しているのですから、会社の売却か再上場を目指すことになります。その
ためには業績回復が必須となります。

お金を出すだけでなく、経営に手を入れて業績回復させる努力をするわけです
から、ファンドとしては、それなりの見返りがあって然るべきです。しかし、
一般株主から見たら、業績が悪化して株価が下がった時に上場廃止され、再上場
したら高い株価になっている、ということでは、株式を持ち続けて儲ける機会を
失うということになってしまいます。当然ながら、非上場の期間は業績の開示も
されません。

業績が悪くなったタイミングで、ファンドが経営者と組んで、意図を持って上場
廃止して再上場で儲けるということだと、一般株主の利益を害することになって
しまいます。このようなことがないかについて、東証はしっかり時間をかけて
審査しますよ、ということだと考えられます。

本年も【ビズサプリ通信】お読みいただき、ありがとうございました。
良いお年をお過ごしください。

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長時間労働と労働生産性について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.042━2016.12.7 ━


【ビズサプリ通信】

長時間労働労働生産性について

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ビズサプリの三木です。

かつて日本には「企業戦士」という言葉があり、「24時間戦えますか?」とい
うコピーのドリンク剤が売れていた時期がありました。
時代は変わり、今やブラック企業という言葉に代表される長時間労働が社会問
題となっています。

今回のメールマガジンでは、長時間労働をめぐる問題や労働生産性について取
り上げます。


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■ 1.過労死の原因とは

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現役で働いている方が亡くなると、その原因が仕事かどうかが問題となります。
厚生労働省は、残業が月100時間を超えた場合、あるいは2~6か月平均で80時
間を超えた場合に健康被害リスクが高まるという目安を示しています。
労災認定も概ねこの目安を基準にしているようです。

社会問題としての過労死もさることながら、現役で忙しく働く方にとって最大
の関心事は「自分は大丈夫か?」でしょう。
いわゆる過労死と呼ばれるものには、大きく分けて2つのタイプがあります。

1つは睡眠不足を直接の原因とする疾患です。
睡眠不足が続くことによる高血圧や、規則正しい生活ができず食生活が乱れる
ことによる動脈硬化などが原因で、心筋梗塞脳出血に至ります。
対策としては、睡眠とバランスのよい食生活に尽きます。
もちろん原因は仕事だけではありません。夜遅くまでポテトチップを食べなが
らネットゲームをしていても同じことが起きます。

もう1つは労働ストレスによるうつ病と自殺です。
うつ病も休暇を取れて治ればよいのですが、そうもいかず自殺に至ってしまう
ケースが後を絶ちません。
社会問題であるのは確かですが、ストレスは仕事につきものですし、ストレス
耐性にも個人差が大きいため、社会制度としてこれを撲滅するのはなかなか難
しい問題です。

この2つの悪いスパイラルには陥らないようにしなければなりません。
実は現在の労働法制には限界があり、過剰な長時間労働に歯止めがかかりにく
いところがあります。次にこの辺の事情を見ていきましょう。


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■ 2.36協定の限界

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労働時間を制限する法令としては労働基準法があり、法定労働時間は1日8時
間、1週40時間と定められています。

しかしこれでは業務が回らないことがあるため、労使で合意して労働基準監督
署に届け出れば、残業時間を延長することができます。
この届出のことを、労働基準法第36条に定めがあることから36協定(さぶろく
きょうてい)と通称しています。
この36協定には延長の限度があり、例えば年間では360時間が延長の限度です。

「あれ、うちの会社ではそれ以上の残業がしょっちゅうあるよ」という方も多
いと思います。
実は36協定には特別条項を付けることが認められています。
これは、「臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別
の事情」がある場合には年間360時間を超える延長を認めるものです。

しかしながら「特別の事情」という定義はあいまいですし、緊急対応はビジネ
スでは頻繁に起こります。
何でもかんでも「特別の事情」と言い出してしまえば、法令上の歯止めは乏し
いことになります。

ビジネスマンは、どこでどんな職場や上司、取引先に当たるか分かりません。
制度による保護に頼りすぎず、セルフコントロールが必要です。


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■ 3.職場環境

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コンサルタントとして数多くの職場を見てきました。あちこちで話し声がする
にぎやかな職場もあれば、静かな職場もあります。
私はにぎやかな職場のほうが好きですが、業務に集中したいときは「話しかけ
ないで!」と思うときもあります(わがままです)。

仕事に集中したいときに話しかけられるのはストレスになりますが、
うつ病寸前という時にはちょっとしたことを相談しやすい雰囲気は大切です。

業務効率と組織内コミュニケーションの両立は多くの会社での悩み事です。
メンター制度を導入してみたり、社内での飲みニケーションに補助金を出した
り、色々な取り組みを目にします。

私が「これはいい」と思った事例があります。
みんなが色々なおしゃべりをしているにぎやかな職場なのですが、1人作業用
の会議室をいくつか用意しているのです。
ここ一番、業務に集中したいときは人知れずに1人会議室にこもるとのこと。

業務効率を優先しすぎてちょっとしたことを相談しにくくなっては、逆に業務
効率を損ないます。
長時間労働うつ病に対しては、相談しやすい雰囲気は良い緩衝材となります。
職場の雰囲気は簡単には変わりませんが、うまくコントロールしたいものです。


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■ 4.労働生産性について

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日本の労働生産性は主要国の中で最低という報道をよく目にします。

どの文献か忘れてしまいましたが、欧州などは家族で夕食を食べるのが当たり
前のため、それでも仕事が回るように権限移譲が進んでいるという分析を見た
ことがあります。
これに対し、全体調和・根回しを必要とする日本の仕事スタイルは、意思決定
に時間がかかり、自分でコントロールできないだけに長時間労働にもつながり
がちとのこと。

上場企業では内部統制も問われることから、何かというと上長の承認が求めら
れます。
ひとくちに承認と言っても、内容チェックから、部下の責任を免除するもの、
最終的な意思決定としての承認まで目的が様々です。
承認が部下の思考停止につながると、せっかくの統制が台無しです。
例えば上長責任を明確にするための承認であれば「内容はお前に任せた!責任
は私が取る」という実質的な権限移譲を明言することも必要でしょう。

余談ですが、指標としての労働生産性は労働効率とは異なるので注意が必要で
す。
労働生産性としてもっともよく使われるのはOECDの計算方式で、

労働生産性GDP購買力平価)÷就業人口

で計算します。

この式を見ると、効率の悪い残業をしても労働生産性は下がらないことが分か
ります。
従って、「日本は冗長な会議が多いことが労働生産性が低い原因」といった記
事は、OECDの指標のことを想定しているなら誤っています。
労働効率を議論するなら、本来は時間当たり労働生産性に注目する必要があり
ます。


本日も【ビズサプリ通信】をお読みいただき、ありがとうございました。


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